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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
悪夢仕掛けのバックトゥーライフ

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71-魔法少女狩りの今と昔


 悪夢の国の処刑人、クイーンズメアリーは、黒髪赤目の美しい顏ばせを持つ怪人である。数多くの正義を刈り取る最悪の死神、魔法少女狩りの異名も持つ彼女は。

 ある程度の正気、それこそ塩ひとつまみ分のみで蘇り。

 【悪夢】の影響を未だ色濃く受けたまま、ある程度浄化された状態で今を生きている。


 普段は庭園や城内で、ナハトやリデルの命令を待ち続けなにもしない。

 否、なにもできない。

 思考して決めるだけの知能が薄い為、命令受信で行動が常なのだ。


 ……その為か、最近では。こんな光景が見られるようになった。


「おんぶ」

「A」

「ヨシ、発進!」

「aaa〜…」


 リデルの足として、特に理由もなく酷使されていた。


「大丈夫なのでしょうか」

「そう警戒するな。所業を見ずとも、気持ちはわかるが」

「……いえ、アッシー君扱いで良いものかと」

「命令に従順なメアリーちゃんなら大丈夫なんじゃないのまーじで知らんけど」

「投げやり…」


 庭園を駆け回る初代+二代目夢の国の女王(現悪夢)の微笑ましい珍風景を見ながら、定期的に開かれるお茶会の準備を手伝うメード。

 なんでもない日のお茶会という、夢の国の時代において定期的に開催されていたパーティを復活させ、庭園を構築維持する魔力をナハトは回収している。

 三銃士が呼吸と共に微量に発する魔力や、アクゥームの騒乱により溜まるユメエネルギーの一部を徴収する形で、異空間を確立させている。

 以前は【悪夢】の膨大なエネルギーがあったが……今は違うので。


「……ケーキスタンドで着飾るか」

「映ますね」

「写真を撮るのはいいが、摘み食いはするなよ」

「心外です。あっ、リポスト来ましたね」

「あげたの???」


 SNSに躊躇なく投稿するメードに言いたいことができたナハトだが、言っても無駄かと口を噤む。言ってどうにかなる相手だったら、ここまで苦労していないから。

 粛々と準備を進めるナハトは、現実逃避がてら元女王の2人を見やる。


 どちらも彼女にとって唾棄すべき悪。元が付くとは言えその事実は変わらない。

 変わらない、が。


「うおー!?」

「Rrrrr───…a」

「いっだぁ!?」

「o」


 小脇に抱えたまま猛ダッシュを命じられ、言われた通りやったら躓いて転けたメアリー。そして、小脇にいた結果顔面から芝生にダイブしたリデル。

 痛みに身体を顰めながら、すぐに起き上がったリデルは大変気分が優れない顔をする。

 幼児のようにギャン泣きしないだけマシだと、ナハトは溜息を吐いた。


 あわあわと困惑するフリをする人形は横に置いたまま、擦り傷ができたリデルの顔に治癒魔法をかける。忽ち傷は癒えていき、あっという間に間に完治した。

 医者要らずのマッドハッターは、遊ぶのはいいが安全に気を付けるよう注意する。

 これから始まるのはお茶会だ。万が一、ティーセットが壊されてはたまったもんじゃない。


「命令遵守は素晴らしい。そこは大きく評価する。でも、でもだ。もうちょっと周りも見てくれ。その程度の思考はまだできるだろう?」

「Urrr…A、ai…」

「わかればよろしい。リデル、オマエもはしゃぎすぎだ。もうちょっと節度を保て」

「うむ…」


 保護者のお叱りを炸裂させてからも、懲りずに駆け回る命令を繰り出すリデルにコップを投げたり、無抵抗で全て受け入れる大人しいメアリーに思考誘導をかけたり。

 トリプルタスクで忙しなく駆ける姿は、正に悪魔の国のシングルマザー。


 これを言ったペローがどんな目に遭ったのかは、想像に難くない。


「U、a〜♪」

「ほぉ、オマエ歌えたのか。いいぞ、歌え歌え」

「……やっぱり僕の知ってるあいつじゃないだろ。だれだあのフランス人形。戦闘中とのギャップ激しすぎだろ……もう意味わかんない。晒してやる」

「万RP行きました」

「はっや」


 想定以上の世間の注目度に、ナハトは表に出るのが少し怖くなった。








꧁:✦✧✦:꧂








───魔法少女狩り。

 彼女がそう呼ばれるようになってしまったのは、戦場で魔法少女に出会ってしまったから。宛もなくフラフラと、名も忘れた主の命令もなく、ただただすれ違った人の首に手をかける日々。

 散々たる結末しか生まない、血濡れた歴史の一頁。

 いずれ【悪夢】に存在ごと飲み込まれ、誰の記憶からも忘れ去られる運命にあった彼女、であったが。ある日……通報を受けて駆けつけた、否、運良く間に合ってしまった魔法少女を、初めて手にかけた。

 軍勢の本格稼働から7年、漸く彼女は己の役目を知る。

 【悪夢】に抗う人間の少女を、それを補佐する妖精を、皆殺しにすること。


「■■■■■■───!!」


 絶望の具現、人類の殺戮機構。魔法少女を殺し、奪い、歪んだ世界の均衡を正す者。

 首切り役人に堕ちた、始まりの女王は壊れて笑う。


 何人もの魔法少女を斬った。その死神の鎌で、あらゆる生き物の首を落とす処刑魔法で。愛しき【悪夢】の繁栄、世界の隅々まで浸透した夢の中で、絶望を唄う為に。

 怪人化で黒ずんだ炭の身体から、ボロボロと零れ落ちる破片には目もくれず。

 亀裂から覗く、紅い輝きにも。溶岩のような“熱”を放つ異常にも気付かずに。

 初代女王、クイーンズメアリーは闊歩する。

 漠然とだがわかる───最後の2人と一匹まで減った、消すべき灯火を目指して。


 そして。


「───自分から出向いてくれるなんて、やさしいね」

「!」


 背後から近付く、魔法少女───ムーンラピスの殺意に気付かず。最初の一手を、譲ってしまう。壊れた精神でも湧き上がる感情はあるもので、背後からの強襲に、彼女はらしくもなく動揺した。

 胸から突き出る、血濡れた銃剣の刃も、また同様に。

 音もなく忍び寄った蒼月の彼女は、黒いマントを翻して刀剣を抜く。一つ結びの、魔力で変色したダークブルーの青い髪が、夜風に吹かれて靡いている。

 殺意を灯した碧眼が、クイーンズメアリーを見つめる。わざわざ死にに来た、圧倒的弱者を屠る者の目で。彼女は牙を剥く。


 刺突されたメアリーは、傷口を抑えもせず僅かに残った自我で辺りを警戒する。


「? あぁ、片割れをお探し?なら大丈夫。あいつは今、ぐっすりおやすみ夢の中……オマエの気配にも気付かないで寝てるよ。主に過労で」

「■■■■■■…」

「日本語でおk」


 相方も、妖精もいない、孤軍奮闘。今まで多くの同胞を散らしてきた幹部怪人を相手にするには、些か準備不足を禁じ得ない状態だが。

 一人で殺り合った方が、結果的に上手くいく。

 実は、連携のれの字も知らないムーンラピスにとって、孤軍奮闘はドンと来いな代物でしかない。

 だから彼女たちは、基本2人で行動はするものの、敵を葬る時は基本一人。圧倒的火力で、最強と歌われる個体のアクゥームさえも滅ぼした。


「単刀直入に言う───死ね」


 その殺意が、とうとう魔法少女狩りに向けられる。


「■■■───!!」

「速いな。モロハ先輩が負けたのが不思議だったけど……理解できたよ」


 速攻の斬撃で首元を狙うが、コテンと傾けられただけで回避される。鎌の軌跡を目で追って、分析。躊躇いもなく肉薄する殺人鬼に、蒼月は魔法で応対。

 まだ眠いのか、欠伸を噛み殺しながら殺し合う。


 ……普通ならば、この時点で大抵の魔法少女は死ぬ。

 たった一度の斬撃で、時には魔法一つのみで狩り殺した実績が、メアリーにはある……それが、ムーンラピスにも通じるとは、限らない。

 眠れる獅子を起こさぬ為か、防音結界で遮断しな空間で切り結ぶ。


「■■■■■■■■ッ!!」


 痺れを切らしたメアリーが、秘儀を使うのは早かった。


───処刑魔法<首のないアリア>

───処刑魔法<聖処女の燃える黒十字>

───処刑魔法<罪の秤>


「!」


 警戒するからこそ放たれた、三種類の魔法。木の首枷にキツく絞められ、内に隠された刃が動く。更に、ラピスの背後に突き出た十字架が炎を吐き、その身体を包み。

 最後に、魔法少女の魂が天秤に乗せられて……不可避の死が、迫る。


「がっ」


 ムーンラピスは抵抗もできず、身体を焼かれ、青い魂をめちゃくちゃに引き裂かれ、打首にされる。血飛沫と共に夜空へ舞う生首に、メアリーは満足気に笑い……

 その首に、青い亀裂が走る。


「───?」


 違和感。


 いつの間にか、メアリーは夜空を見上げていた。茫然と見開かれた瞳。思考もままならない脳……重力に導かれ、彼女の視線は回転し、首のない胴体を見つける。

 ボロボロの、赤いドレスを着た───自分の身体を。


 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。


 悲鳴を奏でることはできず、慟哭を叫ぶこともできず。クイーンズメアリーは、ぐちゃぐちゃになった己の胴体を見てしまう。

 裁きの炎が、炭化した身体を焼いている。

 天秤の罰が、ボロボロになった肉体を魂諸共変形させ、再起不能になるまで痛めつけ。

 自慢の刃が、己の首を刎ねていた。

 そうして気付く。自分が発動した処刑魔法が、全て己にかかっていることに。


「A、a■?■■■…」


 咄嗟のことで、わけもわからぬまま地面に落ちて、首はごろりと転がって。


 己を見下ろす、無傷の蒼月の足元へ。


「夢の世界は楽しかった?」


 理解する。処刑されたのは自分なのだと。夢の世界に、幻惑に閉じ込められ、自分で自分に魔法をかけて、処刑を執行したのだと。

 現実の理解を拒むには、冷めた目で見下ろすラピスが、ノイズになって。


 最後は。


「仇討ちもこんなもんか……それじゃあ、Bye」


 蒼い月の輝きに、残った思考の全てを、虚無の虚無へと塗りたくられて───…


 そこで、クイーンズメアリーの一度目は終わった。


 ……次に意識が浮上したのは、何処か見覚えのある城の地下室。これまた見覚えのある青虫が這っているのを横目に見てから、正面に立つ、これまたこれまた見覚えのある幼女が仁王立ちしていて。

 その隣に、見覚えのない───いや、覚えのある魔力の持ち主がいた。


「初めまして、君たち」


───いいえ。二度目まして、ですね。


 思考もままならない上に、金切り声しか上げられない。そんな状態でも、クイーンズメアリーは、ある程度の正気のみでそこにいる彼女は、目を細める。

 それは、己を殺した怒りや憎しみから、ではなく。


 止まらずにいた己を、文字通り処刑して止めてくれた、大恩人への、感謝。


 僅かに残る思念は、そうして、彼女に平伏した。


ほぼ生き人形だけど、読心使ったら超微かに思考していることがわかるタイプの徘徊型ボス。

別に正気ではない。

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