290-到着するまでの暇潰し
「意外とやるじゃんね」
「物質化かぁ。あんま私たちはできないよねぇ。そーゆー概念攻撃ってやつ」
「んまぁ、専門外だしな」
「悪夢でドッカーン!する以外にもあったんだ…」
「探知魔法もくぐり抜ける技術とか、ふっつーに怖いからやめてほしい」
「わかる」
観戦していた魔法少女たちが、続々と僕のいる部屋まで集まってくる。肩にしなだれかかるほーちゃんの頭を軽く小突いて、結局諦めて受け入れる。
膝に乗るリデルとか、反対側を陣取る穂花ちゃんとか、言いたいことはいっぱいあるけども。みんなの感想には、うんうんそうなのすごかったねと適当に返す。
僕も見てたし。遠視と盗聴と探知やってたし。
状況把握は僕もできてたよ。ちなみに、その間にグゥはあ行をマスターした。
「あー」
「わっ、すごい!てか綺麗だね!?」
「普通もっと汚いのに…」
「よくできました」
「ぐぅ!」
本当に綺麗な形の“あ”。機械が書いたんかってぐらい、マジで正確な形をしている。これには僕もぽふるんも目を見開いて拍手した。褒め称えたよ。
みんなから追加で褒められてグゥも嬉しそうだ。
表情筋が動いてないのは相変わらずだけど、嬉しそうな感情が伝わるぐらいの変化は確認できる。メードみたいにマジで無表情のままピーピーギャーギャー言うのとはまた違った表情筋だ。
かわいいね。
「まるで私が可愛くないみたいな…」
「……ビジュがいいのは認めるけど、基本無表情で無感動なのは事実じゃん。スチルの違いだって目の見開き度合いぐらいで完結してるじゃん」
「口も開いたり閉じたりしてます」
「ツッコミどこはそこでいいのね?」
「否定しづらいな、と」
諦めてんのかい。これだから諦めの早い女は……まぁ、そういうところがらしいっちゃらしいけど。うたた寝中の寝子の口にスプーンを運ぶメードを眺めながら、いつものように溜息を吐く。
きららちゃんに睨まれてるんだからやめなよね。
喧嘩すんなよ。すんなって言ったよな。掴みかかんのもやめなさい。
蒼生ちゃんがぶん殴って止めた。それもどうなの?
……てか待てメード、オマエなに食べさせてたの?まだご飯の時間じゃないよ?
それなに。
「ポタージュです」
「……緑色なんだけど」
「アボカドです」
「ハァッ!?寝子ちゃんは猫なんだから、アボカドなんてあげちゃダメでしょ!!ペッしてペッ!!」
「ふぎゅごっ」
何故寄りによってそのチョイスを……美味しかったから食べさせたかった?オマエらしい理由だよ。まぁ、寝子は確かに猫だけど、人間だから。いや怪人だから。完全に猫みたいな扱いもやめたげてね。別にアボカドのペルシンで中毒異常が起きるわけじゃないから。
……首絞まってて逆に死にそうだな?
置換魔法で膝の上のリデルとチェルシーを入れ替えて、難なく救出。ぐったりしてる養子の背中を摩って、首へのダメージを癒してやる。
リデル?代わりに苦しんでるよ。
置き換わった反動で肩にあった手の位置がズレて、首をガッツリ絞める形になってる。
なんで?
「死ぬッ、死ぬッ」
「……えっ、え?リデルになって……ちぇ、チェルちゃんどこいった!?チェルちゃー!?」
「ちょっぐるじっ、ホントに死ぬッッッ」
「あっごめん」
「カフッ」
尊い犠牲だったな……うん、取り敢えずアボカド食って異常は出てないかな。やっぱり問題はないかなぁ。うん、安心していいね。だから落ち着こっか。そしていい加減に起きたらどうなんだ寝子。
脱力したリデルを介抱する穂花ちゃんと、僕の方、より正確に言うのなら膝上で丸くなった寝子に一直線なきららちゃん。なんというか、自由だ。
きららちゃんって意外と非情だよね。
相手がリデルだから、何もおかしくはないんだけどさ。怖いね。
「ごめんなさ〜い…」
「ふふっ、よっぽど好きなんだねぇ。わかる。わかるよ。好きな人には一直線になっちゃうよねぇ」
「共感するな。オマエに好かれてるヤツが可哀想だろ」
「全然可哀想じゃないなぁ。どっちかというと、幸せだと思うよ〜?」
「ケッ」
何処の誰のことなのやら。
横から真っ直ぐ突き刺さる熱烈な視線と、生暖かい視線から逃れるようにココアを一飲み。穂花ちゃんからの熱い視線も無視だ無視。つーか、こんな話する為に集まってんなら帰るぞ僕は。
暇じゃないんだ。
この前の時間停止空間で作った魔城脳内地図を出力する作業があるんだから。
「すぅ、すぅ…」
「ぐぅ?」
引っ付いてくるほーちゃんを引き剥がし、全然起きない寝子をグゥにあげる。そうそう、髪の毛弄ってやって……毛繕いとかかわいいな?おい。
きららちゃんは奪おうとするのやめたげてね。
可哀想でしょ。
「死ぬかと思った…」
「だいぶ力強く締めてたしねぇ……そりゃ仕方ない」
「私のことも抱き上げて〜」
「ヤダ」
死んでるリデルを担ぎ上げ、何やっても引き剥がせないバカを引き摺って歩く。
歩みを止めないのは、止まっても意味がないから。
別に、この重みがあろうとなかろうと、僕の足は明日を目指すのだ。まぁ、ユメ計画っていう未来を捨てて過去に生きる計画を第一に考えていたこともあったが。
過去は過去、今は今だ。僕は今を生きてい……いやもう死んでるんだった。なんなら【悪夢】に生まれ変わってるようなもんだったわ。
失敬失敬。
さて。今回の戦争で大事になるのは、僕たち魔法少女がどれだけ敵を倒せるか、だ。更に付け加えれば、どれだけ敵を生き残らせられるか、も課題となる。
皆殺しは楽だ。でも、暗黒銀河は広い。広すぎる。
統率できるモノが、政治をできるモノが、防衛をできるモノがいなければ……僕たちとは別の勢力から、七面倒な戦争を吹っかけられて、大打撃を受ける。負けはしない、だろうけど。その対処に地球が巻き込まれるのは、非常に困る。つーか面倒臭い。なんとしても回避したいところ。
だから、なるべく殺さず生け捕りにしたい。
雑兵は別にどうでもいいんだけど、将星は何人かは……生かしておきたい。新しく入った聖座とかは、殺すと逆に面倒だからね。
……そう考えると、取捨選択が怠いな……戦って運良く生き残ったら、そのまま殺さずにレオードの指揮下に入るよう命令すればいいか。あいつら弱肉強食だし、言うこと聞くでしょ。うん、そっちの方が楽だ。押し付け万歳。
問題は、レオードが強いから従うってわけじゃなくて、僕たち魔法少女に負けたから、ってのが容易に想像できることだけど……
……そこはレオードを強くすれば完璧か。
今も十分実力はあるけど、うん。せめてあの牛女ぐらい強くないと。
ヨシ、決まった。
「ほーちゃん明日暇?」
「暇っちゃ暇だけど……何かあるの?手伝う感じ?」
「うん。ライオン丸強化合宿、来る?」
「めっちゃ行くー」
ついでにタレスとカリプスも鍛えてやろう。魔法少女が武力同盟を結ぶのに相応しいってところを、相手に見せていかないとだしね。
頑張ってもらうとしよう。
改めて確かめたいしね。
リリーライトとムーンラピスを相手に、彼らがどれだけ戦えるのか。
「ってことで予定空けといて」
「唐突だなおい。全力で逃げていいか?」
「その場合ここでやることになるけど。オススメは僕らに大人しく従って、時間経過が外界の数百分の一……面倒いから計算は置いといて、異界での七日間が外では一日っていう修練空間で僕らに挑むことだよ」
「自動回復機能付きだから、死ぬこともないよー!」
「なんだその物騒なセールス文句……わーったよ、やりゃいいんだろ。ったく…」
案外あっさり頷いたな。まぁ、抵抗しても無意味だってわかってるからだろう。
よかった、実力行使せずに済んで。
レオード自身強くなることに抵抗は無い様子。そもそもあの皇帝サマを殺す為に、何百年と準備してたのがこいつである。んまぁ、将星現役時代は実力を隠していたみたいだけどね。だって、聞いてた情報と実際に見た時の差異がすごいんだもん。普通に上澄みじゃん。どんくらいかは、実際に殺り合って確かめるしかないけど。
あ、サジタリウスとエルナトよりは弱いよ?
あいつらはバグだから。アルフェル?あれも除外だ除外当たり前だろ。
で、問題は。
「イヤでござる〜!!」
「おい、逃げんな。悪ぃな、ちょっと待ってくれ」
「……はァ、ったく、この軟弱野郎が。少しは毒づけよ。サソリだろうがテメェ」
「無理ィ〜!!」
カリプスに首根っこ掴まれても、負けじと足掻く男……タレスの説得に、かなりの労力が費やされたことをここに記しておく。
やっぱ最後は物理だよね。




