78-暗黒銀河より、隕石のお届け物です
運動会の数時間後。穂希の口から、ナハトから語られた衝撃の真実を知った魔法少女。彼女たち、蒼生ときららの両名は先んじて内容を知った保護者と話し合って、今後のアリスメアー、【悪夢】との戦いに、どう挑むか考えた。
このまま娯楽扱いされる戦いから降りるか、続けるか。
死ぬかもしれない戦いに、ナハトの計画に逆らうか。
わかりきった結論とは言え……魔法少女たちは、やはり戦う道を選んだ。
ナハトの計画には左右されない、自分たちもこの地球を守ると決意する。
いらないモノ扱いされても、知ったこっちゃないと。
「どんな相手だって諦めない!相性が悪いからなによ!!勝てば良かろうなのよ!!」
「置いてけぼりは酷いと思う!!」
「宇宙、行くぞー!!」
:おー!
:とうとう宇宙規模の戦いになるのか…
:いつになるかはわからんけどな
:防災しなきゃ
:応援もな〜
日常配信で確定しつつあるその未来を、真だと豪語する穂希の後押しもあって、魔法少女たちは世界に喧伝した。不安視する声ばかりだが、それでも。きっと魔法少女なら勝てると、アリスメアーの独善的で先の見えない計画をも止められるだろうと、世間もまた信じることを決めた。
彼女たちなら、もっといい世界の救い方をしてくれると信じて。
そして、魔法少女たちの決意に、人前での宣戦布告に、アリスメアーの幹部は総じて立ち塞がる。
「大人しくしろッス!!」
「悪いが、これも仕事なんでな」
「…ごめんね」
「張り切って行きましょう」
「うーん、私の場違い感!入って二ヶ月でこんな目に遭うなんてな〜!!」
「こっちもあっちも、生き急いでんなぁ」
「Urrr…!!」
計画の一端のみを知ってはいるものの、恩義や忠義から上官の命令に従う幹部たち。魔法少女もアリスメアーも、そのどちらもが世界を救う立場にあるという前代未聞。
二年前なら絶対に通じなかった、その対立。
半年にも及ぶナハトのイメージ戦略は幸をなした、が。共闘すればいいのに、といった風潮には全力で異を唱え、なにがなんでも敵対構図の維持を図る。
たった一日の攻防は、千日手で終わったが。
「無駄に力を削ったな……それで。本当にいいのか?」
「知ったことか。これが最善だ。最後がどうなろうと……幸せになれるんなら、それが一番だろう?」
「……どうだかな。私にはわからん。バカだからな」
「自分で認めるのか」
「ふんっ」
決して、私利私欲の為ではなく。馴れ合いはよくても、手の取り合いはなるべく避けたい……ナハトの計画で、今共闘されては不味いから。
何処までも敵対していてもらった方が、なにかと都合がいいから。
───その思惑を裏付けるように、時は来る。
激突があった、その日の夜。
不穏な魔力の胎動を感じ取った、ぽふるんの急の要請で外に飛び出た魔法少女たち。深夜近い時間帯の配信だが、魔法少女の二回行動を見届けようとする人々は数多く。
しかし、どういう訳か、犯人だと思ったアリスメアーの幹部たちの姿は、何処にもなく。
「いない、わね」
「チェルちゃーん、でておいで〜?」
「本当に感じたの?ぽふるん」
「うん…」
「ふむ」
星々が煌めく、夜空の下。顔を見合せた魔法少女たちの遥か上空───…
虚無が広がる黒い宙から、轟音が鳴り響く。
「なに!?」
「ッ、あれって……隕石!?」
「魔法陣あるよー!?」
「来たんだね…」
「みんな魔法を!」
「うん!」
降り注ぐのは、巨大な小惑星───表面に、幾何学的な魔法陣が無数に浮かび、組み合わさり、魔術的な脅威をも手に入れた、厄災の如き隕石だった。
たった一つのそれで、日本という国は終わる。
明らかに宇宙由来の脅威に、ナハトの話は本当だったのだと理解する。
空へ飛び立ち、大技をもって隕石を食い止めに駆ける。
:ぎゃー!?
:マジやんけ!マジやんけ!?
:まだ死にたくない
:助けて
人々の悲鳴を、それから湧き上がる期待の声を、応援を受け止めて、魔法少女たちは魔法を放つ。
希望を謳い、ユメを描いた、奇跡の光を。
「“青く輝く彗星よ”!」
「“光に満ちた、天の花園より”!」
「“祝福を届けたまえ”!」
「「「───奇跡重奏!<ウェイクアップ・ミラキュラスハイドリーム>!!!」」」
世界を照らす温かな光が、光線となって小惑星に照射。天より落ちる隕石を押し戻すように、3人の力、世界中の人々の応援によって、その侵攻を押し留める。
そして。
「“聖剣解放”───<ホーリー・ジャッジメント>」
リリーライトのあらゆる邪悪を喰らう聖なる光が、天を焼き焦がす勢いで空を駆け。
幾重にも枝分かれして───小惑星を貫通する。
破壊。
轟音。
決壊。
瞬く間に、宙の落し物は限界を迎え、バラバラに砕けて吹き飛ばされる。破片が地上に落ちるよりも早く、リリーライトの極光に焼かれて燃え尽きる。
魔法少女たちの全力の一撃により、未曾有の危機は一時去った。
:つっよ
:勝ったわ風呂入ってくる
:安定の安心感
:一撃…
「ッ、まだ!」
……否、日本の、地球の危機は始まったばかりである。
「まっずいなぁ!」
「えっ? ───は?」
「なによ、これ……」
「うそ…」
夜空を見上げれば───暗闇に輝く、紫色の炎を纏った無数の隕石。流星群が、地球に降り注いでいた。
大小様々の、星一つには過剰とも言える、破壊の塊。
「ぽふっ……あの隕石、日本だけじゃない!世界中を……地球を囲むように、降って来てるぽふっ!!!」
「はァ!?殺意たっか!!」
「ッ、早く壊さないと───!!」
「マズいっ!!」
:終わりだ
:絶望の二段重ね
:こうやって人類は終わるんやね…
:茶化さないとやってけん
:死にたくない
:いやだッッ
阿鼻叫喚の地獄絵図。悲鳴が、慟哭が、咆哮が、叫びが世界全土から轟く。刻々と迫る流星群。威力偵察とは一体なんだったのか、その規模は攻め落とす攻撃そのもの。
流石のリリーライトも冷や汗を垂らすが……
一瞬見えた、魔力の輝きに───空に張り巡らされた、暴力的な魔力に気付く。
「あれは……あぁ、そっか。そうだよね……君が、これを予想しないわけがないもんね」
「ライト!?早くアレをどうにかしないと!!」
「うん。わかってる。でも……みんな、ちょっと聴いて」
「お姉ちゃん?」
「なにもしないで」
「え?」
困惑するエーテや、配信をつけたまま祈っていた人々を無視して。夜空を見上げるライトは、静観の構えを取る。その不誠実な、この場にそぐわぬ行動を咎めようと、誰かが声を荒らげようとした……その時。
幾度目のことか。
夜空に、魔力の線が走る。波打つ魔力は模様を象って、天窮を覆い隠す魔法陣の天井を作り上げる。
そして……魔法陣の一つ一つには、大きなスピーカーが生えていて。
「───さぁ、始めようか」
魔法少女たちを見下ろす高層ビルの上で、縁に腰掛けた帽子屋が笑う。
「終わりを唱え───<ナイトメア・マーチ>、起動」
───瞬間、世界を、“音”が彩った。
空に向かって聳え立つスピーカーの全てから、高圧力の歌魔法が奏でられ。降り注ぐ隕石を、音で撃ち落とし……悉くを破壊する。
万物を燃やす歌、水に沈める歌、破壊を齎す歌。
危険すぎるからと封印された、“王国”のマーチプリズの魔法の数々が、不協和音となって隕石に炸裂する。
大小問わず全ての隕石を。その中に隠れた、怪獣までも貫いて。
音は鳴り止まない。有象無象の価値なきモノを捉えて、照準を定め、決して逃がさず。地球に掠ることもさせずに破壊していく。
魔法が奏でる音の濁流が、全てを薙ぎ倒す。
「なに、これ…」
地球上空の全てから、隕石という脅威を消し去った。
:ふぁ?
:なぁにこれ
:奇跡的に残った衛星映像生LIVE見て。見ろ。
:嘘だろ地球全部!?
:これ全部…?
:生きた
破片の一部が地上に墜ちる被害は出たが……それは全て計算の範囲内。むしろ、墜ちていてくれなければ困ると、帽子屋、ナハト・セレナーデは笑みを深める。
彼女の存在に気付き、星々を撃ち落としたのが誰なのか気付いた、魔法少女たちを他所に。
地上に落下できた、落下することを許されたそれらに、目を向ける。
「なにをボサっとしている?計画にいらないオマエらに、活躍の場を用意してやったんだ。望むがままに、この星の脅威と戦うがいいさ」
「ッ、好き勝手言っちゃって……みんな、来るよ」
「来るって、襲撃は終わったんじゃ……っ!」
「デイズ!構えなさい!」
「うんっ!」
衝撃吸収、緩和の魔法をかけられたことで、地上に一切被害を与えなかった落石から、のっそりと現れる、大きな異形の影。煙を上げる向こう側から、それは姿を見せた。
夜の暗闇でも鮮やかに映る、紅い甲殻の怪獣。
ユメエネルギーを狙う敵───“星喰い”の統制下にある偵察部隊の幹部格。
「キシエェェェ……ッ!!」
“暗黒銀河”に巣食う、指揮官補佐が牙を剥く。
紅いハサミを両手に備える、人型の化け物───初めて宇宙怪獣と認知される敵が、遂に現れた。
尚、頭部はザリガニだ。目はメカメカしい黄色だが。
重厚な鎧を身に纏う、知的生命体───外宇宙から来た脅威の怪物は、うら若き地球の守護者と対峙する。
「ザリガニ星人!?」
「そこは触手とか、火星人のルックスの奴が出てくんのが定番でしょうがッ!!空気読みなさいよ!」
「ツッコミどこそこでいいの?」
「遊んでないで!行くよ!」
「うん!」
先手を打った筈なのに、悉く破壊され、怒りに狂う……続々と集まる宇宙怪獣たちの気配に身体を震わせながら、彼女たちは飛び出した。
準備の程は。
───モーマンタイッ♪いつでもいけるよ!
───それ古いよセンパーイ。オババ?
───オマエを殺すッ!
───んお、拳銃いるか?作れるぞ。
───魔力無駄消費するな…ほら、ここに呪いの札。
───ノワちゃんのご冥福、祈るね。
───助けてラピピ!
自業自得だ馬鹿野郎。大人しく死んでろ。
───そろそろ出発です?進行です?
───そうだな。オラ、オマエら!勝鬨を上げるぞぉ!!宇宙怪獣殲☆滅じゃあぁ!!
───ふぅ。そうだね。頑張んないと!
───たすてけ…
脳内にクソみたいな情報流すなオマエら。ちょっ、おい誰だ真夏の○の○○垂れ流しにしてる腐り女はぶっ殺すぞテメェか脳死させてやるッ。
怪電波やめろォ!!
……はァ。
魔法陣の最後の調整をしながら、独り笑う。
準備は万端。ユメ計画の始動を彩る、その奇跡を起こす手筈もここに整った。
ふふっ、それじゃ、始めよっか───復活祭を。
死人たちの舞踏会を。
そろそろ




