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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
悪夢仕掛けのバックトゥーライフ

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68-狂的ビフォーアフター


 戦闘後、歪んだオブジェクトで彩られたお茶会にて。


「ご苦労様。身体の調子はどうかね」

「……メンタル以外は無問題だ。なぁ、マッドハッター。あそこまで虐めないでくれてもいいじゃないか。2人してあれよこれよと…」

「隙を見せたオマエが悪い。で、ルイユ。オマエは?」

「見ての通りや。特に支障はなし……ちょ〜っと、青痣が痛む程度やね」

「その程度ならいいだろう……経過観察は問題なし、もういいだろう。自由にしていいぞ」

「わーい」

「うぃ〜」

「おばさんおっさん…」

「「やめて」」


 この2人、案外いいコンビなのかもしれない。

 オーガスタスことオリヴァーと、ルイユ・ピラーの軽い治療と問診を終えた僕。怪人の因子を取り込んだばかりの成金と、外法で蘇ったばかりの芋虫。見た目はキショいが性格はいい方だと、これまでの対話でわかったから、まだヨシとするか。

 あのリデルが太鼓判するぐらいだし、そりゃそっか。

 ……悪夢に飲まれて、死の予言ばっかするクソ障害物に成り下がったのは、可哀想だけど。


 あっ、ちなみにもう一人の復活怪人は医務室のベッドで拘束治療中だ。


 テーブルに突っ伏す2人の為に紅茶を淹れて、それぞれ適温で渡してやる。リラックスしたい時にはアールグレイがいいって聞いたから、それを用意してみた。

 勿論自分の分も。

 ……うん、美味しい。なんでもできるな、僕。友達作り以外は。


「いい味や…」

「……なぁ、前から思っていたんだが……その甘ったるいエセ西都(京都)弁はなんだ。オマエ、別に西都出身でもなんでもないだろ」

「せやで?気に入ったから使っとるだけやな」

「微妙に浪花(大阪)も混ざってるな……まぁ、趣味なら趣味で、別にいいか」


 本場の人に怒られないといいね。


 “夢喰い”のルイユ・ピラー。彼女は宮廷魔導師という、夢の国、もとい悪夢の国では結構偉い立場にいた、芋虫の妖精の成れの果てだ。

 煙管ぷかぷかするよりも、水タバコの方が好きらしい。

 戦闘中吸うのはよくないけど、そこは止めない。煙草は好きに吸ったらいいさ。そこら辺の配慮は、こっちからもするし。


 常識人寄りの怪人だから、喚んで正解だったかもね。


 ……あぁ、ちなみにマッドハッターの正体が僕だとは、彼女たちには一言も言ってない。まだそこまで信頼とかが築けてるわけじゃないし。

 ぶっちゃけ教えたくないし……知ってるのは、リデルとメードとチェルシーと、あと穂希とオリヴァーの5人だけでいいよ。


「女王様との謁見は、まだダメなのかい?」

「……さっき顔合わせたじゃん」

「ぶっちゃけ衝撃すぎて目ぇ逸らしてたんよね。いやさ、すっっごい幼女に逆戻りしてて……あぁ、あれやな、昔を思い出すわぁ」

「安心したまえ。君が記憶している以上に、我らが女王は幼女しているからな。四則計算もろくにできない赤子まで超退化してるぞ」

「ハハッ、冗談よしてや」

「………」

「………」

「……えっ、マジなん?ウソやろ?」

「現実は厳しいなぁ」

「諸行無常だ」

「えぇ…」


 正式な謁見もとい再会は、クイーンズメアリーの治療か終わってからかな。

 ……ぶっちゃけ、ルイユとリデルって仲良いの?


「うーん、予言の時なんかは、顔突き合せとったけど……ほんま業務上の付き合いしかしとらんかったな。なにぶんうちが政嫌いで、都心から離れとったのもあるけど」

「なんだ、いつも城にいたわけじゃないのか?」

「違うで。基本デカイ葉っぱの上でタバコ吸っとったわ。兵隊ばっかのとこは、騒がしくて好かんのよ」

「成程なぁ……あっ、そうだ。マッドハッター、私からも一つ聞いていいか?」

「なに」


 っと、危ない。ここは「なにかね」だ。ついオリヴァー相手だからか気が緩む。んんっ、時を戻そう。こんなんで時間魔法なんて使うわけないけど。

 ……アレも大概チートだよな。なんで時間戻して世界の整合性が取れてんだよ。

 魔法ってほんと意味わかんない。


「で?」

「かつて、アリスメアーには戦闘員……トランプ兵というモノがいたと記憶しているが。今は魔女殿たちのように、ないのかね?」

「あぁ、その件か」

「確かに。あの邪魔兵隊見とらんな……えっ、もしかしておらんの?」

「いないよ」


 定番物のザコ戦闘員、アリスメアーの場合はトランプに手足が生えた、かなり不気味な薄っぺらいヤツら。確かに昔は星の数ほどいたけど、生憎今はいない。

 数の暴力は確かに優秀だけど、僕と穂希相手じゃ、もう有象無象どころか蟻ですらなかったからなぁ。いらないし管理が面倒なんだ。

 あとかわいくない。星の戦士の定番ザコぐらいの夢かわマスコット要素を寄越せ。

 取り敢えず、現体制には必要ありませんね。


「要望いいかい?私の手足が欲しいんだが」

「えぇ……いや、まぁ、個人所有なら面倒でもない、か?そこまで数を用意する必要も……柄合わせで、四体限りの顕現でもいいか?」

「それで良ければ」

「欲が無いんやなぁ、あんた」

「いいや?先ずは小出しに要求していくことで、後々いいカードを手に入れるのだよ」

「やめていい?」

「どうか…」


 あれ命なき者、言っちゃえばゴーレムだから、作るのは簡単なんだよねぇ……びっくりしたよ。意思はあっても、ただのトランプなんだってね。

 仕方ないから許容する。拒絶する理由もあんまないし。

 四体だけなら、見分けもつくしね。後で作るよ。その時呼ぶね。


 ……財政界の大物に、護衛や補助役がいないのも、まぁおかしな話だし。








꧁:✦✧✦:꧂








 所変わって、医務室。


「Aaaa……」

「再生能力は相変わらずか。厄介と嘆くべきか、それとも頼もしい仲間だと安堵するべきか……あぁ、やっぱり……気持ちの整理が難しいな。なぁ、魔法少女狩り」

「?」

「……意外と整った顔してるな。正気があればもっといい美貌なんだが」


 蘇生させてから夢の国の、悪夢の国と分離する前までは元女王として名を馳せていたと知った、魔法少女狩りことクイーンズメアリーの治療の傍ら。

 椅子に内股で座り、大人しく頬にガーゼを貼られている怨敵の姿に、名状しがたい苛立ちが湧き上がる。

 ……悪夢なんぞに飲まれなければ、こうまで狂うこともなかったろうに。


 数百年も昔、生贄として夢の国に捧げられた迷い子……言わんでもわかると思うけど、あいつが夢の国に落とされ迷い込んだことで、悪夢は始まった。

 事態の対処の為に、女王メアリーは生前退位。

 王座を適性のあった迷い子に渡して、夢の国を侵食する悪夢を人知れず退治していた……らしい。

 ……そのせいで、誰よりも早く悪夢に侵され、正気すら奪われて、ああなったのだけど。


 知りたくなかった過去だ。やってたことは、魔法少女の前身なのだから。


 今、彼女を正気に戻すことはできる───そうすれば、狂っている時の所業を思い出して、より狂気に沈み、その精神は崩壊するけど。

 わざと人形のままに留めて、僕たちは彼女を利用する。

 悪夢の国と成り果てても、最前線で戦っていた大先輩に敬意を払おう。


 戦闘時じゃないからか、無表情で微動だにしない彼女の頬に手を添える。


 あぁ、キョトンって顔すんな。吐き気がするから。


「……ごめんなさい。あなたとは、心情的に仲良くなんてできないけど…」

「Ua…?」

「一つだけ、約束するよ。そして、命令しよう。

───もうあなたに、人は殺させない。だから、あなたも殺そうとするな。ブレーキをかけろ。万が一の時は全員で止めてやる。いいな?」

「……Rr…」

「ん」


 これは誓いだ。今のアリスメアーは、いい子ちゃんしかいない。ペローは心が甘ちゃん。チェルシーは友達を手にかける度胸が育ってない。ビルは殺しの経験があるけど、心情的にはやりたくないだろう。

 メードは自分第一だけど、そのラインを踏み越える程の意志の強さがない。

 オーガスタス、オリヴァーはできるだろうけど、相手が魔法少女だから多分無理。ルイユ・ピラーはその性質上、正気を取り戻した今ではやろうともしないだろう。

 でも、こいつだけは。クイーンズメアリーは、違う。

 命令があれば。殺意があれば。敵対すれば───簡単に殺人できる。


 今の空気に合ってないんだよ。甘ったれた話だけどね。


 犠牲は必要だ。でも、殺す必要はない……過去の僕が、年配の魔法少女たちを衰弱死させようとしたのは、一先ず棚に置いといて。


 ……これ以上こいつに殺させたら、今以上に壊れ果てて使い物にならなくなりそうなのも、理由にある。

 せっかく蘇らせたんだ。徹底的に使ってやるよ。


「………n」

「! ちょ、なに…」

「rrr…」


 突然、メアリーが僕の手を取る。ジッと、冷たい右手をやさしく掴んだまま、微動だにしない。

 命令にない行動。反射か、無意識か、わからない。

 幻視する過去の姿と一致しない、不気味が欠片しかないその顔に、意識が吸い込まれる。


「……ぅ、♪」


 手を、撫でられた。


 紅い双眸が、やさしく細められている。正気なんてない生き人形の癖に、思考と行動が直結させられた、皮を被る機械仕掛けの分際で。

 何故だが、もういない───記憶にない、母はこういうものかと重ねてしまう。


 ……こいつに母性なんて、感じたくなかったなぁ。つかなにその行動。だれだこんなコマンド打ったの。お姉さん知らないんですけど。


 結局答えはわからなくて。そういうもんかと、僕は渋々受け入れるのだった。


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