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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
手のひらを太陽に

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42-夏の始まりと勉強会

身バレ回


 アリスメアーと魔法少女の戦いは、あまり大きな進展のないまま夏にもつれ込んだ。

 そして、魔法少女たちは中学生。学生の本分は勉強だ。


「……ねぇ、どう思う」

「ごめん、もうそうとしか思えなくなった」

「よね」


 放課後。

 御伽草中学校のとある教室。扉の陰からこっそり教室を覗き込む蒼生と穂花の視線の先には、2人の生徒が楽しく談笑している姿があった。

 片方は、彼女たちの仲間である財閥令嬢のきらら。

 そして、学校で……否、全国の同学年で最も頭がいいと称賛される天才児、夢之宮寝子。


 半分寝かけて、気怠げに、眠そうな寝子の、その姿……それが、見覚えのあるとある人物と一致してしまう。

 平然と抱き着くきららのその言動も相まって、余計に。


 疑念満載の2人の視線に、きららは気付いていない。


「問い質しましょう」

「冤罪だったら大変じゃ……」

「いやあれはもう確定よ。雰囲気とか空気感とかがモロにそうじゃない」

「た、確かに否定はできないけど……じゃあ、行こっか」


 2人はそーっと、談笑する他の生徒たちでも気付けない隠密力を発揮して近付き、きららと寝子の肩をぽんっ、とやさしく叩いた。


「うぇ?なになに───ぁ」

「……だれ」

「初めまして、穂花だよ!こっちは蒼生ちゃん!」

「こんにちは……きらら、そして夢之宮さん……ちょっとお時間、いいかしら」


 冷や汗ダラダラのきららは、仏頂面で面倒そうな表情の寝子の手を引き、思わず、そう、思わず……


 全力で教室を駆け抜けた。


「逃げるんだよー!」

「悪手…」

「あらあらあらどうしたのかしら」

「どこに逃げようと言うのかね」

「待って!あと口調!どったのホノちゃん!?」

「ついノリで……」


 戦略的撤退を選んだきららだったが、逃げる気力がない寝子を引っ張っての逃走は難しく、思ったよりも鬼2人の追いかける速度が早く、すぐに捕まってしまった。

 美術準備室に連行されたきららは、申し訳のない表情で寝子を見つめる。


 寝子はなんとも思ってない、ふてぶてしい顔であった。


「語らずとも、理由はわかるわね?」

「あ、あははー、とうとうバレちゃったかぁ〜。ごめんね寝子ちゃん……」

「最初から期待はしてなかった」

「酷いっ!」


 四つの机を向き合う形に並べて座る。

 詰問された2人もそれ以上隠すつもりはないのか、最早堂々とした具合で椅子にふんぞり返っている。堂々とした居住まいにはさしもの蒼生も緊張した趣きになっている。

 確信をもって、というよりも、包み隠す気のない天才と能天気のコンビに穂花は溜息を吐いて……アリスメアーの幹部との、お喋りを始める。


「こんな身近にいたのは、正直びっくり」

「いつから知ってたのよ?」

「仲良くなってからかなー。なんか似てるって思って……温泉入った時には、もう確信してたって感じ?」

「あ〜、道理で……」

「知ってたなら言ってよ!敵同士の友情とかどうなのって悩んだんだよ私!!」

「……ブランディング?」

「そう!」


 市民の目が行く魔法少女が、表面上でも敵と仲良いのはどうなんだろうと思っていたのに、まさか日常でも普通に仲良くなっているとは思わない。

 緩い考えの穂花は仲良くなってもいいんじゃね派だが、そうも言ってられない。

 蒼生はいざという時にちゃんと戦えるかが心配だが……普段の戦闘で、斧で果敢に攻め込み、魔法で反撃しまくる2人の攻防を思い出して、まぁ大丈夫かといらない文句を飲み込んだ。


 バレているなら意味は無いと、寝子は偽装……怪人化を誤魔化すそれを解除し、人間から怪人になった今の姿……三銃士のチェルシーへと戻る。

 アリスメアーに入るにあたって捨てた、人としての姿を未だに使っているのは学歴の為。偽装なんてせずに大学を卒業することで、所属組織に、ひいてはマッドハッターに貢献する為だ。


 見覚えのあるピンク色の猫耳に、ちょびっと湧く戦意を押し殺して、2人は会話を再開する。


「この前の、呼ばれてすぐ来れた理由も納得だわ」

「同じ学校っていうか、クラスが一緒だったんだもんね。そりゃ早いや……」

「かっ、懐柔作戦だから!!」

「無理があると思う……ふわぁ…んで、これを知って……あなた達はどうするの?」

「え?」

「……身近にアリスメアーの幹部がいて、なにもしない?そんな魔法少女がいるの?」

「……あっ」

「……あっ」

「ダメだこりゃ」

「お前が言うな」

「はい」


 衝動的に掴みかかってその後のことを考えていなかった穂花と蒼生は、自分たちの考え足らずの行動に思わず頭を抱えてしまった。

 本当になにも考えていなかった。

 ただ問い質して知って満足する───それだけで終わるわけにはいかない。


「……そうだわ。ねぇ、見逃す対価ってことで、“あれ”を頼むのはどうかしら」

「あれ?あれってなに……」

「ごにょごにょ…」

「………あー!成程!確かに!!」

「う?」

「ん?」


 そこで蒼生は閃いた。今現在直面している、その問題に視野を当てて。


「寝子ちゃん!」

「夢之宮さん!」

「な、なに」

「「───私たちに、勉強教えてっ!!」」

「……は?」

「お?」


 そう、それは勉強。学期を締める、期末テストの危機が魔法少女に迫っていたのだ。

 普段魔法少女として活動している3人。

 【悪夢】との戦闘だけでなく、強くなる為の魔法訓練で日々を費やしている……

 つまり、勉強している時間が圧倒的に少ない。

 元々テストの成績が良かったとは言えなかった3人は、魔法少女になったことで成績低下が顕著になり……


 そろそろ真面目に勉強を、それも、頭のいい誰かからの師事を受けないといけない危機感に陥ったのだ。


 そして今、ここに学校一頭のいい天才児がいる。


「勉強教えて!お願いします!」

「お願い!今回だけでいいからッ……そろそろお母さんにドヤされるの!」

「あっ、じゃーあたしもお願い。いつも通り」

「……はァ」


 頭を下げる2人と、いつも通りで最早慣れている親友の異なる反応に、チェルシーは呆れてモノも言えぬ表情で、思わず溜息を零す。

 流石にそれは想定外。魔法少女に勉強を教えるなど。

 断ってもいいのだが、受け入れても大したデメリットはなく……数秒は考えてから、チェルシーは渋々OKサインを出した。


 そして少し時は経ち、翌日の土曜日。試験一週間前。


「まずは基礎学力を確認する…」

「はーい、あっ、これテスト範囲の問題?」

「そう。自分で作った」

「これを?すごいわね……ありがとう、やるわ」

「これあたしも?」

「やれ」

「はい」


 晴蜜財閥の御屋敷に集まって、寝子が作った軽い問題をまずは解く。きらら専属の召使いが持ってきたスイーツを片手間に食べながら、3人は集中して問題に挑む。

 難易度はそこそこで、期末試験の為に勉強をしていればなんとか解答できる代物である。

 脂汗を垂らして頑張る3人を眺めながら、寝子は密かにAIを改修していた。


 軽快にキーボードを叩く音に意識を逸らしたきららが、思わず質問する。


「なにそれ」

「集中し……あぁ、邪魔だったか。まぁ、うん……この前試験運用した試作AI、ATMくんの改修」

「ネーミングセンス」

「そんな略称でいいの……?」

「別に、こだわりはないし……んー、知能自体はいいけどエラー対応が悪い……あ、ごめん。うるさかった。ちょい空気読むね」

「いーよ気にしないで」

「こっちは頼ってる身だもの……あ、まさかそのAIでまた戦うつもり?」

「まぁ」


 雑音があっても勉強できるタイプの寝子は、しっかりと他人に配慮してやめようとしたが、いいよいいよと3人に止められて、ならとパソコンとの睨めっこを再開した。

 “ATO HA MAKASETA くん”───現在成長中の高性能人工知能。

 どうにか発展させて、自分の代わりにユメエネルギーの効率回収を頑張ってもらうのだ。


 怠惰な理由ではあるが、仕事はするから問題はない。


「できた!」

「やけに時間かかったわね……採点お願いできるかしら」

「お願いしまーす」

「うん」


 各々の知能レベルを確認する為のテストの結果は、まあ寝子の想像通り。


「うん、きらら───私の今までの努力を返せ」

「えっ」

「……うわーお。こりゃ酷い」

「あんたね……」

「ゃ、あー、えっとその……あ、あたしだってそれなりに頑張ってるもんっ!!」


 最早語るまでもない。穂花と蒼生もテスト直前にしては危機感を持たなければいけないレベルだが、それは寝子がちゃんとサポートすれば問題ない。

 問題はきらら。普段勉強を教えているから、それなりに取れると思っていたのに。想定よりも下の点数に、怒りのデコピンが炸裂。これには2人も首を竦めるしかない。

 取り敢えずどれくらい教えればいいのか把握した寝子。問題児をしっかりと監督しながら、バカになりかけていた魔法少女たちに教鞭を執った。


 最初からバカだった財閥令嬢は、普段より倍の勉強量を短時間に強いられ、頭がパンクした。


「うーっ、はぁ。疲れた〜」

「意外と肩凝るわね……あら、もうこんな時間」

「もう無理だよぉ、死んじゃうよぉ」

「はァ……わかった。今日はここまで。んまぁ、3人とも平均点以上は取れるぐらいはできるようになった……と、思う」


 窓の向こうに日が沈んでいくのを見て、寝子は勉強会を終わりにした。僅か半日で遅れていた部分を取り戻して、テストで後悔しないようにカバーしたのだ。

 その腕前は天才の一言に尽きる。復習さえ忘れなければ平均点以上、上手くいけば高得点を狙えるだろう。

 一人だけ心配になるのがいるが……まぁ、きっと大丈夫だろう。


「ははー、寝子ちゃん先生様ー」

「恩に着るわ。これでなんとかなる……」

「……毒親?」

「いや、ちょっと厳しいだけよ。なんていうのかしら……家って警察官の家系だから、掟とかを重視してるのよね。時代が時代だから体罰はないけど、お叱りの言葉が、こう強くって……はァ、テストの度に憂鬱よ。お前ならもっといい点が取れる筈だーって。執拗いったらありゃしない」

「ふーん、そう……期待されてていいんじゃない?」

「期待ねぇ……文武両道の兄と比較されてる気分だから、そう思えないのよねぇ」


 人それぞれの家庭環境。そういうのもあるのかと静かに納得した寝子は、これ以上長居する必要もないとさっさと帰宅準備を開始する。時間が時間だからか、穂花と蒼生もそれに倣って帰り支度を始めた。

 そこで慌てたのはきらら。何故か半べそかいて、3人が帰ろうとするのを止めようとする。


「やだー!次は遊ぶの!!!」

「えぇ!?テスト前なのに!?ダメだよそれは!!」

「きらら、あんたねぇ……」

「いい加減にしろバカ……毎回毎回何故懲りない……ねぇなんとかして。仲間なんでしょ」

「むっ、無理難題……き、きららちゃん。テストまでまだ我慢しよ?終わったら目いっぱい遊ぼ?ね?」

「えーっ」


 癇癪を起こすきららをなんとか宥め、試験が終わった後遊ぶ約束をして場を収める。

 何故か自分も巻き込まれた寝子は釈然としない様子。

 諦めろと肩を叩く蒼生を振り払って、幾度目かの溜息を吐いた。


───一週間後、3人は寝子の教えを最大限に活かして、なんとかテストを突破。満足いく点数を取って口うるさい家族を黙らせたり、家庭教師を気取る妖精を黙らせ、約束通り遊びに出掛けるのであった。

 全教科満点を取った寝子は、終始釈然としない顔でまた連れ去られた。


 夏が始まっても、寝子に安息の日々は来ないようだ。


オマケ:一切描写のなかった妖精たち


「私が教えたかった」

「教え方下手ぽふ。うるあの方が千倍マシぽふ」

「ぐすん…」


 お留守番してた。

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