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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
手のひらを太陽に

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46-勝ち目のない戦い

予告通り、安定のカットからスタート


 ハット・アクゥームと、マッドハッターを模した傀儡が地上を蹂躙する。悪夢の魔力が辺りに充満して、夜の下に閉じ込められた日本を侵す。

 並大抵の魔法少女であれば、即座に命を落とす環境。

 宇宙戦争もかくやの光の弾幕が配信画面を埋め尽くし、轟音が鳴り響く。


 絶体絶命、確実に魔法少女を殺すという意志さえ感じた破壊活動の数々……それを、対峙した新世代は、なんとか相手取った。

 全身ボロボロ、無事な所を探すのがやっとな程に激しく痛めつけられ、呼吸をするのも精一杯の3人。

 それでも。それでも彼女たちは───やり遂げた。


「はァ、はァ……くっ、ぅ……」


 肩をだらんと下げて、荒い吐息を吐きながら立ち続けるリリーエーテは、眼前の化け物から目を離さない。


 魔力で練り上げた大剣が突き刺さった、帽子の怪物を。


【ァ、アクゥ……】


 頭に深々と突き刺さった大剣で、ハット・アクゥームは敗北を喫した。溜め込んだユメエネルギーを、身体全ての亀裂から噴き出して、徐々に萎んでいく。

 なけなしの魔力、減る一方の全力でやり遂げた偉業。

 3人の力を合わせて作り上げられた魔法剣。コメットの星魔法を核に、デイズの花魔法で形を作り、エーテの夢想魔法で顕現させた───かつてムーンラピスが考案した、複数人で作り上げる前提の大魔法。


 その一部を土壇場で成功させ、3人は勝利した……


 だが、その顔は晴れず。傷だらけの3人は、痛む身体を抑えながら帽子頭を睨むばかり。

 それは何故か。

 大技を放ったのに、浄化されずに残っているからか。

 五体満足の三銃士が、重傷の魔法少女に手を出すか否か静観しているからなのか。


 否。


 否。


 否。


 正確には。その後ろ───慰霊碑を見つめる人物から、目を離せないから。


「魔力吸収と循環、そして還元の術式……ヤケに硬いとは思っていたが、随分と気合いの入った魔法式だな。うん、破壊した方が今後の為かもしれないな」

「なんで…なんで、ここにいるんですか……!」


 吹き上げる風に銀髪をなびかせ、茶色のコートを羽織る彼女は慰霊碑に指を沿わす。

 そこに刻まれた、何処かに流れる魔力を見ながら。


 本来ここにいるはずのない人の名を、出会ったばかりの誰かの名前を、エーテは叫ぶ。 

 

「───ナハトさん!!」


 声をかけられ振り向けば、その全貌が明らかとなる。


 自称“魔法遺物蒐集家”───ナハト・セレナーデ。先程霊園で別れた女性が、そこにいた。


「やぁ、君たち。また会ったね」

「ッ……」

「そうカッカッするな。なにも取って食うつもりはない。先ずは一つ聴いていってくれ」

「はァ?」


 慰霊碑を背後に、ナハトは恭しく笑って語り出す。


「君たちには、この慰霊碑がなにに見える?」

「なにって……そのまんま、ですけど…」

「そりゃそうか。うん。でもね、実際は違うんだよ───こいつは魔力の集積装置なんだよ」

「集積、装置?」

「人々の祈りが、願いが、想いが、魔力に変換されてこの石碑に溜め込まれる……二年分の人々の想いが、こいつに保管されてるんだ。不思議だろう?なぁ……君は、なんでこれを作ったんだい?」

「え?」


 慰霊碑の形をした魔力集積装置。人々の感情から魔力を作り出して、石碑に溜め、とある用途の為、とある存在と接続された機能を後付けした妖精に、彼女は問う。

 その視線は、魔法少女たちの後方───陽だまりの妖精ぽふるんを見つめていた。


「なっ、なんのことぽふかー?」

「いやバレバレだけど。魔力の縁というか、術式には君の残滓とか名残が色濃く残ってるけど……ほら、こことか。わかる?」

「えっ、あっ……スーっ、気の所為ぽふ!!」

「虚偽申告罪で死刑ね」

「ぼくがやりました!」

「ぽふるん!?」


 素直に吐いたぽふるんは、何故そんなモノをと訝しげな魔法少女たちの視線から目を逸らす。ついでに蚊帳の外にいる三銃士からも。あの人誰なんだろうと首を傾げている彼らの反応から、ナハトとの関係性を探るが、その独特な雰囲気に圧されて目を離せない。

 笑うナハトは、慰霊碑の表面を撫でて、魔力を当てる。


「っ、きれい……」


 魔力が波打って、黒曜石の慰霊碑に回路のような紋様を浮かび上がらせる。神秘的なその輝きからは、漠然とだが妖精の気配が感じ取れた。

 注がれた魔力は蓄積される。大事に大事に溜められた、想いの塊が。


 その現象を目に焼き付かさせたナハト自身、この石碑の意味を完璧には理解できていない。

 目を逸らすその妖精の目論見、計画、そして希望も。


 わからないからこそ問いたくなるモノ───それでも、答えが得られないのであれば。


「さて、本題に入ろう。君たちの疑問は、何故私がここにいるのか。何故私が魔法を使えるのか。私とは、ナハトを名乗る何某は何者なのか……そういったノだろう?」

「ッ、そうよ!長話でしらばっくれないで、さっさと正体明かしなさい!!」

「おねーさんは誰!!」

「そーだそーだ!」

「ド直球どうもありがとう。ま、大して語るまでもないのだけど……」


 ナハトは苦笑と共に、両手を合わせ───手品のように黒いステッキを伸ばして取り出した。

 それを見た瞬間、全員の時が止まった。

 それは、先程まで切り結んでいた敵の杖と、同じ形状のモノだったから。


「…まさか…」 


 目を見開いて絶句するチェルシーに、ナハトはシーっと指を口に添え、杖をくるりと回す。


「ククッ……で、いつまで寝ているつもりなのかな───ハット・アクゥーム」

【…! ハッ!】


 冷たく見下ろす瞳に催促されて、元のサイズまで萎んだシルクハットが慌てて動き出す。たどたどしくも蜘蛛足を使って近寄り、靴を、足を、身体を這い登り、肩から頭へ飛び乗った。

 体感が強いのか、ナハトは頭に飛び乗られても揺れず、ハット・アクゥームを斜めに被って不敵に笑う。

 それが意味することがなんなのか、もうわかっているのだろうと言わんばかりに。


「実に有意義な交流だった。この子の性能を改めて調べるいい機会にもなった。負債もいい感じに押し付けられて、追悼式典もぐちゃぐちゃにできて万々歳。うん、我ながら完璧な計画だった。突発だけど。んまぁ───君たちも、随分と遊び疲れたみたいだし。成功だったってことで」

「ッ、あなた、まさか……!」

「黙っていたのは詫びるよ。本邦初公開、私の……いや、吾輩の記念すべき顔出し記念日だ」

「嘘だろ…」


 三銃士も知らない、なんなら女王たちも知らない、最近仕上げて作ったもう一つの顔。

 魔法で衣装も変えて、コートから燕尾服に着替えれば。


「改めて。アリスメアーの最高幹部、マッドハッターだ。ナハト・セレナーデの名は……好きにしたまえ。ナハトと呼ぶのも、帽子屋で呼ぶのも、どちらでも構わない」

「あんた顔あったんか!?」

「俺らも驚かすのはどうなんだ」

「知ってる顔と違う……」

「うるさいぞ外野。別にこれも素顔じゃない。作ったのも最近だしな」


 いつもと違う、帽子頭ではないマッドハッター。奇妙な違和感に苛まれる三銃士を放っておいて、惚けた敵へ……魔法少女と妖精たち、そして、配信を見る視聴者たちへと笑みを向ける。

 衝撃から立ち直れない3人と2匹に、怪我塗れの後輩を労うように、褒めるように。

 軽薄に告げる彼女は、魔法少女たちに語りかける。


「さて、死にかけの君たち───重傷の中、酷な戦いなど強いるものではないが、どうかね。大人しく降参するか、馬鹿みたいに戦って死ぬか。好きな方を選びたまえ」

「……本当に、マッドハッターなんだね。はァ。ふぅ……悪いけど、私たちが選ぶのは、三つ目の選択肢だよ」

「そうね……びっくりしたけど、その程度よ。それと……痛みなんて、勝ちを譲る理由にはならないわよ?」

「ふふーんだ。負ける前提なの、やめてほしいよね!」

「「「───馬鹿みたいに戦って、生きる!それ以外に、選択肢なんてない!!」」」


 予想できなかった正体に、動揺はあれど……そう易々と勝てると思われては堪らない。いくら消耗しているとて、負けるつもりなど3人には微塵もない。

 勝って生きる未来しか、脳裏に描けない。

 やる気に満ち溢れた3人に、ナハトは過去の自分たちを重ねて、関心深そうに目を閉じる。戦闘に加わろうとする三銃士は手で制して、二度目の単騎を挑ませる。

 重傷の身で、無傷の己にどう立ち向かうのか……期待で胸を膨らませて、ナハトは仕込み杖の小口を切る。


「そうか、ならば……楽しい楽しい斬り合いと行こうか」


 白金の刃を露出させれば、ステッキから抜き身の殺意が溢れ出る。


「悪いが、本物のような剣術は土台無理でな……透明な、邪念なき刀は期待しないでくれ」

「ッ、その構え、“斬魔”の……!」


 己の不甲斐なさを笑いながら、ナハトは刀を持ち替え。


 振り向きざまに───聳え立つ慰霊碑へ、怨念を込めた暴力的な一閃を放つ。


 両断された慰霊碑は、斜めに崩れてその機能を無くす。


「手始めに、この魔力タンクを破壊させてもらったぞ……なにに使うつもりだったかは知らないが、手順を無視して貯蔵部ごと斬れば、使い物にはなるまい」

「んなっ、そんなぁ〜!ど、どうしよう……」

「だいじょーぶ!あんなのなくたって、エーテたちなら、勝てるもん!ねっ!!」

「うん!それはそれとして、なにに使う気だったの?」

「私の魔力補給と、みんなの魔力が足りなくなったときの保険とか予備、って感じかな」

「……あっ、そゆこと!?」

「……?」


 魔力補給とはなんぞやと訝しみながら、慰霊碑を完全に破壊したナハトは、切り口から漏れ出る魔力を、暴力的な己の魔力の圧で吹き飛ばし、敵に近付けさせない。

 万が一、空気中に漂う魔力から補給されないように。

 人の純真な想いを形にした魔力は、それだけ警戒するに値する。


「まぁいい……さぁ、是非見せてくれ。そしてこれが……オマエたち魔法少女の最後の輝きにならぬよう、死ぬ気で足掻いてみせろ」

「いーよ、やってやる……あ、先に倒れた人、今度菓子パ奢りだからねっ!」

「勝てばよかろうなのよ!絶対負けてやらないわ!」

「負けられない戦いが、ここにある!!」

「動悸が不純ぽふ…」

「がんばれー!」


 気力は十分、体力は半分以下。それでも、魔法少女は、諦めるという選択肢を最初から捨てている3人は、勝利と未来への希望を持って、悪夢と対峙する。

 絶望なんてクソ喰らえ。死ぬ気で噛み付いて、地べたを這いずってでも勝利を勝ち取る。

 先代たちの教えを、生き様を、自分たちの糧にした。

 身も心も強くなっている少女たちへ、マッドハッターは容赦のない一閃を振るった。


───考えたが故の行動で、運命の歯車が動き出したとは思いもせずに。


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