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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
手のひらを太陽に

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53-とある死に損ないのユメ計画


 買い物の時間だ。

 普段は業務用スーパーで大きめのを買って、組織全員の朝昼晩のご飯を作っているのだけど。たまには使い慣れた地元のスーパーで買い物をしたくなる……そういう気分になったのが今日だ。

 最近は顔出しの甲斐あって、三銃士と食卓を囲む回数も多くなってきた。

 やっぱ違和感強いみたいだけど。

 出会ってからもう二年ぐらい?ずーっと帽子頭のままで交流してたからね。仕方ない。慣れてほしい。だからってジロジロ見るのはやめてほしいけど。

 遠慮のなくなってきた寝子ちゃんからのボディタッチも困ってるけど……愛情あげなかった母親代わりだと思って我慢している。

 うん、拾ったんだ。ちゃんと責任もって育てないとね。


「……懐かしいな」


 さて、やって来ましたスーパーマーケット夢ヶ丘店……死ぬ前まで頻繁に使っていた、地元の使い慣れたお店だ。大きめの店舗だから、ハシゴしないでもいいから楽。

 今は大家族を養わないとだから、業務用だけど……昔は一人暮らしだったからね。

 こっちがちょうど良かったんだよ。お、内装は変わってないそう。


 美味いし安いし清潔だし……人気なのもよくわかる。


 あっ、ちなみに。今の服装は茶色コートにサングラスの不審者ナハトモードだ。季節外れのコートを着ているのはこいつに誤認機能があるからだ。

 具体的に言うと、銀髪碧眼だけど最高幹部の人とは=で結べない、なんて認識阻害で隠れられるんだ。

 魔力遮断もあるから、魔法少女からも隠れられるぞ。


 あと純粋に温度調節の術式刻んであるから、くっそ暑い夏でも快適なんだよね。


 長袖なら日焼けからも守れるし、分厚いから急襲からもある程度守ってもらえる……着て損は無いよ。

 白い無地の服と黒ズボン、アクセサリーで他は十分。


 かぁ〜、自分のファッションセンスを褒め称えたいよ。 ファッションよくわかんないけど。


 閑話休題。なにを買うかは事前に決めてあるから、もうポンポン手早く商品をカートに放り込んでいく。

 あっ、これ美味しそう。余裕あるから買おっかな……


 魔法少女時代に稼いだお金と、スポンサーを自称してた海外の金持ちから無理矢理渡されてどうしようもなかったお金があるから、食費に困ることはない。

 三銃士の給料もこっから出してる。

 ……税金とかそーゆーのはよくわかんないから、国から訴えられたら確実に負ける自信がある。

 国税さん見逃して。


 惣菜は……買わんくていいか。近頃は、凝った手作りにハマっててね。


 ……お菓子も買っとくか。うるさいのが複数いるし。


 そう思ってお菓子コーナーに行って、ヤケに種類の多い甘味品を選んでいると。


「こんにちは!」

「……は?」


 なんか声掛けられた。耳馴染みのある声に振り向けば、すんごい格好の知ってる人がいた。

 全身開運グッズでコーディネートしたバカの服装。

 ……まさか、運頼みで会いに来たのか貴様。それでよく出会えたな……


 ドヤ顔する不審者───明園穂希の額をデコピンして、僕は溜め息を吐いた。


「いったぁ〜!」

「なにそのクソダサファッション」

「うーちゃんが置いてった地下室のゴミから探し出した、ガチモンの開運装備だよ。これ、運気アップどころじゃあなくってね……見て、さっきガラガラやったら当たった」

「バカじゃねぇの」


 一等賞取ってんじゃねぇーよ。しかもそれ……昔の僕が魔法開発で集めたのじゃん。運気操作で回避率アップとか考えたんだよね。

 最終的に、運頼りよりも実力でやった方が早いっていう味気ない結論になったんだけど。

 それを掻き集めたんか……やっぱバカじゃねぇーの。


 ソンブレロはないだろ。奇異の目で見られてるところを恥ずべきだよオマエ。


「ふふっ、意外と早く会えたね」

「……吾輩は会いたくなかったのだけど」

「その口調やだ」

「我儘やめろ」


 あっさり僕が僕だと見抜いて、今や敵対関係にあるのをわかっているのに、こうも軽い感じに話しかけてくる……そんな気の抜けた表情に、感心よりも呆れが来る。

 躊躇いなく腕を絡める穂希は、上目遣いで僕に微笑み、次いで買い物カゴの中を覗き見る。

 ……所帯染みてるところ、こいつに見られたくなかったなぁ。


「ママ?」

「やめて」


 言われると思った。


「ねぇねぇ、これも買ってよ」

「ふざけんな……」

「あとこれもね!穂花の分と蒼生ちゃんときららちゃんにあげるから。迷惑かけてる分、ちゃんと買ってよ」

「また断りにくいことを……」

「あはは」


 仕方なく商品を買ってやる。これからもよろしくの意を込めて。


 お互い、必要以上に語ることはなく……場所が場所だと配慮しているのもあるけど、追及はせず、近況報告がてら駄弁りながらカートを進める。

 感動なんてモノはない。サバサバした関係なので。

 無人レジでピッピッピッピッ。はい買った買ったこれも買ったぁ!


 むぅ……思ったより出費が大きい。減る一方なんだから気をつけないと。


「持つよ」

「ん」

「……あ、あそこの公園行こ!東屋あったでしょ。あそこ結構涼しいし」

「いいよ」


 誘われるがまま、通い慣れた近所の公園に。子供たちの賑やかな、楽しげな声をBGMに、人のいない東屋に2人で入っていく。

 保冷魔法をかけたエコバッグを木の机に置いて、涼しい日陰に身体を落ち着ける。

 うん、涼しい。穂希も心地よさそうに脱力して、身体の汗を拭い始める。


 ……あぁ、普通の服持ってきてたんだ。僕を見つけたら着替えてから来てほしかった。


 外でも気にせず堂々と、異空間収納から取り出した夏用衣服を着ていく穂希。シースルーの涼し気な服は、見てるこっちも涼しくなるよう……

 うん、僕の服装ってだいぶ害悪だな。ごめんねみんな。

 やめるつもりは毛頭ないけど。


「んっ……んっく、んっく……ぷはぁ」

「美味しい?」

「うん。うーちゃんも飲む?」

「飲まない」


 取り込んでも魔力に変換されるだけで、地球の循環には関わらないし。


「……ねぇ、うーちゃん」

「んー?」

「聞いてもい?」

「……いいよ」


 来たか。まぁ、聞かれないわけないわな……ある程度、情報は小出しにするか。

 僕の為に、リデルの為に。そして、穂希の為にも。


「なんで、生きてるから聞かないよ───私が聞くのは、ひとつだけ。なんでアリスメアーと組みしているのか……女王リデルとなにを企んでいるのか」

「それ、2つじゃない?」

「実質一つでしょ。うーちゃんが、洗脳とか弱みとかで、あれと取り引きするとは思えないしね」

「ヤな心配だな」


 ……それぐらいなら言ってもいいけど。

 一応、僕の計画の、根幹に関わる話題だけど……ここで明かすのも、また一興。


 偽装したままの、人肌の仮面で親友に語り掛ける。


「利害の一致。一番はそれだよ。あいつの置かれた身分とこれから始まる面倒事……それらを天秤に合わせて、僕はあいつと手を結ぶべきだと判断したのさ」

「……その、面倒事っていうのは?」

「ふふっ」


 指を振る。空へ掲げて、虚空の果てを夢見て。


「───僕らの敵は、宙の上にいる」


 そもそも、夢とはなにか。

 ユメエネルギーとは、なにか。

 悪夢の国とは。妖精とは。リデル・アリスメアーとは、なにか。


 その全ての謎を解き明かす答えは、宇宙にある。


 生き物が持つユメの力の行き先は、夢の国。星々の裏に微睡むユメは、万物を潤す奇跡となり得る。

 そんな奇跡を求める存在が、地球の外にいるとして。


 宇宙人はいるんだよ。眉唾物だけど、それは確かだ……あぁ、本当に。


 めんどくさい。


「……宇宙怪獣っているの?」

「いるよ。旧世代の三銃士、コーカスドムスは宇宙産だ。本当なら夢を食べる怪物だったのに、性格が幸いしてこの星に定住した。悪夢に飲まれて異形化したけど」

「……ねぇ、待って。悪夢に飲まれるって、なに」

「そのまんまの意味さ」


 フラミンゴの頭に、無数の獣の要素を併せ持つ三銃士の最強怪人。かつて苦戦を強いられたそれの姿、本当の姿を想起しながら、僕は疑問に答えてやる。

 だって不公平だろう?真実を知らないのは、酷な話だ。


「悪夢の国、怪人、悪夢の女王───それらは全て、元を正せば夢の国の一部。いや、その大元。人間の悪意により大きく歪めれて、悪夢の存在となった……塗り換えられた概念の被害者たち」

「ッ、待って、それじゃあ……」

「この十年間、僕たち魔法少女が殺してきた怪人たちは、元妖精だよ」


 その真実は、激動の末に忘れられてしまったけど。


「ふふっ、いやーな話だよね。僕たちの戦いは、遥か昔の御先祖様の尻拭い。原罪を洗い流し、世界を取り戻す……奇跡を起こして、この星を外から守る戦いだった」

「……でも、やる意味はあった。違う?」

「その通り。無駄なんかじゃなかった。僕たちの犠牲には意味があった」


 リデル・アリスメアーが正気を取り戻したことで、星の異常は異常ではなくなった。

 汚染された機構は正しく廻り、ユメは星に還元される。


 まったく。それで終わってれば、なんの問題もなく楽に死ねたのだけど。


「でも、正常化されたせいでユメを狙う者が現れた───そう、この宙の上にね!」

「……そいつのお目当ては、女王なの?」

「だいせいかーい。厄介だよね。本当に。あのクソガキが奪われたら……地球は終わりなんだよ?」

「は?」


 知らないだろうから、教えてあげる───この地球の、ユメの循環機構たるリデルがいなくなれば。ユメを巡らす力は無くなり、停滞し、破滅する。

 悪夢に堕ちていた時は、それでも問題なく動いていたのだけど。女王がいなくなれば、最後。

 星を育むエネルギーは無くなって、滅びてしまう。


 ……いやなんでだよ。って最初は思ったけど、そういうものなんだから仕方ない。宇宙規模の面倒事なんて、僕はイヤなんだけど。ユメエネルギーってすごいんだってさ。

 惑星を生かす力そのもの。人間でいう活力みたいなもんらしい。


 つまり、二年前のあの日。リデルを仕留め損なったのは正解だった。


「あの日、殺していたら……地球に二年後はなかった」


 もう運命の歯車は回り出してる。連中に気付かれるのも時間の問題。


「だから対策する。宙からの脅威に対処する。その為に、僕はアリスメアーと結託する」

「……私と一緒にいて、できることは、ないの?」

「ない」


 非常になりきらなければ、やり遂げられない夢がある。


「正直な話、敵対構図は効率的で合理的なんだよ。だからこのままを維持させてもらうよ」

「ふーん、よーくわかった。とりま斬っていい?」

「わかってねぇじゃんか」


 こちとら傷害罪と脅迫罪で勝てるんだぞ。


「ん゛んっ……さて、ここまで聞いて納得してもらえた?もうこれ以上、語ることはないのだけど」

「そうだね。理解はした。納得もした」


 全然受け入れてない顔で、穂希は、リリーライトは強く訴える。


 僕の考えにしっかり向き合った上で、強く否定する。


「でも、私は───あなたの考えた計画が、人々の生活を脅かすのなら」


「───止めるよ。止めた上で、一緒に宙に挑むよ」


「力づくで、あなたを納得させてあげる。一人でなんでも解決しようとする、あなたを」


 澄んだ瞳が、僕をやさしく見つめる。


 なんだ、バレてたのか……やっぱり、死んでてくれてたオマエが愛おしいよ。黙って、なにも言わずに、屍のまま僕の背を後押ししてくれればよかったのに。

 いつだって、僕が選ぶのは最善策。

 犠牲も承知の上、自己犠牲だとそこいらに宣われても、否定はしない。


 死体が幾ら犠牲になったって、問題にはならない。精々損壊罪が適用されるぐらい。

 だってそうだろう?できるヤツがやったほうがいい。


 僕ならできる。アリスメアーも魔法少女も、全ては僕の理想通りに動くだけ。ユメエネルギーの循環を、間違った終わりを正しい形に収束させて。

 有象無象を出し抜いて、僕が望む理想の勝利を得る。


 その為に、この二年半を生き延びた。延命した。女王と手を組んで暴れ回った。


 だから、今更止まらないよ。君が立ちはだかっても。


 僕のユメ計画───悪夢をもって世界を救う月の一手。それの実行には多くの犠牲が、諦めが、絶望が必要だ……だから、無理にでも強行して叶える必要がある。

 必ず未来へ繋ぐ為に。今の全てを捨て去ってでも。

 生き残りがいればなんの問題もない。そう結論付けて、僕は前進する。


 リリーライトの妨害なんてものともしない───未来へ希望を託す大いなる計画。

 前途多難だけど、失敗させてなるものか。

 負けないよ。


「……いいぜ、やろうか。気持ちのぶつかり合いは、今に始まったことじゃない」

「覚悟してよね。私たちは強いよ?」

「ふふっ、知ってる」


 やること自体は変わらない。戦う運命にあるのならば、あとはやるだけだ。


 もうこれ以上は駄弁る必要もない。充分涼めたし。


「……あっ、そうだ」

「うん?」


 そう思って立ち上がって、帰り支度を済ませていると。


「ん!」

「っ……いきなりやめてよ」

「いーじゃん、二年ぶりなんだし……あぁ、やっぱり……冷たいね」


 力強く抱き締められて、穂希の体温が、死んだ身体に、死んだ心にやさしく伝わってくる。

 ……いやだな。こいつは生きてて、僕は死んでいる。

 それがいやでもわかってしまう……そんな温かさが僕を殺してくる。


「ねぇ、うーちゃん。絶対迎えに行くから。例えそれが、見当違いの的外れでも」

「……好きにしなよ。僕はどうでもいいけどね」


 涙腺が死んでることに、今は感謝しよう。


 心の底から再会を喜び合うには、邪魔な柵が多いんだ。だからまだ、このままで。

 全部が終わって、この命が潰えるその時に。


 この悲しみも、苛立ちも、苦しみも……全部全部、君に伝えるよ。


いつになるかはわからないけどね

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