06-夢ヶ丘の守り人たち
ブックマークありがとうございます!
「がぁ〜!負けたー!」
「どんまい」
「ありゃあ無理だろ。後出しジャンケンにも程がある……生きて帰ってこれただけ儲けもんだろ」
「そうかもだけどさー!!」
「……」
新生魔法少女トリオに大敗したペローが、庭園に倒れてぶーたら文句垂れている。手でガンッ!と地面を叩きつけ痛みに悶えるバカらしさを眺めながら、僕とチェルシーがお茶しているテーブルに這ってきた。
なにしに来た。くんな。ここは女の園だぞ。
ビルくんも呆れてないで止めろ?僕の足にしがみついて新しい力くださいしてるバカを止めろ?
……現在、三銃士とお茶会中。もといペローの大敗北を慰めようの会だ。
「ズルいだろアレはー!!」
落ち着け。
「……ねぇ、ねぇ、帽子屋さん。新しい魔法少女出るの、止めるって話、じゃ?」
「不都合があっただけだ。吾輩にとっても想定外である」
まさか、あの妖精───ほまるんとやらが分身するとは思わないだろ。
僕とメードがvsリリーエーテに夢中になっている間に、あいつは素質ある女の子……穂花ちゃんのイツメンお友達2人に声をかけて、変身してくれるよう交渉していた……あぁもう、まさかあちらも陽動を使ってくるとわ。
あの妖精、やり手だな。魔法少女よりも警戒すべきだ。
あの後普通にアクゥームが浄化されて、ペローは今回も劣勢だと判断して即座に撤退……最後の最後に青色の子、ブルーコメットちゃんのシューティングスターなる槍撃を背中に浴びて大ダメージ。治療は早く済んだけど、お陰で荒れてしまった。最初の二回は魔法少女が出てこなくってただただ破壊、自衛隊を追っ払う、そんで撤退、ぐらいで成功してたのになぁ。魔法少女が出てからは惨敗続き。
せっかく街破壊したのに、それも水の泡だもんねぇ。
……幾ら破壊工作をしようにも、アクゥームが発生源の倒壊は魔法パワーで修復されちゃうのは、今更言わなくていいかな?
「……次からは、私が出よう、か?」
チェルシーの提案は、ペローの代わりに戦闘に参加すること。陽動と暗躍の立場を入れ替える、というもの。まぁユメエネルギーの量的に、全員出撃させてもいいとは思い始めてきたけど……まだやらせといていいか。
地味だけど、大切な仕事だからね。だから、もうちょい待ってな。
まだペローのターンでいい。魔法少女の戦闘パターンも見てみたいし。
「ん」
「ペロー、能力の具合はどうであった」
「あー、完璧でしたよ。たった7秒っスけど、半怪人化で強化された身体能力も相まって、ちまちま使っても平気、今んとこ問題はないッス」
「ならヨシ。暫くは実戦で慣らせ。チェルシーとビルにはまだ裏でやってもらいたいことがあるのでな」
「了解ッス」
「うぃ」
「あぁ」
言いくるめ成功……ヨシヨシ、このまま派手に暴れて、悪夢を広めてくれたまえよ。僕たちの安寧は、君ら3人にかかってるんだから。
……さて、魔法少女増員にキレてそうな女王様を宥めに行くとするか。
あー、どう言いくるめようか。監禁拘束で済むかぁ?
꧁:✦✧✦:꧂
───夢ヶ丘町、明園家。
私、明園穂花!お昼寝と食べることが大好きな、至って普通の中学二年生!ある日、いなくなったお姉ちゃん達を探す為に町をお散歩する日課をしていたら、道でばったり妖精のぽふるんほまるんと出会って、おしゃべりしてたら仲良くなって……その、なんか色々あって気付いたら。
なんと、魔法少女になっちゃってました!!なんで!?
困惑のまま怪物を、人の悪夢から生まれるアクゥームと戦って、その下手人であるベローさんと戦って、なんとか勝ち進んでるけど……まだ、ちょっと不安が残る。
最近になって、今更……ようやく魔法少女の実感とかが湧いてきたぐらいだ。
まだわかんないことだらけだけど、なんとか頑張って、みんなの夢を守る活動をしています!!
祝福のリリーエーテ……えへへ、ちょっと照れるね。
「でも、まさか2人も魔法少女になるなんて……思ってもみなかったよね」
「それ、何度目よ。大人しく受け入れなさい」
「このお菓子おいしいね〜……ぇ?なにか言った?ごめん聞いてなかった!」
私の部屋で一緒に寛ぐお友達。この前魔法少女になった空梅雨蒼生ちゃんと、晴蜜きららちゃん。小学生の頃から仲良く遊んでいた2人は、なんとほまるんの勧誘を受けて魔法少女になっていた。私の知らないところで。
彗星のブルーコメットと、花園のハニーデイズ。
青色と黄色の、2人の髪色とか、イメージカラー?っていうのとピッタリな色。ピンク色の私も混ざったら、もう小さい頃に見た魔法少女のアニメとそっくりだ。
えへへ。仲良しの子達と魔法少女やれるとか、ちょっとうれしいかも!
「ほら、作戦会議するわよ!いつアクゥームが出てくるかわかんないんだもの!今の内にできることとか共有して、連携を決めましょ!」
「アオちゃんやる気〜!でもでも、まだ変身したばっかでわかんないよ?」
「……それを確かめるのも今やるの!」
「お家壊れちゃうからやめて!?」
「まっ、魔法使い終わったら修復する、でしょ……ねぇ、ぽふるん、直るのよね?」
「?直らないぽふよ〜」
「えぇ!?」
オルゴールを回して遊んでいたぽふるんが、軽い感じで蒼生ちゃんの疑問に答えた。
ちなみにほまるんはいない。いつもフラフラしてるの。
「うぅ、そんなまさか……」
蒼生ちゃん、それはアクゥームとの戦闘中だけだよ……アリスメアー?の悪い夢と、私たちの良い夢のパワー?がなんか色々あって、元に戻るんだよ。それ以外でやっても手作業で魔法使うしかないんだってさ。
……そりゃ、直せるっちゃ直せるんだろうけど……
思い出のあるこの家を壊されるのは、ちょっとたんま。絶対に止めるよ!
「そう、よね……ごめんなさい、浅慮が過ぎたわ」
「ううん。私こそ強い言葉使ってごめんね……で、でも、練習するのは大事だから……ぽふるん!えーっとえっと、なんて言うんだろ……特訓部屋みたいなのを作る魔法ってあったりする?」
「あるぽふよー」
「あるんだ!?」
そういうの、もっと前もって言ってくれたりしない!?
「正確には秘密部屋を作る魔法ぽふ!先代の子が、絶対に安心安全な、空間の外に影響が出ない密閉空間が欲しくて作ったすごい魔法なんだぽふ!」
「先代って……そっか、あなたって確か、先代の契約妖精だったのよね」
「お〜、よく知ってるぽふね?」
「有名だもの」
……先代、か。ここでいう先代は、魔法少女の中で最も有名で、最も偉大な二人を指す。
ちょっと嫌いだけど、それでも憧れがある、あの二人。
「“極光”のリリーライトと、“蒼月”のムーンラピス……あの二年前、アリスメアーを討伐した伝説の英雄達を見出した妖精さんを、忘れるわけがないわ」
「ありがとうぽふ……倒したのは、ラピスだけで、ぼくはなにもできなかったぽふけど」
謙遜するぽふるん。事実なのに……でも、一番辛いのはぽふるん、だよね。
「それでもよ。あなたがいなかったら、今の私たちだっていなかったかもしれないんだから」
「そうそう、あの人達以上に、私たちも頑張るから!」
「うん!みんなでがんばろ!悪夢なんかに負けないって、負けてないって、見せつけていこ!」
「おー、それいいかも!頑張れば頑張る分だけ、届くかもだもんね!」
きららちゃんの提案に、私は便乗する。だってそれは、想えば叶う筈だから。
私はまだ叶ってないけど、諦めなければ、きっと。
───わぁ、嘘!なんでわかったの!すごいすごい!
───……仕方ないなぁ。みんなには言っちゃダメだよ。僕らだけの秘密。
───大丈夫、私が守ってあげるから!
───こら、泣かないの。まったく……███と違って、君は泣き虫さんだね?
───あーっ!うーちゃん泣ーかせた!消滅魔法でい?
───暴力的だね…
───穂花♪
「穂花?大丈夫ぽふ?」
「……あっ、うん。ごめん、ちょっと考えごとしてた……えへへ」
慌てて取り繕って、魔法少女談義に励む2人に混ざる。二年前まではたくさんいた魔法少女。みんなアリスメアーなんかに倒されちゃって、いなくなっちゃった人たち。
それでも人気があって、誰にも忘れられない、私たちを守ってくれた英雄たち。
……あの人たちの想いも背負って、私たちは戦うんだ。怖いけど、苦しいけど、きっとなんとかなる。
お姉ちゃんとお姉さんの背を、私も追うんだ。
───あぁ、やだなぁ。ここで…退場、かぁ……
あの日。脳裏に焼き刻まれたあの情景が、今でも頭から離れないから。
……会いたいよ、お姉ちゃん。
꧁✦✧✦꧂
「───こんなところにいたぽふか〜」
「んひゃ、あ〜。ぽふるん。ごめんごめん。日向ぼっこでうとうとしちゃった!」
「気持ちはわかるぽふけど〜、ちょっと探したぽふよ!」
「ごめんって〜」
明園家の屋根の上で、ピンク色のクマ妖精、ほまるんが呑気に日光浴を楽しんでいた。ぽふるんがいつになっても帰ってこない妹分を心配して探しに来るまで。
ふよふよ浮かぶベージュのぬいぐるみは、眠気まなこで目を擦るピンクのぬいぐるみを揺すって起こす。
日向ぼっこで魔力を回復していた妖精、ほまるんは少し疲れた顔で目を覚ました。
「まったくもう……そうだ、今度魔法使うときは、ぼくにちゃんと言うぽふよ。今回は助かったけど、魔力カツカツなんだぽふから。今はまだ、至福の時ぽふよ」
「多分ニュアンス違うよー。雌伏ね、雌伏」
「ぅぇ……んー、日本語難しいんだぽふ!同じ文字多すぎぽふー!!」
きゃらきゃらと、妖精の笑顔が夢ヶ丘に咲いた。
次回、2ch風