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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
手のひらを太陽に

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45-月の残滓、悪夢の大食らい


 【悪夢】との死闘を制した、数多くの魔法少女を悼み、その鎮魂の為に盆地に建てられた記念公園……8月15日の今日、この公園の中央部に聳え立つ慰霊碑を取り囲んで、多くの人が追悼に集まっていた。

 見上げるほど大きい、黒曜石の如き輝きを持つ石碑。

 亡くなった魔法少女への感謝を、そして鎮魂を、祈りを捧げるその式典は、今。


「きゃー!?」

「避難経路はこちらです!慌てず落ち着いて!!」

「お逃げ下さい!!」

「うわっ」


───未曾有の大混乱に陥っていた。


 予定通りに追悼式が始まろうとしたその時、参列の為に集まっていた人々の一部が、突然、人皮を突き破るように異形化、アクゥームとなって暴動を開始。

 アリスメアーの襲撃を警戒していた自衛隊からも夢魔は顔を出して、人々の混乱を加速させる。

 幸い死者は出ていないが……それも時間の問題。逃げる人々が津波のように、雪崩のように、激しく動いて互いを傷つけ合う。


 天皇や大物政治家など、魔法少女を追悼する為に集った日本の顔と言える者たちも否応なく巻き込まれ。

 闊歩するアクゥームの集団が、人々を追い立てる。


 いつの間にか、慰霊碑の周りには無人の空間ができ……荘厳で、静寂な空気に包まれていたそこは、悲鳴と怒号が響き渡る地獄に変容した。


 そして、この危機に希望の守り人たちが降り立つのは、最早語るまでもない形式美。


「やめなさーい!!」

「その蛮行、ここまでよッ!!」

「アターック!」


 リリーエーテ、ブルーコメット、ハニーデイズの3人が現地に急行。見境なく暴れるアクゥームを拳で殴り倒し、蹴りで吹き飛ばし、武器で退けながら、逃げ遅れた人々の退路を作る。

 感謝と激励を飛ばして逃げる一般人の想いを背負って、魔法少女たちは駆け出す。

 アクゥームたちを出現させた親玉は、まだ現れない。


【アクゥーム!】

【アクゥーームッ!!】

【───!!】


 怒号を上げる人型の夢魔は、式典の設備を破壊しながら魔法少女に群がり、蹴散らされ、手傷を負わせながらまた撃退される。

 浄化する魔法を使おうにも、数が多過ぎて隙がなく。

 3人は歯噛みしながら、徒手空拳と武器でアクゥームを捌いていく。


「執拗いなぁ!くぅ……ッ、後ろ!!」


 迫り来る拳を片っ端から対処していたリリーエーテが、背後から近付く影に気付き、振り向きざまに杖を一閃。

 音を消して近寄っていた敵───ペローの奇襲を防ぐ。


「おっとぉ、勘が鋭い」

「ベロー!また貴方の仕業ね!!」

「な・ま・えェ!!んんっ、んまぁ確かにこいつはオレら案件だけど、ちっとばかし誤解なんだぜ?」

「はぁ?」

「ガラ悪っ……」


 毎度恒例の名前間違いを訂正しながら、ペローもまた、まるでこの状況が、己の理解の及ばぬ範囲で起きた出来事とでも言いたげな顔をしていることにエーテは気付く。

 まだ数ヶ月の付き合いだが、機敏で読み取れるぐらいは理解るようになっていた。

 ……煙を巻くような態度のウサギ男に、エーテは魔杖をピンッと突き付ける。


「説明!」

「イエスマム───いやなぁ?オレっちたちもこの件にはびっくりしててな?だってなにも仕組んでない。式典には手出無用の方針で行こうかって話までしてたんだぜ?」

「……じゃあ、なんで」

「さぁ?ただ、明白なのは。オレっち達は、時間稼ぎ役に抜擢されたってこと」

「ッ」


 よく見れば、他の三銃士も姿を現していて、仲間たちと激闘を繰り広げていた。

 ブルーコメットはビルと武術勝負。

 ハニーデイズはチェルシーと魔法合戦。

 そして今、リリーエーテはペローとの前戯にもならない舌戦を終えて……


 彼の手に握られた、金色の懐中時計に目が止まる。


「待ってッ!」

「ざーんねん。んまぁ、実際オレらも詳細知らない系幹部なんだけど……命令されちゃあ仕方ない。部下は大人しく仕事に徹するのさ!」

「やめ───」


───時間魔法<ユート・クロノスタシス>


 その一瞬、世界の時が止まる。

 魔力量の問題で、止められる時間はたったの七秒───その余暇に、騒動の元凶たる怪人は最後の仕上げを施す。慰霊碑の上に最初からいたそれは、一通り恐怖と憎悪からユメエネルギーを集めたアクゥームに、号令を掛けた。


 たったそれだけの為の時間……御伽噺の魔法は解けて、停められた世界は動き出す。


 リリーエーテが意識を取り戻した時には、もう遅く。


「───ご苦労」


 慰霊碑の上にいた怪人、否、その帽子の頭に向かって、全てのアクゥームが群がっていく。


「あれは、最高幹部のッ!?」

「頭だけのマネキンに、帽子を乗せて……?」

「やっぱあの人だけビジュ違うよぉ!!」

「そこは同意…」

「何する気なんだボスは。つかなんだあの帽子」

「知らないッス」


 三銃士の妨害に遭いながら、魔法少女が見たのは、所謂木製のヘッドマネキンに斜めに被さった、マッドハッターの帽子頭。ギョロりと動いた三白眼が、慰霊碑を攀じ登るアクゥームたちを睥睨する。

 独りでに動くその帽子頭───魔法少女と同じく、実は三銃士とも初対面(?)のハット・アクゥームは、主からの命令を忠実に熟す。

 魔力を通して主の言葉を代弁し、世界を悪夢に閉ざす。


───巨大化魔法<ビッグロリータ>


 剥き出しになった牙を蠢かせ、帽子頭はその口を開き、暴力的な魔力に包まれながら身体を膨らませる。

 巨大化する帽子頭は、その口で次々と夢魔を捕食。

 一体も残さず、破片も零さず食らいつくさまは、まるで飢餓状態の獣のよう。


 蜘蛛のような機械仕掛けの多脚が、慰霊碑を削りながら巨体を支え、同時に石の破片を地上に撒き散らす。

 存在そのものが脅威の新たな怪物は、咆哮を上げ……


 渦巻く瞳孔が、理性を失った怪物の目が、戦々恐々する魔法少女たち視認した。


【───ハァァァット、アグゥゥームッッ!!!】


 “お茶会の魔人”の下僕が、暴食の化身となって希望へと襲いかかる。


 太陽を失った主が、月下の元に悪夢を育む為に。








꧁:✦✧✦:꧂








:【悲報】空が紫色に

:うわっ、ホントに空が!!

:こちら北九州。マジで暗いんだけど

:こちら道民。以下同文

:日本覆われてね?


 ハット・アクゥームの巨大化に伴い、日本の空は悪夢のユメエネルギーに覆われ、物質化。魔法少女以外には破壊できない天幕となり、宙から日本を覆い隠す。

 予行練習、いつかの為のデモンストレーション。

 暗雲に閉ざされた空の下、ハット・アクゥームは悪夢の大元からの命令に従って行動を開始。

 武器を構える魔法少女に向かって、多脚を動かし進軍。


 援護に回ろうとする三銃士も無視して、帽子頭の怪物は我武者羅に大暴れ。


「速いッ、あ!無理ー!」

「なによこいつ!一撃一撃が、重いッ!!」

「ッ、魔法も、強い!」


 今まで戦ってきたどのアクゥームよりも、強く、速く、そして硬い。シルクハットと蜘蛛足を合体させた見た目の珍妙な怪物だが、その強さは他の個体とは比較にならないヤバさを持つ。

 死の淵から復活した魔法少女の【悪夢】から生まれた、特別製の特異個体。

 暴力的な夢魔の一撃は、斧を振り回すことで力がついたハニーデイズさえも力負けする。


 巨大を活かした突進、機械の脚による刺突や薙ぎ払い、噛みつき攻撃、舌を鋭利にした斬撃……

 更には、無尽蔵の魔力による、魔法飽和攻撃。


───炎魔法<瞋恚>

───切断魔法<オウカセンバン>

───土魔法<獅威し・逆鉾>


 地獄の業火を纏った薙ぎ払い、飛ぶ斬撃は旋風となって全てを切り裂き、岩の小槍がその隙間を縫って魔法少女を刺しに行く。

 近付けば火達磨となり、斬撃で身体を切り刻まれる。

 遠巻きに観察しながら攻撃に移ろうにも、適格に死角を穿つ岩の小槍に襲われる。


 攻防一体、それ以外にも無数の魔法を使うことで、敵を近寄らせない。


「……オレっちたちの出番、ここで終わり?」

「ふわぁ……サボれていーじゃん。今のうちに、私は……帽子屋さんの本体を探してくる……」

「余計なことすんな。ったく……だが、マジで隙ねェな」

「横槍入れたら死にそう」

「がんばれー!」

「おい」


 あまりの猛攻に三銃士も近寄れず、下手に戦闘に入って怪我をすることを考えて、静観する構えを選ぶ。慰霊碑を根城に暴れる、怪物化した上司の帽子。

 まさかあの帽子が本体ではあるまいし……上司の正体に気付いているチェルシーは、何処かにいるであろう身体を目視で探すも、やはり見つからず。

 このまま勝てるのではと憶測を立ててしまう程の脅威を見せつける。


「きゃぁ!!」

「ッ、くぅ───!」

「あぐっ……!」


 圧倒的な暴力は、ドリームスタイルに変身した3人をも地べたに這いずらせる。

 たった一体の怪物。されど、内包するは無数の悪夢。

 今まで通用していた技は全て喰われ、無力化された。

 濃縮された悪夢の力を、ハット・アクゥームは惜しまず消費する。


 希望を捨てずに立ち上がる魔法少女に、更なる絶望を。


「ッ、嘘っ」


 帽子の収納部から大量の闇が溢れ出る、表面を這う闇は瞬く間に大地を覆い、黒く染まった地面は奇妙に泡立つ。

 そして、その闇から───無数の人影が立ち上がる。


 シルクハットが頭になった、燕尾服の球体人形。主たるマッドハッターを模した闇の兵隊が、独りでに動き出し、木の軋む音を奏でながら進軍。

 ステッキを振るい、魔法を放ちながら、帽子頭の怪人が襲いかかる。


 被っているのは目と口のない普通のシルクハットだが、あまりに不気味。


「……地獄かしら」


 戦況はひっくり返らず、帽子屋の侵攻は続く───…


ちなみに戦闘はカット

所詮、ハット・アクゥームは人気の出ないマスコット…

本体が出張るまでの時間稼ぎ役…


つまりはそういうことです

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うぅ、続き楽しみ
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