338-天上への挑戦
ラピス視点
雷は嫌いだ。
ゴロゴロうるせェし、落雷時はもっとうるせェし、あとクソ眩しいし。寝る時に鳴られたらブチ切れる。というか何回かブチ切れたことがある。魔法少女になってからは、物理で雷雲を晴らしたことは一度や二度じゃない。
自然に逆らうな?いーんだよ雨は魔法で降らすから。
目が良すぎるせいで落雷の発光は直視すれば死ねるし、耳も良いからあの轟音は心底ウザい。だから、同僚の雷は毎回キレながら対処してた。バチバチ静電気もウザイんだあのアマは。
ごほん。失礼。関係のない話をした。
え?なんでいきなり雷の話してるのかって?そらまぁ、対戦相手が雷使いだから。
それも特級の。
「二度目はない。お年寄りには、ここらでご退場願おう。最期の戦いをくれてやる」
「クフッ、なら、楽しませてもらおうかの!」
金色の輝きがゴロゴロと鳴る、目にも耳にも優しくない天空の戦場。分子雲領域とかいう割には、大分視界明瞭な空間になってるけど……足場が無いのは面倒だ。
浮けるから、別にいいけど。
見た目はショタ頭脳はジジイ、将星アルフェル。個人的因縁もあるけど、それ以上に強いから僕が相手取る。
リデルが負けるまでに、終わらせる。
……あいつが勝つのを信じないのかって?信じないよ。リデルだから。
「ところで、儂らの王は何処に?」
「今は夢の世界にいるよ。うちの女王と、ふたりっきりのラスボス戦さ」
「む?それは……確かあの女子、夢星じゃろう?わざわざ餌になりおったのか?」
「どうだろうね」
リデルが奴に食われる=地球崩壊のトリガーが引かれるということ。【悪夢】という膜があるとはいえ、恐らく、あの野郎はリデルを食える。
食えるけど、それだけ。問題はない。
……リデルが死んだら僕も死ぬけど、そこら辺も今回は考えないでいい。あいつは死なない。喰われても、それが死に繋がることはない。
そういうもんだ。
「安心しなよ。ここまで大体予定通りだから……アンタの孫娘の挙動を除いて、だけど」
「カッカッカッ!そうかそうか!孫が悪かったの!」
「ホントにな」
アレだけがイレギュラーだった。いや、レイの暗殺とかノワールの介入とかもあったけどさ。ノワールに関してはリブラの殺害を止める思惑と、勝負がつく寸前に割り入る展開に夢見て実行しただけだけど。後者は兎も角、随分と捕虜生活中に仲良くなったようで……まぁ、いいけど。
異星人にとって、悪夢堕ちは実質死だからね。
一部の者を除いて、適性がないとどうにも……リブラは悪夢に耐えれはするけど、乗り越えられない。今思えば、そのまま実行していれば殺していた。危ない危ない。
興が乗りすぎるのもよくないね……
うん、まぁ。頑張って行こう。上手く嵌れば、僕の勝ちなんだから。
「っと、危ない」
「お主も疾いのぉ」
「オマエほどじゃない、よっ!」
「カカカッ!」
バチバチと眉間に刺さりかけた天雷を間一髪で避けて、続け様に叩き込まれる拳を掌底で受け止める。会話中でもバリバリ戦闘中だ。
アルフェルの攻撃は全て雷を纏っている。
だから魔力防御が弱ければすぐ痺れて、身体は使い物にならなくなる。それだけは困るから、常に魔力を体表面に張り巡らせている。魔力を掻き乱す雷性も注意が必要だ。やることが多い。
空中での高速機動は慣れたモノ。魔法と拳の応酬は常に激しく、目まぐるしい。慣れていなかったらついてけない異常な速度だ。列車搭乗時は兎も角、通常時でのピッドがお荷物になりかけてたのは仕方ない速度だな。
攻撃の対応速度、つーか魔法が全体的に異様に速い。
発射速度も通過速度も全部速い。新幹線かよって速度で突っ込んでくる。何発かはどうしても避けられない。見て致命だとわかるのは回避優先、防げるモノは防ぐ。雷撃とすれ違わせながら、アルフェルに攻撃するのも忘れない。
うーん、防ぐのも速いな。避けんな。
間一髪を連続して回避してくるアルフェルの顎を穿ち、馬乗りになって殴る。
「アホかわいい後輩の仇!」
「なんじゃ、センパイは良いのか?」
「死線潜ってりまくってるんだ。死んでも死なない身体のバフだってある。この程度の敗走で諦めるようなタマじゃないよ、あの人は。だから、警戒。忘れないでね?」
「くふふっ、それは俄然楽しみじゃの。てか、それ言って良かったのか?」
「おっと」
勿論ワザとだよ。
カドックバンカーは負けた。でも、あの闘争心の塊が、たった一度の敗北で二度目を望まないわけがない。身体が回復次第、突っ込んでくるのはわかりきった未来だ。
そうじゃなきゃ、僕が魔法少女になる前に死んでいる。
四年も現役張ってたんだ。僕みたいに空白の二年がある魔法少女と違って、濃密な四年間。まぁ、ふたりぼっちで悪夢と殺り合ってた僕らも、割とな一年半だと思うけど。
でもまぁ、来るでしょ。
下の方向から、行くより前に殺すなって思念がバンバン伝わってくるんだもん。
安静にしてろや。
「おッ!?」
「どうした、歳か?ッ、ぐっ!」
「お主こそ。悪夢にかまけて、基本を疎かにしとらんか?そうれ、そこじゃ!!」
「この程度!」
空中でキリモミ回転、殴り殴られ蹴り蹴られ、魔法でも至近距離で殴り合う。
現状、どうしようもない千日手。
普通に殴り合ってるだけじゃ、一向に終わりが来ない。実力差はほぼ僅差。速度で劣ってるけど、まぁ。どうってことない。
「天雷魔法!」
「月魄魔法ッ」
同一のタイミングで放たれた魔法は、寸分違わぬ速度と位置調整によって、発射したと同時に衝突、対消滅。
さっきからこんなんばっか。
その上、こいつには肉体の雷化による攻撃無効がある。今はカドック先輩が残した、タレス謹製対アルフェル用の物質化粒子のお陰で、殴打が効いてるけど……多分、もうすぐ解ける。解けたら最後、もう一回使わないとすんごい痺れることになる。
でもなぁ。
間に合わねぇなこれ。指先がピカピカし始めてる。もう雷化してんな。
「アッツ!」
「おっと、意外と長引いたのぉ。じゃが、二発目は流石に無いぞ?安心するが良い」
「なにを安心すればいいんだよ」
「む!」
一瞬にして雷となった腕が、僕の右手を掠め……瞬間、貫通した天雷が全身を貫く。ただの接触、ただの腕掴みでこの激痛、この威力、か。
魔力の攪拌は大丈夫。そっちは対策済み。
痛いちゃ痛いけど、まだ。魔法の破壊力も凄いけどさ。当たらないように動き回れば、どうってことない。掠っただけで大ダメージだけど。リジェネがあるから、どうにかなってる感じ。
「痛いのぉ!」
「ならもっと苦しい顔しろや」
「それはお主もじゃろ?」
「ハッ」
雷になった右腕を逆に掴んで、こっちに引き寄せてからグーパンチ。追加で衝撃魔法を胸に叩き込んで、至近距離での心臓破裂誘発攻撃。
衝撃波で内部破壊を試みるが、効果は薄い様子。
すぐに掌底を叩き込んできたので避けてみたが、左耳が掠めて吹き飛んだ。いった。耳だけ器用に破壊すんなよ。頬も裂傷走ったけど。
近距離格闘戦も、あっちに分があるか。
一応追いつけてるけど、うーん。速度上げるか?自分の速度に身体が追いつけるかは別として。やるしかないって感じか。
「ハット」
【ハットスッ!!】
「お?」
魔力を貯めさせていたハット・アクゥームの口腔から、特大の魔力光線を複数発射。雷化で透過されるのは想定の範囲内。でも、違和感に気付かれて避けられた。
チッ、メアリーレーザーと同属性だから、雷になろうと結晶化できたのに。
……いや、悪夢を分解できる雷だし即解除されてたか?
わっかんないなぁ。調べる時間が足りない。無いから、手数で攻める。
「そのまま連射」
【ハットスッ!】
「魔力切れになるぞ?」
「馬鹿言え。僕の魔力総量は魔法少女一。魔力切れなんざ生涯に四回ぐらいしかない」
「多いな?」
アリスメアー最高幹部として動き始めてからは、もっと魔力総量が増えた上、魔力切れとかは起きたことがない。だから気にしなくても問題ない。
予備バッテリーもあるし。
ハット・アクゥームの光線連射を空中旋回で回避して、こちらに飛び付いてくるアルフェル。その手にある雷槍を銃剣で捌き、跳ね除け、防ぐ。
その間に魔法陣を構築。
邪魔してくるアルフェルから逃げながら、されど距離を遠ざけられないように動いて。
発動。
「ギアを上げるよ」
複数の魔法を重ね合わせて、身体に埋め込み、魔法陣を乱回転させて……
超加速。
───魔加合一<魔速飛翔>
飛行魔法と加速魔法をベースに、隼の魔法で飛行能力を微修正、羽搏きの魔法も制御枠として組み込んだ。あとは風魔法と雷魔法も入れた、ごちゃまぜ魔加合一。
追加で剛曲魔法の身体強化をして、負荷に打ち勝つ。
全身に青色の光を纏った僕は、相手を上回る瞬間速度で蹴りを放つ。
「む!?」
「そっちもまだ上げれんだろ?やろうぜ、亜音速を超えた頂上決戦ってのを」
「ハハッ!お主、話のわかる女子じゃなぁ!」
「口数が多い」
「ガハッ!」
相手の速度を上回って、必殺を放つ。
これはそういう戦いだ。通常時で僕よりも速い天魚は、過去の戦闘データが本物であれば、まだ速くなる。もっともっと、それこそ、加速度的に上昇していく。
僕はそれを見たい。そして、手にしたい。
アルフェルの全速力を捉えて、神的に速い領域に両足を突っ込むんだ。
まだ、まだ。全然、足りないから。
「雷霆よっ!」
「ッ!?」
「カカカッ!幾ら速くなろうと、まだ、儂の雷の方が速いようじゃなぁ?」
「うっざ!」
加速していた僕の背中に突き刺さった天雷。まぁ、雷が本体よりも速いのは当たり前か。逆に捷すぎて被弾確率が上がった気がするけど、それも上手く避ければいい。
回避特化で魔法少女やってたんだ。できる。
こちらの思惑に乗って、バチバチと雷で身体を輝かせたアルフェルが突っ込んでくるのを受け止め、互いのデコを突き付け合わせる。
バチバチ。
ビリビリ。
凶悪な笑みを楽しそうに浮かべるアルフェルと、再度、高速戦闘による激突を開始。
紫電を纏い、速さに身を委ね。魔法と物理、止まらない速度で渡り合う。
オルドドンナよりも格上の雷速。この速度を手に入れたその時、きっと僕は、もっと強くなれる。
硬さは力だけど、速度も力だ。
硬さの強度なんざ魔法でどうにかなる。速度もそうだ。でも、魔法は一時的な話。魔法無しでもこの加速度が手に入ったら、夢があるじゃん?実際、普段の僕の速度は魔法で身につけた速度を、肉体に落とし込んで漸く身につけた速度。一瞬で相手の背後に回るとかは、努力の証だ。
もし、この雷速を素で出せるようになれば。
目の前にいるのは教本と言ってもいい雷の化身。世界に二人といない、唯一無二。
オルドドンナという指標の、更に上。格上の雷神。
「学ばせて貰うよ」
「ふむふむ。くふっ、成程の。良いのぉ。学ぶ気概のある戦士を相手するのは好きじゃよ。成長を止めぬ戦士など、危ないことこの上ないがの!」
「それが僕だからね。さぁ、強くしてくれよ。将星」
「カカカッ!」
前人未到。
世界最高速度の頂点の座を、僕が奪い。魔法少女もとい悪夢の大王が、更なる脅威となって新生する。
全盛期のリデルよりも、速く。
世界がぶち壊れちゃいそうな速度まで、過去レコードも全部突き抜けて、トロフィーを獲る。くれる人は何処にもいないけど。
そう期待に夢見ながら、アルフェルとの死闘を楽しんでいる最中に。
「……?」
気付く。
僅かな予感。その反応に、目を見開いて。驚きで、一瞬手が止まりかけた。致命な隙をアルフェルに狙われたが、気合いで防いで退けて。
予想だにしない魔力反応。
一瞬のそれに理解が及ばず。困惑と動揺に震えながら、攻撃する手を止めず、アルフェルのこめかみに銃を撃ってから。思わず、宙を見下ろして。
「…寝子……?」
あの子の名を、呼んだ。




