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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
悪夢の国のマッドハッター

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39-題材、救いなき悪夢の人形劇


 残夢のメードからの情報で、再び廃旅館を飛んで駆ける魔法少女たちは、イルカのエコーロケーションを模倣した魔力反応の探知で、地下室への入り口を探す。

 ……その魔力に人形たちが過敏に反応して、またしても追いかけっこが始まるのだが。

 今度は、逃亡や潜伏よりも捜索に力を入れて、いち早く事態の解決を目指す。


「まだ!?」

「空間が断続してるんでしょ?ここにあるとは限らない、でしょうっ!?」

「ナイス回h、あっぶなぁい!!」

「掠ってるぽふー!!」

「死ぬ死ぬ死ぬ〜!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図。悲鳴を上げながら廊下を駆けて、全員でくまなく辺りを確認し……


「あった!!!」


:ナイスぅ

:nice

:やっと見つかった!

:お手柄!


 苦節20分、漸くハニーデイズが廊下の突き当たりに扉を見つける。壁紙に隠されたそれへ、全力の魔力弾を発射。そのまま勢いで突っ込めば、隠し扉ごと地下行きの階段を転がり落ちる。


「ぎゃっ」

「弾性魔法っ、いや間に合わなっ」

「いやー!?」


:嘘だろ?

:たまにあるよねギャグ展開

:魔法少女のお約束

:それでいいのか……?


 ゴロゴロと転げ落ちた先。魔力で強化された肉体だったお陰で軽傷で済んだが、それでも痛む身体にムチを打って立ち上がり……不穏な魔力の胎動を感じる、重厚な鉄製の扉が目に入る。

 あまりにもそのまんまな雰囲気に息を飲んで、エーテがそっとドアノブに手をかけて。

 ゆっくりと、重い扉を開けていく。


───ギィ…


 扉の向こう側───そこに広がっていたのは、一寸先の壁さえ見えない暗闇。だが、その中央に……巨大な人形、その頭部と右手のみが無数に集まり、組み合わさった異形の構築物が、静かに浮かんでいた。

 否、無数の頭部に嵌められた瞳は、全てギョロギョロと動いている。


 ひと目でわかる、悪夢の元凶。人形を支配する人形。


【アァァァ───…】


 目玉の一つが、魔法少女を視認する。瞬間、ギョロりと全ての眼球が一点を、魔法少女たちの方向を凝視する。

 おどろおどろしい怪物は、この地を統括する制御装置。

 マッドハッターが設置した、魔法少女後援会を偽装する悪魔の機械。


「頑張ろ」

「えぇ、やりましょう」

「やったるどー!」


 魔法の大部分を制限された状態でも、意気を損なわず。


:がんばれ!

:悪夢に負けないで!

:届け俺の思いー!


 悪夢人形群───マリオネット・アクゥームに、3人の希望が炸裂する。


「先手必勝ッ!」

「自分の魔法が使えなくたって!」

「私たちは、怯まない!」


 魔力弾をステッキから放ち、人形の関節部を的確に狙う一勢掃射。具現化した魔力を紐のように編んで、大挙する手の大群を絡め取り、一纏めに。訓練で身につけた、魔力操作の基礎を巧みに使って、3人はアクゥームに猛攻。

 マリオネット・アクゥームは大量の手を彷徨わせるが、洗練された動きについていけていない。

 ……そもそも戦闘用の運用方法を想定していない作りのアクゥームだった為か、汎用魔法でもなんとか食いつけるレベルの規模感の敵に収まっている、が。


「硬いッ……」

「発火魔法!ちょ、全然効いてる気がしないよー!」

「やっばり火力が……!」


 蒼月製の汎用魔法は、魔法で生活を豊かにできるのか、できそうだからやってみるか、といったふんわりな考えで作られたモノだ。組み合わせ次第で戦闘にも活かせるが、それでも、そこまでといったダメージしか出ない。

 無論、工夫次第でそれも変わるが……各々の固有魔法と比較すれば心許ない。


 発火魔法、水鉄砲魔法、帯電魔法等……仮想魔法空間で習得できた創作の汎用魔法は、木製だと見受けられる敵の躯体を傷付ける以外にダメージを与えられない。

 破損や崩壊まで持っていくには、どうすべきか。

 唯一、それができる汎用魔法を習得できているのは……ブルーコメットのみ。


「ぶっつけ本番ってわけね……借りるわよ、先輩!」


 やるしかないと決意して、人形の手の群れを他の2人が相手取っている隙に、その魔法を行使。汎用魔法にしては大量に魔力を消費して顕現するその塊は、すぐさま封印し禁止されるべき代物。

 有事であったからこそ許されたまである、ムーンラピス渾身の力作。


 コメットの肩に、銀の筒が乗り。大きな衝撃をもって、空気を引き裂きながら進軍する、それの名は。


「弾道ミサイル魔法───ファイアッ!!」


 狙うは内部機構───異空間内での、固有魔法の使用を制限するシステムの破壊。


 文字通り短距離を直進移動したミサイルが、目論見通りアクゥームの複数の頭部に激突、炸裂。悲鳴をあげながら悶絶する人形の王は、バラバラと木屑を落とす音も立て、確かなダメージが入ったことを確信させる。

 流石は全魔法中最高ランクの攻撃といったところか……反動で一定時間動けず、魔力の大部分を回復待ちしないといけなくなるが、その威力は絶大。

 初挑戦で魔法成功を収めたコメットは、脂汗を垂らして撃沈させた人形劇を睨む。


 ……だが、やはりと言うべきか。本家が引き金を引いた魔法よりも弱かったのか。

 マリオネット・アクゥームは、まだまだ健在。

 例え、魔法少女を弱体化していた機構が破壊されても。

 幾つかの頭部を失い、あまりに無惨な惨い姿になろうとお構いなく、見開かれたままの複数の魔瞳がエーテたちを力強く睨みつける。


【アァァァ───…】


 全身から煙を吐き出して、軋む木造躯体を持ち上げて、壊れかけの人形が魔光を迸らせる。

 露出した内部から、妖しい光を放つ結晶、“核”が覗く。

 魔法制限機構を破壊されたエラーに応え、アクゥームは更なる試練を魔法少女に齎す。


 魔法により、空間の亀裂が次々と空いていく───…


「ッ、魔法!使える!」

「やった!蒼月様様!ナイスコメッ───うわぁ!?」

「今度は何よッ、て、さっきの人形!」


 固有魔法を取り戻したことに感覚で気付いた時、空間の亀裂から続々と旅館の従業員を真似た人形たちが現れる。和装のそれらは、杖に各々の武器……肉切り包丁ではない本当の武器を、模倣したそれを持っていた。

 刀、スナイパーライフル、玩具のハンマー、泡立て器、重量鉄骨、タンバリン、火炎放射器、本、銀の短剣……

 元となった魔法少女が使っていた武器を手に取って。


「イラッシャイマセ」

「イラッシャイマセ」

「イラッシャイマセ」

「イラッシャイマセ」

「イラッシャイマセ」

「イラッシャイマセ」

「イラッシャイマセ」

「イラッシャイマセ」

「イラッシャイマセ」


 親玉を守るように、人形たちは魔法少女に立ち塞がる。


───切断魔法<サクラミヤビ>

───貫通魔法<ラスト・ペネトレイター>

───爆弾魔法<ボンバー・ドーン>

───お菓子の魔法<スイーツ・スイート>

───地震魔法<ドンガラガララ>

───音魔法<デスボイス・メロディー>

───炎魔法<瞋恚>

───本魔法<ライブラリー・オブ・シャドウ>

───銀魔法<キル・アルジェー>


 空間を斬り裂く魔法、万物を貫通する弾丸、叩いた物を爆弾にするハンマー、生クリームの濁流、人為的に地震を引き起こす鉄骨の一撃、実体化した死の旋律、地獄の炎、バラバラになった魔導書の頁、飛来する銀の短剣。

 9つの魔法が、一斉に新世代へと襲いかかる。

 避けれるものなら避けてみろ。そう言わんばかりの物量攻撃を、まだ動けないコメットの代わりに、エーテたちが己の魔法を駆使して突破する。


「夢魔法───」

「花魔法───」


 心を合わせて、猿真似の魔法を、人形諸共一撃で。


「「「<マギア・ツートン・ハリケーン>!!」」」


 彼女たちの色が渦巻く二色の嵐が、迫り来る魔法の壁に風穴を空け、斬撃も弾丸も生クリームも絡め取って四方の適当な所へ吹き飛ばす。絶対に先輩たちの目を覚ますと、取り返すといった想いの力が後押しして、向こう側にいる魔法少女の残骸諸共吹き飛ばす。

 突風は勢いを止めず、アクゥーム本体にも届くと思ったその時。


「切断魔法<アマツダチ>」


 若女将の人形───“断雲”のアカツキの強力な斬撃が、三色の嵐を引き裂き、マリオネット・アクゥームに魔法が直撃する前に減衰させる。

 構えられた日本刀は、確かに本物が使っていた真銘。

 魔法を斬り裂く神刀をもって、後任たる魔法少女たちに切りかかる。


「バーリア!って、斬られたぁ!!」


:強っ

:こんな人おったんか

:有名人やぞ

:片足失って引退した剣士だ

:流石に義足じゃ無理やったか…

:諸行無常…


 万物を切り開く魔法の斬撃は、侵攻を阻害する全てを、どんなモノでも斬り裂く。ハニーデイズの魔法の盾は軽く斬り裂かれたが……それで諦める彼女ではなく。

 威力減衰を目論んで、何重もの盾を展開、更に斧を使い刀と交叉させる。

 その隙に。


「邪魔、しないで!」


 魔力回復を間に合わせたコメットが、ステッキを槍へと変換して、2人の間に入り……若女将と複数回切り結び、手早く脇腹へ槍の側面を当て、大きく薙ぎ払う。

 受け身も取れずに床を転がる人形を無視し、更に吶喊。

 再起して群れる他の人形たちも無視して、合流した他の2人と息を合わせて。


【アァァァ───…】


 無数の手で壁を作り、必死に防御しようとする人形頭に挑発的な笑みを向けて……


「届け!」

「貫け!」

「響け!」


 各々の武器で妨害を破壊し、乗り越えて、魔法を発動。


「“青く輝く彗星よ”!」

「“光に満ちた、天の花園より”!」

「“祝福を届けたまえ”!」


「「「───奇跡重奏!<ウェイクアップ・ミラキュラスハイドリーム>!!」」」


 3人の合技が、マリオネット・アクゥームに直接注がれ夢の光を浸透させる。ドリームスタイルに変身していない状態での大技だった為、威力は過去のモノよりも低いが、それでも……このアクゥームを機能停止に陥らせることはできる。


 夢の光が人形頭を包み、そして……その核を貫いた。


【アァァァ───…】


 宙に浮いた人形の集合体が、力を失い、地上へ落ちる。ガシャンと音を立てて崩れる右手たち。幾つかの頭も床へ転がり、バラバラになって散逸する。

 マリオネット・アクゥーム、機能完全停止。

 それを証明するかのように、群れていた偽物人形たちも動きを止め、そのまま床に倒れ込んだ。


「よっし!」

「ないすー!」

「わーい!」


:おめでとう!

:よかった勝った!

:安心安心


 手を取り合って喜び、ぴょんぴょん跳ねて勝利を祝す。制限された魔法も解放して、満足いく戦闘法ができずともやり遂げた。

 またしても成長を見せつけた魔法少女たちに、視聴者は拍手喝采……


 その喜びの空気を引き裂く様に、吹き飛んだ人形の核が踏みつけられる。


「───命令受信。災禍甦生と参りましょう」


 暗闇から現れた幹部補佐、メードが───笑う。


「なっ」

「っ、まさか!」

「誠におめでとうございます、魔法少女の皆様……そして申し訳ございません。我ら死人の戯れは、どうにも、まだ続編があったようでして」

「いらない!」

「そう言わずに───帽子屋様は、旧時代の解放を望んでおりません。ここは諦めて、どうか負けてください」


 足で踏みつけた核に、悪夢の魔力を、ユメエネルギーを強制注入。オーバーロードしかける程の魔力暴走を意図的に引き起こして、メードは人形の再起を図る。

 いらない機能は削ぎ落とし、より戦闘に適した躯体へ。

 使えない劇団員も、もういらない旅館も巻き込んで……新たな悪夢を、この地に下ろす。


「くっ、みんな上に!」

「ぽふるん!隠れてないで捕まって!」

「ひぇ〜」


 妖精たちの先導で、振動し、崩壊する旅館から飛び立つ魔法少女たち。瓦礫を纏い、人形を束ね、暴発する魔力をその身に取り込む怪物を、ただ静かに見上げて睨む。

 メードによって再創された夢魔が、遂にその姿を現す。

 崩落した地面の穴から、巨大な腕───木製人形の手がへりを掴んで、轟音を上げて這い上がる。


 それは一見すれば、ビルよりも高いデッサンマネキン。特徴的な四角い頭、角張った躯体……先程の丸みを帯びた人形体よりも、強化されたと感じられる仕様変更。

 都心に現れた巨神から逃げる人々の悲鳴が辺りに響く。

 四角い頭部の上、見晴らしのよすぎる展望台で姿勢よく佇むメードは、眼下の魔法少女……最早遠すぎて見えない足元の影に、魔法で声を届ける。


「さぁ、最終ラウンドの始まりです」


 宣戦布告は、失われた魔法と共に、世界へ放たれた。


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