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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
“月”

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80-月奏でるは、夜の調べ

お待たせ


「うそっ…」

「なっ、これって…まさか」

「あわわ!?」


 希望の13魔法グレート・マギア・サーティーン───その内6人の魔法少女が、日本を飛び回って宇宙怪獣を蹂躙していく。戦車が、力天使が、汽笛が、虚雫が、廻廊が、王国が。各々の手段をもって、その奇跡を世界に焼き付ける。

 複数の配信画面から、その復活を見せられた少女たち。

 驚愕と困惑に彩られた彼女たちの目は、自ずと一つの、この奇跡を引き起こした元凶へ向かう。

 死者を呼び起こす、禁忌を起こした悪夢の使徒へ。


「ナハト、さん…」

「……なぁに。どうかした?」

「えっ?」


 思いも寄らぬ反応に、茫然と閉口してしまう。何処か、馴染みのあるその声色を、どこで聴いたのか思い出そうと勝手に脳が動き出す。

 硬直したエーテを庇うように、コメットとデイズは突然豹変したナハトを警戒する。

 わざわざ地上に降りて、仕込み杖でトントンと床を叩く帽子屋に、疑念をぶつける。


「だれよあなた…」

「酷いなぁ。いつものナハトだよ。忘れちゃった?」

「さっきとの反応が違いすぎて怖いのよ!!なんなの!?洗脳っ!?」

「怖いよぉ……」

「草」


 酷い言われ様にも笑って受け流す───今までのナハト相手では、考えられない反応。


 最早怯えるしかない、そんな後輩たちを押し退けて。


「なに、嘘つくのやめたの?」

「……さぁ、なんのことだか。あと、人聞きの悪いことはやめてくれない?イメージが悪くなる」

「今更?」


 リリーライトが思うに、マッドハッターとなった親友が考えていることは、一目瞭然……それがどれだけの社会的混乱を引き起こすのかわかっていながら、止められない。

 言いたいこと、聞きたいことは山ほどあるが。

 今は静観すべきだと、押し留まる。邪魔をすれば、最悪傷付くのはこちらだから。


 彼女がやりたいことを、止めたくないから。


「いいの?」

「いいの。もう……君のせいだよ」

「……そっか」


 ならば、粛々と受け止めるのみ。リリーライトは、もう口を挟まない。


 ……私情を語るなら、これで堂々とくっつけるし敵とか関係なく話せるから、などという楽観的なモノがある点については、否定しない。


 どちらにせよ、敵同士。どういう腹積もりなのか。


:我困惑

:なにがあったどうしたのナハトさん

:最高幹部、こわれた

:!?

ペロー@アリスメアー

:ちょっ、大丈夫ッスか?熱?つーか魔法少女復活とか、オレらなーんも知らないんスけど!?

ビル@アリスメアー

:最寄りの病院は、と…

:部下たち最低で草

:それだけの衝撃ではある

:それな


 好き勝手宣うコメント欄も、なにも知らない部下も全て無視して、ナハトはその時を待つ。

 地球上から、全ての侵略者が消滅する、宴の終わりを。


───復活させた魔法少女が、渋々頷いた賛同者たちが、手元に帰ってくるのを。


「おっ?一番乗りじゃーん♪」


 突如浮かび上がる、魔法の鏡。そこから現れたのは紫のゴシックロリータのドレスを纏う、小悪魔のような少女。次いで、ナハトの足元の影が大きく蠢き……襤褸を纏った紅い呪術師が姿を現す。

 無言で影から這い上がり、自分が二番のりであることに驚きながらナハトの側へ。


「───とぅッ!一番乗、はァ!?なんでオレ様の愛機、バンカー君が速度で負けんだよッッッ」

「転移だから」

「影移動」

「チーターかテメェら!!」

「うるさ…」


 垂直着陸した戦闘機から降りた軍人が、先んじて魔法で到着していた仲間たちに文句を垂れる。唾が飛ぶ怒号にはナハトもイラつくようで、冷えた目で彼女を睨みつけた。

 大先輩は縮こまって反省した。


「ワーッ、落ちるのです!!」

「みんなー、上空注意〜」

「えっ」

「あっ」


 轟音と共に空から落ちてくる、煙を上げる機関車。頭の運転席から地面に突っ込む列車は、衝撃と火を吹き上げて地面に突き刺さる。

 その隣に降り立つのは、天使の輪と羽を持つ聖騎士と、彼女に抱えられたポニーテールの少女。

 グルグルと目を回す彼女は、運転をミスった暴走列車の車掌だった。


 爆炎に向けて、ナハトは仕込み杖をくるりと一回転。


 一瞬で鎮火した廃車が確定した列車の上から、これまた胸が踊る賑やかな音が聞こえてくる。重低音が心に響き、いつでもどこでも彼女のオンリーステージを届ける。

 半球体の特設ステージ、“ウタユメドーム”が、地上へと降りてくる。


「はいっ、休憩タイーム!疲れた〜!!」


 魔法少女一有名なアイドルが、汗を拭きながらナハトの隣に飛び降りる。


「全員集合、だね!」

「テメェがビリッケツだ。ココア買ってこい」

「炭酸コーヒーでいい?」

「うわぁ〜、なにそれ不味そw」

「作るのです?」

「勿体ないからやめな」

「ご冥福を祈るね」

「許してッ」

「……ねぇ、オマエらすっごいうるさいんだけど。今から大事な場面だから黙っててくれない?若しくは、その口をガムテープで塞ぐなり糸で縫い合わせるなりして?」

「惨い」

「酷い」


 好き勝手喚き出すゾンビたち───黄泉路から現世へと舞い戻った、魔法少女。希望の13魔法と括られる、最強で最高の戦乙女たち。

 “廻廊”のミロロノワール。

 “虚雫”のマレディフルーフ。

 “戦車”のカドックバンカー。

 “汽笛”のゴーゴーピッド。

 “力天使”のエスト・ブランジェ。

 “王国”のマーチプリズ。

 たった6人ではあるが……生で動く姿を見れて、多くの視聴者が歓喜に震える。

 ……彼女たちを侍るのが、ナハトだという不審点は未だ残っているが。


「ほ、本物…」

「おろ?おー!あれが後輩ちゃんたちかー!かわいい〜、初々しいなぁ」

「急におばあちゃんみたいなこと言うじゃん」

「やめてぇ?って、ライトちゃん!うわー!生きてる!!ゾンビじゃない!!」

「ホントだ」

「やーい仲間外れ〜w」

「仲間外れであるべきだろ、それは」

「フル先輩ってばノリ悪い!!」

「えぇ…」


 自分たちの後任である新世代と、実は生きていた同僚と感動の再会をする復活魔法少女たち。本来ならありえない交流の時間は、ナハトが沈黙を貫くことで続く。

 死んだ者たちと、生きる者たち。

 その境界線は踏み越えぬまま───ツギハギが顔を沿う少女たちは、笑う。


「お姉ちゃん抑えて!!」

「いやだ!!仲間外れはいやー!!私もあっち混ざるー!なかよしこよしするのー!!」

「ペンで描き足しても無意味よ!」

「あっちはダメー!」

「気を確かに!」


 それを見たリリーライトが油性マーカーを片手に、顔にツギハギを描いて輪に混ざろうとする珍事が起きたが……取り敢えず横に置いておいて。

 閑話休題。


「で?なんで喋んねぇーんだ?」

「……会話にリソース割くのが面倒いから」

「あれー?いつもの吾輩口調はどしたの?もしかしてぇ、恥ずかしくなっちゃ、ぎゃふっ!?」

「魂の強制送還───…」

「ごめん〜!!」

「はァ…」


 ミロロノワール、同年代で魔法少女になった戦友からの茶々には暴力と脅迫で答えて、もういいかとナハトは既に捨てた覚悟を拾い直す。

 不安気なリリーライトも、訝しむ新世代も。

 その全てを置いていくつもりで、ナハト・セレナーデ、もといマッドハッターは、くるくるくるりと、仕込み杖を回転させる。


 高速で回される仕込み杖が、徐々に姿を変えていくのを横目に、言葉を紡ぐ。


 空気を読んだ復活者たちが、左右に捌ける。


「ナハト、さん…」

「……ふふっ。もう頃合いだから、特別に教えてあげる。この僕が、当初の計画から大きく変更した、修正せざるを得なかった三つの要素……一つ目は、次世代たる君たちを人殺しに仕立て上げて、恐怖や絶望から悪夢に閉じ込める計画。これは、初期の段階で撤回されてたようなもんなんだけど、そこのポンコツの復活で全部おじゃんになった。そんで二つ目は、まあリリーライトの復帰に伴う、追加の戦力増強。予定とは違うけど、逆に増やしたお陰で計画が順調に進みそうでさ。こっちは殊更、文句とかを言うほどでもないかな」

「本音は?」

「仕事増やしがってこんちくしょうが……ふぅ。そして。最後の三つ目は」


 空いた左手の指を折りながら、ナハトは告げる。


「僕の正体を、明かすこと」


───カーテンコールだ。


 漸く、エーテは気付く。彼女の一人称に。それを聞いた瞬間、疑問が氷解する。何故ならば、ナハトがその言葉を呟くと同時に認識阻害の魔法を解いたから。

 二つの存在を同一視できない、させない妨害工作。

 それが解かれた今───共通点に気付いた魔法少女が、妖精が、世界中の人々が、茫然と汗を垂らす。パクパクと音にならない悲鳴が漏れる。

 それは絶望か、恐怖か、否定か。


 有り得ないの連続が、世界を震撼させる。


「とはいえ、忘れられてたら嫌だし……おさらい程度に、僕を示す肩書きやら異名でも並べて、名乗りとしよう……無駄に多いのが、最高にネックだけど」

「───“希望の13魔法グレート・マギア・サーティーン”、“魔術工房”、“月噛みの詩”、“月下の奇術師”、“怪人狩り”、“ブルームーン”、“魔法少女大図鑑”、“青の第二魔法”、“悪夢の天敵”、“アリスメアーの最高幹部”、“お茶会の魔人”、“最後の悪夢祓い”」

「そして、一番の代名詞は……“蒼月”」


 滔々と語り、帽子の片割れの定位置をズラして。


 配信魔法を再び弄り……今度は、自分のアカウントへと干渉する。


:あっ

:ヒュっ

:ミ°ッ


 二年ぶりに、蒼月のお茶会chが───起動する。


「いや、よくバレなかったもんだよ。匂わせが過ぎたね」


 回転を終えた仕込み杖は、その形を大きく変えて───蒼い宝石のついた、見覚えのある“マジカルステッキ”へと姿を変えていた。


「うそ…」

「ここに嘘なんてありゃしないよ───さぁ、刮目しろ。オマエらが望む奇跡を、もう一度起こしてやる」


 亀裂の入った宝石を、マジカルステッキを口元に添え、ナハト・セレナーデは……否。


 宵戸潤空は、変身する。


「マジカルチェンジ───“月奏でるは、夜の調べ”」


 月下の夜が、蒼い輝きに苛まれる。

 全身を蒼い光に包んだ潤空の衣装が、魔力に当てられて作り変わっていく。ベースは燕尾服。唯一違うのは、丈が短いスカートと、黒いマントをつけていること。そして、愛用のシルクハットは小さく縮んで……頭の上に、斜めにちょこんと乗っかって。

 紺色の髪に、蒼い瞳。奇術師のような魔法少女。

 二年前の決戦の傷痕が大きく残る、ボロボロの衣装で、舞台に上がる。


 ツギハギになって、死人であることが一目でわかる……あの魔法少女が。


「なっ、ぁっ…」

「う、嘘、だよ……ね?」

「……お姉、さん」

「ぁ、あぁっ……生きっ、生きてっ…ぅ、ぁっ、あああ、なんで、そんな……!」


:   

:   

:   

:   


 涙を流す義妹と契約妖精を、言葉を失ったコメント欄を見下ろして。

 いつかのように、言葉を紡ぐ。


「三度目だけど、自己紹介をやり直すよ」


 軽快に杖を地面に突き立て、闇堕ちした最強は笑う。


「───“蒼月”のムーンラピス。虚ろの深淵から、地獄に帰ってきた……死に損ないさ」


  アリスメアー“二代目首領(・・・・・)

 “蒼月”の魔法少女 ムーンラピス

───夢往死帰


悪夢の果てに往き、死んで帰ってきた───銃剣、登壇。

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― 新着の感想 ―
もう、ほんとに、もうっ!!!!!!
最高です ここまでの流れを書き切った上でこのシーンをリアクション付きで読ませて頂いてありがとうございます
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