75-大乱闘オトギソウガールズ
ボツにしかけたけど入れたかった…
季節は巡り、秋中盤。体育の日───御伽草中学校では運動会が開かれる日。
危機が迫っているとは知らず、運動会は始まった。
赤組と白組に別れて、現役中学生の魔法少女と猫娘は、雌雄を決する。
「オラァ!!」
「いてこますぞゴラァ!!」
「こーろっせ!!」
「やれェーッ!」
「勝つぞォォォ!!氏ねェェェ!!!」
「アハハハハハハッ!!」
「ヒャッハーッ!」
「オオオー!」
「……なにこの世紀末」
凄まじい熱気、まさに熱狂的な殺し合いに、保護者席で観客していた穂希は呆然としていた。二年前のあれこれで参加できなかった運動会だが、こんなに殺伐した殺し合いだったのだろうか。
妹やその友達も、普段温厚な少女たちすらも意気揚々と牙を剥いている。
殺意100%で罵り合い、競技という名の大乱闘。
ちなみに、特に精神干渉されているわけではない。ただ血の気が荒いだけである。
【悪夢】に抑圧された怒りが、憎しみが、運動会という全くもって関係のない場で発散される。
その熱気に、さしもの穂希も置いてけぼりだった。
「みんな溜まってるんだねぇ」
「……それで解決できる熱気じゃないと、僕は思うけど」
「! うーちゃ、んんっ!」
「危機感」
夢之宮寝子の保護者として運動会に来ていたナハトも、困惑した様相で穂希の隣に座る。
大声で愛称を叫ぶ口を摘んで塞ぎ、溜め息も添えて。
「ネットでも盛況だからな、ここの祭りは……どこ見ても中学のノリじゃない」
「あはは、うん、やっばいよね」
一旦日常から離れていた影響か、地元のヤバさにやっと気付き始めた2人は、遠い目をして騒乱を見る。一応、親代わりの役目として一眼レフカメラで撮影はする。
勇ましい表情の、それこそ、いつも以上に苛烈さのある躍動感には言いたことが五万とあるが。
今はこの思い出を激写するだけに留め、とやかく文句を言うのはやめにする。
当時は、自分もあんなことになっていたのかと思うと、なにも言いたくなくなるので。
「ふぅ〜、なんとか間に合ったぽ、ふっ!?」
「あ?あー、いたのか」
「なんでここに!……あっ、チェルシーの保護者ぽふか。なるほどなるほど」
「高速理解…」
「流石ぁ」
遅れて参上したぽふるんが構えたが、目的を即理解してそのまま受け入れやがった。大丈夫なのかこいつ。最後の妖精としての自覚ある?隙ありすぎだよ?
……こんな簡単に受け入れられるの、なんか癪。
まぁいいや。どーせ気付かれないし。鈍感も鈍感だしなこいつ。
「次、玉入れだって」
「惨憺たる光景が広がりそうな気がする」
「これさ、もう前もって救急車呼んどいた方がいーんじゃないの?」
「死人が出なきゃいいでしょ」
「あれ毒されてる?洗脳解けてない?」
「洗脳は草」
赤と白の豪速球が飛び交う競技をビデオに残す。途中、カゴから逸れた布玉が観客席に飛んできたが、首を傾けて悠々と回避。
赤色が滲んだ白い玉が見えたのは、きっと気の所為だ。
「やーっ!!」
「消える魔球…!」
「キャラ違くね」
「死ぬ!ぼくが死んじゃう!!」
「恐ろしいな運動会。あの寝子が狩人の目をして……いや怖いな?」
ダウナーキャラすらも変えてしまえる競技は、その後も着々と進んでいく。綱引きは筋力が底上げされたきららが怪力無双。リレーでは蒼生がアンカーとして他のレーンを追いやって快勝。障害物競走では寝子が類稀な柔軟によりぬるぬる動いて一位を獲得。騎馬戦では穂花の騎馬が敵の騎馬を薙ぎ倒す勢いで突進し、見事ハチマキの最多獲得。
知ってる面子がV勝利しているのを、2人は自分たちもあーだったのかなと疑いながら、取り敢えず拍手と喜びで祝した。
「ん、お昼の時間だって」
「らしいな。まさか自由に、好きな場所で食べろとは……学生は教室で食べるのが普通じゃなかったっけ?」
「家族で食べるのもいーんじゃないの?」
「……オマエの妹以外もこっち来てない?僕は帰るね」
「まあまあ。今日は保護者同伴だから。蒼生ちゃんたちのお母さんたちとも一緒に食べる約束してるんだ。ちなみに私たちが魔法少女だってことは知ってるし、寝子ちゃんが三銃士なのも知ってるよ。その、色々あってバレたの」
「色々あったぽふ」
「なおのことダメだろ」
「多分大丈夫ぽふ」
「ちなみに寝子ちゃんも食べに来ます」
「バカか?」
遠回しに参加を強いられたナハトの明日はどっちだ。
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お弁当と共にレジャーシートを敷いて待つ穂希の元に、魔法少女の関係者たち……いや、保護者が集まる。なんか場違い感すごいから、僕は端っこで体育座り。
なんだよバレてるって。バカなの?
魔法少女の秘匿性って大事なんちゃうん?保護者にも、あんまりバレない方がいいって話だったじゃん。僕と穂希は親死んでたから、そこら辺気にするのは精々穂花ちゃん相手ぐらいだったけど。
……気配薄めとこ。あんま触れられたくない。ナハトがここにいるの大分不味いよ?
あ、宇宙人問題は先送りだ。偵察が来る予定日は、凡そ把握してるけど。
「こんにちは〜!」
「お招きいただきありがとうございます」
「どうも」
聞こえてきたのは、元気溌剌な女性の声と、礼儀正しい太っちょの声。最後にお堅い雰囲気の女性の声……髪色で誰の母親と父親なのかがよくわかる。
いや雰囲気でわかるな。親の影響って強いんだね。
魔法使って極限まで存在感薄くしてる僕には気付かず、親御さんたちは穂希と談笑を開始。
おじゃま虫は消えますね。
あっおい掴むな。
「ご紹介しますねー、寝子ちゃんの保護者の宵d」
「口を慎めよバカ。情報リテラシーの大事さを魂の髄まで叩き込んでやろうか」
「ごめんって!」
「あらあら、仲良しさんなのね〜」
「それで済ませていいんですか」
「いてて…」
ホントだよ。子が子なら親も親だ。ったく……
逃走を図ったはいいものの、首根っこを掴まれて失敗。軽率に苗字を教えようとしたバカを叩いて、曲がった襟を正してから自己紹介。
どうもナハト・セレナーデです。お子さん達には色々とお世話になっております。
今日は突然のことだったので、お礼やお詫びの品などは用意できておらず申し訳ない。心ばかりではありますが、こちらの紅茶を。かのトラウト家が愛飲する、それなりに美味しい粗茶ですので。
「わぁ、ありがとうございます〜!あ!晴蜜ゆらです〜!寝子ちゃんにはこちらもお世話になってます!」
「これはご丁寧に。晴蜜學です。どうぞよろしく」
「……空梅雨栞です。こちらも、娘がお世話になっているようで」
きららパパと蒼生ママの疑いeyesがちょっとヤバめ。
いやだよ〜、流石にアリスメアーの最高幹部相手じゃあその反応になるよねぇ……無理だよ、その疑いを晴らすの無理だよぉ。
ちなみにゆらさんはめっちゃ若々しいお金持ち夫人で、學さんはスーツがパッツンパッツンの太っちょ、栞さんはキツい雰囲気の眼鏡のOLさんだ。
うん、似てる。そして後半2人はかなり近寄り難い。
栞さんは兎も角、學さんは目が怖い。笑顔なのにお目目笑ってないの怖い……
まぁいい。ここは犯罪者として、ナハト・セレナーデを演じきろうじゃないか。
取り敢えず笑顔で応対。
「ニコニコ」
「エミエミ」
「ぽふぽふ」
「……ねぇ、便乗して変なオノマトペ使うのやめてよね。つーかオマエは混ざれてねぇぞ」
「知らんこっちゃ」
「殺そっかな☆」
「殺意高いぽふ…」
こうなったら人目を憚る必要もねェ。ぽふるんは兎も角穂希はぶん殴ろう。魔力で固めて重力魔法付与して、歪で脳震盪確定コースで決めよう。
そう決意して拳を握ると、子どもたちの声が耳に届く。
「おねえーちゃん!お待た、せ!?」
「えっ、なんでお母さんが……なんでナハトさんが!?」
「あれー!?」
「うん…?」
うん、そりゃあ僕がいるのは驚きだよね。さて。
「ね〜こ〜?」
「……あっ」
「保護者にも正体バレてるとか一切聞いてないんだけど?情報共有報連相は大事って言ったよねー?なんで言わないのびっくりしたんだけど!?」
「ごめんなさい。そんなことより素、出てる」
「今関係ないよね」
「ごめんなさい」
報告・相談・連絡は大事だって言ったよね。ちゃーんと社会の常識だって僕教えたよね。どうして君に限って実践できないのかな。
ちゃんと力を込めて側頭部を拳でグリグリしていると、まあまあと止めてくる穂花ちゃんたち。
止めないでくれ。
「はァ……はァ……あぁ、お見苦しいところを失礼した。それで?なにがどうなって、親御さんたちはこの子のことを知ったのかな?」
「うちの子が会話の流れで」
「ごめんなさい」
「あぁ……まぁ、君なら仕方ないか。うん」
「ねぇー!その反応なにー!?」
「すまんて」
そんなこんなで諍いはあったものの……時間もないので早速昼食へ。各々保護者が作ったお弁当を広げて、10人の大所帯でご飯を食べる。
金持ちが重箱持ってきてるの、本当バグってるよね。
ちなみに僕が作ったのは普通の弁当一人分、寝子のだけ作ってきた。
ゾンビには、ご飯いらないので……魔力変換でどうにか蓄えにはなるけども。
「? 食べる…?」
「いらない。実を言うと、さっき食べてきててね……私がだいぶ少食なのは、君も知っているだろう?」
「まぁ…」
「はいあーん」
「んぶっ、なにこれ辛ッッッ」
「お姉ちゃん隠れ辛党だから…」
「ごふっ」
知ってる。
次回、保護者面談?的な




