32-ダサいぐらいがちょうどいい
───三銃士、全員出撃。
「いやー、壮観壮観!壮観すぎ。こーんな景色いーとこでおっぱじめるとか、クソ度胸すぎんかオレら」
「んにゃむ……ここがいーって言ったの、ベローじゃん」
「日本国内だっただけマシだろ。最初あのデケェ世界地図広げてたんだぜこいつ」
「2人してオレ虐めんの楽しい?あとチェルシーちゃん?キミも名前間違えんの、やめない?」
「? 改名したん…でしょ?」
「どこ情報かなそれ!?」
日本有数の湖畔を背景に、ペローを囃し立てる三銃士は新たな作戦をもって魔法少女に挑む。新たなステージへと足を踏み込んだ正義の使徒たちに、悪なりの成長をもって勝ちを取りに行くのだ。
既に帽子屋、そして女王から「敗走基準は今まで通り、でも別に勝ってもいい」とのお達しが出たことで、3人は本格的に喧嘩を売りに行く。
目の前に颯爽と現れ、厳しい目で見てくる少女たちへ。
「ここどこ!」
「なんでこう遠出させるのよ!もっと近場に来なさい!」
「うわぁー、戦う前に観光しない?」
「呑気だねぇ……あっ、赤色のちょうちょだ!」
「行くんじゃないぽふ!」
鏡魔法で来た魔法少女一行は、戸惑いながらもあまりに壮観な景色の湖畔に見蕩れてしまったが、気を取り直して三銃士と向かい合う。
珍しく3人揃っている、否、初めて見た全員集合図に、得も言えぬ不安が募る。
それでも心に喝を入れて、平和の為に勝利を目指す。
「ところでペロー」
「なんだー?」
「ここ、人の気配ないけど……どうするの?今日は弱いの使うの?」
そこで心配したチェルシーが、周囲を見渡しながらそう問えば、聞かれたペローはなんてことないように笑って、両手をバッと広げて宣言する。
堂々と、自信満々に。これなら勝てるだろうと、本気の作戦を彼は考えた。
「オレっちの作戦大発表ぉ〜!今、後ろにデカイ水の塊があるじゃろ?それでな…ごにょごにょ……」
「……うわマジ?濡れたくないから帰る」
「そこをなんとか!その為の3人全員なんだから!!」
「成程なァ……いいぜ、偶にはこーゆーのも、悪かぁねェだろ」
そう言って、三銃士は片手を空に掲げ、悪夢を作る。
「「「───【夢放閉心】!」」」
背後に広がる湖畔に、悪夢のユメエネルギーを強制的に流し込み、魔法で大質量の水に生命を与え、魔力の大きな胎動と共にうねらせる。
そして、バッと後ろに跳んだチェルシーが、空へ空へと集まる水の塊の中へと身を投げる。
あっという間に水の牢へと取り込まれ、ネコの姿は見えなくなった。
「チェルちゃん!?」
ハニーデイズの驚きを余所に、三銃士を核とした新たなアクゥームが誕生する。
:ふぁ!?
:なになになになに!?
:こちら現地民、すごい地震!!
:猫ちゃや!?
:うそだろ
「オレたち三銃士が持つ悪夢の力。不信と孤独と絶望と、それを最大限に引き出すアクゥームの新形態……オレっち考案、帽子屋の旦那に舌を巻かせた、悪夢の新境地!
ちーっとチープでダサいが、オレっちは、こいつにこう名前をつけた!」
大きな目玉が二つある、街一つを飲み込む水の怪物。
「Z・アクゥーム、ってなァ!」
「絶妙にダセェ」
「すごいのはわかるけど、本当にその名前でよかったの?ちょっと気になる……」
「……Zでずっと、って読ませるのは評価するわ」
「そんなことよりチェルちゃんを返して!」
「キミほんと仲良くなったね!?てかもっと褒めろよッ!前んとこの職場で新製品とか考える時以上に頭捻らせたんだからな!」
:ダセェ
:遊び心いれる前にもっと捻れよ名前
:あなた、社畜さんだったのね
:水害の具現かよ怖
蠢動する水魔を従えて、ペローは高らかに宣言する。
「さァ、勝負と行こうか魔法少女!」
「はぁ、ふぅ……ヨシ、行くよみんな!どんな相手でも、私たちは負けない!!」
「えぇ!」
「うん!」
ここに、vsアリスメアーの歴史に、新たな区切りを刻む戦いが始まった。
꧁:✦✧✦:꧂
「ほぉ、やるではないか」
「三銃士を核としたアクゥームの作成……基盤を作るのは手伝ったが、実現に漕ぎ着けたのはペローの努力、それと運の賜物。彼を認めるに値する作品だよ」
「オマエがそこまで言うとは。これは期待できそうだな」
「プレッシャーかけますね」
湖畔から遠く離れた高台───カフェテラスが作られたその空間から、リデル、僕、メードが三銃士の奮闘を観戦する。提案があった時には驚いたけど、素直に許可出して完成まで手伝った。
企画力あるなーとは思ってたけど、まさかここまで。
商品開発部でエースやってただけはある。すぐ切られてホスト落ちしたけど。
Z・アクゥームは、三銃士の誰か一人を核により大きな夢魔へと進化させた新個体。過去のデータにはない、完全新規のペローオリジナルアクゥームだ。
今回はチェルシーと一級河川の湖を使った巨大水魔だ。
あれを相手取るのはさしもの僕も手間がかかるかも……うん、いい発明だね。
【オオォォォォ───…】
それはそれとして言語機能失ったの?その状態でもまだ喋れるよね君。
見た目は超巨大スライムだけど、意思を持った水相手に魔法少女はどう立ち向かうのか。うねりをあげて横殴りに振るわれた水の大質量は、林を薙ぎ払い、土を抉りながら魔法少女を攻撃する。
まだドリームスタイルの姿になっていない魔法少女は、回避に専念しながら隙を伺っている。
……まぁ、そこに三銃士の男陣が介入して、魔法少女の妨害に入るのだが。
『夢魔法<ハッピーウェーブ>!』
『ハハッ、切断なんざ意味ねェさ!チェルシー!そいつはお前さんの魔力とイマジネーションで動く!水の塊をどう変形させるかはお前次第!頼んだぜー!』
『オオォォォ───…ねぇ、疲れた。寝ていい?』
『喋ったッ!!』
『声帯どこよ!!』
『ツッコミどこそこかー?いやあのチェルシーさん?もうちょい頑張ってくれる?自動操縦モードは流石に用意してないんだよ』
『草』
いや対話可能なんかい。唸ってんのはアクゥーム本体、声帯ないけど核から通話できる、と。んまぁ設計書通りの性能してるみたいだね。
大質量の水を操るのは大変だけど、チェルシーならまぁ問題ないか。
うちのメンツで一番の頭脳をお持ちの天才児だからな。
「さて、それじゃあ……メード。準備はいい?」
「はい。問題なく」
「……あぁ、成程……オマエたち、意外と狡い手を考えるモノだな」
黙らっしゃい。戦略といえ戦略と。今回はメードの力が必要なだけ。
だってねぇ。作戦成功の為に、バックアップして確率を高めるのは、当たり前でしょ?
信じているからこそ、頼っているからこそ……
確実性を高め、絶対に手に入れる為に……使える手札を使うだけ。
……さぁ、後輩たち。君たちは、どこまで抗える?
꧁:✦✧✦:꧂
対決戦用三銃士搭載型試作夢魔、通称Z・アクゥーム。観光資源である湖そのものを利用した超巨大夢魔は、過去全ての戦いを通しても首位を争える規模感を誇る怪物。
かつて斬魔が切り裂いた江戸城、色彩が存在そのものを塗り替えて対処した積乱雲、力天使が拳で破壊し尽くした力士の如き体躯の巨大活火山、極光の光によって消滅した旧式の宇宙ステーション、蒼月の月を落とす魔法で概念的破壊措置を取られた伝承再現の巨神など、過去に顕現した災害たちに匹敵するサイズ感。
それを操るチェルシーの術と、ペローとビルの妨害で、魔法少女は苦戦を強いられる。
「星魔法、くっ!」
「ほぉーらほぉーら、いいんスか〜?ドリームスタイルにならなくて!」
「るっさいわよ!」
「あわわ!」
瞬間移動を繰り返し、魔法発動の直前に蹴りを食らわすペローに翻弄され、ブルーコメットは歯噛みする。彼らに言われた通り変身できればいいのだが……あれには厳しい条件が一つある。
それは魔力を溜めること。集中して魔力を練るのだが、三銃士に妨害され続ける状況では無理な話。
最初からなっていればまだマシだったかもしれないが、それでも苦戦していただろう。
「きゃあ!?」
「コメットっ……危ない、ぽふ!」
「っ、ありがとう!」
吹き飛ばされるも、咄嗟にぽふるんがクッションとなり衝撃をカバー。コメットは体勢を整え直して、もう一度、三銃士たちに挑んでいく。
だが、やはり。星の魔法は三銃士を傷つけはするが……その奥にいるZ・アクゥームには届かない。
物理攻撃無効、水そのものである夢魔への対処法などはかなり限られてくる。
今の状態の魔法少女では、有効打は引き出せない。
大きな魔法で削ろうにも、大量無限の水の前では無力も無力。
……だが、その絶対をどさくさに紛れてやり遂げるのも魔法少女の務め。
「今っ!」
「ッ、ちょ!いつの間に───あれ夢魔法の分身か!!」
「正解ッ!いくよ!ドリームチェンジ!マジカルアップ!明るい夢をこの手に!!」
隙を突いたリリーエーテがドリームスタイルに変身し、夢想魔法を駆使して夢魔に挑み始める。
それはヤバいと焦るペローに、ビルは笑って返す。
「おいおい、なにビビってんだ」
「あったりめーでしょ!?あのドリームスタイルだよ!?予想だにしない魔法で切り開かれるかもなんだ!!そりゃ警戒するでしょ!!」
「ククッ、問題なんざねェーよ。なにせ……」
エーテがアクゥームに向かって放った、夢想の一撃を。
【オオ、オオォォォォ───…無駄。夢幻魔法<ガット・ヴィジオーネ>】
「っ、私の魔力が掻き消されて……!」
:あー!残念!
:夢幻魔法つっよ
:野太い奇声からかわいい声に切り替わるの聞いてて脳がバグる
アクゥームの中にいるチェルシーが、同属性同士の力で対消滅させ、概念に干渉できる夢想魔法を無効化。
夢を現実にする魔法と、夢と現実を曖昧にする魔法。
根底は同じでも派生が異なり、異なった分だけ新たなる進化を遂げた両者の魔法。
今回はエーテが押し負けたが……出力が上回れば、また結果は異なる。
それを理解しているエーテは、再度夢想魔法を行使。
「夢想魔法<マジカル・ドリームライト>!」
「チッ、いざ使われると厄介な魔法だな……チェルシー!広範囲を薙ぎ払え!!」
軌道上の全てを浄化消滅する夢の光を跳んで回避して、苛立ち混じりにビルは命令。全身渦巻く水穴を大砲にしたチェルシーは、Z・アクゥームに掃射コマンドを連打。
大地を抉る水鉄砲が、夢幻の魔力を帯びて放たれる。
だが、夢想魔法の想いを力に変えた一撃は、乗り越える強い意志をもって突き進む。
それを更に妨害するのは───瞬間移動で姿を現した、浅葱色の大きなボロ布を手にしたペロー。
布を翻せば、その方向にエーテの魔法が逸れた。
「はい残念!」
「なっ……なにそれ!」
「幹部怪人が一体、“白襤墓霊”のひらひらのお誘い、だ。見ての通り、攻撃を誘導できる。生憎生成できたのはこの一枚だけだが、十分効果はあるだろ?」
「………じゃあ、それを壊すまで!」
「できるかなー?ククッ」
:ぎゃー!?
:みっ、見たことある〜!!
:オレあいつ嫌い
:幽霊野郎のボロ切れは万能すぎて強すぎんだよ
:解析してたラピスが一番ドン引きしてた
:生配信で生きた?まま解剖された怪人の成れの果て
:冷静に考えなくてもグロい
あらゆる布を操る亡霊の能力の一部を再現したその布でリリーエーテを妨害する。その手に揺れる布を破壊すれば勝機はあると、勇んで立ち向かうが……ペローの翻弄する瞬間移動によって無駄に終わる。
せっせとZ・アクゥームの水を花に変えて、ちまちまと戦力低下を図っていたハニーデイズも混ざって、大戦斧を勢い任せに振り回しながらペローを追う。
後一歩、毎回すんでのところでペローが消えて、無謀ないたちごっこは続く。
「どんな魔法なの……?」
「……ねぇ、エーテ。よく見て」
「ほまるん?」
肩にぴょんと乗ってきたほまるんが、ペローの方へ指を突きつける。エーテが視線で追えば、彼の額に薄らと……小さな小さな汗の雫が見えた。
そして、本当に小さく胸が上下しているも見えて……
必死に呼吸を整えているのが確認できた。なんとか息を潜めて体勢を整えているのが。
「あれって……」
「瞬間移動だったら、あーはならないんじゃない?魔法で疲れちゃうかもだけど……なにかカラクリがあるんだと、私は思うよ」
「成程〜、で、答えは?」
「自分で考えるのも大事だと思う!」
「今そんな時間ないもん!!」
「あちゃ〜」
教師気取りのほまるんを掴んで振って、瞬間移動の種を解き明かさせる。考えている暇などないのだ。わかったのであれば、わかった人が真っ先に答えるべきである。
力強く横に揺すって、ほまるんに暴露するよう訴えて。
直に限界がきて耐えるのをやめたほまるんが、己の目で暴いたその力を、確証を添えて告げる。
「多分、時間魔法!」
「うぇ!?なにそのチート!本当!?」
「───ぇ、ごほっ、なんかナチュラルに当てられてて草生えるんスけど」
そう、ペローの固有魔法の正体は───時間魔法。
たった七秒の時が停まった世界で、全力疾走することであたかも瞬間移動したように見せていた。そう見せかける嘘の技術は、三銃士の中でペローが一番上手い。
今まで誤認させれてたのに秘密を暴れかれた彼は、懐の懐中時計───魔法の触媒を取り出して、軽く弄りながら笑う。
「んま、それで?種がわかったところで、どーすんのさ」
:チートじゃねぇか!!
:頑張って走ってた、ってこと!?
:絵面酷くて草
:茶化すことしかできねぇ…
:がんばれー!
余裕綽々、懐中時計をゆらゆら揺らして、ペローは全て無意味と嘲笑う。
「エーテ、私の魔力をもらって!」
「っ、ダメだよ!大事な魔力なんでしょ?いざって時まで取っておかないと……」
「それが今、だよ!大丈夫、心配なんていらない!」
「……わかった!行くよ!ほまるん!」
「うん!」
魔力の譲渡。3人の魔法少女と、一人の女怪人の魔力を注がれることで、その存在を維持し続けていたほまるん。先の戦闘でだいぶ失ったが……それでも。
魔法少女の活躍に比例して、存在の維持、回復に必要な魔力量が減っているほまるんは、躊躇うことなく契約者に力を貸す。
平和の為に、未来の為に───大事な大事な愛し子が、明日を笑顔で生きれるように。
勝つ為ならば、手札を惜しまない。
その信念に従って、ほまるんは肩に触れたエーテへ己の魔力を流そうとする───…
「流石にそれは見過ごせませんね」
その直前。魔力を凝縮した塊が、エーテの肩を掠め。
「きゃっ!」
「ぇ、あ───ほまるん!?」
肩に乗っていたほまるんが、透明な壁に押し飛ばされて宙を舞う。
エーテは咄嗟に手を伸ばすが……その手は阻まれる。
「───!?」
気配もなく、音もなく、影もなく───エーテの背後に現れた、青い髪のメイドの手によって。
気付いた時にはもう遅く。背後から首を絞められる。
「ぐっ、ぁっ……」
「なっ、エーテ!?」
「……おいおい、なんであんたがいるんだよ。オレっち、呼んでなんてねーよ?」
方方の困惑を余所に、リリーエーテを捕らえたメイドは能面のような無の表情で、静かに告げる。
「お仕事ですので」
───アリスメアー幹部補佐、“残夢”のメード、出撃。
ちょbit設定公開 〜魔法少女とんでも編〜
・江戸城夢魔
テンションぶち上げた斬魔に内部を駆け巡られ柱や梁など基礎部分を全て切断、存在を維持できなくなるまで倒壊。元となった城の内部構造をそのままにしていたのが仇に。
終始「ござるござるござるー!」との声が反響していた。
・積乱雲夢魔
日本の空全体を覆えるまで成長する予定だったが、色彩の色ごとに変わる属性付与、その更に上の覚醒である存在を塗り替える魔法によって強制的に快晴にさせられた。
・活火山夢魔
力士の如き体躯の怪物だったが、重力魔法を拳に凝固させ突進する力天使によって一撃粉砕させられた。
横綱噴火山の敗因はただ一つ。岩を抉る拳に耐えられない弱さ。
・宇宙ステーション型夢魔
空の上から地上を焼き払う為の超兵器であったが、攻撃の悉くが極光の光魔法で掻き消され、逆に破壊し尽くされ、挙句の果てには大気圏まで落とされ燃えカスになった。
何処ぞのラスボスのような転移機構を備えるべきだった。
・巨神兵夢魔
星に押し潰されて死ぬという伝承を再現されて圧死した。特にこれといった出番はなく、ピンポイントで蒼月の持つ固有魔法以外を封じれたものの、“月魔法”で月を落とせる可能性にまでは至れなかった。
尚、仮に全て封じていても斬魔の剣術再現で死んでいた。
出オチ。




