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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
悪夢の国のマッドハッター

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31-秘密は悪夢の底の底


「女王陛下」

「……なんだメード。私は今、この爆盛りスイーツ作りで手が離せない」

「左様で」


 悪夢の国の女王、アリスメアーのボス、“夢貌の災神”と名高い厄災。弱体化に弱体化を重ねて今に至る、リデル・アリスメアー。リデルと最高幹部、幹部補佐のみが滞在を許される秘密の部屋で、パフェを手作りしていたリデル。

 その部屋に、メードが書類の束を持って現れた。

 卓上にドンッと雑に置いて、自分もお相伴に預かろうと近付いていく。


「あー」

「上下関係って知ってるか?我、女王。オマエ召使い……わかっとるのか?」

「存じ上げないです」

「なんだこいつ」


 傍若無人、礼儀の欠片もないメードに生クリームを半欠啜られながらも、リデルは「仕方ないなぁこいつ」と渋々許容した。以前の姿を知っていれば偽物や替え玉を疑い、徹底的に真偽を追及する変わりようである。

 身内にすら容赦なかった女王の歴史は、蒼月の力により悪夢を晴らされ、中途半端に浄化されたことで終幕した。

 それが今の緩さに直結しているのだが、メードは過去の最高幹部に感謝した方がいい。


 食べられた分を追加で足しながら、リデルはやってきたメードに要件を問う。


「で、どうした」

「……あぁ、お二方について、陛下に聞きたいことが」

「ほう?」


 彼女が聞きたいのは、体調を崩した帽子屋と、目の前の女王について。


「私はなにも知りません。お二方に新たな命を与えられ、仮にも従僕として生きていますが……私は、陛下の目的や帽子屋様の計画を知らずにここにいます」

「……そうだな、私とうるるーがオマエに求めてるのは、そこにはないからな」

「えぇ、存じております。ですが知りたいのです、私は」


 かつて、死に瀕したメードは、交叉する光と闇の最後をその目で見届けた。魔法少女とアリスメアーの最終決戦、逃げ遅れた彼女は黙って空を見上げていた。ここで叫べば迷惑がかかると、瓦礫に押し潰され、なんとか見上げれたその光景を、じっと見ていた。

 蒼月を庇って、極光が地に墜ちる瞬間も。

 蒼月が、アリスメアーの女王と共に光の中に消えて……その姿を消してしまうまで。

 

 生の目で、最初から最後までを、メードと名付けられた彼女は見届けた。


 死して蘇り、魔法を手にし、召使いとして生きている。


 普通は立ち入りを禁止しているこの部屋に入れるのも、マッドハッターの正体を知っているから、あの戦いを死ぬ最後まで見届け、助けを求めなかったからに他ならない。

 ちょっとだけ助けられなくて申し訳ないなと感じている元魔法少女の配慮であるが……

 それでも、ツートップがなにを考えているのかは彼女もわかっていない。知らされていない。なにも告げられず、なにも教わることなく、従僕として素直に過ごしていた。

 だが。

 あのマッドハッターの不穏な挙動。呼吸困難になるほど重く苦しい魔力の圧。咄嗟にリデルが、方法は兎も角元に戻したからよかったものの、もしあのままであったら。

 今まで沈黙を貫いていたが……あのような取り乱し方を目撃してから、兼ねてよりの疑問が抑えきれなくなって、知りたくなってしまった。


 女王と蒼月が、今のアリスメアーでなにを目指すのか。


 あそこまで取り乱した元魔法少女が、何故そこまでして悪夢に与するのか。


 ……まぁ、状況と疑問が噛み合ってないと言われても、メードは知らんぷりするだけだが。


「ふむ、そうさな……」


 その問に、元・人類の殺戮者、リデルは答える。


「私たちの関係は、利害の一致という面が強い。お互いに今、なにが世界に必要なのか。例えそれが広義的に見れば最善手ではなくとも、やるべきであるも結論した」

「……?」

「わからずともいい。なに、我々の敵は魔法少女だけではない。それを知っているだけで、今は許せ」

「魔法少女、以外……」


 煮え切らない答えだが、リデルが話せるのはそこまで。


 己を一度殺した、悪夢に汚染されていた自我を浄化した魔法少女と手を組んだのも、戦力に加えたのも、結果的に力を奪われて木偶の坊になった今でも、殺す殺されることなく協力関係にいられるのも。

 全ては来るべきときに備えているから。

 リデルが最も恐れるモノ。帽子屋にとってはまったくの未知であるモノ。


 どちらにせよ、対策せねばならないモノ───…


「ふん……力を失わねば、ここまで悩む必要はなかったのだがな」


 正気に戻れただけでも良しとするか。

 リデルはそう頷いて、これから起きるマッドハッターに見せつける、爆盛りスイーツの完成を急ぐのだった。


 勿論だが、料理下手なメードには一指も触らせずに。








꧁:✦✧✦:꧂








「……おはよう」

「漸く正気度回復したのか、うるるー。あむっ、んくっ。悪いがオマエの甘味はないぞ」

「いらん」


 そんな食べたらぶくぶくしちゃうぐらいやばそうなの、絶対食べたくないんだけど。いやだよ、せっかく調整したゾンビボディがあられもない造形になっちゃうじゃんか。

 食欲が湧かないのをいいことに食事制限やってるから、どっちにしろいらないんだけど。

 ……なんでこう、甘いものばっか食べるだこいつは。

 口元に大量の生クリームをつけたリデルを余所に、僕は椅子に腰掛ける。


 あーあ、ホイップ全部使いやがって。悪夢の国の住人が糖尿病になるのか知らないけど、やばいんじゃないの?

 言っても無駄か。だいぶ自分に正直に生きてるし……


「おはようございます帽子屋様」

「おはよう」

「申し訳ございません。早速で悪いのですが……こちら、三銃士の皆様からの稟議書でございます」

「なにそれ。うちそんな制度あったっけ……や、ペローの癖か。あいつ社畜だっけか……ふーん、いんじゃないの?後でサインしとくよ」

「ありがとうございます」


 次のvs魔法少女は三人全員で出動します、という計画に是と返して、自分で淹れたココアを一口。コーヒーとかは飲めないけどココアはいける。子供舌で悪かったな。

 壁の鳩時計を見れば午後四時……だいぶ寝たんだな僕。

 普段寝ないから、その分の皺寄せが来たのかな。うん、まぁ思考もだいぶ回復したし……後でリデルにはお礼とかあげるべきか?


 でもメード産のダークマターで目を覚ましたとなると、ちょっといやな気分になってくる。

 ……このダークマター、あの子たちに食べさせるか?

 こう、早食い対決ってことで、いつもの息抜きみたいな戦いを挑んで、順調でいい感じにお腹が満たされつつあるところに出して食べさせるとか。

 叩かれるな絶対。非難轟々殺意の一撃が降り注ぎそうな未来が見えた。


「ふぅ……」


 さて。ちょっと一息ついたところで思考を巡らせる。


 リリーライト生存疑惑を確かなモノにする為に、血痕で人物を特定する魔法を作らないと。ぽふるんはそこら辺が疎いっていうか考えが回らない子だから、多分偽装とかはできてないはず。

 そして、もし仮にあいつが生きているのなら……なにか痕跡があるか探る必要もある。

 あとは……光魔法が使える妖精、ほまるんについてか。


「あの妖精についてわかったことはある?」

「いいえ。過去の妖精情報を虱潰しに漁ってみましたが、やはりかの妖精は確認できず。ピンクのクマという妖精は過去にいたみたいですが、同一妖精ではないようで……」

「……突然現れたのは変わりない、か」

「はい」


 先日頼んでおいた捜索については、目ぼしい結果はまだ見つけられてない様子。マージでなんなんだあの妖精……最近アレのことを考えると、頭が軋むんだよ。

 ちょうどリリーライト生存疑惑を抱いてからだ。

 なにか関係があるのか。この違和感は一体?思考に不快ではないが不気味な霞がかかっているのは何故?

 僕はなにに、一体だれの干渉を受けている?

 ……最悪、リリーエーテにも直接聞いてみよう。彼女が実の姉の名を覚えているか否かで、こっちの対応もかなり変わってくる。


「然し、ドリームスタイルとはな……“夢の覚者”が3人も増えたのか。厄介な」

「夢の覚者?君らんとこの呼び方?小難しいね」

「そうさな、特に意味に変わりはない。覚者となった者はより洗練された魔法を使い、悪夢を晴らす。我らにとって毒でしかない」


 超強化された悪夢払い機。それがドリームスタイル……なんかやだなこの言い方。でも悪夢の国の住人にはかなり特効な代物だってことはよくわかった。

 夢の国が、悪夢の国を正しい姿に戻す奇跡の力。それを人の身に降ろすのは、実際どうなんだろうか。

 魔法少女になったことで、魔力の扱いを学んだ。

 魔力が人体に有害ではない保証などない。昔はそこまで気が回らなかったから、そういうの考えなかったけど……そろそろ調べてみようかな。


 計画まではまだ時間がある。それまでの余暇を、上記のあれこれで潰していこう。


 この苦しい気持ちに蓋をして。幸せな悪夢を作る為に。


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