76-傷む親心を刺激して
「……火花が散るってなに。教育委員会は、まずこいつをやめるよう直訴すべきだろうに」
「無理じゃない?そこら辺の感覚麻痺してそーじゃん」
「全員アクゥームにしてやろうか…」
「絶対やめて」
「やめるぽふ」
昼食終わりの応援合戦、なんでこんな殺意高いんだろうここの運動会。ヤンニョムチキンで痛む口内を冷たい水でなんとかしながら、再び鑑賞する。
まったく、落ち着いて見ていられないものか。
そう思ってもう一度水筒を口につけていると、後ろからちょんちょんと背を突かれた。
なにーと思って振り向くと、きららちゃんのお母さん、
確かゆらさんだったかが声をかけてきた。なんです、娘の活躍になんな言いたいことでもあるんで?
なんでも答えますよ?ナハトちゃんの正体以外は。
「なにかね」
「う〜んとねぇ、言いづらいんだけど〜。ナハトちゃんはうちの子たちを……みんなを、どうしたいのかな〜、って聞きたくて」
「あぁ……至極当然の疑問だな」
「それは私も気になりますね」
食事中、あまり僕ら同士で喋ることはなかった。親心を考えれば会話するわけがない。精々が娘たちを介して少し言葉を交わす程度だった。
しかし、今ここにその娘たちはいない。
ならば、聞にくいことも聞ける。そして、愛娘たちには聞かせられない罵声を吐くこともできる。別に聞き届ける必要はないが、ここで出会ってしまったのもなにかの縁。諦めて言葉を交わそうじゃないか。
こちらを不安そうに見るゆらさんと、冷たく睨みつける栞さん。唯一の男性陣である學さんも、興味あり気に……
いや、こちらを値踏みする目で見てくる。
怖いよぉ。
一人で晴蜜を財閥にした実業家の目って怖い。どっかのオリヴァーの本気の目もそうだけど、なんかソワソワして落ち着かなくなる。
「まず第一に言うとすれば……あなた方の娘は殺さないと約束しておこうか」
「ッ、それは……何故」
「おや?お気に召さなかったかね?ならば…」
「いいえ、違うわ。腑に落ちないの。あなた達【悪夢】がそんなに生温い考えをするようになったなんて、私たちが信じられると思う?」
「ふむ。否定はできないな」
それよく言われるんだよね〜。そりゃその通りだとしか言えないんだけど。
何回も説明すんのめんどいな…
「……我々も、アリスメアーの今と昔の、変化はわかる。だが、解せんのだよ。なにを目的に、未だ活動を辞めずにいるのか。不安で夜も眠れない」
「えっ、日付が変わる頃には寝てるよね?」
「ゆーら、ちょっと静かに」
「なんで?」
このお母さんダメかもしれない。
きららちゃんを爆乳にしただけ以外の違いがわからないだけはある。
「ごほん、その疑問には誠実に答えさせて貰うよ。まぁ、いずれ大体的に報道するつもりではあるが……おい平均点マイナス6、以前言ったのは教えてないんだな?」
「教えてないけどその呼び方をした理由はなに???」
「うるさい。そもそもとして、あなた方はアリスメアーがなんなのかをまるで知らない……それを理解してもらってから、我々の計画の一端をお教えしよう」
「アリスメアーが、なんなのか…?」
「なに言ってるぽふ!アリスメアーはアリスメアーぽふ!それ以上も以下もないぽふ!」
「安直だな」
そこで思考を停止されては困るんだけど?
「旧世代の怪人たち。あれは夢の国の元住人……妖精が、悪夢に飲まれた成れの果てだ」
「は?」
「な、えっ、なに、言ってる…ぽふ…?」
「その反応も仕方ない。だが事実だ。あの魔法少女狩りが夢の国の初代女王であることも、悪夢の女王たるリデルが二代目であったことも、嘘偽りのない事実だ」
「そ、そんなのデタラメっぽふ!ぼく、知らない!」
「失伝すれば知らないのも無理はない。過去を視る魔法で確認したところ、207年前の王国火災やそれに伴う遷都、当時を知る賢老が全滅したのが災いしたな」
「そんなことが……」
「うそ…」
いやー、悪夢の伝播を止める為に歴史隠蔽を選んだのは評価するけど、知るべき人物に伝えられないままお別れになっちゃったのは痛かったね。
ちなみに、この過去を視る魔法、もとい千里眼の魔法は魔法少女狩りに殺られたセンパイの魔法である。
もう声も覚えてないけど、便利だよね、この望遠鏡。
さて、荒ぶるぽふるんがゆっくりと真実を噛み締めて、信じられやしないけど、ある程度は聞いてやろうと此方に視線を戻したので、話を続けるとする。
保護者たちの動揺は、案外あっさり鎮まった。
まあ当事者じゃないもんな。びっくりはするけど、まだ耐えられる情報だもの。
「旧世代の特徴は、元妖精たちが【悪夢】によって狂い、ただ人類を殺戮する機構に成り果てた、ということ。もう殺す以外に救いのない、浄化のしようがない程に終わった彼らを、そこの“極光”たちが討滅した」
「はい、頑張りました」
「ッ、ホマレは知ってたぽふか!?」
「うん。この前復帰した後に、直接聞きに行って。あんま信憑性無かったから、言いふらしはしなかったけど」
「言って!!」
「ごめんて」
僕の言いつけ通り言わないでくれたから、此方としてはありがとうって気持ち。
「そして、今のアリスメアーは、殆どが新しく呼び集めた現代人たちだ。つい最近復帰したのは、奇跡的に復活した使い道のある元妖精。魔法少女狩りと予言者、あと女王はかなり浄化されたみたいでね。前と違って話は通じるし、殺人衝動みたいな物騒なのは無くなったよ」
「魔法少女狩り、が?」
「彼女は元々、夢の国に蔓延しつつあった【悪夢】を祓う業務に専念していてね……その影響か、精神があのように狂ってしまったらしい」
「……私たち魔法少女の先人ってわけ?」
「過言ではない。業腹だが、君のセンパイにもとち狂ったヤツらがいただろう?復讐心とか、魔法を使える優越感で殺人に手を染める馬鹿共。あれらみたいなもんさ」
「だいたい【悪夢】のせいってわけね。あの女王も?」
「是」
今と昔の最大の違いは、人を殺すか否か。アクゥームを製造する関係上、強い個体の為にどうしても人を傷つけることはあるが、絶対に殺しはしないと決めている。
その真偽は今までの僕たちの活動を見てくれればわかるだろう。
その旨を伝えれば、栞さんと學さんは一応納得した。
「今の我々にとって、吾輩にとって、魔法少女との戦いはエンターテインメントに過ぎん……来たる災厄に備えて、配下を強くする為の演習だとしか思っていない」
「なによ、うちの子は娯楽じゃないんだけどッ!?」
「……待って。厄、災?」
子ども達への説明は、穂希にしてもらうとして。親への事前説明ぐらいは、僕がしてあげようか。先に知っておくことで、娘たちを戦闘させるか否か、選ぶといい。
通算三回目の説明だが、どうか聞いていって欲しい。
指を宙に掲げ、宇宙怪獣が来るよー!魔法少女はいらん僕たちがぶっ飛ばすよ!あ!リデルが捕まったら、地球が滅びるから、そこんとこよろしく!
……ちなみに、リデルが死んでも地球は滅びるよ!
よーく理解してね!
「わかったかね」
「わからないわ……」
「エイリアンが、実在するのか」
「魔法少女が実在してるんなら宇宙人もいるでしょ。多分二年前に私がぶった斬ったヤツの一体二体はそれっぽいの混ざってるよね?」
「スライムとウ○スピーウッズとドラゴンがそう」
「あー、マジかw」
「ぽふ!?」
当時は2人+一匹で疑問に思ったよねぇ、なっつかし。見た目がアクゥームじゃなかったもん。違和感ありまくり状態でぶち殺したもんなぁ。
「……つまり、うちの子たちは、将来的に宇宙怪獣と」
「いや、そこは戦わないって言っていた……だが、それは魔法少女として、どうなんだい」
「知らん。興味がない。死なないなら別にいいだろ」
「急に雑ぅ」
取り敢えず、命の安全は保証する。殺さないし、絶対に死なせないことは、この僕が約束する……まあ、帽子屋の名前じゃ納得はできないだろうけど。
あなた達は、親として、親なりに子供を心配していればいい。
僕と穂希にはそれがなかったけど。
あの子たちには、あなた達がいる。
「……私は、きららを信じるよ。あの子がやりたいことはたくさんやらせたい主義でね……言葉で止めようが、絶対やるって跳ね除けられるだろうしねぇ」
「あら、意思がお弱いのね。私は、まぁ……話はするわ。蒼生がどうしたいのか。それが最優先よ」
「うーん、正直危ないことはしてほしくないけど……昔は私もやんちゃしてたから、なーんも言えないや」
「なにしてたんです?」
「暴走族!」
「は?」
「マ?」
ごめん過去最高に意味がわからない。資産家の奥さんがそんなんでいいのか。どんなロミジュリがあって夫婦関係になったの晴蜜ご夫婦は。
流石の栞さんもこれにはびっくり。
ゆるふわなママ友が元暴走族とか思わんて。想定外にも程があるよ。
……取り敢えず、親御さんたちが話の通じる人、子煩悩であっても、強制しない人で良かった。これでのびのびと魔法少女活動が、あの子たちもできるだろう。
将来的に悪夢に飲み込んで、平和に生きてもらうけど。
さて、こんなもんでいいかな。保護者説明会は。あとは画面外で語るとしよう。
「ちなみに、もうすぐ来るよ。宇宙怪獣」
「は?」
「は?」
「えっ」
だから、準備しといてね。
そう思って説明会をお開きにしようとした、その時に。グラウンドから、寝子が駆け寄って来た。
なんだなんだ?つーか今、何の競技中でつか?
「帽子屋さん」
「……うん?どうした、寝子」
「来て」
えっちょ、なに。あ、借り物競争中?いつの間に…
「お姉ちゃんも!!」
「えぇ〜?」
「パパー!ベルトちょうだい!今すぐに」
「なんで???」
「お母さん!メガネ!!」
「はいはい…はい?」
「あらら〜」
……最後、掻き乱されたが。寝子が借り物競争で一位を取ったことを喜ぶとしよう。
お題は“尊敬する大好きな人”だってさ。
参っちゃうよね。
おまけ
穂花→強い人
蒼生→生活に必須な器具
きらら→異性が身につけているモノ
寝子→尊敬する大好きな人




