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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
君と送るひと夏の思い出

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54-海の誘惑には抗えない

唐突に始まる日常回


「ほむ」

「うみゅ……んぅ」

「おやおや」


 とある夏のある日。テレビに齧り付くガキンチョ共が、ちらちらと僕に目線を向けては映像を見るという、かなり器用なことをしていた。

 なんだアピールしやがって。見んなこっち。

 ……夏特集、海か。成程。泳ぎたいんかこいつら。いやバカか?


「知らないの。盆の後は離岸流や土用波による水難事故が起こりやすい環境にある。沖合まで攫われて、変なとこで死にましたでは示しがつかないよ」

「そこは魔法があるから大丈夫だと思うぞ」

「クラゲ撃退魔法、海流操作の魔法とか……ない、の?」

「あるけど」

「では」

「ダメです」

「えーっ」


 危ないでしょーが。確かにこの夏、海を楽しむ機会とかなかったけど。色々あって行けなかったんだよね。海近辺で悪夢災害を起こすこともなかったし。

 ちなみにあるのは海流操作で、クラゲはそれで寄せ付けないようにできるだけだ。

 ……そんな期待した目で見んなよ。失意に満ちた目もだやめろ。


 ……うーん。海。海かぁ……


「プライベートビーチのツテがないわけじゃないけど……面倒臭いんだよなぁ」

「! 行きたい!」

「我儘言わないの。そもそも僕の管理下じゃないし。前にお小遣いでくれるって言われただけで、そのまんまずっと放置してたし……」

「……お、お小遣い?」

「うん」


 三年ぐらい前、大富豪の親子を助けたことがあって……その縁で、色々海外の金持ち共を助ける機会に恵まれて。いつの間にかよくわかんない財閥連合を組織していた自称魔法少女のスポンサー共から、僕は色々と支援を受けた。

 魔法少女後援会の連中よりもいい手当をだ。

 その、まぁ。贔屓目に見ても、客観的に見ても……あの金持ち連中、過激派ファンでしかなかったけど。


 それもこの僕の。世も末だよ。損得勘定抜きで命助けた僕も僕だけど。

 だからってあの支援は求めてないんよ。

 なんか、率先して助けなきゃいけないみたいな感じで、気持ち悪いじゃん。


 だから結構無視してたんだけど……うーん、どうしよ。これを機会に会いに行くか?

 期待の眼差しに、偶には応えてやるべきかもだし。


「仕方ないなぁ……いーよ、望み薄だけど、準備ぐらいはやってなよ。期待値はゼロに等しいけど」

「そこは成功させるのがオマエの腕の見せ所だろう」

「夏、海、クラゲ……私、まだ行ったことない。みんなで行こっ……!」

「わーい」


 こいつら……チェルシーはまだいい。憐れみで海までは連れてってやる。でもそこのクソガキと駄メイド。マジでぶん殴るぞ。素直さの欠片もない。

 理不尽だって?だって準備しろって言った瞬間寝転がる他者任せだよ?


 ……慈悲の一発で許してやる僕は優しいと思う。自分で遊ぶ準備ぐらいしろ。

 偶には休暇だって許される。これから忙しくなるし。

 リリーライト復活で今後の戦闘はより過酷になる。なら今のうちに楽しいことを体験しておくべきだ。ユメ計画で現実にバカンスを楽しめる機会が、永遠に奪われる未来は近いのだから。


 そんなこんなで僕は一人行動。アリスメアーに夏休暇を提供する為に、交渉に出る。


 夏かぁ、うん。ゾンビに海は不味くない?防腐せな…








꧁:✦✧✦:꧂








───時は経ち、夏休みの終盤。真夏の太陽が照りつける美しい砂の海岸線にて。


「ほぉ、これがビーチか」

「いい景観ですね。私を添えれば百点でしょうか」

「減点だな」

「酷い…」


 アリスメアーの幹部全員が、視界いっぱいに広がる青に感動の声を上げていた。ゴミ一つない景観は今時珍しく、夏の暑さが気にならなくなる程の美しさがあった。

 そう、ここはナハトが調達したプライベートビーチ。

 財閥連合のトップに会いに行ったナハトが、色々あって貰い受けた───無人島。


 事前に業者が整えたビーチを、魔法で更に整えたそこはアリスメアー専用の保養所だ。


「ふんすふんす」

「……確かに、以前の私ではなにも感じなかった景色だ。差異を感じる為にも、来て良かったな」

「そんな悲しいことを仰らず……ご覧下さい、私の親指がカニでざっくらばん」

「うわ危な」


 桃色の猫耳フードのチェルシーと、ワンピースタイプの黒い水着を着たリデル、白色パレオのメード。各々個性が感じられる水着を身につけて、海に飛び出す。

 途中メードがカニに指を切られて悲惨な絵面になったりカニ退治で砂塗れになったりしたが、横に置いて。

 海を待ち望んでいた女性メンバーは、我先にと海の中に飛び込んでいく。


「おいおい、準備体操無しかよ」

「若さッスかね〜。オレらはちゃんとやりましょ。流石に身体が怖い」


 砂浜に臨む形で建てられたログハウスのテラスにいる、黒いフィトネス水着で露出を少なくした、それでも筋肉を布地に浮かすビルと、赤と白でモノクロのサーフパンツとラッシュガードを羽織った姿のペロー。

 2人は貴重な成人枠の幹部として、しっかり準備体操で怪我を予防し、砂浜へ。


 穏やかな波に捕らわれてきゃーきゃー騒ぐ女児たちとは対照的に、2人は静かに海を楽しむ。ここに見知らぬ若い女性がいればナンパにでも洒落込むペローだったが、まぁいないのであれば穏やかに過ごすのみ。

 女性陣同様ウォータープルーフの日焼け止めを塗って、普通よりも少し固めに、空気でパンパンになった浮き輪に仰向けで寝転ぶ。

 せっかくのビーチだが、なにも賑やかさだけが夏休暇なわけじゃない。


「帽子屋の旦那は来ないんでしたっけ?」

「いや、遅れるって言ってたぞ。なんでも、ここの海域は旧時代のアリスメアーの遺産……海に解き放った夢魔共がうじゃうじゃいるらしい」

「……あー、そういやそんな説明があったような。えっ、それじゃあ今、旦那は野生化したアクゥームと?」

「あぁ。邪魔なのと容量確保だつって狩りに行ってたぜ。手伝いはいらねぇだとよ」

「休む気あんスか」

「ねェだろ」


 無人島を個人所有することになった上司は、単身海洋に飛び出て駆除活動に励んでいる。なんでも旧時代の悪夢が海に解き放ったアクゥームは、今も渡航する船を襲っては人々に被害を与えているらしい。

 アリスメアー的には残してもいいのだが、ナハト的にはもういらないモノらしい。

 海難事故が表沙汰になっていない今のうちに、太平洋にのさばる海産物を殲滅するのだとか。


 稀に遠方から轟音と、視界の奥に空高く水柱が昇るのはそういうことである。


「……おい、クラゲ浮いてんぞ」

「あん?海流操作で壁作ってんじゃ……あー、今の衝撃で穴が空いたわけね。どうします?」

「クラゲの刺身って食ったことねェんだよな」

「メニューに足す気ッスか」

「安全確保だ」

「えぇ…」


 青い海にプカプカと浮かぶ半透明なお椀。毒でしかないそれを、ビルは魔力でコーティングした手で掴みあげる。プスプスと刺胞が刺さるが、魔力に阻まれて決して肌には届かない。

 滅多に見ないクラゲに興味を示したビルは、海月料理に手を伸ばす。透明なゼラチン質のそれを掬っては、浜辺に持ち帰る。


「いや浮きすぎでしょ」


 浮き輪の上に器用に立って、毒物から避難したペローはそう愚痴った。


 ちなみに。


「ほほぉ、これがクラゲか」

「生で見るのは水族館ぶりですね……ふむ」

「ん、触っちゃダメ……あっ」

「おぉ、これは……噂に違わぬ柔らかさ……あ゛っ」

「言わんこっちゃない……」

「バカか?」


 いつも通り危機感のないメードを陸に運んで、クラゲの群れから一時撤退。率先してクラゲ狩りに励むトカゲ男を眺めながら、泡を吹く無能を介抱していた。

 リデルであればクラゲの毒に勝てたが、ただの腐肉では無理だった模様。

 

 普通の人間ではない為、死にはしなかったようだが……メードは少し海がトラウマになった。

 自業自得である。


「……?」


 その時、ふと、チェルシーが異音を耳にする。


 他の面々は気付いておらず、リデルは仰向けのメードに砂を盛って遊び始め、ビルはクラゲ狩り、ペローは呆れて調理の準備を始めている。

 各々が好きに行動しているのを一通り眺めてから、一度目を閉じて、チェルシーは視線を背後に向ける。

 綺麗でなにもない、ヤシの木が並ぶ砂浜とは正反対の、鬱蒼とした森の茂みが広がっている。

 濃い緑の向こう側からの音だと判断したチェルシーは、一人こっそり移動する。


 深い森の奥、整備されていないけもの道を。


 そうして、森を越え、視界が開けた先に広がるのは……今回のバカンスには適さない岩石海岸、磯浜があった。

 触り心地の悪い岩が海面に浮かぶそこに、それはいた。


「ぅ、うぅ……」


 波打つ岸に、掠り傷だらけで気絶するうら若い少女……それが3人。海仕様の衣装だが、その服装、髪型、全てが見覚えのある三色で。

 困惑のまま視線を横にズラし……これまた見覚えのあるクマの人形が、目を回しているのを発見した。


「んん……なんで…?」


 そして、その奥でこれまた倒れ伏す……白目を剥いた、大きなサメのアクゥームも。


:だれか来た!

:救命活動求、あっやばい

:だれって……猫ちゃやさん!?

:まっ、マズーイ!!

:水着衣装!!

:かわE


 海仕様のチェルシーの前に、幸か不幸か魔法少女たちが何故か打ち上げられていて。宙に浮かんだ半透明で青色のモニターで、魔法少女たちが数分前まで配信を行っていたことを示していて。

 自分の、自分たちの預かり知らぬところで戦闘が起きた事実を知ったチェルシーは、思わず天を仰ぐ。


「めんど…」


 これまた一波乱起きそうな予感に、チェルシーは異変を察知した過去の自分を殴りたくなった。


 さて、魔法少女たちに一体、なにがあったのか。それを知る為には、時を少し遡る───…


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