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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
悪夢の国のマッドハッター

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37-魔法少女たちの恐怖体験


 舞帆露芭亭───何処か不気味な、不可思議な空気感に包まれたその館に、穂花たちは生身の状態で、変身はせず魔法少女後援会の本部に来ていた。

 なんだかよくわからない、身が竦むような悪寒に身体を震わせながら。


「ここ、だよね?」

「な、なんだか不気味ね……」

「帰りたくなってきた……」

「気持ちはわかるけど……うん、でも、確かに。なんだか気味悪いね、ここ」


 理由もわからぬ恐怖に戸惑いながらも、来たことのあるほまるんの先導で館内へ。インターホンを押しても反応がないおかしさにますます疑念を深めながら、玄関帳場へ。

 一見すれば、木造の温もりが感じられる和風建築だが、肌を刺す冷たい空気が流れ、廃墟のような、寂れた雰囲気までもを感じる。

 少女3人は経験がないが、まるでホラースポットにいるみたいだとほまるんは内心訝しむ。

 ここまで人気のない、生活感を感じない宿屋ではないと記憶していたから。


「みんな、気を付けて……絶対におかしいから」


 無言で頷いた穂花たちの、頼れる妖精を見る目を見て、ほまるんは内心思った。

 あっ、この子たち、そんなホラー耐性ないわ。


 あの勝気な蒼生でさえ微妙に身体を震わせているのだ。察せない程彼女も愚鈍ではない。別に、そこを野次っても

いいのだが、状況が状況だ。

 ほまるんは茶化したくなる心に蓋をして、真面目に旅館探索に取り組む。


 玄関帳場のベルを鳴らす。誰も来ない。まるで無人。


「……これはヤバいかもなぁ」

「やっ、やっぱりぃ?」

「不在なのは仕方ないわ。かかか帰りましょ」

「で、でも、ぽふるんの位置情報はまだここ指してるん、だよね……?」


 ありえないのだ。従業員が一人もいないのも、ここまで静寂に支配されているのも。

 だが、ここで探索を取り止めるのはいただけない。

 魔法少女としての心構えとか強さの安心感などを3人に力説する形で鼓舞して、幽霊なんかには負けないと自信を持ってもらい、更に今の内に変身させることで万が一の時戦えるようにする、といったところで。

 ほまるんの小さなクマ耳に、一つの異音が届く。


 ギシ…ギシ…と、床を踏み締める音。暗がりの廊下から音が聴こえる。人が歩き、近付く音が。


「……来る」

「っ……」

「ひっ」


 穂花たちが魔法少女に変身するよりも早く、音の正体が暖色のランプに照らされる。


「───いらっしゃいませ、お客様」


 紫紺色の着物を着た若女将が、そこにいた。


「ど、どうも〜……」

「お、お邪魔してます……」

「あ、あはは……」

「……」

(ねぇあの人本物なの!?)

(目に光入ってないんだけど!?)

(怖いよぉ!!)

(ちくわ大明神)

(((だれっ!?)))

(www)


 若女将には聞かれないよう、アイコンタクトでこっそり会話しながら、4人で恐る恐る仰ぎ見る。暗がりにいる為大変恐怖を煽るし、瞳が髪に、いや陰に隠れて見えないがきっと大丈夫……大丈夫だと思いたい。その一心で、まずコミュニケーションを取ろうと、恐怖心を我慢して穂花が一歩近付いた、その時。

 佇んでいた若女将もまた、一歩踏み出し。かくんっ、と首を傾ける。


「えっ───」

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃイませ、いラっしゃいませ、いらっシャいませ、いラッしゃいマセ、イらっしャいませ、いラッシャイませ、イラッしゃいませ、イラッシャイマセ、イラッシャイマセ、イラッシャイマセ、イラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセ───…」

「こひゅ」

「はへっ」


 壊れたラジカセのように、狂ったように、言葉の羅列を繰り返し始める。異常を感じた3人は、思わず後退し……面を上げた、陰に隠された女将の瞳を直視する。

 彼女たちは、この時点で生気のない瞳を想像していた。

 なにせ見るからにホラーなナニカ。人形めいた光のない瞳があると思っていたら。


「イラッシャイマセ、オ客様」


 そこには、瞳の入っていない、瞳孔があるべき場所には暗い穴が空いていた。


「「「「ぎゃーーーっ!!?」」」」


 間髪入れずに叫んだ4人は、一目散に逃げようとして。


「イラッ、イラララララララララ───…侵入者ヲ検知。対象ヲ排除シ〼」


 若女将(?)が、その手に巨大な肉切り包丁を召喚し……彼女たち目掛けて、突進し始める!!


「ちょちょ、待っ、えっ!?」

「これ、マズイんじゃ……」

「ににっ、逃げよ!これ絶対ヤバいやつ〜!!」

「みんなこっち〜!!」


 不気味な声で、不気味な武器で、不気味な挙動で4人に走り寄る若女将から、魔法少女たちは全力疾走。

 恐怖から生き延びる為に、その健脚を動かすのだった。


 若き魔法少女たちの、思いもよらぬ逃走劇が、今ここに幕を開けた。








꧁:✦✧✦:꧂








「今緊急で配信回してまーす!!リリーエーテです!誰か助けて!!」


:どうした!?

:そこどこ!?

:暗っ!

:不気味すぎひん?

:隠れてるの?

:なにがあった…

:説明求む


 空室のクローゼットに潜むリリーエーテが、配信魔法をなんとか起動して視聴者との接触に成功。恐怖心を抑えて受け答えする様は、見る者に庇護欲やらを唆らせる。

 逃げる最中はぐれてしまった仲間たちも心配だが、まず自分の生存を配信越しに伝える。

 ちなみにほまるんだけはリリーエーテの傍にいる。


 ひしひしと感じる悪寒からは目を背けて、冷や汗を裾で拭いながら。


「あ、あのね。ここ、魔法少女後援会本部なんだけど……こんなホラースポットじゃなかったよね!?女将さんの目無かったし、壊れたラジカセみたいな喋り方だし、デカイ包丁でこっち襲ってくるし……怖いよぉ!!」

「エーテエーテ、落ち着いて!声も潜めて……」

「うっ」


:後援会ぃ?そこが???

:情報が!多い!

:あそこ旅館だろ?それがお化け屋敷?

:確かに背景旅館っぽい……?

:何が起こってるの?


 疑問に思う視聴者たちに、噛みながらも情報を伝える。ぽふるんとの連絡がつかないこと、GPSの反応が後援会の本部を指していたこと、無人であったこと、従業員が軒並おかしかなっていること。

 道中遭遇した、全ての従業員が───眼窩に穴が空いたナニカになっていたことを。


 普通ならばありえない異常を事細やかに告げれば、その異常に視聴者たちも気付いて、有識者たちが類似の状況や過去を探るが、特にめぼしいモノは出ず。

 化け物たちから虱潰しに探されている恐怖から隠れて、息を潜める以外にできなかったエーテは、現状をなんとか打開しなければと怯える身体に喝を入れる。

 震える心に嘘をついて、大丈夫だと言い聞かせて。


 そっ…とクローゼットを内から開き、潜伏をやめようと決意した、その時。



───キャーーーッ!!!



 聞き覚えのある声色の、仲間の悲鳴が館内に響いた。


「ッ、コメット!?」

「あわわ!エーテ、行こう!!」

「うん!」


 仲間の危機の前では、恐怖など二の次で。エーテたちは廊下へ飛び出して、中空を飛んで廊下を駆け抜ける。

 薄暗い、灯りのない廊下は静寂に包まれているが……

 カタカタと、ナニカが動く不吉な音だけが、至る所から聴こえて、館内を反響している。


 木を打ち付けて鳴らしたような音に釣られないように、2人は悲鳴が聴こえた方角まで一直線。


 ……徐々に、カタカタと鳴る音が近付いてくる。


 友の悲鳴と共に。


「エーテぇぇぇ!!!」

「あっいた───こっち来ないでッ!!!」

「無理よッ!」


:彗星発見!

:御一行様だぁ!!

:大群ッ!!

:逃げろー!!

:怖っ


 前方から、ブルーコメットと、彼女を追いかける無数の和装従業員……若女将と同じく瞳のない化け物、“人形”となって魔法少女を追いかける。

 必死に逃げながら2人は合流して、お互いに奇々怪々な人形たちを押し付け合う。


「あーもう!なんで魔法使えないのよ!!」

「変身と配信魔法は使えてるから!!まだマシだよっ!」

「何処がよぉ〜!!」


───そう、実は今。魔法少女たちは、主攻撃となる己の属性の魔法を使えない状況にいた。理由は不明。夢魔法や星魔法といった魔法は使用不可、ただ魔法少女に変身するシステムや、配信魔法といった魔法少女“固有”の魔法ではない汎用性のある魔法は使用できている。

 つまり、エーテたちは戦う力の大部分を制限されているわけで……


:ヤバいじゃん

:ずっとヤバいんだよ

:要救助

:従業員てか、年配魔法少女たちどうした!?

:人形になってるー!?


「うわぉーお……デコラホイップ、トイトイジェスター、ダストスナイパー、アカツキ、インフェルノ、リズミックマスター……最低でも6人やられてるね」

「冷静に分析してる場合じゃないってー!!」

「知らない名前ばっかじゃない!」

「アリスメアーが暗躍を初めて7年ぐらい経ったけど……うん、内5年の間にどれだけの魔法少女が生まれたのかは私もわかんないからなぁ……配信魔法ができてからはまだわかるんだけど」


 引退して生き残った魔法少女たちが、全体のどれぐらいいるのか。消息を立った魔法少女でさえいるのに、それがわかるわけもない。

 魔法少女後援会に所属した退役魔法少女は現在9人。

 何処ぞの帽子が愚痴るよりも若い年代の彼女たちだが、その時点で戦えるだけの魔力は既になく。

 こうして人形となっている、または成り代わられている時点で、後はお察しだ。


 ……ちなみに、アリスメアーが侵攻を開始したのは別に日本からではない。


:もう7年かぁ…

:実際、海外産の魔法少女の生き残りっているん?

:いないぞ

:昔は対岸の火事感覚だったのにな…

:気付けば身近だもん

:よく滅んでねぇな日本

:魔法少女の質が高いからじゃね?

:夢覚醒してなくても強いのいたもんな……

:後援会の人達がいい例じゃん

:ほまるん大分余裕だな?


 全ての始まりは、西洋のとある町───そこから悪夢は始まった。


 もう既に解放されているが、2年前までは外国も悪夢の被害に晒されていた。ただ、悪夢に閉じ込められた国々を日本産の先人たちが解放していき、最終的に日ノ本の地を舞台に殺し合う未来に転じていった。

 リリーライトとムーンラピスが日本国内で済んだのは、悪夢側が日本という脅威を潰さねばと焦ったからであり、残った2人と最後の妖精を執拗に狙ったからである。

 もし、日本国外に再び目を向けていれば……また違った未来が待っていたであろう。


 閑話休題、魔法少女vsアリスメアーの歴史のおさらいはそこまで。


「取り敢えずデイズを見つけるわよ!!」

「うんっ!!」


 魔力を固めた初歩的な攻撃はできる為、それでなんとか牽制しながら全力飛翔。付かず離れずの距離で追いかける人形たちを我武者羅に振り切って、2人と1匹は廃旅館を駆け抜ける……

 やがて、その追っ手も振り切ったと安心したところで、まるで空気を読んだかのように悲鳴が轟いた。

 これまた聞き覚えのある、元気っ子の悲鳴であった。


───みんなどこー!?一人やー!チェルちゃん助けて!なんで電話繋がんないのー!!


「……」

「……」

「……」

「……タイミング良すぎない?」

「でも元気そうだね」

「あ、そだ。旅館の中が異空間になってて、繋がってたりバラバラになってたりしてるっていうの、言ったっけ?」

「「聞いてない!!」」

「あちゃ〜」


 この後、なんとか無事にハニーデイズとも合流した。


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