67-主人公は添え物扱い
「……やっぱ消えないか」
「気絶……してるの、よね?」
「わかんない。狸寝入りの可能性アリ」
「確認を」
「いいよ。下手に近付いて首刎ねられちゃったら、すごい困るし」
戦闘後、地面に倒れ臥すクイーンズメアリーを遠巻きに眺めるリリーライトとブルーコメット。復帰してから未だ衰えの見えない魔法少女は、実力で押し倒した、復活した怨敵を睨みつける。
内臓が痛むのか、ついでに骨も折れたのか。
魔法少女狩りは、焦点の合っていない目をギョロギョロ動かすばかり。
「……復活戦失敗、やな」
「だいぶ弱体化してるんだねぇ、君たち」
「そーゆーあんたは戦い慣れてないとちゃうん?」
「歳かな…」
そして、リリーエーテとハニーデイズに打ち倒されて、縄で雁字搦めに縛られたオーガスタスとルイユ・ピラーが床に座らされていた。
アクゥーム消滅に「わぁすごい」と小並感していた時に無力化されてしまったようだ。
魔法少女たちに見下ろされる2人は、一切危機感のない顔で談笑している。
……殺さないのは、今の彼女たちはまだ経験がないことプラス、対話の猶予があるとわかっているからだ。
「勝てたぁ、よかった…」
「何回も閉じ込められたよー、辛かった!」
「こっちは何回もぶっ叩かれたわ」
「みんな、よく頑張ったね!」
「流石ぽふ!」
健闘を称え合う5人を、オーガスタスはただ眺める。
随分と、強くなった……まだ先代たちの生存がわかっていなかった当時は、名も知らぬ彼女たちを支援する気にはなれなかった。自分の熱は、あの日捧げたまま帰らないとわかってしまったから。
喪失の代わりに彼女たちを使うのは、最推しは望まないことだと知っているから。
手出しはせず、静観していたのだが。
リリーライトは復活するわ、ムーンラピスは敵になって会いに来るわ。
オーガスタスの人生は、魔法少女に呪われ、祝福され、なんだかんだ楽しくやれている程には、結構迷走しているモノなのだ。
「それでー?そこの成金は兎も角、お宅ら2人は、なんで復活してんの?」
「できたから、としか言えんなぁ」
「ふーん」
「お二人方以外は全滅だぞ。そもそも蘇生できる基準じゃなかったらしい……私のように、怪人因子を取り込む形で復活はできるがな?」
「……成程ね?」
アリスメアーの裏事情を軽く交えながら、ライトは頭に手を添える。
「……随分と余裕だね。これから脳みそ潰れるってのに。そこんとこわかってる?」
「わぁ☆殺意たかぁい……私だけ免除されたりは?」
「あなたが一番ない」
「ぐすん」
「なにしたんだいあんた」
「い、色々…」
折檻の予感に目を逸らすオーガスタスの視線の先には、未だ倒れ臥す魔法少女狩り。あらぬ方向に曲がった手足はまるで壊れた人形のよう。
否、壊れた人形として運用される、人権も尊厳も女王に奪われた哀れな人。
:……
:ごめんやっぱ無理だわ
:別人にしか見えん…
:ただし、魔法少女狩りは除く
:あっちはあっちで見るに堪えん
:なんで狂ってるのぉ…?
:病院案件
若干哀れみを感じ始めた視聴者を置き去りに、ライトはオーガスタスとルイユ・ピラーの鷲掴みにした頭に、力を入れていく。
メキメキと、音が鳴る。
諦めの境地にいるオーガスタスは別にして、完全初見のルイユは大慌て。
「やだー!うちまだ死にとうない!!」
「往生際悪いなぁ」
「殺るんだったらそっちの廃人からにしてや!うちらまだ悪いことしてない!!」
「でも魔法少女殺してたよね?」
「その時は正気じゃなかったから…」
「問答無用」
「ひでぶ」
悲鳴を上げるルイユに、リリーライトはにっこり笑顔。
「教えてほしいなー。ナハトちゃんがなに考えてるのか。あなた達はなにを命令されたの?」
「……随分と仲がいいんやなぁ、あの別嬪さんと」
「別嬪じゃないもん」
「なんや頑なに……」
「殺すぞ」
「ナハトちゃんは別嬪とかそんなんじゃないの。ちゃんと可愛いの。エッチくはないの!」
「えっ」
「あのあのあの」
「はわわ」
問い詰めるリリーライトの真後ろに、いつの間にか立つ例のあの人。視界から外していなかったのに、声を発するまで気付けなかった一同が、彼女を凝視する中。
背後に立たれているライトだけは気付かない。
理由としては、ナハトが如何に別嬪さんとは違う美しい存在なのかを語っていたから。
馬鹿である。
「? どしたのみんな」
「オマエがその言葉に誤解と偏見を抱いているのはよーくわかった」
「わかればよろしい。……ん?」
漸く気付いた。
瞬時に声の持ち主が誰か気付いて振り向くが……彼女の動きに合わせて、闖入者、ナハト・セレナーデは捕まった配下たちの方へ移動。そのまま流れるように2人の拘束を魔法で解き、勢いよく蹴り上げて宙に浮かす。
躊躇いのない蹴りに苦悶の声を上げる2人を無視して、魔法で更に浮上させる。
「ぐおっ」
「ぅ、うぇ…」
「あっ、捕られた!」
「人聞きの悪い……」
「はわわ!」
「エーテ?」
睨み合う最強に、約一名頬を染める手遅れがいたが……閑話休題。
空中にできたガラスの足場に、ナハトは立つ。後ろにはオーガスタスとルイユ・ピラーを引き連れ、疲労と痛みで横に倒れているが、一切見向きされない。
……生前から苦労人枠のルイユは、今世もこんなのかと内心悲観中だ。
そして……最高幹部の横に、ぷかぷかとリデルまでもが降り立った。
その手に、瀕死のクイーンズメアリーを引き摺って。
「!」
「リデル!!」
「ふんっ……いやはや、随分とやってくれたな。肉人形がこんな有り様だ」
「……自分の部下なのに、扱い酷いね」
「こんなんでいいだろ」
「んだんだ」
「酷っ」
:ざまぁwって気分
:全員から殺意を向けられる女
:扱い雑ぅ
時間経過で気絶したメアリーをガラスの上に放り投げ、新生幹部の回収を終了する。
女王の降臨で警戒は強まるが……まぁその程度だ。
「で、なんでいんの?」
「さっきのアクゥームに乗って遊んでたから」
「以下同文」
「ねぇ」
諸悪の根源共に軽く殺意を向けるが、悪夢の住人たちは何処吹く風。
「さて……試運転は終わりだ。オーガ以下略は魔法行使に色々あって限界あり、ルイユはやる気の問題、メアリーはどうでもいいが、オマエの妨害にはなるか」
「記録は取れたのか?」
「そりゃあね。君がコクピットに夢中になってる間に全部終わらせたよ」
「ならいい」
端末に書き込んだ戦闘記録、各個人のデータを集積したそれを受け取ってしまったリデルは、理解できないなりに理解しようと、頑張って読み解く。
そう横で四苦八苦しているのを放置して、ナハトは再び眼下に目をやる。
リリーライトが、聖剣に光を溜めていた。
「ふっ、やる気だな」
「……気付かなかった。殺意隠すの上手いな彼奴」
「あ、バレた。別に逃げてもいいよ?逃げ切れるんなら、だけどっ!」
解き放たれた聖光が、世界を明るく照らし、暗い空気を焼き焦がす。
敵味方関係なく、万物等しくダメージを与える極光は、アリスメアーに容赦なく浴びせられるが……ナハトが手を軽く払うだけで、轟音と共に光は霧散してしまう。
手慣れた光魔法の対応に唖然とする後輩たちを他所に、リリーライトは追撃の極光を放つ。
再び光に視界を包まれるが───今度は、悪夢の軍勢を通り越してしまう。
理由は単純明快───アリスメアー幹部たちの身体が、幽霊のように透けていたから。
「幻影だね」
「ご明察。あぁ、彼らの試験運用を手伝ってくれたこと、心より感謝しよう」
「こんなのはもうごめんだがね…」
「気が合うじゃないか。この後一杯どうだい」
「是非とも」
「もしもしマダム?あなたの旦那が浮気しているんだが。処罰はこちらで引き受けて宜しいか?」
「やめて死んじゃう」
「もしもし[検閲済み]ちゃん?お父さんが新しいお母さん作ろうとしてるよ。絶縁した方がいいと思うな!」
「娘はもっとやめろォ!!!」
「草」
オーガスタスの悲鳴を最後に、アリスメアーは異空間へ撤退した。戦闘が終わって、魔法の効果で自動修復されるビル街を横目に、魔法少女たちも配信を切る。
全盛期に近い戦力を整えつつある悪夢の軍勢。
それを食い止められるのは、魔法少女たちのみ。外野の人間たちは騒ぐことと祈ることしかできず、いつの日か、彼女たちが再び勝利することを願う。
その想いを一心に浴びる、魔法少女たちは───…
「対策会議、開くよ!!」
「旧幹部たちの魔法情報から、取るべき対処、優先すべきあれこれはここに書いてあるぽふ!ぜーったいに一読するぽふよ!!」
「うわぁ、いたせりつくせり」
「ここからが正念場ね……」
「頑張んないと!」
「おーっ!」
何処までも前向きに、平和の為に、守るべき誰かの為に立ち向かうのだった。




