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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
君と送るひと夏の思い出

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57-リデルは目の前が真っ暗になった!


 一方その頃、無人島では。


「ほぉ、遭難か。難儀なことだ……いいだろう。居心地は悪いかも知らんが、好きに過ごすといい。場所が場所故、すぐに本土まで返せんが、そこは辛抱してくれ」

「えっと、なにからなにまでありがとうございます」

「なに、気にするな。今、私は人の心を学ぼう期間中……やさしい対応をしてやることに感謝することだ」

「よかった、平常かもしれないわ」

「……いつもこんなんなの?」

「うん」


 砂に埋めた仰向けメードの胴体に城を立てるリデルは、変装した魔法少女たちに気付かず、やさしい女王の風格を見せながら判決を降す。

 その内容は、この無人島、プライベートビーチで自由に過ごすことを許可するというもの。

 破格の内容で遭難者を迎え入れたリデルは、正体を隠す3人が魔法少女だとは夢にも思わず、そのまま砂城作りを再開した。


「……」

「……」

「……」

「……えと…遊ぶ?」

「うんっ」


 思ったより温厚なのかもしれないと思いながら、3人はチェルシーと浜辺で遊ぶことにした。現実逃避とも言う。これ以上下手に考えて、ボロが出るのを防ぐのだ。

 3人は各々の偽名、ココロ、アオイ、ミツバを名乗ってサマーバケーションを満喫する。


:俺の知ってる女王ちゃう…

:影武者か代替わりを信じたいんやが

:これが俺の推しを殺したヤツなの?は?

:意味がわからない

:砂の城無駄に精巧で草

:器用だな…


 若干荒れ始めたコメント欄も無視して、4人でビーチをバレー会場に。


「せーのっ!」

「とっ、りゃぁ!!チェルちゃん!」

「ん!」

「甘いわ!せいっ!!」

「なっ」


 時間も忘れて、場所も忘れて、お互いの手の上を跳ねるボールだけに意識を向けて、4人は集中。全力でひと夏の思い出を謳歌する。

 その賑やかさには、コテージで静かに見ていた男性陣も穏やかな気持ちになれる。


「一時期どうなるかと思ったッスけど、これならなんとかなりそうッスねぇ〜」

「あぁ、せっかくの休暇だ。見て見ぬふりしようや」


 窓辺に腕を乗せていたペローは、スマホの画面に映った配信画面を切って、バーベキューの為の食材を並べ直す。

 元から性根がやさしいペローと、前職が前職だったから日常の大切さを理解しているビルは、とやかく言わず沈黙を選んだ。

 ……さりげなく配信にコメントを残すことで、視聴者に気付いていることをアピールしてから。


ペロー@三銃士

:今日だけだかんな

トカゲのビル@三銃士

:アレルギーあんなら言えよ。バーベキューすんのに毒を入れるわけにはいかねェ

:↑

:↑

:アイェー!!?

:今日はoffだから…?

:やさしいせかい

:やさいせいかつ

:誰だ今の


「ふぁ!?」

「ぶふっ……はぁ!?」

「んんっ!?」

「ぽふ…」

「あーあ」


 休憩がてらコメント欄を見た3人が、信じられない顔でバーベキューの準備をする男性陣を見つめて、最終的にはまぁいいかと安心して納得した。

 黙認されているならそれでヨシ。気にしたら負け。

 そっちの方へと群がって、コンロの上に並べられている肉や野菜を眺めて話す。


「特別に参加権をくれてやるッス。で、アレルギーとかはあんの君たち」

「花粉症!」

「食べ物系はないわね。花粉症はあるけど」

「あたしも花粉症〜」

「丈夫じゃねぇか」

「おけまる水産。今度花粉アクゥームとか作ってお前らにぶつけるわ」

「極悪非道ッ」

「神妙にお縄につきなさい」

「○んで」

「許して」


 顔面を鉄板に叩きつけられそうになったペローが半泣き脱走する事件が起きたが、やった犯人がわからなかった為泣き寝入りとなった。めでたしめでたし。

 あのきららが瞳孔を開いて殺意表明するぐらいには酷い事件であったようだ。


 そんなことがありながらも、少しして。


「バーベキューッスよー」

「駄メイド、テメェはなにもすんな。いいな?」

「……ぶぅ」

「不満そうだな……おい人間。こいつに料理させるなよ。肉が炭になるどころでは済まんからな」

「そんなに…?」

「わ、わかったわ……」

「メイドさんなのに?」

「無能だよ」


 ちなみに、砂の城は透過魔法で脱出することでなんとか取り壊さずに済んだらしい。不自然に膨らむ砂の城から、命からがら抜け出したメードは、あんまりな言われように凹んでしまった。

 ただ、過去のやらかしで誰も相手にせず。そこまでとは知らなかった魔法少女たちも、チェルシーの語る悪評には顔を顰めるばかり。

 しごできに見えるのは見た目だけだったらしい。

 漸く幻覚から解き放たれた3人は、可哀想なモノを見る目でメードを見ることになった。


「おい野菜も食えよ」

「いらん」

「食べなきゃダメだよ!はいピーマン」

「何気に嫌いなの押し付けるんじゃないわよ。しいたけをあげるわ」

「2人とも〜?」


 リデルに野菜を押し付けるきららと蒼生を叱りながら、穂花もご同伴にあずかる。炭火焼きの肉や野菜はしっかり焼けていて、匂いも相まって大変美味しい様子。

 コメント欄でも、肉の焼ける音や煙をお供にお昼ご飯を食べる始末。


 和気藹々と敵味方混じって食事する風景は、いつの日かだれかが描いた夢物語のよう。


「……そういえば」

「んぅ?」

「オマエたちは何故遭難したんだ?そこら辺、私把握してないんだが」

「あ〜」


 配信を見ていないから気付いていないリデルと、同じくなにも知らないメードの疑問。遭難したとしか言ってない魔法少女たちは、聞いていいものか顔を見合わせてから、まぁいいかとこれまた楽観的に判断。

 邪念のない心からの疑問。こてんと首を傾げるリデルに穂花が答える。


「サメの形のアクゥームに襲われて」

「アクゥームに?なんだそれ。我知らない……」

「女王陛下、一人称一人称」

「んんっ……む、そういえば。うるるーが野生化したのがいるのどうの言っていたような……」

「?」


 高性能な配信にも魔法少女たちの耳にも載らない小声でそう呟いたリデルは、合点がついたと頷いて遭難者たちの不運を嘆く。

 まさか、共犯者たる帽子屋が対処している渦中の問題に巻き込まれるとは。

 遠のいたのか音は聞こえないが、今も尚、最高戦力様はこの海を駆けているのだろう。


「なに、二年前の我々が大海に解き放ったアクゥームが、今暴れ散らしておってな」

「えっ」

「ぶっちゃけ用済みなのと、マッドハッターがストレスの発散の為に単身駆除しておってな……オマエらが出会ったサメとやらは、恐らく逃げてきた内の一体だな」

「ほへぇ……その、それって魔法少女にぶつけたりすればいいんじゃないの?」

「む?んむっ……まぁ、その案もあるにはあったんだが」

「ユメエネルギーの回収率が悪すぎて、それなら新しいの造った方がコスパいいんだよ。んで、旧い遺物はさっさと解体除去して、新しいアクゥームの素材にすんの」

「へぇ〜」


 云わばリサイクルである。命令を聞かない生物兵器などお払い箱なのだ。早急に処分を選んだアリスメアー幹部の判断に、リデルはただ頷いただけ。

 なにせ、今の彼女にそこまでの判断能力はない。ただ、そうなんだとしか思えない。あかべこのように肯定すれば全てマッドハッターが対応してくれる為。

 一応、利用価値のあるモノに作り替えた方が利があるとわかってはいるが。


 そんなお飾りの無能上司と化した、遊んで生きるだけの女王リデル。思っていたよりも変わり果てたラスボスに、魔法少女たちは顔を見合わせるばかり。

 だいぶお可愛いことになっているリデルは、肉を只管に貪ってはくちゃくちゃと口を動かしている。

 ……少し下品かなぁ、と思ったチェルシーが手を引いて注意すると、そういうものなのかと素直に納得して、極力音を立てないように食べ出す始末。

 何度も言うが、もうそこにラスボスの威厳はなかった。ゼロ以下であった。


:誰この幼女

:やっぱり俺の知ってる女王じゃない…

:本当にどちら様ですか?

:情操教育中…


 混乱する世間の目にも気付かず、リデルは隠されてきた実情を普通に晒していく。魔法少女たちも、流石に配信は切ろうかと一瞬悩んだのだが……ビルがこそっと耳打ち。

 生存証明してないと、世間が不安になるだけと。

 真っ当な意見過ぎるのと、敵の心配をする必要はないと進言されたこともあって、そのまま配信は続行。

 サンチュで肉を包む美味しさを、初めて知った幼女組に微笑ましくなりながらも、8人で食卓を囲む。正義と悪が立場も忘れて、仲良くできている平和的な光景。

  夏の暑さに浮かれた魔法少女と、平常運転で夏を楽しむアリスメアーのバーベキューは、そんな形で終始穏やかに進むのであった。


「オマール海老焼こ」

「採れたての海鮮追加ね。好きにお食べ」

「わーい!」

「やった!」

「……………え?」

「あれ…」


 いつの間にか、リリーライトとマッドハッターがそこにいるのに気付くまでは。


「お姉ちゃん!?……あっ」

「あっ」

「あっ」


 若干姉の存在を忘れかけていたエーテが、気付かぬ間に輪の中に混ざっていた姉に、驚きの声をあげてしまった。その声に釣られて、他の魔法少女たちも、そして視聴者もリリーライトの存在を思い出して。

 カバンの中に置き去りにされていた、人形擬態継続中のぽふるんも驚き顔。

 眉間に皺を寄せる極光。呆れ顔の帽子屋は気にしないで夢魔狩りの余波で集まった海鮮を焼いていく。

 そして、嫌な予感が頭を過ぎるアリスメアー三銃士と、またしてもなにも知らない召使いは、空気を呼んでその場から距離を取る。


 リリーライトをガン見して、口をポカンと開けた女王の両隣りから。


「……えっ」


 全てを理解したリデルの発狂まで、残り三秒。


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― 新着の感想 ―
そうだった。リデルはあの三人が魔法少女であること知らないんだった。
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