27-生き人形の失せ物探し
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「───ねぇ、本当にオマエじゃないわけ?」
おやつを食べ終わった後。口元に残ったプリンの欠片を指で掬って舐めてやりながら、僕はリデルに問う。内容は言わずともわかるだろうが……例の名前の話である。
“極光”のリリーライト。あいつの本名が思い出せない、そんな事件だ。
取り敢えず知ってそうな元黒幕現幼女を問い質す。
「疑い深いな。違うと言っておろう。流石の私もオマエの記憶にまでは干渉できんよ。今は尚更な……なぁ、本当に思い出せないのか?なにかの間違いではなく?」
「信じられないのは僕の方だ。なんか、こう……あれだ。そこだけピンポイントにノイズが走る」
「ふむ。認識阻害、いや汚染か。面倒なタイプだな」
明園██───あーっ、なんで?なんでなん???
穂花ちゃんの名前から連想できそうなのに、できない。肝心なとこまで出そうで出ない。なんでかなぁ……魔法で脳みそ一回ぶっ壊したら治ったりしない?
治んない?そっかぁ。流石に物理療法はダメかぁ。
……あ、でも“ほーちゃん”ってあだ名は思い出せるな。なんで“ほ”から始まるのか、わかんなくなってるけど……これも干渉されてる証拠になるのかな?
リデルの汚れた口元を拭いてやりながらそう結論付け、詰問を終了する。これで僕の記憶問題はこいつのせいじゃないことになったわけだが。
……ほんとかぁ?オマエ諸悪の根源だろ。無意識に何かやってんじゃねぇの?
そう思ってジッと見たら、流石に鬱陶しかったのか軽く鳩尾に蹴りを入れられてしまった。
痛いな。
「生憎調べてもわからんと思うぞ。今発動している怪人の復活計画も始まったばかりで、認識汚染なんぞ無理な話。かといって今のメンバーにできるかと聞かれると、確実に違う。歪魔法も限定的で多用するほど使えんのだろう?」
「そりゃあ、呪いの魔法なんざ危なすぎだし。制限つけて使わせるよね」
「……尚更、今の我らの中にも、魔法少女の中にもいない可能性が高いんだが」
「むぅ」
外部犯の可能性も無いしなぁ……妖精は魔法少女といる二匹を除いて全滅してるし。あの一匹は謎だけど。
配信魔法が定着する前に引退した魔法少女のおばさんは魔法能力を失ってなにもできないし、何人かはビル使って悪夢に落としたし……うん、できそーなのがいない。
強いて言うならぽふるんorほまるん……あの妖精たちが関与している可能性はある。
例えば、ぽふるんが死んだ魔法少女の機密保護〜とかを言い始めてやった可能性もなくはない。
もう一匹のは……そういやあいつ光魔法使ってたな?
「あのほまるんとかいう妖精、リリーライトの固有魔法、ふっつーに使ってたな」
「なに?あぁ、配信では途中からだったが……ふむ」
「太陽の恩光を圧縮した光線<サンライト・レーザー>、加護として力を借りる<シャインフォース>、通常よりも多く掻き集めた光を塊にして、対象を一撃でぶっ壊すのが理想形の<ソレイユブレイカー>……うん、相も変わらず殺意高いなあいつの魔法。よく耐えた僕。流石は僕」
「それはもう光魔法というより太陽魔法ではないか?」
「何回言っても否定してくるよそれ。絶対認めないのよ、あのバカ」
そしてそれを使ってるあの妖精。くっそ怪しくね?
あーあ、これ……僕も夢想魔法使えるようになったら、夢みたいな想いの力で記憶蘇ったりしない?夢の魔法だけ派生すんのほんとやめてほしい。
チェルシーの夢幻魔法も夢魔法からの派生だし。
現実と非現実を曖昧にするんだけど……エーテちゃんの夢魔法は基礎の基礎、そこから成長して進化したって感じなのかな?
うん、脱線した。でも僕が取得した夢魔法じゃそこまでやれそうにないんだよね。
だから地道に、宛を探して名前を思い出すしかない。
かーっ、リリーエーテ捕獲とリリーライトの名前想起、そんでもってユメエネルギーの回収・増幅・培養・吸収もやんなきゃだし、家事能力0のバカ共にご飯を作んなきゃいけないし、掃除もしなきゃだし……後半二つは、この際どうでもいいとして。
取り敢えず、どっから手をつけていこうかな。
……たまには自分の都合で動いても許される、よね?
今までアリスメアーの為に頑張ってきたんだし……元は忌み嫌ってた悪夢の味方してるの、本当にどうかしてる。昔の同僚たちが知れば、どんな反応されるのかな。
怒るか嘆くか面白がるか。ライトはどう思うのやら。
……笑いながら斬ってきそうだな。こう、敵になった?じゃあ斬るねの勢いで。そんで斬った後にお話聞くねとかするよね絶対。
うん、これ以上考えるのやめよ……取り敢えず今は行動あるのみ。
手始めに妖精関連から片付けていこうかな。
「ちょっと出掛けてくる」
「夕飯は」
「安心しろ、それまでには帰ってくる……絶対、メードをキッチンに入れるなよ。二度目はないからな」
「善処する……」
ちょっと自信ないのほんとウケる。なんなのあの子。
「……隠されているのなら、探しに行かぬ方が、良いとは思うがな」
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───樹海に飲まれつつある廃墟群。ファンシーな模様、建築様式の建物は瓦礫となり、生き物がいる気配は欠片も感じ取れない……至る所に崩壊の跡が見られる異郷。
大きく抉れた丘の上の城から、その風景を一望する。
はい、そんなわけでやってきました───かつて妖精が暮らしていた、夢の国に!
正確には亡国“夢の国”跡地だけど。滅んでますね。
魔法関連といったら妖精を尋ねるべきだ。つまり妖精が生まれ育つ夢の国へ調査に出向くのは言うまでもない。
直接話を聴けないのなら、地道に足で探す他ない……
リリーライトの情報に干渉するナニカがここにあるとは到底思えないけど……観光がてら、あと変化があるか否か探索するのも悪くないだろう。
……ちなみに、アリスメアーの本陣は悪夢の国の住人を自称していた。昔のヤツら、リデルが絶対王政を引いてた時代の幹部怪人とかがそうだ。
“夢の国”と“悪夢の国”。なにか関係がありそうですね?
わかりきったことだけど。あーほんと、歴史って怖い。後始末はちゃんとしてよね……
おっと、ここ崩れやすいな。仕方ない、迂回しよう。
【ハットス!】
「なに、歩きたいの?別にいいけど……あぁ、これだけは約束してね。あまり遠くには行かないこと。いい?」
【ハッツ!ハッツハーッツ!】
「いい子」
頭の上で廃墟を眺めていたハット・アクゥームが自分の脚で歩きたいって強請ってきたから、条件付きで仕方なく頭から下ろして好きにさせる。
僕の【悪夢】から生まれたとは思えない、幼さってのを纏ってるのは気の所為かな?
帽子の内側から多脚、機械化した蜘蛛の足みたいなのを展開して、テクテクと廃墟を歩き回る。うーん、見た目がキモい。
視界の隅で気になったモノを片っ端から突っついているハット・アクゥームを気にしながら、僕は廃墟の中、特に図書館方面を意識して散策する。
発動中の魔法とかがあったらすぐにわかるし、あったら話が早いからね。
……まぁ、そう上手くはいかないか。うーん、今んとこ収穫がないぞ?
「困ったな……」
このまま帰っても、ただ散歩しただけでイヤだぞ?
流石に飽きてきて城の中腹、階段の踊り場に腰をかけて溜息を吐く。こーなったら人海戦術、鏡魔法で僕ちゃんを増やして増やしてパレードするしかない。
やかましいけど、有用なんだよね。正誤も鏡写しで左右反転してるから見分けられるし。もし仮に反乱が起きても一撃でぶち転がせるぐらいには弱いし。
他にもやり方はあるけど、手っ取り早いのはこれか。
そう思って魔力を練り上げ、力を行使しようとした……その時。
【ハーット!ハットス!ハッツハーッツ!】
腹の底?から声を出して、ハット・アクゥームが宿主を呼んできた。
あいつ意外と可愛いんよな。なんだよあの鳴き声。
「なにー、なにか見つけたの?」
【ハットス!】
「わかったわかった。すぐ行くから……よっこらせ、と。 あー、何処まで行ってんのさ君」
声に導かれるまま、木に侵食された部屋へ入れば。
「これは………血痕?」
おびただしい量の乾いた赤が、床に広がっていた。
「……お手柄だね」
【ハットス!】
でも、おかしいな。妖精は怪我はすれど出血はしない、子どもの視覚情報にやさしい生き物。だからこの廃墟にも周りの街にも、破壊痕はあれど赤い模様はなかった。
……と、なると。妖精以外の生き物がここに来ていた?
血の範囲はそこまで広くない。床の中央が起点で……、いや魔法陣。魔法陣あるな。掠れてるけど、魔法陣っぽい模様が下敷きになってる。
……召喚魔法か。血塗れのナニカを呼び寄せた?
血痕は魔法陣から這い出るように、部屋の外へ……僕が入ってきたのとは別の出入口へと繋がっている。
いや、正確には……窓の外。空でも飛んだのかな。
「……辿ってみるか」
窓の奥には、滅びた街が広がっている。血痕は……あ、見つけた。屋根とか道路とかに点々と落ちてるから、多分飛んでんな、これ。
……運ばれたのかな。血が大量に滴るダレカを、誰かが飛んで。
「おいで」
【ハッ!】
さ、鬼が出るか蛇が出るか……突いてみるのが人の性。だろう?




