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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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360/438

332-誰かに成りたい誰か

支援イラストを頂きました。

誠にありがとうございます。


https://x.com/suijaku01/status/2012812205985771902


https://x.com/suijaku01/status/2013174603863195968


https://x.com/suijaku01/status/2013536989417742712


https://x.com/suijaku01/status/2013899371021209732


https://x.com/suijaku01/status/2014261766604062936


https://x.com/suijaku01/status/2014624152880370115


どのイラストも大変素敵です。重ね重ね、誠にありがとうございました。

では、本編です。

どうぞ。


 総旗艦ネオ・ズーマランド、機関部。

 外敵の侵入を拒み、内側からの脱出も許さない結界……入ることも出ることもできない小さな戦場で、かつてその名を馳せた将星と、新たな将星が激突していた。

 “魔蠍狠妖”タレス・スコルピオーネ。

 “翡役淵底”レイ・モイヒェルメルダー。

 技術者と処刑人が一つの空間に集まり、お互いの死力を尽くしていた。


「ひぃぃっ!?」

「情けない言葉を吐くな。みっともない」

「りり、理不尽ッ」

「残念ながら同意します」

「シャウラぁ!?ちょっ、少しは味方してよ!ぽきのことなんだと思ってんのぉ!?」

「雑魚無能ズボラ改造魔」

「泣いてい?」


 悠然とした佇まいのレイに向けて、タレスは機械多腕や光線銃を駆使して絶え間なく攻撃を重ねる。絶対に暗殺を仕掛けられないように守りを固めて、シャウラという人工知能の補佐も付け、高速演算と機構構築を繰り返す。

 一つ一つの攻撃を、レイは極めて冷静に対処。

 必要最小限の動きで光線を回避し、手甲のついた両腕で機械の腕を跳ね除け、弾丸を掴んで綺麗にお返しする。

 投げ返された銃弾は、小型機関銃を穿ち、破壊。

 的確に障害を排除しながら、タレスの元まで歩み寄り、殺意を忍ばせる。


「静かなのホント怖いんだが?いやもう、こっち来ないであっち行ってろよ…」

「戦争開始時点で、処刑人レイが総旗艦に侵入する確率は八十六パーセントでした。我々の予測通り、彼は正面から突入を選択し、決行。予定通りでは?」

「それはそれ、これはこれ!!」

「騒がしい男だ」


 過去の戦闘パターンや経歴から、敵陣に乗り込んでくる可能性は大いにあった。だからこそ、それが現実となれば誰に宛てがわれるのかは明白で。

 渋々と受け入れたタレスは、泣く泣くここにいる。

 逃げ場はない。選択をミスって、敵を招き込んだから。もしここで結界を解き、艦内の何処かに逃げられた場合、とんでもないことになる。なにせ、まだ艦内に残っている非戦闘員や衛兵に擬態して、こちらに暗殺を仕掛けてくるだろうから。対人恐怖症でインドア派のタレスにとって、相手が本物か偽物かわからない状態での接触は御免被る。

 閉じた世界で、敵も味方も明白な今が、一番やりやすい戦場だった。


 ……タレスが不利であることに、変わりはないが。


「どうした?技術力の高さで将星になった強みは、これで終わりなのか?」

「カァ〜!今外でやってんでしょうがッ!!」

「普通にすり抜けられたぞ」

「あんたならそうでしょうねぇ!!んーもう!対処無理の強行突破した癖に!」

「愉快な男だ」

「キィ〜ッ!」


 負傷兵に擬態し、装い、工兵となり、幹部格の誰かへと成り代わって、疑われることもなくここまでやってきた。ムーンラピスですら気付けない擬態力は、ニフラクトゥの目すらも欺ける。

 科学や魔法、その両方ですら感知できない魔法。

 その脅威を身に染みて理解したタレスは、嫌よ来ないで近寄らないでと機械を操作する。毒針は使わない。なにせ相手は処刑人であり、暗殺者。毒に精通しているレイが、どう対応してくるかわからないから。そもそも、現時点で通用するかもわからない。使ったら最後、逆に利用される光景が見えるのは、相手が暗殺者であるからか。

 ……一応、忍ばせはするが。


「さっさと殺させろ」


───擬態魔法<マスク・ミミックリー>


 変わらぬ攻撃方法に呆れを見せたレイは、透けるように身体を変色させる。緑髪の美丈夫は、即座に形を変え……その体躯は、性別すらも変え。

 液体な髪質が特徴的な将星のそれへと。

 足元から大量の液体を噴き出させて、足取りを変えずに前進する。


「あなた、泳ぎは苦手でしたよね?」

「いや、そもそも精密機械に液体はダメだって!?やっ、やめろぉー!!来るなー!?」

「問答無用です」


───精霊魔法<マナ・オーバーフロウ>


 メーデリアとなったレイは、声や仕草も、完全に本物のそれに擬態した状態で、魔法を行使。

 精霊魔法による液体創成で、結界内に水が張られる。

 レイが擬態するのは、対象の特徴だけではない。彼らの魔法でさえも、行使することができる。勿論、制約はあるわけだが……ことこの戦闘において、それが不利に繋がることはない。


「ぐぬぬ……ならば!」


 際限なく湧き出る水が、タレス自慢の精密機械を濡らし故障させんと迫る。そうはさせまいと浮かせるが、聖水が足元に溜まる速度の方が速い。

 ならばと、タレスは迎撃を断行。

 聖水がなんぼのもんじゃいと、液体を蒸発させる業火を出力する。


模造:兵仗魔法イミテーション・タンク───<ブラストファイヤー>!!」


 超速構築魔法プリンターで火炎放射器を造り、再現した戦の炎を前面へと放つ。すると、魔法少女の熱に炙られた液体は素早く蒸発していく。

 タレスの技術力で再現された、模造魔法少女シリーズ。

 既存もしくは架空の戦闘兵器を呼び出すカドックの力は再現し易い傾向にあった様子。その火力と再現度の高さにレイは感心しながらも、淡々と攻撃。

 メーデリアの魔法を操り、宙に浮いた機械群に水の槍を突き刺していく。


「速っ!?」

「彼女の強さ、利点は、魔法の出力速度でした。あなたの防御術式の展開を凌駕する速度は、本物にも健在でした。相手が悪かった、としか言えません」

「ッ、逃げ場がない…!」


 タレスはその場を動けない。

 背後の機関部を守る為に、そこを破壊されては総旗艦がただの星屑となる。それだけは避けなければならない……保険は幾つかかけてあるが、使えるかは五分五分。

 追い込まれた時点で詰んでいた。

 詰んではいるが、負けない方法は幾らでもある。現に、対抗手段は豊富にある。


 今この場にある機械が壊されようと、最後の盾となったシャウラの守りさえあれば、総旗艦は守り抜けられる。

 機械化された星の動力源を背に、タレスは笑う。

 どんな相手が擬態で現れようと、関係ないと。不敵に、嫌味を込めて。


「それでも、ぽきの勝率は56パーセント……56もあって負けちゃうのは、ないでしょ!!」

「残りの44が、足を引っ張るのでは?」

「な、なんのことでござるかー!?わけわかんないので、ポチッとな」

「!」


 虚空に穴が開き、そこから、新たな機械が投入されて。防水加工が施された武装は、メーデリアの液体を、どんな形状であろうと容易く弾く。

 尖っていようと、伸びていようと。

 即席魔法コーティングは上手く作用し、これ以上の粗大ゴミ量産を防ぐ。


「成程、成程。では…」

「次はなんでござる?」

「水がダメなら───炎で行くぜ?」

「それは無理ッ!!」


───闘神魔法<ウォーゴッドアーツ・ラヴァーヘル>


 エルナトに変わり、彼女の闘神魔法の一つ、溶岩操作が機械群を焼いた。


 結界も焼かんとする大火力は、内側で轟々と燃え盛り、更には空間内も焼いて……

 蒸し焼きにする。


「づぅッ!」

「おいおいどうした?勝率56だったか?頑張れよ。負けはダセェぜ?大言壮語のボンクラ野郎」

「うわ言ーそーそれ!てか言われた気がする」

「そうかよ」


 当然やられっぱなしのタレスではない。額から吹き出る汗を拭いながら、耐熱処理を施した機械を召喚し、機構に込められた魔法を発動させる。

 エルナトの強靭な体躯を貫ける、最強の魔法。

 聖剣兵装を参考にした機械兵器から、恒星エネルギーを燃料に光を射出。


「最強ポンっ!」


───模造:光魔法イミテーション・ライト<ソレイユ・ブレイカー>


───模造:月魔法イミテーション・ムーン<ムーンクリスタル・ウォール>


 臨界点まで溜められた魔力が迸り、複数の光爆がレイに殺到する。空間面積的に、タレスにも被害が被る距離ではあるが……そこは再現した月の障壁で防御する。

 ちなみに、上位互換の魔法は再現できなかった。

 光爆に晒されたレイは、両腕を交差させて防ぐ。それがエルナトならしない行動であるとわかっていながら、全て受け止める。


「……出血で済むか。流石の身体だな」


 光爆が収まった後……傷ができたのは、交差させた腕の二本だけで。それだけのダメージで収められたのは、偏にエルナトの防御力が高いから。レイ本体であれば重傷では済まないダメージだったが……

 軽い傷で済ませたレイは、余裕をもって前進を再開。

 エルナトの姿のままで蹂躙は可能だが……レイはわざと擬態先を変更する。


「直線ならば、こうだ」


 そうして現れたのは、ブルネットの体毛を持つ、牛頭の大戦士。暗黒王域軍に長く仕え、従属してきたその男は、タレスにとっても馴染み深い元・将星。

 エルナトの父親であり、旧い時代の生き証人。

 “鋼鉄貫牛”タウロス・アルデバランに擬態したレイが、腕を交差させる。


「ッ、タウロス氏の───まっずい!?」


 擬態魔法には制約がある。

 通常の擬態であれば、一時間近くその者になり切れる。だが、魔法を行使した場合、元に戻るか他の存在に擬態を移行しないと、その“擬態先”に意識が呑み込まれるというデメリットがある。その為、模倣した魔法を使う度に姿を変える必要があるわけだが……

 彼がタウロスを選んだのは、その突発力。

 筋骨隆々の肉体は、細身の彼からすれば重くて仕方ない擬態だが。ことこの場においては、最適解。最も単純な、質量による直進は。


 焦って防壁を構築し、空間歪曲によって道を逸らそうと画策するタレスには目もくれず。

 貫牛の魔力が、発露する。


「重突魔法───<グガンナ・ヒヤドゥーム>」


 空気が震える。

 魔力が乱れる。

 機械で造られた鉄壁の防壁に守られた僅かな隙間から、タレスが認識できたのは極僅かで。動かなくなった身体はあまりに無防備で、防御も反撃もできず。あっさりと……固めた守りが、瓦解していく。

 鬼気迫る牛頭が、目前に迫っていた。


「ア゜ッ」


 空間ごと破壊する突進は、タレスを、防壁諸共、そして機関部までもを貫いて。

 あまりにも、呆気なく。

 全てを破壊する。


ッ、ドォーンッッッ!!


 爆炎が上がる。

 人型にくり抜かれた機関部から、轟々と炎が噴き出て、紫電がバチバチと空間に鳴り響く。ネオ・ズーマランドにおせる心臓部の破壊は、決して、総旗艦を爆破させるには至らなかったが……

 浮力を失った惑星は、大陸惑星へとゆっくりと降下。

 ズシン…と轟音と砂煙を立てて、不時着。あちこちから煙を噴き上げて、沈黙した。


 戦場では、突然の獅子頭総旗艦落下に、両軍共に混乱が広がったが……極一部を除いて、気にできるだけの余裕はなく。一部の兵が確認と救援の為に戻りつつある中。

 燃える機関部から、牛頭の男はのっそりと歩き出た。

 肩に付着した破片を取り除きながら、足元に倒れ伏したサソリを睨む。


「適材適所ではあったが……こんなものか。やはり、彼の死は痛かったな。敵陣に置くだけで、こうも簡単に要所を破壊できる。反射を選択するなど想定外にも程がある」

「……それで、いつまで死んだフリをしてるつもりだ?」


 擬態が、すーっと解けて……タウロスの姿は、看守服の処刑人のモノへと戻っていく。

 彼の目的の一つ、総旗艦の主動力源は落とした。

 後は、本陣を守る裏切り者を弑するだけ。足元に落ちた褐色肌の残骸を足蹴に、レイは視線を持ち上げる。中身のない抜け殻などに、興味はない。

 視線の先には……


「ハァ〜……嫌にナる。こんナ姿、二度とナりたくもないゴミだっタのに…」


 そこには、異形がいた。

 身体の関節部が機械となった、四つ足の異形。青と銀のコントラストが目立つ、長身細背の生命体。二本の細腕は複数の配線が露出しており、毒色の液体が滴り落ちているガラス管が丸見えで。両手は五本指ではなく、四つの指で構成されたハサミとなっていた。

 毒々しく、荒々しく、寒々とした機械の肢体。

 人の皮の中に隠されていた戦闘人形は、伸びた首の上に鎮座する頭を揺らす。


 ボサボサの銀髪に、真っ黒な半球状のモニターを顔面の代わりに採用している、裏の顔。

 モニターにボンヤリと浮かんだ青い光は、瞳の代わり。荒々しい駆動音を掻き鳴らして、腰から伸びている機械の毒尾が、処刑人を指す。

 ポタポタと、雫が落ちて。

 ギルタブルル星人の異形体を更に異形にした、タレスの本体が怒気に震える。


「代償は高クつくよ……」

「随分とまぁ、殺意の高い姿だな。どう格納されていたんだか、疑問に思うが。どんな姿であろうと……殺すことに変わりはない。再開しようか、木偶の坊」

「言ってクれるじゃん?ホント、楽に死ねルと思ワないで欲しいナァ…!!」


 ガチガチとハサミを鳴らして、苛立たし気に毒を垂らすタレスに対して、レイは何処までも無表情を貫く。

 優位性は、彼の方にあるから。

 本陣を守れなかったタレスの捨て身の攻撃など、レイにとって取るに足らない。そう認識しているのは、決して、間違いなどではなく。

 ただ、一つだけ。


「でも、マぁ……こノ状況、君がマダ鳥籠にいルことに、変わりはナいよ」

「結界のことか?いや、まさか…」


 彼らを囲う結界は、健在。

 そして、舟の心臓が破壊されようと───用意していた保険の一つが、作動する。レイが異変に気付く。惑星が、不自然に振動し始めたから。魔法と機械によって、完全に制御下にある獅子宮において、地震という自然現象はまずありえない。地震以外の、人為的な挙動による揺れ。

 戦闘の気配は無い。ただ、聴こえてくるのは……

 複数の機械の駆動音と、電子音。

 レイは視線を巡らせる。重突魔法によって轢き潰された機械人形の……機能停止した、人工知能を搭載したそれを見る。


───惑星全体に、彼女の声が響く。


『システム:オールグリーン。電脳体、起動。これより、夢星規定に沿って、“獅子宮”総旗艦ネオ・ズーマランドの運営及び稼働、統括個体シャウラが代行します』

「ホラ、こレで振り出しダ」

「ふむ…」


 総旗艦が浮上する。

 機械の身体から星の中へ、ケーブルを通った電脳体に、ネオ・ズーマランドは掌握された。予備電源を起動して、サブの炉心を回して。主の戦場からは遠い位置で、新たな機関部を構築しながら。

 人工知能シャウラは、全てを使って主をサポートする。

 自慢の側近、手作りの配下に満足気に頷いたタレスは、挑発気味な態度を取り戻して。

 嗤う。


「再開と行コっかァ?」

「……いいだろう。それならば、この星を完膚なきまでに破壊し尽くしてやる」

「ヤめて?」


 変わる色彩。

 移り変わる姿。

 更なる擬態へと変貌するレイとの死闘は、最終局面へと移行する。


続くよ

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