表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/133

61-脳破壊だってされる。した。

誤字報告ありがとうございます


「おっ、これ食いつきいいかも!」

【……】


:諦めの境地

:すごい凪いだ目をしておる…

:なんだろ、可哀想

:これぞ理不尽の権化

:哀れ


「ねぇ……コメントのみんな、なんでこの子擁護派なの?魔法少女応援しよ?ね?」

【ハァ…】

「溜息…?」


 平日の昼間にも関わらず、餌付け配信は盛況で。やはり二年ぶりの個人配信は注目の的になるようで、時が経つに連れて視聴者の数は右肩上がり。

 内容はハット・アクゥームに餌付けしながら雑談という前半がだいぶおかしいモノだが……全盛期からこのような突拍子もない感じだった為、調教された視聴者は手馴れた様子でこれといった異論は挟まず。

 茶化すコメントだけを残して、感慨深く思いながらその配信を見ていた。


 ……全員、これからどんなことが起こり得るのか、半ば予想した上で。


:凸期待

:不法侵入なんですがそれは

:ドキドキ

:ワクワク


 期待を隠せない視聴者の反応に気付かないフリをして、リリーライトは小皿を厳選する。ハット・アクゥームへの餌付けという、興味本位で始めた企画だが……案外面白く思えて、次はなにを食べさせようかと悩んでしまう。

 野菜から肉、お菓子に至るまで、複数のモノを少しずつ食べさせてみたのだが。

 一番反応が良かったのは、プチシュークリーム。かなり食いつきがよくて、思わずわんこそばのように何回も口に運んでしまった。


(……うーちゃんの好物と一緒だなぁ)


 やはりそういうことかと、兼ねてよりの疑問を確信へと変えていく。


 湧き上がる懐かしさ。二年前も、こうやって配信をして自由に生きていた。まぁ、連戦に次ぐ連戦の合間を縫って配信をして、不安に苛む人々の心にゆとりを齎すという、大役が重すぎてあまり自由さはなかったが。

 それでも、楽しかったのは事実。

 痛みを忘れるように、悲しさを紛らわすように。

 相棒であるムーンラピスと、契約者であるぽふるんと、三人四脚で頑張った日々。


 なんだか、無性に懐かしさが込み上げてきて、泣きたくなるけれど……


 配信の前だから自重して、ハット・アクゥームへの強制餌付けを継続する。


【ケプッ…】

「ありゃ、お腹いっぱいになってきちゃった?」

【アクゥ……】

「うーん」


:苦しそ

:そりゃあれだけ食わせればな

:小さな身体によお入る

:なんか膨らんでねw?


 ギザギザの歯についた食べカスをティッシュで拭って、ちょっとだけ綺麗にしてやりながら、リリーライトは再びハット・アクゥームを抱き抱える。

 満足そうに目を瞑る帽子は、もう抵抗しない。

 ……餌付け成功とでも認識するべきか、懐かれたとでも言うべきなのか。

 だいぶリラックスしている帽子頭に、ほんの少し目尻が下がる。


「質感は帽子のまんまなんだねぇ……」


 なんだか楽しくなって、頭に当たる部分を撫でてやる。すると、嬉しそうに目を細めて、ゴロゴロとネコのような音を鳴らす。完全に気を許されたと判断して、そこからは遠慮ゼロで撫で回す。

 若干ウザがられるが……主からの接触は淡白なモノしかなかったハット・アクゥームにとって、リリーライトとの交流は真新しくて。

 悪くないものだと……かつて主が思ったのと同じことを思う。


 敵対関係同士の、和やかな空気が流れる───…


:ん?

:ドアが開いた

:親フラ?

:まさか


 穂希の部屋の扉が、ゆっくりと、木を軋ませる音と共に開かれて。


 扉の向こうの暗がりから、青い双眸が覗く。


「遅かったね───あ゛ッ」


 椅子ごと後ろに振り向いたリリーライトは、視界に映るそれに思わず硬直する。なにせそれは、殺傷力の高さなら他の魔法の追従を許さない、自負だってある最強の再現。

 リリーライトの光魔法、そして聖剣を模倣した武装。

 聖剣兵装を六つも浮かべて、冷たく元相棒を睨みつけるナハトがいた。


「やぁ、うちのアクゥームが世話になったようで」

「お、お怒りだぁ〜……ちょっと、その殺意高いの、一旦消さない?お話しよっ。武器なんて持たないでさ。丸腰の会話は大事だと思うんだよねっ!」

「何故?勿体ないじゃないか。別に、吾輩はこのままでも問題ない」

「家が消し飛ぶっ!」

「ハハハ」


:アカーン!!

:聖剣×6!?マジかこの人

:手札多すぎねぇ?

:そんなことよりリリー家がヤバい!!

:ガチギレで草

:知ってた


 そこまで配信に出てほしいのなら、出てやろう。

 殺意マシ高、確実に命を獲ってやろうという意思表示の完全武装で、マッドハッターは入室する。


【ハァ〜ツ!!】

「オマエも後で仕置きだ。易々と敵について行きおって。鍛え直しだ」

【!?】


 ご主人の登場に沸き立つハット・アクゥームだったが、容赦のない糾弾にしなしなになる。なまじその通りすぎて反論のしようがない。

 例え、相手が信頼ある相手だとしても。


「ま、まぁまぁ。そんなこと言わず……ね、お茶でもど?美味しいのあるよ。ダージリンとか好き?」

「気分じゃない」

「取り付く島もない…っ、あわわ!」

「もういいよな?」

「待っ!!」


 放送事故レベルではあるが、なんだか懐かしさもある。そんな思いに耽りたいところだったが、マッドハッターは容赦がなく。宥めようとするリリーライトの言葉も無視。

 久しぶりのコラボ配信なんてしていられるか。

 死んで蘇って、また視聴者のご機嫌取りなんてしてやるものか。


 そして、世間に仲良しアピールを見せつけることで……今後の布石にしようと企んでいる幼馴染の思惑を見抜き、それも阻止する。


 自分の決定を絶対に崩さないマッドハッターは、笑顔で聖剣兵装を突き付けた。


「余計な手間を増やすな」

「ちょまっ、ごめんなさいッ!!」

「Bye」

「やーっ!?」


 幸い、明園家が全壊することはなかった。流石にそこは力をセーブしたナハトであった。


 殺意は本物だが。








꧁:✦✧✦:꧂








「お姉ちゃんなにしてるの!?」


 穂花は激怒した。必ず、かの邪智暴虐な考え無しの姉を止めなければならぬと決意した。穂花は配信がわからぬ。なにがネタになるのか、市民の安心感に繋がるのか、己の息抜きになるのか、全くもってわからない。

 穂花は魔法少女である。死んだと思っていた姉を継ぎ、地球の為に頑張った。

 だが。

 だが。

 生きていた姉が、配信で、敵の親玉格の帽子頭を盗んで餌付けしているのは意味がわからない。

 わかりたくなかった。


「穂花ちゃーん!?」

「あれはもう止まらないわね……」

「あーあ…」


 お昼休みの時間帯。給食を食べてすぐに発覚した、実に二年ぶりとなるリリーライトの単独配信。内容はまさかのモノであったが。

 突発的な配信は心臓に悪いからやめてと言ったのに。

 そも、アクゥームを家の中に上げているのがおかしい。そう憤りながら、穂花は配信を切って行動。アクゥームが満腹になった辺りで見るのをやめたが……あともう少し、配信を見ていれば……後の衝撃はなかったというのに。

 そんなことも知らず、彼女は鞄を片手に廊下を駆ける。


「んもー!ごめん後はお願い!」

「はーいぽふ!」


 学校にはぽふるん仕様の分身を置いて、早退を偽装……魔法少女になってからは慣れた手だが、普通にアウトな、停学を食らってもおかしくない授業放棄。

 穂花は魔法少女を免罪符に、リリーエーテになってから夢ヶ丘を爆走。

 魔法少女の透明化や認識阻害をフルに使って、家へ。


 目にも止まらぬ速さで鍵を開け、扉を開き、鍵を閉め。手洗いうがいも程々に、爆速で階段を駆け上がり……


 最近部屋主が戻ってきた、部屋の扉をこじ開けた。


「お姉ちゃん!!なにやっ───ぇぇ???」


 そうして彼女の視界に入ったのは……いつもと違った、配信用にレイアウトを整えた、姉の部屋。配信魔法の画角が宙に浮かんでいて、部屋全体の光景を収めているのは、まだいいとして。

 問題は。

 食材が入っていたのであろう、少し汚れた小皿が辺りに散乱していて。餌付け用に捕獲された、あの動く帽子……マッドハッターのハット・アクゥームが、半泣きで戸惑い床を右往左往していて。姉の部屋の至る所に、見覚えしかない大剣が深々と突き刺さっていて。

 そして……姉、リリーライトが、ナハト・セレナーデを押し倒している光景であった。


「あっ」

「あ」

「……お、おかえり〜!早かったねー、えへへ……」

「……」

「……」


:あっ

:ここで親フラならぬ妹フラ

:終わったな

:見ちゃダメ!!

:やべ


 何故、ナハトが家の中に上がっているのか。どうして、姉に押し倒されているのか。いや、なんで姉が押し倒しているのか。

 様々な疑問が、いたいけな少女の、脳を貫いて───…


「 」


 穂花の脳は、破壊された。


「いやー!!ちょ、あわわわわ!!」

「……僕知らね。帰る」

「待って!!」


:言わんこっちゃない…

:あーあ

:脳破壊☆


 気絶して、盛大に床に頭を打ち付けて……明園穂花は、静かに息を引き取った……


「ちょちょ、死んでない死んでない死んでない!うちの子まだ死んでないからーっ!!」


 これ以降、妹の、実姉と最高幹部を見る目に熱いモノが宿るようになったのは……また別の話。

 一度語ってしまうと、姉貴分2人の目が死ぬので。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
走れ穂花
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ