66-Q.再生怪人がヒーローに勝てる確率
オーガスタス、ルイユ・ピラー、クイーンズメアリーの二代目怪人と復活怪人の三体は、最高幹部である帽子屋、マッドハッターより一つの命を受けていた。
後者2人にとっては、例え彼女が見慣れぬ存在でも。
悪夢と共に忘却の彼方に消えた、“存在を失った”重鎮の名を名乗る彼女に、逆らう理由はなく。蘇らされ、復活の意味を教えられ。
役目を完全に理解した───若しくは、壊れた脳にそうインプットされた悪夢の住人たちは、再び魔法少女たちと相見える。
───全ては、悪夢繁栄の為に。
まぁ、失敗したら失敗したらで、次の策を考えるだけ。今回は顔見せと、世間への警告も兼ねた戦闘の為、3人に命令を下したマッドハッターは、いつも通り高みの見物を決め込んでいた。
そう───重機混成アクゥームの、操縦席の中で。
「最初からスタンバってました」
複数の重機を中心に、信号機など周辺機器も巻き込んで夢魔権限させた、マッドハッター渾身のアクゥーム。
Z・アクゥームと同じく、その核は彼女自身。
いつもの帽子とは異なり、手動操作になるが……これが中々楽しい。
搭乗している理由?特にない。マジのガチの暇潰しだ。
「できればここで、一人ぐらい狩りたいとこけど……まぁなるようになるかな」
「───発端のオマエがそれなの、ダメじゃないか?」
「いーのいーの」
ちなみに、ナハトの膝にはリデルがちょこんっと乗って搭乗していた。完全に邪魔だが、その程度で操作をミスるマッドハッターではない。
これぐらいのハンデがあって、漸くトントンだ。
……ちなみに言うと、リデルは勝手に機体に乗り込んで居座っている。なにかがあっても守ってもらえるからと、完全に安心しきっていた。
「二ケツ操作じゃーい」
「私もなにかしたい。コントローラー貸せ」
「だーめ」
子守りしながらの戦闘が、どんな結末を呼ぶのかは……
敢えて語るまでもないだろう。
一方その頃、4人の魔法少女と復活怪人たちの戦いは。
「夢想魔法───ッ!」
「あらら、こわーい魔法使っちゃって……堪忍してやぁ。仕事だからいいけどさぁ……ほうら、よう見て当てな」
「くっ…」
リリーエーテはルイユ・ピラーと。強力すぎる夢の力が幾度も炸裂し、愚鈍な青虫に、避けるだけの速度はなく。だが、未来予知でどこに攻撃が当たるかわかっている為、被弾箇所に超強力な魔力障壁を貼ることで対処。
その場から動かず、夢想の連撃を耐え凌ぐ。
そして、自分の方向へ近付けさせない為に、己の魔法を使って場を撹乱する。
「夢煙魔法。煙の中では、全てがめちゃくちゃ。オマエが見ている景色は、本当に正しいのやら。さぁ、がんばって見抜けや?」
「ッ、趣味悪っ」
「堪忍な〜」
花紫色の煙の中で、無数の化け物の顔がエーテに迫る。歪な人の皮を広げたような、不気味な怪異の群れは、煙が引き起こす幻覚。否、実態のある亡霊。
触れれば最後、悪夢に取り込まれる───目覚めのない暗闇の中へ。
「うりゃー!」
「むむっ、君、いつの間に筋力を上げたんだ!?最初期は斧背負うのも手一杯だったろう!?」
「鍛えましたー!うちの実家、太いから!」
「それは失念していたな!」
その横で、ハニーデイズがオーガスタスに魔法の巨斧を上段から振り下ろす。かつては使いこなせなかった斧術も今やこの通り。小さな斧と大きな斧を巧みに使い分けて、回避優先のオーガスタスを狙う。
対してオーガスタスは、逃げながらも魔法で応戦。
彼が発現したのは、“契約魔法”───ハッキリ言って、現時点では何の役にも立たない魔法だ。使い道なんてモノが一切ない。
その代わりとして使うのは、先代オーガスタスが有する本来の魔法。
「幽閉魔法ォ!!」
「あぶっ!ねぇその魔法やだ!!」
「ぐおおおぉぉ……くぅ、力技で突破する君に言われたくないんだが!?」
「え?普通にできるよ?」
「普通じゃないの!!」
無条件で対象を閉じ込める、魔力の檻を生み出す魔法。念じてしまえば最後、閉じ込めたいと思った相手を確実に閉じ込めてしまえる魔法、なのだが。
花魔法が持つ中和作用で、魔法に綻びが生じ。
そこに魔力ブーストで筋力諸々を底上げした、デイズのあまりにも強引なゴリ押しには耐えきれず。
マッドハッターが太鼓判する幽閉魔法は、意図も容易く破壊されてしまう。
幽閉魔法は時間をかければかけるほど、封印の力が増す特殊な魔法……やはり、帽子屋の推測通りオーガスタスの在り方は戦闘には不向きなようだ。
しかし、形だけの役職であれど、幹部は幹部。
そう易々と負けてたまるかと、オーガスタスは華麗なる逃亡劇に興じる。
「ki──rrrr!!」
「執拗いなぁ……そんなんだから、あんなんに王位奪われちゃうんだよ!!」
「rrriii!!」
リリーライトとクイーンズメアリーの斬り合う死闘は、空中を舞台に延々と続く。聖剣から迸る極光は、数多くの魔法少女の生き血を啜った死神の鎌に切り裂かれ。逆に、大鎌から放たれた熱線の如き鮮血の斬撃は、聖剣の素早い一閃で霧散する。
血を啜り、血を糧とする処刑人の鎌───それだけが、彼女の武器にあらず。
「AAAAaaaaa───!!!」
「ッ」
───処刑魔法<首のないアリア>
リリーライトの首に、さらし台の板が嵌められ、まるで罪人のようにキツく締まる。幸い手は自由なものの、横に伸びた穴あきの板に首の可動域を封じられる。
そして、この魔法の真骨頂───それは、首を捕らえた対象を自動的に処刑する、お手軽斬首というモノ。
魔法を使われたら最後、魔法少女は首を刎ねられる。
絶体絶命、危機的状況に陥ったリリーライトだったが。冷静に、内から魔力を爆発させるという、自傷覚悟の緊急脱出で枷を破壊、生還する。
薄ら斬られて、首を一周する線ができてしまったが。
滲む血を拭う時間も惜しいと、クイーンズメアリーへと再度切りかかる。
「覚悟はいい?」
「Urrrr…r、rrrrr───!!」
「光よ!!」
多くの友を、仲間を奪ってきた仇敵へ。蘇ってしまった憎い怨敵へ、怒りの斬撃を叩き込む。
かつて何度も叩き込んだ、悪夢を消し飛ばす極光で。
「くっ、どこも苦戦してるわね───このデカブツッッ!いい加減倒れなさいッ!!」
【アアアアアアアァァァァァクゥーム!!】
機械音が混ざった不気味な奇声を上げて、凶器と化した特殊重機を振り回す、重機混成アクゥームとぶつかるのはブルーコメット。
本来、一人で戦う相手ではないのだが……彼女の強みは
単独戦闘でより輝く。
仲間への被害を考えない大立ち回りで、星槍を振るって悪夢を穿つ。
「星魔法!<ブルー・シューティングスター>!!」
青い輝きが、アクゥームの素肌と重機の隙間、繋ぎ目を狙って炸裂する。目にも止まらぬ速さで打ち出された槍の一撃は、ちょうど右腕の隙間を縫い……貫通。
ゴリゴリと嫌な音を立てて、貫通した星槍は突き進み。
その推進力は止まらず、悪夢の肉体を食い破る。見事、コメットの一撃はアクゥームの右腕の、肘から先を完全に切り離した。
「おや」
「再生機能は無いのか?」
「試作機だからないよ」
「ないのか…」
スモークガラスに隠された操縦席で、諸悪の根源2人はやり遂げた魔法少女を称賛する。それはそれとして、まだ勝ちを譲る気はないようだ。
例え、右腕が一番火力の高いドリルだったとしても。
「僕の諦めは早いよ?」
「もう負ける気満々ではないか」
「なんかやる気出ない…」
「いい加減にしろ」
「ごめんて」
強敵相手に一人一人で相手しても、なんとか食いついて戦える実力者になった若手3人。
徐々に徐々に、事態を優勢へと持ち上げる。
「はァ───!!」
「……ウソやろ?気合いで打ち勝ちおった…」
「勝った!第三部完!!」
リリーエーテは、夢煙を払って、ルイユ・ピラーを守る障壁に魔力を押し当てる。幻覚なんて、全部消し去った。嘘偽りなんかに、もう彼女は負けない。
2人の姉に祝福された少女は、夢の力で駆け抜ける。
「捕まえ、たぁ!!」
「ぬわぁー!?やめろォ、離せェ!!」
「無理寄りの無理!ライトおねーさんの説教が待ってるんだから!」
ハニーデイズは、とうとうオーガスタスを羽交い締めで捕獲した。先輩となにやら関係性のある彼に、色んなことを問い詰める為に、逃がさない。
ついでに折檻もあるんだろうなと、半ば確信して。
そして。
「おらぁ───!!」
「Uuu、A!?」
「光、よぉ!!」
「ッ!」
雄叫びを上げて、リリーライトがクイーンズメアリーの腹を蹴り上げ。そのまま聖剣を胴体に押し当てて、野球の要領で聖剣を振るって、アクゥームの方へ力強く飛ばす。
衝撃で内臓をやられたメアリーは、血反吐を吐きながら吹っ飛ばされて。そのまま身動きできずに、音にならない悲鳴を上げ続け……重機混成アクゥームと衝突。
身体に鋭利な棘を生やして、そのまま沈黙する。
ギリギリ彼女を受け止めきったが、反動で少し後退したアクゥームに、魔法少女は追撃を食らわす。
一番厄介な敵と強大な敵を沈めてしまえば、撤退すると信じて。
「コメット!合わせて!」
「っ、はいっ!!」
憧れの先輩と共に。彗星と太陽の輝きが、力強く悪夢を照らす。
「Ur…」
【アアア、ァクゥームッ!!】
「チッ、動けよこの愚図」
「あー、こりゃ完全に決まったな。耐久力下がったなぁ、こやつ」
諦観するトップ2人が、転移魔法で颯爽と逃げ出した、その瞬間に。
「光魔法!」
「星魔法!」
リリーライトとブルーコメットの魔法が、放たれた。
「「───<ツイン・スカイフォール>!!」」
空より降り注ぐ浄化の聖光が、重機混成アクゥームを、クイーンズメアリーを勢いよく包み込む。
抗うことのできない光の奔流は、二体を焼き焦がす。
【ァァァァ───!!!】
「a、Gaッ」
死を許されていない魔法少女狩りは、浄化の光で消えることはなく。アクゥームは、全身から機械を吐き出して、光の粒子となりながら消えていく。
鉄板が剥がれたその顔には、安らかな色が浮かんで。
【ァ───オハヨウダー…】
勝敗は、決した。
A.現段階でのTier低いから無理
極光いなきゃ勝ってた




