04-スニークミッションやらせてみた
「リリーエーテ、ねェ」
新時代の魔法少女候補を妖精より早く見つけて、戦力が補充される前に始末する……リデルから突然手渡された、マッドハッターの任務。
視聴覚室で、ピンク色の魔法少女の初戦闘を再視聴。
うーん、似てんなぁ。幼馴染の妹に。血筋か?あの妖精それで選んだわけじゃないだろうな。
……今の方針だと、死にやしないから大丈夫っか。
あぁ、後から聴いた話になるんだけど、始末は始末でも殺さなくていいらしい。夢の中に閉じ込めて再起不能に、だとかなんとか。
最悪偽装工作するか、気付きませんでしたで終わらせるつもりだったけど、そっちならまだまだ安心だ。
人の一生を縛るけど、殺すわけじゃない。暫く行方不明リストに名が乗るだけだし。
……そっちも十分凶悪だって?それはそう。仕方ない。
『み、みんなの夢を守る、希望の光!!祝福の魔法少女、リリーエーテ!えと、えっと……あっ、そ、その悪夢っ!わっ、私が覚ますよ!!』
「……噛み噛みだなぁ。初戦なんだし、そんなもんか」
ツインテールの女の子が、装飾過多の衣装をフリフリと踊らせて、ハートがついた魔法の杖をブンブン振りながらスタンダードのアクゥームに殴打連撃している動画。
最後は聖なる光を浴びせて、悪夢を払って浄化させた。
基礎はできてるね。記憶にある限り、柔道とか剣道とか截拳道の経験もないはずだけど。
……たった二年だけど、成長したなぁ。お姉さんなんか感慨深くなっちゃった。
そう、この子、ほぼ確実に僕の知り合いなのである。
それも二年前までコンビ組んでた幼馴染兼親友兼同僚の魔法少女の妹ちゃんだ。
「っとと、危ない危ない……本題を忘れるところだった。新しい魔法少女の候補、ね……そう見つかるもんかねェ。だいぶ難しいこと言ってるよあいつ」
「そんなに厳しいので?」
「……いるなら言えよ。無い心臓止める気か?」
「申し訳ございません」
いつの間にか傍に立っていたメードに驚いたが、気配が察知できないのはいつものことだから、そこまで目くじら立てることじゃない。
もう慣れたよね。驚かすつもりないのは癪に障るけど。
映画館の席みたいな椅子に並んで座って、メードからの質問に答えてやる。
「あのね、直接出向いて魔力波を当てないと、候補なんて見つかんないんだよ」
「……正体を隠さねばならないのに、ですか?」
「変装にも無理があるよねぇ。夢ヶ丘だと、超超高確率で知り合いとエンカウントするよ」
あいつ、帽子で顔隠せって言った癖に、わかってんのかそこんところ。ちなみに手伝ってくれるといった猫娘は、こっそりピーマン入れてたのがバレたせいでバックれた。
うん、好き嫌いはよくないじゃん?ちゃんと切り刻んでハンバーグにしたんだよ。でもバレた。リデルには欠片もバレなかったのに。
ちょいちょいって脇をつつかれて、すごい不満気な顔で睨まれた。
いやなら三食お菓子生活を改めなさい。親元から離れてはっちゃけるんじゃないよ。
最初の方は許してた僕にも非はあるけど。改善しよう。
「で、なんでいるの」
「チェルシー様の代打を務めようかと思いまして。私では力不足でしょうか」
「……まぁ、大丈夫じゃないかな」
僕と違って顔もバレてないし、見た目に人外要素とかもないから、問題ないと思う。
出身は確か夢ヶ丘じゃなくて隣の星ヶ峯だったもんね。
……あ。直接出向かなくても、メードと瞳を接続して、メードを通して魔力波を当てれば……いけるな?
僕と同じで死体から復活タイプだし、相性いいもんな?
「……一応、今回は探すだけでいい。捕獲は後。後始末も隠蔽工作も準備ができてないから、あーこいつか、程度に見て回っていくよ。オマエの瞳に映った情景を共有して、こっちが見定めるから、取り敢えず足になってほしい」
「かしこまりました。早速でよろしいですね?」
「時間ある?」
「半日以上は」
「十分だね」
さ〜て、パパっと行ってみよう。まずはリリーエーテを見つけてからだ。あの子を起点に探して見よう。経験則、一人目の魔法少女の周りに魔法少女は現れやすい。
妖精の活動圏ってのも理由にあるけど……一番の理由はあの子を見てみたい、かな。
僕の記憶じゃ小学生の時で止まってるからなぁ……
学校も凡そわかる。姉も通ってて、僕も通ってたとこ。そこを透明化させたメードに観察させよう。年齢的にも、中学校・高校は魔法少女候補探しに最適でもあるから。
……あいつが死んだってのが、嫌ってほどわかる未来が待ってるかもしれないが。
ちなみに、透明化はメードの能力だ。諜報に便利。
「では、少々お待ちください」
「うん」
亜空間ロードに繋がる裂け目を作って、メードが虚空に消えていく。手慰みに作った魔力探知機や測定機、色々と必要になりそうなのを用意して、魔法少女探しを準備。
長丁場になりそうだけど、やりがいはあるんじゃない?
魔法少女になりそうだからって理由で、女の子の人生を悪夢に閉ざすことになるけど。
それはそれ、これはこれ───雷に降られたのと同じで運が悪かったと諦めてほしい。
『到着致しました』
メードの声が響き、モニターが揺れて、現世の市街地が投写される。子どもの楽しそうにはしゃぐ声や、主婦層の井戸端会議やらが音として聴こえてくる。
うんうん、平和だ。つい昨日、魔法少女vsアリスメアーあったばっかなのに……現実味が湧かないのかしら。
それとも油断慢心で大丈夫だと思っているのか。
……どっちでもいい。今は関係ないんだし。取り敢えずメードが透明になっていることを確認して、周りに視線を配らせながら歩かせる。
『帽子屋様』
……おっと、ここか。あぁ、懐かしな。
「あぁ、そのまま中に入って。君の透明化は妖精相手でも見破れない。ただ、油断はするなよ。油断慢心が招くのはいつだって失敗なんだから」
『ご安心を。私、いつだって本気です。料理も掃除も全て全力本気でやっております』
「じゃあせめて成長させろ???」
なんか変なこと言ってる召使いを黙らせて、視界に映る学び舎をモニター越しに眺める。
ちょっと改築されたみたいだけど、変わってないね。
『では』
久しぶりに見よっか。我が母校───御伽草中学校へ。
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御伽草中学校潜入調査───夢ヶ丘にある至って普通の学校だけど、どういう訳か魔法少女が多く輩出されていたワケあり学校でもある。
先輩後輩はみんな死んだけどね。あと片割れも死んだ。
当時は行方不明者なんて五万といたから、この学校から女子生徒が消えても、それ=魔法少女だったとはならない闇がある。
……僕もその仲間入りしてると思うと、ちょっと苦しい気分になる。
ちなみに今は授業中。終鈴が鳴るまであと数分かな。
『如何でしょうか、帽子屋様』
「ふむ……」
透明化のまま校内を散策するメードの声に意識を戻す。うんうん、クラス一個一個見てもらってるけど、あんまりいいのはいないね。
ここで魔法少女の見分け方講座〜、素質発見編だ。
まず前提として、人間は魔力のあるなしで分けることができる。その中でもユメエネルギーを悪夢以外の使い方、つまり良い夢として操ることができるのが魔法少女だ。
その見分け方は簡単。魔力を目に込め、見るだけだ。
それだけだ。
『……ぇ』
絶句してるとこごめんね。でもそうなんだよ。二年前、素質ある女の子が変身する前に殺されないように、または魔法少女であることを隠している子を見つけて、死んでも把握できるように……もっと言うなら、同胞探しで視力を鍛えた産物である。
メードも魔力操作得意だから、その目を通して僕が見て見極める。
『わ、わかりました』
頑張ってね。
「はぁ?」
……ちょっと、楽観的に思ってはいたんだ。魔法少女の素質なんて早々ないから、見つかるとしても低確率だろと慢心もしていた。
複数いい感じの子を見つけて、プロフィールも調べて、こんなもんでいいだろって油断してたんだ。だって5人も素質ありそーなの見つければ、もう十分って思うじゃん?
メードにも言い聞かせて手出しはしないよう言ったし、万が一目の前で魔法少女に変身されても、なにもするなと厳命していた。
そう、安心してたんだ。結局あの子も見つかんなくて、違う学校に行ったのか、なんて思っていたんだ。
でも、まさか。
『ホノカー、早く来るぽふー!』
『置いてっちゃうよ〜!』
『待ってよ!ぽふるん、ほまるん!あっ、みっ、みんなに見られちゃうよ!』
美術準備室から駆け出す、めっちゃ見覚えのある子と、かわいいオレンジ色のクマ妖精と……なんか見たことないピンク色のクマ妖精を見つけるなんて。
『んひゃ、穂花、早く行こう!みんなの夢を守る為に!』
いやだれだおまえ。