62-縁もたけなわ、後の祭り
総評500pt突破記念カキコ
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───ことが起こったのは、オリヴァー・トラウトこと、新幹部“棺”のオーガスタスを他の面々と顔合わせした時のこと。
「お初にお目にかかる、偉大なる先輩方……私が新怪人、オーガスタスだ。得意なのは合法非合法問わない金稼ぎ。今日から世話になるよ」
「そういうことで、新幹部だ。金に困ったら頼るといい。無論対価はいるがな」
「おいおい、財政界の大物じゃねェか」
「……怖い人、きた…」
「なん、なんで?魔法少女の過激派ファンだろこの人」
「蒼月の遺体を交換条件に呼んだ」
「呼ばれました」
「あんの!?」
「!?」
困惑する三銃士、その条件を聞いてマジかこいつと目を開いてナハトをガン見するチェルシー。真実を知っている彼女は、ある種の身売りをした上司を内心心配する。
ただ、マッドハッターの変わらぬ様子、オーガスタスの顎で使われて当然といった反応に、なにも問題ないかもと首を傾げた。
魔法少女と億万長者の、お互いをリスペクトした上でのプロレス会話は一旦封印だ。
「オマエたちと違って、こいつの直接戦闘能力は低い……なにぶん歳なのと、純粋な身体能力の低さからな。拳銃を持たせれば敵はいないが、トリガーハッピーになられても困る」
「失礼な。私は分別あるガンマンだよ?」
「“戦車”の魔法拳銃をゲットした瞬間、目付きが変わった事実は変えられないが」
つい先日の出来事を思い返しながら、マッドハッターは庭園にあるお茶会の会場を魔法で整える。今回幹部全員を集めたのは、オーガスタスの歓迎会をする為だ。
そんじょそこらの幹部ならやらないが、オーガスタスが他の面々との交流をしたいという想いで開かれた。食材費諸々は勿論彼持ちだ。
……ちなみに、彼の顔に幹部たちが気付けたのは、まだ認識阻害を使っていないからだ。流石に、同胞たちの前で正体を隠す訳にはいかないと。
その隣に、未だ三銃士の内2人に正体を明かしていない帽子屋がいるが。
「……これなぁに?」
「キャビアだな。食べたことは?」
「ない」
「そうかそうか……まあ、日本の食事ではまぁまぁ出さん食材だものな。どうだ、案外口に合うかもしれん」
「んむ………意外としょっぱい?」
「好みに合うかね」
「わかんない」
白いテーブルクロスの上に、高級食材が所狭しと並ぶ。立食形式で始まったオーガスタスの歓迎会は、幹部たちとオーガスタスとの交流がメインで開始。
高級食材と縁がなかったチェルシーが、珍しく、いや、イメージアップを狙って積極的に話しかけたり、お互いが好きな食べ物を教えあったり。
ちなみに、チェルシーは近所のチーズケーキが好きで、オーガスタスは某店のチーズバーガーが好きだ。
庶民の味を教えたのは誰なのかは、言うまでもない。
「メイドのメードです」
「億万長者のオーガスタスだ。ふむ、所作は完璧だな……所作だけは。聞いていた通りだ」
「なんて酷い共通認識。心に深い傷を負いました。訴えて慰謝料請求してもよろしいでしょうか」
「沸点低いな君」
幹部補佐に正直な印象を告げれば、一切の躊躇いもなくカトラリーの刃先を向けられ。
「君がペローくんか。よしなに頼むよ」
「あんたみたいな人に覚えてもらえてるとか、光栄よりも恐怖なんスけど……」
「そう下手に出んでいいぞ。あ、ベローくんと呼んだ方がいいのかい?」
「やめて?」
配信を見て学んだ、ペローの扱い方を披露して。
「久しぶりだね、Mr.竜」
「……! よくわかったな……チッ、あと本名はやめろ。普通に迷惑だ」
「ククッ、それは失礼した」
かつて、とあるパーティ会場で出会った潜入捜査官との語らいも経て、オーガスタスは現行幹部との初めましてを済ました。
……そして。
「……」
「……」
「ふっ……スぅー…私の推しを、ブルームーンを!二年も奪った仇ぃぃぃ!!」
「なんだこいつ」
安定の過激派ファンの狂気でリデルに指を差した。
これから仕える主だというのに、一切遠慮がなかった。指を差すだけで攻撃には移らなかっただけ、まだマシな方の対応だったが。
流石に出会った初日から女王に喧嘩を売るのは不味いとペローとビルが食い止めた。プラス、リデルが以前よりも寛容な、怒りも憎しみも、そりゃそうだろなと受け入れる度量を手に入れている為お咎めはなかった。
一応、感情に身を任せすぎたと一旦は謝罪もした。
「……本当に変わったのだな、あなたは」
「あぁ、ヤツのお陰でな……とはいえ、だ。こちらの方が悪夢に狂う前の素に近いんだがな」
「そうなの…?」
「天然クソボケKYが、素?」
「ナメとるのか貴様ら」
「どうどう、私が言うのもなんだが、落ち着きたまえ」
「ならばどさくさに紛れて敵意を向けるな。なんなんだ、落ち着きのないヤツだな」
トップの扱いが雑なのも、いつもの形式美。幹部全員で何処までが許される範囲なのかを実演してやっただけで、決して叛意があるわけではない……叛意を持っているのはそこのオーガスタスとメードくらいだ。
……メードについては、無能無能と言われすぎて、少しプッツンと来ただけだ。
特に害はない。
「本当に害はないのかねそれは」
「夜中に闇討ちされるだけだ。最終的には一緒に布団inで何故か丸く収まってる」
「何故だ」
そういうもんである。
「で?こいつが表舞台に立つのはいつなんだ?」
「んん?あー……まずは魔法の扱いに慣れてもらう必要があるからな。オーガスタスの技術レベル的に、すぐに済むとは思うが」
「ほほぉ、マッドハッターのお墨付きとは。やはり、私は天才だというわけか」
「あと、他の復活怪人の調整に合わせて出撃させたいし」
「なんだって?え?復活怪人……は?聞いてないぞ私は。私の初デビューそんな感じなのか???」
「オマケじゃん」
現在、オリヴァーの怪人化と並行して、過去魔法少女と戦って死亡して、今回復活することを許された一部怪人の調整が行われている。
できたのはほんのひと握りで、旧三銃士は全滅だった。
わんちゃん、こいつならば蘇生できるだろうと想定した個体に限って無理だった。なんなら、ナハトが現役時代にこれでもかとフルボッコにして、残虐に惨殺した、憎悪と嫌悪しかないタイプの幹部怪人は蘇生可能対象だった。
これにはナハトもにっこり。殺意を込めて細工を施した旨を豪語している。
「安心しろ。こちらの指示は聞くが、意思疎通はできない戦闘要員が一体と、常に煙管を吹かしてクソほどにもない予言を残して黄昏れる文系魔女が一体増えるだけだ」
「えっ、2人だけなんスか!?」
「ちなみにどっちも女」
「女所帯すぎねェか?前任者たちはどうした」
「“棺”は適性がある者がいたが、どいつもこいつも根性が無いと言うべきか……」
「女ってやべー」
「その言い方やめません?」
「心外」
現在魔法陣の中に囚われ、意識のないまま新怪人として調整されている彼女たちのお披露目は、また今度。
オリヴァーことオーガスタスの歓迎会は、恙無く終了。彼自身が世界中から掻き集めた高級食材や珍味、初心者が食べても美味しく感じられる味付けなど、かなり配慮したメニューは好評だった。
……料理したのはナハトだが。高級食材を扱った経験があるわけもなく、戸惑いながらなんとか成功させた。
持ち前の料理スキルがなければ死んでいた。
꧁:✦✧✦:꧂
「どうだった」
「あぁ、普段のパーティよりも楽しめたぞ。やはり善性の持ち主ばかりだと気を張らなくていい……戸惑いは、まだあるがな」
「……リデルがリデルでびっくりしたろ」
「それはもう。本格的に違うのだなと理解させられたよ。恐ろしい程にね」
「ふんっ」
場所は変わって玉座の間。ナハトとオリヴァー、そしてリデルしかいない空間。三人の怪人は、これからのことを冗談交じりに話し合っていく。
もう既に、女王の変容については受け入れている。
例え思うところがあっても、かつての敵と手を取り合う光景など、彼にとっては見慣れたモノであり、やり慣れたモノであるからして。
「家の者へはどう対応したのだ?」
「ん?あぁ、不定期の遠出は頻繁にあったからね。事業の大半を倅に譲ったとはいえ、まだやることも多い……まぁもうやめたけど」
「奥さんに怪しまれてないだろうな」
「ノープレブレム!我が愛はこんな程度で霞もしないさ。怪人になっているとは思ってもいないだろうが……うん、そこはバレたらヤバそうだね?」
「オマエは立場が立場だ。認識阻害の魔法は強めに張る。財政界を揺らすのは、本意じゃない」
「すまんなぁ、そこまで考えてもらって」
バレてしまえば、財政界どころか世界経済に大打撃だ。どちらにせよ大波乱は間違いない。
「ふむふむ」
そこまで詳しくないリデルは、そうなんだなぁと無言で相槌を打つばかり。
わからなくても参加しているのは、女王の威厳の為か。
だが、途中で飽きてしまい……玉座の裏にある冷蔵庫を勝手に漁る。
「……機能性重視、だな?」
「言葉を選んでくれてありがとう。言っとくけど、僕じゃないから」
夏の終わり、なにか食べる物を探すリデルだったが。
「……うるるー」
「なぁに」
「空っぽだぞ、中全部」
「はぁ?」
言われた通り裏に回れば、調味料や飲み物といった……必要最低限のモノしか入っていなかった。別にこの冷凍庫だけが全てではないのだが、ないのは確か。
夕飯に困るわけでも、ないのだが。
昨日までは確かにあった冷凍庫に、ナハトは顰めっ面を隠せない。
「食い尽くしたのか?」
「……うーん、FPSでボロ負けしてヤケ食いした記憶は、あるんだが」
「それじゃん」
「それだなぁ」
「それかぁ」
リデル個人専用と化しているその冷凍庫を見て、女王は決心する。
「ヨシ、決めた」
「?」
「?」
暫しの逡巡の上、立ち上がったリデルは。
訝しむ2人に、自分の決断を───子ども教育の番組を毎日見ていて、色々と考えて……やりたいなぁ、と漠然に思った“それ”を、告げる。
「おつかい、行くぞ!一人で!!」
キラキラした目で、リデルは手を挙げた。




