330-最強のチャレンジャー
中編
「魔力回復、ヨシ!」
「体力回復、おっけー!」
「諸々の確認、問題無し……それじゃ、リベンジマッチに行くわよ!!」
「「「おーっ!」」」
「ぽふっ!」
「星の回廊」中継塔───流星群によって半ば倒壊した建物の傍。異空間内における唯一の陸地で、身体を休めていた戦乙女たちが、一斉に立ち上がる。
新たな悪夢を乗り越え、そして、星の子を下した3人。
エーテ、デイズ、コメット、契約妖精のぽふるんはこの異空間からの脱出を試みる。
……と、言いたいところなのだが。
この空間、「星の回廊」の主である双子……カストルとポルクスは今。
「すぅ…すぅ…」
「んんぅ…」
魔法少女の浄化の光を浴びたことで、爆睡していた。
それこそ、幾ら揺すっても起きないぐらいには……深い眠りについていた。彼女たちの魔法が齎す、敵性存在から戦意を削ぐ光が、悪い意味で刺さった影響だった。
無理に起こすのも忍びない。
そう思わせるぐらいには、双子たちの寝顔は安らかで、寝息も安定している。
穏やかな寝息を立てる双子にかけられた、毛布のズレを軽く整えてやってから。
騒音で起こさないように、こっそりと。
生憎、魔法少女にこの空間から飛び出る、正規の方法はない。外界の様子もわからない今、タイミングが掴めないのは痛いが……なんとかしなければならない。
そう決めた3人と一匹は、飛翔して出口を探すが……
当然、見つかるわけもなく。壁を叩いて脆い箇所を探す方法もできず、エコーロケーションのように魔力を放って反響させる方法でも、見つからないものは見つからない。
絶望である。
「ちょっ、どうしよ!?」
「や、優しさが裏目に出るパターン…」
「お、起こすのが正解だったようね……でも、起きてくれないのよね…」
「爆音掻き鳴らすぽふ?」
「多分怒られる」
「確定よね」
振り出し。もう一度塔に戻って、再び頭を突き合わせてこそこそと話し合う。
だが、その声量は思いの外大きかったのか。
彼女たちの背後で、毛布がズラされ……カストルが漸く目を覚ます。
「っ、あっ…」
視線を彷徨わせたカストルは、隣で寝ているポルクスを見つけ、その頭を軽くひと撫でしてから……近くで無言を貫き、身体をくっつけ合う魔法少女たちを見る。
突然起きたカストルにびっくりしていた少女たちを。
なにをやってんだとジト目になりながら、状況を即座に把握する。
「……負けたのか、僕たちは」
「……うん。私たちの勝ちだよ」
「そうか……まぁ、癪だけど受け入れる。ふぅ……んで、なにやってんだ?」
「ここ出たいなー、って」
「ふぅん?」
自分たちの負けを認め、受け入れて。渋々ではあるが、仕方ないかと割り切ったカストルは、エーテたちの助けを懇願する視線を浴びるが……
ニヤリと挑発的に笑う。
「どうしよっかなぁ!?」
「性格が悪いッッ」
「当たり前だろ?僕らがなんとかしないと何もできない!最っ高のエンタメだろ!!アハハ!もう知らない!ずっと彷徨ってろばーか!!」
「八つ当たりが酷いわね!?」
「ふ○っくゆー!」
負け惜しみで嫌だと笑うカストルと、ギャーギャー騒ぐ魔法少女たち。棘のある言い方ではない辺り、戦闘の最中あった物々しさはない。ただのじゃれ合いだが……
勝者を一通り煽った後、カストルは咳を一つ。
暗黒王域の将星として、勝とうが負けようが彼女たちを異空間に閉じ込めておくのは当たり前と言ってもいい作戦だ。それ所か、戦いの中で確実に成長していく魔法少女を封じ込めるメリットは、デメリットを遥かに上回る。
双子の心労を考えなければ、だが。
しかし、カストルは3人をこの場に留め続けるつもりはなかった。
「……仕方ない。嫌だけど、本当はいやだけど……ここでずっと騒がれても、面倒臭いし……僕らのやるべきことを邪魔されても困るし。いいよ、出してやる」
「本当!?って、何企んでるの?」
「万が一の保険。別に、お前らに攻撃するわけじゃない。さっさと出て行っていいぞ」
「急に辛辣じゃん…」
「当たり前だろ」
負けは負け。
そう達観した姿勢を見せるカストルは、必要以上に抗うつもりがない。また、自分たち双子には、やるべきことがあるから。その詳細が語られることは、暫くないが。
最近寝れていなかったせいか、熟睡しているポルクスを他所に。
カストルは座ったまま、徐ろに手を掲げ……
ブィィィィィン…
「星の回廊」を開き、中継塔の傍に出入り口となる門を作った。彼にとってこの空間は半身も同然。開門も閉門も肉体動作の延長線上にある。
星空の向こうに、恒星異空間が覗き見える。
一見すれば、来た時と変わらない光景だが……衝撃が、空間の向こう側から吹き荒ぶ。今も尚、極黒恒星の各地で戦っている者たちの魔力が。
それを浴びて、開通を喜んでいた魔法少女たちは、気を引き締める。
「強かったよ、あなたたち」
「そっちもな。強かったぜ」
飛び出す前に、改めて健闘を称え合ってから……3人の魔法少女は、虚空の縁に足をかけ。
ぽふるんを脇に抱えて、勢いよく。
「行こっ!」
「ええっ!」
「せーのっ!」
「ぽふー!」
魔力放出と共に、宙へ飛び出し───目的の伴星へと、突き進む。
その後ろ姿を、カストルは無言で……少しだけ、表情を歪めながら見届けて。将星として思うとこは多々あるが、負けた分際でとやかく言えるわけがなく。
負けてくんないかなと思いながら、体力回復に務める。
……数分後。
「んぅ……ぅん?」
「おはよ、ポルクス」
「…お兄様……ッ!?お、お兄様!って、あれ!?まっ、魔法少女は!?」
「もう行った」
「えぇ!?」
寝過ごしたポルクスの劈く悲鳴は、カストルの笑い声に掻き消されのだった。
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燃える大地。
吹き荒ぶ剣閃。
轟音の嵐。
星全体で地響きが鳴り続け、熱を帯びた殺意が飛び交う危険地帯、黒灼炎星ヴォルカモンスターにて。
リリーライトとエルナト・アルデバランが、一心不乱に攻撃をぶつけ合い、休憩を挟むこともなく……我武者羅に死闘を繰り広げていた。
聖剣は煌めき。
魔斧が砕く。
「ハァッ!!」
「ラァッ!!」
両者共に、傷は浅くなく。
悪夢決戦後、主に持久力を鍛えたライトは、呼吸を極力乱すことなく聖剣を振るい続け、エルナトのとんでもない岩の如き剛体を着実に傷つけていく。
魔法出力においては、ライトが上回る。
だが、ここはエルナトの得意なフィールド。溶岩という回復薬が、足元からグツグツと沸き立っていることからもわかるように、彼女の方に圧倒的な有利性がある。
失った血潮は、決して元に戻せないが。
エルナトはライトから受けたダメージの八割を、瞬時に回復させながら戦う。回復するよりも速く、攻撃を浴びる機会の方が多いが……
聖剣の輝きが、闘神の覇気を上回り。無視できない傷を刻まれていく。
「楽しいなァ、おい!!」
「そう何度も言わなくたって、わかってるって……でも、ここで仕舞いかな」
「あん?」
高揚の止まらぬ精神。
戦闘意欲は依然収まらず……リリーライトとの死闘を、心から楽しんでいたエルナト。そんな彼女の高揚は、突然相手から吐かれた言葉によって一瞬薄れる。
ふざけたことを。何を言っているのか。
まだ、まだ。戦いは終わっていないと言うのに───…
この女は、なんと言った?疑問は怒りへ、瞬間的に沸騰するエルナトの殺意に対して、ライトはそよ風でも浴びたかのように振る舞い。
「ラピちゃんは渋ってたけど、あいつの意思は固かった。なんでか知らないけど……コケにされたって判定が下ったみたいでさ。プンプンお冠」
「……なんの、話をしてんだ」
「気付いてないの?あなたたちの王様───悪夢の底に、落ちちゃったみたいだけど」
「ッ!」
戦いに熱中していたエルナトは、指摘されるまでそれに気付けていなかった。たしかに、この伴星にまで伝わっていた、皇帝の大きな気配が……確認できない。
だが、エルナトは動揺しない。それがどうした。
形だけでも仕えている主が何処かに行こうと……彼女の戦いは終わらない。皇帝の不在程度で、エルナトの戦争に支障はない。
「関係ねェな」
「あなたにとってはね?でも、私たちにとっては違う……こっちはね、総力戦やってるんだよ。戦えるヤツ、全員であなたたちに挑むしかない」
「それが、なんだってんだよ」
「みんなで協力して、交代して───皇帝様が戻ってくるよりも前に、邪魔な将星全員ぶちのめす」
「へぇ?」
ここからが、漸く中盤だ。
“鯨貪呑禍”セチェス・バテン=カイトス。
“天弓闘馬”サジタリウス。
“天魚雷神”アルフェル・トレーミー。
未だ行方知らずの“画領転醒”と、総旗艦に攻め込んだ“翡役淵底”を除き、他の将星は全て撃沈した。今のところ誰も死んでいないが……ここから先は、殺さない選択肢を選ぶ方が難しい戦いとなる。
最大の脅威である“星喰い”は、悪夢の女王が足止め。
その間に、余力を残していたムーンラピスを筆頭とした魔法少女が残りを殲滅する。“力天使”は大分消耗したが、霊体となった“虚雫”のサポート力があれば問題ない。
前半戦は、ここまで───リリーライトが、エルナトにつきっきりになるのも、ここで終わり。
ここから先は。
「人気だったよ、あなた───ほら、上を見て」
徐ろに、天に指を掲げるリリーライト。その指の先を、エルナトが自然と目で追えば。
炎の伴星に落ちてくる、若い流星が見えて。
「私の目的、役目は、あの子たちが順当に勝てるように、あなたの力を削いでおくこと。そして、私自身の、身体をちょーっとだけ、研ぎ澄ませておくこと」
「……ハハッ、おいおい。興醒めしねェだろうなァ?」
「さぁ?それはあの子たちに聴いて?でも、少なくとも。失望はさせないよ」
「そうかよ!」
エルナトは笑う。
イライラな表情から一転、期待に満ちた笑顔で、宙から落ちてくる新星を迎え入れる。
腰を落とし、踏み込み、斧を振るう。
挨拶代わりの一撃をもって、紅き闘神の熱線が、燃える空気の層を貫き……
高速でこちらに突っ込んでくる、魔法少女に放つ。
リリーライトは、それを止めず。安心した顔で、聖剣を鞘に納める。
「選手交代だよ」
その言葉が、決定打となったかのように。
───ッ、ドォーンッッ!!
上空へと打ち出された闘神魔法が。彼女たちの魔法で、弾けるように霧散する。
杖が。
槍が。
斧が。
真正面から、エルナトの魔法に打ち勝ち。落ちてきた、うら若き戦乙女たちは。
高まる戦意を、熱意を胸に灯し。
絶対に負けられない、リベンジマッチをしに、この地へ降り立った。
「リベンジいい!?」
「今度こそ、ぶちのめすわッ!!」
「勝ちに来たよ!!」
「バトルぽふ!」
“祝福”のリリーエーテ。
“彗星”のブルーコメット。
“花園”のハニーデイズ。
最も新しい魔法少女たちが、中断された戦いの再戦を、エルナトに申し込む。
「ハハッ……面白ェじゃねェか。いいぜ、来いよッ!!」
一目見てわかる。
以前じゃれ合った時よりも……格段に、新世代の3人は強くなっていることが。
今更になって理解する。
リリーライトはただのアシスト。戦闘中、僅かに身体が明滅していたのは……何かしらの力の覚醒か、新たな力の発露なのか。エルナトには判別つかないが、それが王域の脅威になることだけはわかる。
戦士として、邪魔するべきだとはわかるが。
今は、ただ。目の前の餌に───成長した強者たちを、喰らいたい。
「お姉ちゃん!」
「うん、お姉ちゃんだよ。よかった、平気そうだね───それじゃあ、私も。行ってくるね」
「行ってらっしゃい!」
勝気な笑みを浮かべる、かつては守るべき存在であると背中を向けてきた後輩たち。彼女たちの、やる気に溢れたその顔を見れば……必要以上の語彙はいらないだろう。
安心して、行くべき場所に行ける。
やさしい妹と、勝気な後輩、天真爛漫な後輩、妖精と。たくさんの想いを込めて、勢いよくハイタッチをして……この場を任せる。
リリーライトは、光の翼を生やして───飛翔する。
その飛んでいく様を、一同は見届けて。すぐに、互いに向き合う。伴星が齎す熱気で、既に汗ばみながら……若き強者たちは、牙を剥くように笑う。
魔力の高まりは、収まらない。
「今回は容赦しねェぞ?」
「いーよ!こっちだってそのつもりだから!」
「前回の雪辱、晴らさせて貰うわ!!」
「この日の為に、いーっぱい頑張ってきたもんね!絶対、勝つよっ!」
将星二世と、魔法少女二世。
沸々と湧き上がる熱気と殺意、魔力のオーラが立ち上る星の戦場で……
再度、激突する。
芸術家が地の文でも行方不明なのは仕様です




