69-希望と悪夢のいいとこ取り=僕
「よっ」
「だれやあんた……大事だからもっかい言うで。マジで、何処のどちらはんなん?」
「……r、r?」
「酷いな」
玉座の間、石タイルの上で片足立ちしながら、目の前の金髪幼女が本当にリデルか怪しむルイユと、体育座りして首を傾げるメアリー。
うん、性格が出てるね。そこの廃人はなんなの?
ルイユの疑問は最も。気持ちは僕にもわかる。この世の誰もが同調して元気よく頷くだろう。
威圧感とかも、出そうと思わないと出なくなったぐらい弱ってるからなぁ。
ここまで弱体化が明記されるラスボスもいないだろ。
「う、うーん。あんま理解しとうないけど、取り敢えず、現状はようわかったわ……んんっ、改めまして、これから宜しく頼んます」
「うむ。さて、早速で悪いが予言しろ。私の今後を」
「人遣いの荒さは相変わらずやな?」
「irr…」
言われた通り、王命だからと従うルイユは、濃い深緑の魔女ローブから占いの水晶玉を取り出し、魔力を浸透させ異能を行使。
彼女が使う夢煙魔法とは異なる、未来予知の魔法。
アタリもハズレもあるけれど、超高確率で確定の未来を見ることができる、ルイユ・ピラーの代名詞。
彼女の占いに、見えない未来はない。
「んん〜」
妖光を灯す水晶玉を、右手に乗せ、じーっと見つめる。
「あっ、これあかんわ」
「そんなにヤバいのが出たのか?」
「宇宙人にワンパンチされとるわ」
「は?」
「ま?」
それマジぃ?マジなんだろうなぁ……あー、やだやだ。
おっけ、今すぐ対空兵器起動するわ。もう衛星軌道上に魔法兵器設置してあるから、ボタン一つで行けるで。
……とうとうこの時が来たかぁ。
問題は、いつになるかわからない、ってこと。
近いうちかもしれないし、遠いいつかかもしれない……そこまでは、流石に見えなかったらしい。事情を知ってるルイユは、焦り顔でその先まで見ようとしてるけど、まあそんな上手くいく話はなく。
占いの水晶玉は、その顛末についてはうんともすんとも言わなくなった。
「このポンコツぅ!百年単位で放置しとったのがそんなにあかんかったか!?」
「それが原因だな」
「致し方なし」
むーりめ。そりゃそうだわ。陰ってなくてよかったね。
「あの」
「宇宙人…って、なに」
「初耳学なんだが」
「いるんですかエイリアン」
「なんも聞いてないが?」
そう納得していると、一緒に謁見していた三銃士たち、そしてメード、オーガスタスの全員が、疑問符を浮かべて挙手し始めた。
なに、どしたん。話聞こか?
……あっ。そうだ、こいつらに詳しい話し、そこんとこ教えてなかったや。
「うるるー?」
「ごめん言ってなかった。んんっ、今からアリスメアーの過去と真実を、君たちに教える」
「うす」
「あい」
今更感すごいけど、これを機に知っておくべきだろう。共通認識を持つべきだ。僕たちアリスメアーの、真の敵、魔法少女とは異なる、宙の脅威を。
終わりのわからぬ絶望を、強制された戦闘参加を。
逃がさないよ。せっかく勧誘したんだ。一緒に地獄まで来てもらうよ。
いつの日か、穂希にも語ったように。
「宙の向こうには、ユメエネルギーを好む存在がいてね。二年前までは、我々悪夢の暴走で狙われることはなかったのだけど……最近、リデル・アリスメアーは正常化した。宇宙人どもが、好き好んで喰らうユメ……云わば星の力が地球を循環し始めるようになった」
「待って待って!?ユメエネルギーって、星のエネルギーだったんスか!?」
「そうだ」
「希望だの将来への期待だの、そーゆー漠然としたヒトの想いの具現ってヤツじゃなかったのか」
「いや、それであってる。それこそが星の力なんだ」
「面倒な……」
人の思いは星の力と=の関係にある。意志の力みたいなもんだと思ってくれていい。
ややこしいけど、それが全てだ。
そんなユメエネルギーを喰らう宇宙の存在、まぁ頂上の怪物がいるわけで。
そいつらに、うちのリデルが狙われてるってわけ。
「ちなみに、こいつが捕まって取り込まれた瞬間、地球はジ・エンドです。来世もないよ」
「なんでおつかいなんて危ないことさせてんスか」
「まだ気付かれてなかったし……」
「そんなことさせたん?」
「……とにかく、夢喰いの占いで、将来的にバレる未来は確定したな」
んまぁ、もうバレてても、どうこうできるんだけど。
「……オレたちは、そいつらと戦うわけで?だとしたら、魔法少女はそのままにしといた方が、メリットあるんじゃないんスか?最悪、共闘も視野に入れた方が」
「そうだな。だが、その必要はない」
「えぇ?」
確かに、戦力は多いに越したことはないね。穂希からも提案されたから、それを飲むのは間違いではない。でも、それを受け入れるかどうかは、ちょっと違くて。
心情的な理由とな、私的な話とかではない。
単純に、邪魔なんだよねぇ。だって、宇宙人どもを直接相手するのは、実質僕だけなんだし。
それ以外の幹部たちは、地球で待機してていいし。
「はァ?勝てんのか?」
「問題ない。自陣に的が多いのは困る……アリスメアーのオマエたちは、この星に残って防衛に回ってもらいたいと思っている。外敵駆除は、吾輩が全てやるがな」
「……Urr?」
「あぁ……オマエ程の強者なら、許容範囲だ。敵の領域で好きに暴れて構わん。言ってしまえば、悪夢の軍勢だけで終わらせたい話だからな」
「魔法少女は邪魔、と」
「もっと言うと、根本的に相性が悪い。なにせ、ヤツらはユメの力をその身に宿す……宇宙人どもの好物のな」
「あっ」
「あぁ」
いやだよ?元同胞や後輩を肉壁にして、食われてる間に討伐しなきゃいけなくなるのは。
対して、僕たちアリスメアーは悪夢をその身に宿した、抗体を持った存在だと言える。戦力として頼れるのは一体どちらなのかは、言わなくてもわかるだろう。
ただ強くてもダメなんだよ。
……リリーライトや後輩たちに、悪夢を宿らさせるのは博打でもなんでもない。僕と違って適性がないから、一生目覚めない可能性まである。
無作為に増やせないから厄介なんだ。
これでわかったかな。魔法少女は、まぁ必要な存在だ。でもそれは、地球上での話。地球の外では、僕たち悪夢の独壇場だ。
魔法少女は今まで通り、地球の人気者として、おもしろおかしく生きてくれればいい。
犠牲になるのは、最悪【悪夢】だけでいいのだから。
「近々、魔法少女には悪夢に眠ってもらう。その間に全てことを終わらせて、なにも知らぬまま、アリスメアーとの戦いを、エンタメ感覚で再開してもらえばいい」
「完全に潰さないので?」
「……人間にはな、安心材料が必要なんだ。魔法少女は、その最たる象徴。幾ら星の外敵から救っても、内で混乱が勃発して、面倒になるのは避けたい」
「かしこまりました」
最終的に、がんばるのは僕だけでいい。
一番手っ取り早く、そして確実に世界を救える。誰にも知られずに、目的を達することができる……それが僕だ。蒼月のムーンラピスだ。
……リリーライト復活のせいで、なんか邪魔されそうな予感がプンプンするけど。
納得してないって却下されたしなぁ。
「オマエたちには、今まで通り魔法少女と戦って、そして悪夢に眠らせて欲しい。いずれは覚ますが、その時までは邪魔してもらいたくない」
「了解ッス。あんま、納得はしてないッスけど」
「オマエもか……異論は認める。だが、実行するのは既に確定事項だ」
「うっす」
反対も抗議も知ったことか。力のない文句なんて、全部力で捩じ伏せてやるさ。どちらにせよ、最後に微笑むのは僕なんだから。
「……この際、あんたが何者かは聴かないけど。本当に、上手くいくと思っとるの?」
「なんだ藪から棒に……予言でもしたのか?」
「さてね」
謁見が終わった後、周りには聞こえない声で聞いてくるルイユに、僕は軽く答えてやる。
別に隠すもんでもないしね。
「成功確率は脅威の13%。高いだろう?」
「いや低いやろ。一桁じゃないだけマシやけど、そんなに無理難題なのがわかってて、宙のヤツと……“星喰い”共と殺り合う気かい?」
「そうだよ」
死にはしないさ。死ねないからね。
「計画は変わらず。ただ、最後までやり遂げるだけだ」
変わらない決意表明と共に、僕はハット・アクゥームを目深に被った。
最後に笑うのは、僕なんだしね。
つまり何が言いたいのか
将来的に宇宙から脅威がやってくるよ!
↓
僕が全部やるよ!
↓
宇宙生物どもが地球にやってくるまで、魔法少女と適当に戦って時間を潰すよ!
↓
言うこと聞いてくれるよね!
↓
従えよ?
だいたいこんなかんじ




