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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
悪夢の国のマッドハッター

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29-馴れ合えるタイプの女幹部

今日は魔法少女視点の話


 各々の激闘を経て、全員がドリームスタイルを獲得した魔法少女たち。今日もまた、明園家に集まって───いるわけではなく……

 御伽草学園の美術準備室を占領して、三人+2は、とある問題について議論を交わしていた。


「やっぱり、アリスメアーに家がバレてたのは……正直、マズいと思うの。早めに引っ越すか、身を隠した方が安全なんじゃないかしら」

「ちょっとヤバいんじゃないかな〜って、あたしも思う」


 先日のvsマッドハッター戦で、リリーエーテが寝込み、他の主力2人が出払っている時に襲撃を仕掛けられた……このことから、魔法少女の正体がバレていて、いつ悪夢に強襲されるかがわからない、そんな緊張状態に彼女たちは陥っていた。

 ここ、御伽草中学校が安全だとも限らない。

 発端は穂花の熱に浮かされた失言からだが、彼女たちは遅かれ早かれ暴かれていた情報を元に襲われていたのではないかと、確信を突いていた。

 だからこその作戦会議。家を移るべきか、隠れ潜んで、もしくは迎撃するか。


 マッドハッターもとい闇堕ちた先輩魔法少女のせいで、彼女たちは選択を迫られていた。


「うーん、うーん……あの家を手放すのは、ちょーっと、いやなんだけど……」

「ぼく的にもいやぽふ」

「うんうん」

「そりゃあ生家だもの。ぽふるんに至っては、先代たちの家でもあるんだし。気持ちはわかるわ……でも」

「考えても仕方ないとおもうけどねー。こー、来るときは来るーっていうか?」

「そんな楽観視していいもんじゃないわよ」

「だよねぇ」


 何処までも現実を見て警戒している蒼生と、親友がその敵枠にいるきららの温度差が凄まじいが、二人共穂花たち明園家在住者を気にかけているのは言うまでもない。

 友達だからこそ、仲間だからこそ、力になりたいから。

 きららに至っては、実家の不動産を紹介しようと考えているのだが……


「わかった!それじゃー実際どうなのか直接聞いてみよ!それで決めよ!」

「何を言ってるのきらら」

「ちょ、直接……?」

「うん!」


 いつもの突拍子もないヒラメキで、きららはメッセージアプリLINEを起動。

 お目当ての人物───親友を呼び出す禁じ手を使う。


「呼んだって、誰を」

「チェルちゃん!」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」


 思っていた以上にヤバいことを軽々やられて、絶句する仲間の反応は気にも止めず、きららはニコニコと心からの笑みを浮かべて待つ。

 その笑みは悪いことなんてなにも考えていない証拠。

 アリスメアーは知っているのではないかと危惧していたところに爆弾を放り込んだが。

 流石に焦ってきららの肩を揺らす穂花たちだが、元より危機感の薄い彼女のことだ。一向に気にした様子がない。本当に大丈夫だと確信している、親友への重く厚い信頼がそこにはあった。


「あああああんたね、な、なんでそう、考え無しのことを平然とできるの!?」

「大丈夫だってー。チェルちゃんにあっちの意向聞かせてもらって、それで判断すればいいじゃん!」

「それっていいことなの……?」

「普通にダメぽふ」

「最近の子ってすごいね」

「それで片付けるのもどうなのかな……」

「このおバカッ!」

「なんでぇ!?」


 正当な怒りをぶつけに駆ける蒼生から逃走するきらら。怒涛の鬼ごっこが始まりかけた……その時。


 美術準備室の扉が、コンコンコンと叩かれた。


「!?」

「あっ、どーぞー!」

「ちょ待っ」


 魔法少女たちの静止を他所に、呼び出された彼女───歪夢のチェルシーが現れた。


「来たよ」

「チェルちゃーん!待ってた!たすけて!」

「?」


 いつもの猫のパーカーで、わざわざ怪人化した元の姿でやってきたチェルシーに、きららは抱き着いて壁にする。蒼生のガチギレグーパンの構えは穂花が羽交い締めにして食い止めた。

 あんまりな修羅場にチェルシーは瞠目しながら、一先ず話を整理する。


「何の用?」

「あのね、この前のでエーテのお家、チェルちゃんとこの帽子の人が暴いちゃったじゃん?それで、アリスメアーは襲ってきたりするのかなー、って聞きたくて!」

「あ〜。だいぶド直球……ふわぁ……それ、変身してないみんなの前でやる?」

「えっ、でも知ってるでしょ?」

「まぁ」


 包み隠さないきららの質問にチェルシーも呆れながら、欠伸をかんでから説明する。


「待ちなさい。色々ツッコミたいんだけど……まず一つ。私たちのことって、知られてる……の?」

「うゅ……魔法少女候補って感じで把握はされてた」

「 」


 白目を剥いて固まった蒼生を無視して、話を続ける。


「大丈夫……私が知ったのはつい最近……帽子屋さんが、候補リストに集めて、一応、こう……なんだっけ。普通にバインダーに纏めてたよ」

「マメさんなんだねぇ。あたしのことも書いてた?」

「うん。あなたって知ってから、見せてもらったけど……成績表の悪さも書いてあった」

「見なかったことにして?」

「無理」


 ギューッと抱き締められながら答える微笑ましい姿に、すごい仲良くなってる……!?と穂花は驚いて、なんだか大丈夫そうだと楽観視してから聞いてみる。

 まだ硬直している蒼生が見れば発狂する順応さである。


「結局、私、家捨てなきゃダメ?」

「んー……気にしなくてもいいと思う、けど」

「そなの?」

「あの後三銃士で話し合って、こう、どうしようかなって議題になって……」


 特に異論なく答えるチェルシー曰く。


 ペローは「エンタメ的によくないよね。あと元社会人の感性で言うと、青春って大事にしてもらいたいじゃん……ヨシ、オレっちは知らんぷりするぜ☆」と軽く仕事放棄。そしてビルは「上の判断に任せる」と判断を他人任せ。

 ちなみにチェルシーは「よくわかんない」の一言。


「いやダメじゃん」


 なにもまとまってなかった。意思決定権は彼ら三人にはないのだ。


「そもそもの話、帽子屋さんはあなたの失言を配信で見て重い腰を上げた感じだから……多分、次はないと思う……気を付けた方が…いいよ?」

「はい。この度は大変申し訳ございませんでした」


 あの場面でいかない選択肢はない。これ幸いと思い出の家まで襲いに行くしかない。

 迷惑をかけた自覚がある為、穂花は素直に平謝り。


「でも、帽子屋さんは二番煎じ嫌いって言うか……同じの繰り返すのは芸がない、って言って……やんない人だから大丈夫……安心していいと、思う?」

「疑問形じゃん。えー、どうなんだろ」

「……逃げてもすぐ捕捉されちゃうと思うけど。お金とか無駄に使いたなら、いいんじゃない?」

「うわ、家計に大打撃」

「あたしん家がお金出そうか?」

「うーん」


 大財閥の援助を受けるか、受けても無意味と断じる敵の声に従うべきか。穂花的には、思い出のあるあの家を……魔法少女のあれこれが置かれている火薬庫を捨てるのは、心情的にも倫理的にも避けたいところ。

 蒼月の魔法少女が放置した、使い道のわからない武装がたくさんあるから。

 引っ越すときに持っていくのも、置いていくのも、色々問題があって憚られる。


 それを知らない蒼生たちも、穂花が家を捨てたくないと思う気持ちはわかる為、彼女の判断に任せるようだ。

 ……これが、昔のような殺戮を厭わないアリスメアーであれば即撤収を強行していたが。今はエンタメ重視、極力怪我人を出さないよう配慮している悪の集団の現状を今は信じる。


 それがマッドハッターの意識操作の産物だとも知らず。


「……まぁ、下手に動かないで、あの家をどっしり守って欲しい……それが私の本音」

「なんで?」

「ムーンラピスの対悪夢兵器がいっぱいあるから……」

「あっ、それもバレてるんだ?」

「うん……マッドハッターが処分するか否か悩んで、どう手出しすべきか女王様ザクザクしながら考えてたもん」

「ザクザク?」

「ザクザク」


 正確には、女王の背を仕込みの杖の刃でザクザクザクと制裁混じりに突き刺した、だ。

 そしてチェルシーの心配は御尤も。

 その兵器群が政府の手に渡れば、政府vsアリスメアーの全面戦争の開始であり、現在の均衡が崩れてしまう。まだvs魔法少女であるからこそ、今の配信を主体とした戦いが成立しているのだから。


 あるのは血みどろの大戦争。先代たち以上の、かつての二の舞いよりも激化した惨劇を繰り広げさせない為に。

 ……今のアリスメアーの戦力でも、日本には勝てるが。


「……ねぇ、また襲われたら、私のこと、守ってくれる?私もみんなのこと、守るからさ」

「はぁ、仕方ないわね……私は異論ないわ」

「あたしも!なにかあったら、うちのシェルターで楽しくひきこもろっ!」

「なんでもあるわね???」

「大財閥すごぉ……」


 穂花は今を守ると決めた。あの家を捨ててしまうのは、魔法少女としての原点を失うのと同義だから。

 思い出を大事に抱えて、リリーエーテは定住を選ぶ。


「まーるく収まったね〜!」

「みんながそれでいいなら、ぼくも問題ないぽふ!」

「はふ……」


 欠伸を噛み殺して、三人と妖精たちの様子を眺めていたチェルシーは、ふと妖精の片割れ……ほまるんを、なんとなくの精神で見つめる。

 気になって、興味が勝って。ジッと視線を送る。


 最高幹部の帽子屋と渡り合って生還した、あの光魔法を行使したという妖精に。


「んぇ?」


 それに気付いたほまるんと目が合うが、どちらもジッと黙って見つめ合う。


 その異様な雰囲気に周りも気付いて静かになるが……


「……」

「……」

「……」

「……魔力、ちょーだい?」

「なんで?」


 マッドハッターとの戦闘で魔力を消費しすぎた妖精は、やはりいつも通りであった。



この後チェルシーの魔力もしゃぶってほまるんは回復した


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