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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
悪夢仕掛けのバックトゥーライフ

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70-宙の蜘蛛の巣


「うーん」


 魔法少女狩り、予言者、牢番の紛い物……新たな悪夢の幹部の登場を受けて、リリーライトの中の人、明園穂希は頭を悩ませる。

 増え続ける悪夢の敵。対して、自分が復帰したぐらいで変わらない魔法少女。

 契約妖精がぽふるんしかいない上、許容量も限界。

 穂希と穂花、蒼生、きららの4人と契約を繋いだままの今は、はっきり言って風船が割れるぐらいに危険だったりする。


 かといって、契約を破棄して魔法少女を辞めるわけにもいかない。


 増やすのは無理、減らすのは論外、ではどうするか。


「最善は、うーちゃんを味方にする、だけど……状況的にあの子が頷くわけがない」


 有言実行絶対履行者───やると決めたら絶対にやる、不可能であろうと可能に変える最強の魔法少女。それが、明園穂希の幼馴染。

 叶わない夢だろうと叶えてみせる、そう実現してみせる姿に、誰もが目を奪われ、期待を胸に抱いた。

 実際、地球に二年の平和を齎したのは彼女の功績だ。

 死した仲間の業を背負って、魔法を受け継ぎ、終わらぬ悪夢に終止符を。そして、今では新たな芽吹きをもって再スタートを切った、歩みを停めない彼女。


 自分が求める結末を目指して、前進する怪物に、自分は勝てるのか否か。


「……やるしかないかぁ」


 どうも、大層素晴らしい計画を立てている彼女の手を、自分たちで食い止めるしかない。

 悪夢に染まった彼女が、どんな絶望的な展開を描くか。

 否、悪夢に染まる前からかなりの悲観主義で、最終的に生きていればそれでいいと宣っていた彼女ならば、もっと過激な計画を思いつくと予想できる。


 ……どうせ、仲間内にも計画の隅々まで教えていないと確信がある。


 だから、最後の友として、食い止めなければならない。


「おねーちゃーん!」

「! はーいー?」


 階下から響く妹の呼び声に、書いていたノートを閉じて呼び出しに応じる。時間帯的にはちょうど夕飯時。今夜は私が作ると張り切っていたから、穂希はちょっとだけ胸を踊らせる。

 潜伏中に何度も食べた味だが……二年前よりも、確実に腕が上がっている。中学一年生なのに一人にしてしまった申し訳なさと、なんで大人を頼らなかったのと、言いたい文句はいっぱいあるが。

 今だけはそれを差し置いて、一階に待つ穂花の元へ。

 美味しそうな匂いを嗅ぎつけて、逸る気持ちを抑えて、ルンルンと階段をスキップ。


 一階まで軽々と飛び降りて、リビングの扉を開ける。


「お待たせ!」

「……跳んできた?」

「うん」

「えーっ、危ないじゃん!」

「へーきへーき♪」

「もうっ」


 心配してくる妹を軽く宥めて、テーブルに料理を並べる手伝いをする。ランチョンマットを敷いて、タンブラーにお茶を注ぎ、箸を並べて準備完了。

 ぷかぷか浮いてサラダを運ぶぽふるんも支えて、夕食の手筈は整った。

 穂花手ずからに作ってくれたハンバーグを受け取って、3人でいただきますの挨拶をする。


「いただきまーす。ん!美味しい!」

「美味しいぽふ!」

「よかったー♪」

「上達したねぇ……お姉ちゃん、涙が出そうだよ。あっ、ダメだこれ目に染みるッ」

「目薬出すのやめて?」

「あはは」


 道化を演じる姉と素直に褒める妖精と共に、妹は何処か懐かしくて、楽しい団欒に興じる。

 二年間の孤独を忘れるように。

 未だ空いたままの、座るべき主を失ったままの椅子から目を逸らしながら。


 仲睦まじい姉妹は束の間の平穏を、暖かい夜を過ごすのであった。








꧁:✦✧✦:꧂








「───ONLY ONE♪わた〜したち〜のきぼ〜うがぁ〜♪つき〜ぬ夢、恋〜焦〜がれ、終わ〜らぬ愛〜を〜♪あぁ、いつ〜の日か、また〜逢〜える、やく♪そく♪を〜♪」


 遥か高空、月の下。歌姫───“王国”のマーチプリズのテーマ曲と言ってもいい邦楽の歌詞を楽しげに口ずさむ、裏切りの魔法少女。

 悪夢に浸り、悪夢に染まり、悪夢に身を投じた彼女は、夜空に張り巡らせた対空魔法兵器の点検を行っていた。

 肌寒い冷風に吹かれ、身体を冷やしながら。

 たった一人で、魔法少女の目にすら映らない兵器群を、景観を損なうそれらに触る。


「覚めない夢なんて、ない。か……ふふっ、あいつらしい素直な曲だよねぇ……」


 スピーカー型の機械に腰を掛け、眼下の摩天楼を冷たく見下ろして。


 この二年間、溜めに溜めた魔力を少しずつ注いでいく。


「思考誘導装置アニマート、魔力増幅装置メトロノーム、対空防護結界ペルデーンドシ、外部干渉防御トリル、空間同調接続フェローチェ、万能方策環境式ラメンタービレ、希望重奏兵器フォルテシモ、全て異常なし。最低限の魔力制御も完璧。万が一破壊された時には物質構築改修エドですぐに復帰できる。最悪、アクゥーム化させて自律すれば外宇宙の虫ケラ共はある程度蹴散らせる……はァ、これで蹴散らせるだけとか、本当に迷惑な性能してるよなぁ」

「───これだけの数を一人で拵えるたァ、マジでやり手だよな、あんた」

「!」


 過剰とまで言える点検をしていたナハトの傍に、蜥蜴の大男が並び立つ。眠そうに欠伸をする彼、“禍夢”のビル。右手に持った工具箱を上司にポイっと投げ渡して、上空に等間隔に張り巡らされた兵器群を見る。

 一見すればただの音楽装置でしかないそれらは、博識のビルでも理解できないモノばかり。


「悪いな、急に男手が必要になってな」

「別にいいぜ。あぁ、ご命令通り、夢ヶ丘上空の兵器群は座標をズラしておいたぜ。設計書通りにはやっといたが、最悪も想定して確認しといてくれ」

「ありがとう。お陰で魔力消費も少なく済んだ。これなら夜明けまでには、日本領空範囲は終わる計算になる」

「色々と規格外だな…」


 仕事を寄越せとせっつくビルを引き連れて、対空兵器の確認を続けていく。高度な単純作業は嫌いではないのか、お互いに口数少なく作業を続けられる様子。

 ……といっても、後は魔法で一気に仕上げるのみ。

 ビルの施工を魔法で模倣し、再現し、他の兵器たちにも同じ変化を付与していく。多少の構造変化でかなり魔力を食うが、一からではなくコピーアンドペーストの為、大分楽できるとナハトは豪語する。

 その行いが、全く楽ではない埒外の方法であることは、ビルもなんとなく察知して、それ以上は野暮だろうと特に語ることはない。


「スピーカー型ってことは、歌魔法でも使うのか?」

「ベースはそうなる。王国の魔法は付加効果が目立つ故、そこに13魔法も付け足して威力を底上げする。過去の襲撃統計を見るに、この兵器なら間引きは容易い」

「ふーん、そいつァすげぇ……ん?間引き?全滅じゃあ、ねェのか?」

「ふふっ」


 妖しい笑みを浮かべるナハトは、ビルの些細な疑問点に答えてやる。


「こいつで撃ち落とせるのは八割程度。云わば雑兵だな。あとは個々でぶちのめさないと殺せないヤツらだ」

「……つまり、強いのは残る、と」

「そうなる」


 そうして地上に降り立った敵を、ナハトの隠し玉で潰し殲滅する。


 若しくは、魔法少女をその時まで生かして戦わせる。


「外道かな?」

「そうでもねェだろ。務め果たせて大満足じゃねェのか?魔法少女なんてそんなもんだろ」

「雑だな、まぁそうだけど」

「ハハッ」


 その迎撃の後、星間飛行アクゥームで宙に飛び、全ての元凶を滅ぼす。その過程で地球にあれやこれや魔法少女にあれやこれやする予定だが、猶予があることは計算済み。

 未だ、宇宙からの侵略はないが、既に確信している。

 ……実を言うと、宇宙怪獣自体ナハトは既に見たことがある。なんなら戦闘経験まである。これはアリスメアーに加入してから知ったのだが、魔法少女時代に戦った強敵の何体かは宇宙怪獣だったらしい。

 街中でスライムが暴れています→アクゥームじゃないななんだろあれ→とりま殺そ。の流れで数体討伐した経験がある。


 野生の宇宙産だったらしいが……統率された宇宙怪獣が地元に降りてくる未来を考えると、この程度のやりすぎなぐらいがちょうどいい。


 アクゥームと違って死体は残るし、キモイからの理由で焼却処分したのは、ちょっと後悔しているが。

 亡骸を政府や研究施設のどこかに引き渡せば、面白味のある変化があったのかもしれない。

 後の祭りだが。


「さて、そろそろ次に行こう」

「あぁ、星ヶ峯だな。こいつを背負えばいいのか?」

「この時期に魔力切れは防ぎたいからね……いや、本当にごめんね?君を魔力タンクの荷物持ちにさせるのは、正直どうかと思うのだけど」

「気にしすぎだ」


 二年間貯蓄した魔力の一部を内蔵したタンクを背負い、空中移動するナハトにビルは追従する。

 自分たちが、宙へ有利に立ち向かえるように。

 勝てるように。

───ナハトが目指す完全欠落のユメ計画が、過不足なく成功するように。


「……あぁ、楽しみだなぁ」


 自分が描く理想郷が、もう目の前にあるのだから。


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