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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
悪夢仕掛けのバックトゥーライフ

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72-疲労感MAX!!!戦う気力、0!!!


 “夢喰い”のルイユ・ピラー。下半身が芋虫というかなり奇っ怪な身体の持ち主で、翠色の魔女帽とロープによって森の賢者感を紫煙と共に吐き出す、悪夢の予言者。

 ユメ計画成功の為に喚び出された、復活怪人である。

 言霊をもって死の予言を齎す、そんな彼女には……目下最大の悩みがあった。


「身体が……重い…痛い…」


 下半身の芋虫体が、あまりにも重くて……肩凝り所か、身体の至る所が痛かった。上半身の人間形態部分が、最も痛みを訴えていた。

 これには復活させたナハトも想定外。

 整体師の資格は無い上、その手のプロに下半身が芋虫のルイユを任せるわけにもいかず。湿布を貼るなり身体中を揉み解すなりしたが、成果はあまり出ず。

 結局身体の重さと痛みは治らず、悶絶しながらルイユは出撃した。


 ある程度のことは、魔法でどうにかなる。夢煙を纏って中空を漂うことも、転移魔法で好きな場所に行くことも、なんだってできる強みが魔法にはある。

 だが、全てが可能だとは口が裂けても言えず。

 魔法は全能ではない。ルイユの復活仕立て故の疲労や、慣れない環境でのストレス……その他諸々の色々な要因でルイユはデバフを食らっていた。


 のそのそ這いずって、秋風に巻かれながら移動する。


 手近にアクゥームの核になりそうな人間がいるか、目でくまなく探すが……肝心な時に限って、周りにはおらず。何度も溜息を吐きながら、ルイユは地面を這う。

 ……土汚れなどの懸念点は、安心してもらいたい。

 ルイユの芋虫ボディは、這った後に痕跡は残さないし、汚れがつかないマジカルボディなのだ。

 尚、その分重い模様……ほら、もう限界が来た。


「あかん。今日はいつにも増して重い……疲れが溜まったとかそんなんか……?あ、無理や。もう動けん……腰痛?そんな馬鹿な……節々の痛みぃ」


 そんなこんなで、運動公園の木陰に、五体投地で沈んだ無害の半人半虫が現れた。散歩する人々の、えっあれってまっさか〜!といった奇異の視線には気付かず、本格的に身体の痛みで倒れてしまった。

 本当なら、ここでナハトを呼ぶなり三銃士を呼ぶなりで撤退すべきなのだが……

 木陰の涼しさに負けて、妥協その為諸々で動けない。


 ……それから暫くして。

 運動公園に見覚えのある怪人がいるとの通報を受けた、魔法少女たちが駆けつける。


「見つけた!って、えぇ……」

「大丈夫?死んでない、わよね?」

「生きてますかー?」

「無遠慮に近付くのは危ないぽふよ!こういう時は、少し遠いところから声をかけて…」

「でも死にかけだよ?」

「そうだけども!」


 群がる魔法少女に反応するのも億劫な程の、あんまりな疲弊の境地に達したルイユ。目は一応彼女たちを追うが、やる気は完全に損なわれていた。

 そんな態度を見せられれば、警戒心も薄れるもので。

 善人の塊である少女たちが、なんだろうと食いつくのは当たり前で。


「大丈夫ですかー?」

「声出せる?病院連れてきましょうか?」

「お水飲むー?」

「……あかん。献身はやめぃ。魔法少女からの施しとか、後でうちがドヤされちまう」

「? いつものことじゃん。チェルちゃんとか」

「なんやて???」


 芝生の上にうつ伏せになったルイユを、全員で介抱するつもりなのか。いやいやと頭を振るのを無視して、3人はルイユの身体をせーので持ち上げる。

 どうやら近くのベンチまで運ぶらしい。

 ……手摺がないタイプの為、二基占領すれば、ちょうどルイユの身体が収まる。

 抵抗虚しくそこに寝転がされ、魔法少女たちにぺたぺた身体を触られる。


「あの、ちょっと」

「いーからいーから。何処が痛いの?」

「……ぜ、全身」

「おばあちゃんなの?」

「こらっ」

「否定できへんけど、結構傷つくからやめてな?真正面はもう殺意よ?」

「ごめんなさい」

「素直やな…」


 有無を言わさぬ圧で、ルイユの悩みを聞いたエーテは、早速と言わんばかりに善性を発揮。芋虫ボディと人間体の繋ぎ目、腰の部分に手を添える。

 そして、丁度いい塩梅の力で、ぐっぐっと押し始める。


「おおっ」

「あ、すごい硬い」

「おーっ、あたしもやるー!肩でいい?」

「……仕方ないわね、背中やってあげるわ」

「なんなん君ら…」

「魔法少女です」

「いやいや…」


 困っている人がいたらどうにかする。それが怪人でも。比較的平和な時代に魔法少女になったエーテたちは、特に悪夢への抵抗がない。

 大事な姉が殺された、友人がいなくなった。

 そんな理由は多々あるが、それはそれ、これはこれ……いつまでも過去を引き摺る程、彼女たちは弱くなかった。それどころか、こうして善意を振る舞う始末。

 かつての過激な魔法少女たち……さも当然な彼女たちを知っているルイユにとって、彼女たちは正に青天の霹靂と言ってもいい。


「んもー!仕方ないぽふ!」

「ちょ、首ぃ!?あ、意外といい力加減…」

「おらーっ、ぽふ!」


 怪人だからと渋っていたぽふるんも混ざって、ルイユを全力マッサージ。


:マッサージ配信?

:すんごいバキバキ鳴っとるんやが

:魔法少女たちの献身がすごい

:平和や…


 ちなみに配信は付いている。応援しに行ったら芋虫女のマッサージを見せつけられた視聴者たちの心境は如何に。やさしい世界で良かった。


 ……しかし、やはりと言うべきか……普通にやっては、あまり効果が出ず。

 ルイユはまだ、苦しそうで。


「うーん……そうだ!」

「デイズ?」

「花魔法でなんかいい感じにできないかな?やるね」

「即断即決ぅ。確証は?」

「んない!」

「ちょい待ち?お婆ちゃんのこともっと考え?被検体にゃなりたくないよ?」

「大丈夫!」

「なにが?」

「デイズを信じるぽふ!」

「えぇ…」


 妙案を閃いたデイズが、問答無用で花魔法を行使。


「行っくよー!それっ!」


───花魔法<ヒーリング・ポピュラー>


 デイズの手の平から広がるように、暖かい花の魔力が、凝り固まったルイユの身体に浸透していく。芋虫に生えた身体を蝕む、一つ一つの害を取り除く。

 その魔力の浸透に合わせて、3人と一匹は手を動かし。

 魔法と合わせたマッサージで、なんと。ルイユの身体は弛緩し始めた。


「お、おぉ〜?」


 効果はあったようだ。

 人体を揉み解す、ツボ押しするその様は、拙いながらも上手なもの。


 ルイユの硬かった表情は、次第に蕩けていく。


「あぁ〜、意外といいもんやな…」


 デイズのお陰で、痛みを訴えていたルイユの上半身は、幾分かマシになったようだ。


「流石よ!やったわね!」

「えへへー!どんなもんだい!」

「すっごいぽふ!」

「……これ、下半身もやった方がいいの?」

「あ、確かに」

「度胸あんね君。やめとき、気味悪いやろ。オブラートに包んだ見た目しとっても、キモい身体なのは代わらんし。あー、お茶会の旦那はんにお願いして、下半身切除と人体改造お願いしよかな…」

「えぇー、アイデンティティ削っちゃうの?あ、あたし、虫さん平気だから触るね」

「ちょい待ち、あ、躊躇いないな君?」

「へぇ、ひんやりもっちりって感じなのね。普段何食べて生活してたら、こんなんになるのよ」

「遠回しに太っとると?」

「あはは」


 迷うことなく太めの虫体を触り、指圧や手の平で押す。その度胸にルイユは関心を超えて引いていた。好き好んで触ってくる存在は、いなかったから。

 コメットとデイズの、絵面が心配になるマッサージ。

 彼女たちの感覚では、デフォルメのような、可愛らしい見た目を持つ芋虫ボディは、着ぐるみのようなモノにしか見えないらしく。

 忌避感を抱かぬまま触っている。

 ……これは補足だが、チェルシーも好奇心で躊躇いなく触ると予想される。


「……変わっとるな。本当に」


 流れに身を任せて、されるがままマッサージされたが、案外悪くなくて。今までは興味なかったが、今後は人間に化けて整体に行ってみるのも、いいかもしれない。

 10分足らずのマッサージだったが、出撃前よりもかなりマシになったようだ。

 起き上がっても辛くなくて、重さも差程感じない。

 揉み解されたからか、ルイユの身体は大分楽になって、移動も容易になった。


「ありがとうな。お陰で楽になったよ…」


 肩をぐるりと回して回復をアピールし、宙に持ち上げた上半身を軽く伸ばす。


「お姉ちゃん以外にやるの初めてだったけど、あれだね。意外とやりがいあった」

「仕事帰りのお母さんに頼まれる以外は初めてね」

「チェルちゃんが泣いて許しを乞うぐらいの力で揉むのはできるよ!」

「やめたげて?」

「なにしてんのよ」

「あんた、見かけによらずヤバい子やな…」

「かわいそぽふ…」

「えー?」


 魔法少女になってから益々筋力が増強しているデイズの被害者に黙祷を捧げ、一段落。


「はいお駄賃」

「え、いりません」

「貰っといて?うちにもいらん醜聞が立っちゃうんよ……あと、あんたら人気者にマッサージしてもらってる時点で炎上モノやと思うんや」

「そうかしら…」

「現場のコメント欄〜?お気持ちどうぞ」


:ずるい

:そこ変われ

:何万払ったらやってもらえますか?

:社会の歯車に潤滑油を

:私のことも揉んでくれー!

:肩たたき券、どうぞ

:大盛況!


「な?」

「わーお。みんなお疲れさんだね」

「お姉ちゃんみたい」

「笑えるわね」


 結局、金銭の取り引きを3人は受け入れなかったが……その代わりとしてルイユが提案したものに、恐る恐る頷くことになる。


「なら、これでどうや───うちの得意分野、占いは」


 戦う気も失せたルイユに、お試し感覚で運勢占いをしてもらうことになった。


 エーテたちの、人生初占いである。


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