05-三色集結!新世代の魔法少女!
【アクゥーム!!】
「───また貴方の仕業ね、ベロー!」
「ふぅ……だ・か・ら、オレっちはペローッ!ペローだ!ぺ!べ、じゃなくてぺ!濁音と半濁音の違いぐらいわかれガキンチョォ!!名前は間違えちゃいけませんって常識を習わなかったのかよ!!」
「えへへ、ごめんねベロー」
「おいッ!!」
:いつもの
:学習しないリリーエーテちゃん
:今日の可哀想なベロー
:おいおい定番化してきたなこの流れ
:おぉ、敵と朗らかに会話できてる……成長したな!
:そりゃ毎日会ってたらな
:ぽまえら応援しろよ
:がんばえー!
:がんばえー!
───母校で魔法少女リリーエーテちゃんを見つけてから早三日。どうにも見覚えのある幼馴染の妹と、僕が現役で魔法少女やってた時に契約してた妖精、そして誰だお前な見知らぬ妖精の動向は、ここ三日こっそり監視していた。
勿論尾行ストーカーはメードだ。何度かピンクのクマにバレそうになったが、そこは隠密特化。なんとかなった。
いやホント、なんだあの超直感は。ムカつくなアレ。
あぁ、ちなみにここ三日間ペローは毎日出撃して、毎回リリーエーテと激突している。勝率はゼロパーセントだ。
着々と成長してってるなぁ……まぁ手抜き命じてるからあたりまえっちゃあたりまえなんだけど。そもそも相手がアクゥーム単体で、ペローは命令しかさせてないし。
悪いね、言うこと聞かせちゃって。後でまたお礼しよ。
……相変わらず、コメント欄は騒がしい。これ、妖精の配信魔法って言って、コメントを通して魔法少女に声援を送って力を増幅させるお手伝いをしてもらう、なんていうコンセプトのシステムだ。
勝ち負けも会話も全部流れるの、プライバシーとか色々どうなんだろうね。
現場に行かずに応援届けられるのはすごいと思うけど。
ペロー@三銃士
:うるせー!じゃかしいぞコメント欄ッ!
:あっ!ベローさんだ!
:なんでコメントできるんですか?
ペロー@三銃士
:チャンネル登録してるから
:それでいいのか悪の幹部
:許されんの?これ
:アウトー!
:戦闘に集中しろ
:ワロタ
なんで登録してんだよ。説教確定だよおバカさんめ。
ペローとアクゥーム、リリーエーテの激闘を企業ビルに不法侵入して上から観戦する僕。勿論戦闘がどうなるかも大事っちゃ大事なんだけど、それよりも上の目的がある。
それは、さっきから問題視している妖精の調査だ。
「がんばれエーテ!」
「がんばるぽふー!」
ぽふぽふ言ってるクマ妖精、ぽふるん。オレンジしてる毛色のヤツだ。なんか聞き覚えがある?僕も後々になって気付いた。ぬいぐるみ素体じゃないから違うけど。
おバカでちょっと抜けてるけど、魔法少女第一優先。
契約してる、してない魔法少女が危ない時は、自分より優先して守ろうとする……できた妖精だ。他の妖精さんも見習ってください。
あ!もういないんだった!種族単位で天涯孤独になったぽふるんである。
……なのに、なんかピンク色のクマが増えてるんだが?
「あのクマ妖精の妹、らしいですが」
「あいつ一人っ子だろ……知らないぞ妹なんて。嘘つける体質でもないし、嘘ついたらすぐバレるし……やっぱバカだから騙されてんじゃね?」
「確かに妖精は純粋な種族ですが……かつての帽子屋様と契約していたお方です。腹芸の一つや二つ、この二年間で身につけたのでは?」
「過大評価がすぎるね?」
メードがぽふるん高評価してる……ちっさいクマさん、ぬいぐるみみたいなヤツになにを期待してるんだ。あいつそこまですごい子じゃないぞ。
いや、今はそんなこと別にいいんだ。問題は別なんだ。
「ほまるん、ねぇ」
なんか聴いた覚えがあるような、ないような……うん、わからん。
「───チィ、なんか会う度会う度強くなってんなぁ!!これじゃあオレっちの立つ瀬がないなっちゃうよ……もう本気出した方がよくねー?」
「えっ、やめてください!泣いちゃいますよ!私が!」
「なんで逆に自信満々なの?」
なんか卑屈になってない?なにがあったの穂花ちゃん。
:自己肯定感ゼロ
:まだそこは成長してなかったか……
:オラ、手ぇ抜けよウサ公
:俺たちのエーテちゃんが可哀想だろォ!?
:↑通報
:↑裁判
:↑死刑
:略式すぎん?
:ゆるして
……二年前より、コメント欄は大分賑やかで、見ていて嫌な気分になりそうにない。うん、まだ死人がゼロだからそういう空気感になってるのかな?
ちょっと気安すぎだけど……まぁそこは許そう。
どうせなにもできない市民の声だ。法権力で悪夢関係は裁けないし。
どんどん押されてるアクゥーム。勝てそうにないなぁ。確かに、そろそろペローも実力行使させるべきかな。もう物理解禁させるかぁ。
あの子、一年半僕とビルとみっちり戦闘訓練しただけでそれなりに強くなれたから、きっとなんとかなるだろう。
……おっ、ユメエネルギー20超えてるじゃん。ちゃんと集めてるの偉いね。
集め方?アクゥームに対して、恐怖や憎悪、絶望などを感じさせることだ。ただ今の組織方針だと集まりづらい。だから改善策として、ちょっと志向を変えてみたんだ。
───魔法少女に向けられる、正の感情も対象に。
コメントの応援の力を、こっそり掠め取るってことだ。横領だね。横取りだね。酷い話だ。でも、必要だから……ヘマやらかして弱体化してるリデルが、本領の一部分でも発揮できるようにする為には。
いまんとこ、それ以外に使い道がないってのもあるが。
ユメエネルギー収集機である“夢瞳”は、コンパクト化の代償で蓄積限界がある。20%ならまだ入るけど、あんまり頑張ると許容超えて暴発する。
その危険性を三銃士に告げてないのは、僕らの秘密だ。
……あぁ、そうだ。魔法少女候補捜索は一時中断した。理由はさっき言ってたピンクのクマだ。マジで知らないのいて調査が必要だと思ったから。その調査中に魔法少女が増えても、僕の責任ではないよね?
なんかもう、素質ある子がリリーエーテの中の人と既に仲良くなってるのは、なんかのフラグじゃないよね?
違うと言って。
……もう勢い余って許可出すか。直接戦闘OKって。
「んんっ…───ペロー」
「ッ、帽子屋の旦那」
「旦那呼びはやめろと……まぁいい、戦闘許可を出そう。派手に暴れて、舐め腐った観客に目に物見せてやれ」
「ハッ!いいねー、最っ高!」
:なんか話しとる
:エーテちゃん気を付けて!
:上司か?
「さて……喜べガキンチョ、今から直接潰してやる」
「ッ!いーよ!なにをやっても、絶対に私が勝つもんね!どっからで、もっ!?きゃっ!?」
「あわわ!エーテ!避けるぽふー!」
「速っ〜!?」
念話で武力行使の許可を出したら、ペローが瞬間移動でリリーエーテに急接近、そのまま脇に鋭い蹴りを入れた。咄嗟に腕で防御が間に合ったけど、初撃と考えれば相当のダメージが入っただろう。
ちなみにペローは脚早くないよ。あれは別の要因による瞬間移動だ。
「オラオラ、いいのかー?オレっちだけに注意してて!」
瞬間移動で魔法少女を翻弄するペロー。大分遊んでる。かなりストレス溜まってたな?
そこにアクゥームを参戦させて苦戦させるのは良きだ。
トリッキーな瞬間移動で大立ち回りするペローは、まず体術で責め立てるみたい。ポケットに手を突っ込んでんの危ないよ。手の内隠す為ってのはわかるけど。
見る人が見たらナメてんなって言われるヤツだね。
……アクゥーム邪魔じゃね?連携もなにもない。やっぱスタンダードタイプのアクゥームじゃ、〈三銃士〉と連携なんて無理か。
命令を受けて行動する、多少自律して動く……程度しか知能ないもんなぁ。
僕が被ってる帽子、ハット・アクゥームは別物だけど。
:つえー!
:このままガンガン魔法少女倒していこうぜ!
:↑それじゃダメだろ
:足癖が悪いザマス
その後の戦闘はペロー有利に進み、アクゥームの光線や大振りな攻撃も相まってリリーエーテは大苦戦。変身してまだ三日、いや四日だもんねぇ。実戦続きで鍛えられてもまた違うし。これは初の魔法少女敗北かな?
ペローのヤツも年下の女の子相手だからか弱めに戦って調整してるし、まだ打開できる隙はあると思うけど。
……なんか僕ら、魔法少女のこと介護してない?手厚いフォローにも程があるよ?
【アクゥームッ!!】
「うっ、くぅ……まだ、負けてないもん!!」
「そーゆー負けず嫌いなの、おにーさん嫌いじゃないぜ!だからってやさしくはしねーけど、なっ!」
「きゃっ!!」
地面に倒れて、身体が傷ついても、リリーエーテはまだ諦めない。魔法少女にいる最低限の心持ちを魅せてくる。いい子だなぁ……嫌いになれない。
元魔法少女の視点だと、僕もあんな時期があった……
あったかぁ?
……さて、そろそろいい頃合いかな。ここで魔法少女は退場してもらおう。魔法少女リリーエーテを悪夢に閉ざす封印の準備をこっそり始める。
殺しはしない。アリスメアーが目的を達した後、夢から解放してあげよう。
悪の組織としては、この考え方は正しいでしょ?
……洗脳されてんのかなぁ、これは。魔法少女消すのに抵抗感ないなってるよ。
「そんじゃ、これで終わりにしよっか───あばよ!」
ペローが指に魔力を溜める。破壊光線。リリーエーテを戦闘不能にするのはペローに与えられたもう一つの任務。今ん所出撃してるのは彼だけだけど、魔法少女が増えたら他の2人にも任せられる任務だ。
ちなみに、今の戦闘中もチェルシーとビルはこそこそと暗躍している。
「うっ……」
「エーテ〜!!」
「あわわ!」
:逃げて!
:だれかー!
地面に手をついてる魔法少女は、避けるだけの体力も、気力もなくて───…
紫紺の魔力熱線が、リリーエーテを飲み込んだ。
勝ったな()。これは初の黒星だねぇ。魔法少女候補からまだ選ばれてないのは確認済み。契約できる妖精はここで慌てていただけ。不穏なピンククマもここにいる。
うんうん、アリスメアー大勝利!エーテちゃん、もとい穂花ちゃんは僕がしっかり封印して管理するからね。
ちゃんと自室の地下に、魔法少女封印場はあるんだし。
そう意気揚々と、初勝利に対し拍手するメードと一緒に心から喜んでいたら……
「……おろ?」
なんか、ペローの様子がおかしい。って、はぁ???
「───危なかったわね、おバカさん」
「───まっ、間に合った〜!」
リリーエーテの前に立って守る、青色と黄色の見知らぬ女の子が現れた。
「なっ、なに君ら……もしかして、だけど」
冷や汗をかくペローが、僕の気持ちを代弁して聞けば。
「ふんっ!いいわ、名乗ってあげるわ!私たちの名前を、その腐った魂に刻みなさい!すぅ〜……正義の心で悪夢を覚ます!魔法少女ブルーコメット!ここに参上ッ!!」
「これあたしもやるの……?んんっ、えと、実感ないけど魔法少女やります!勇気凛々、ハニーデイズ、ですっ!」
「???」
あるぇー?なんか見覚えある魔力反応だなぁー???
「……えっ、うそ…本当!?」
「はァ!?なっ、ぽふるん契約してな……ほまるんー!?もっ、もしかしてやったぽふか!?」
「がんばった!!」
:キター!
:よくわかんないけどよくやった!
:【速報】リリーエーテ生還!リリーエーテ生還!
:推しが増えました
:やっちまえー!
:がんばえー!!!
:ナイスぅ
……えぇ、うそぉ、ご都合主義ぃ…そして貴様の仕業かピンク色ぉぉ……