288-言うことを聞かないヤツら
「あのさ、単独行動は控えてって散々言ったよね?せめて何かしら書き置き残すとかあったよね?何回同じことするわけ?いい加減怒るよ?」
「……も、もう怒ってる…」
「……はぁ?なに?」
「なんでもないです」
帰還後、ペローにすごい申し訳ない気持ちを抱きながらその場を離れた僕。ちょっと反省していると、爆速で僕に掴み掛ってきた女がいた。
ほーちゃんって言うんだけど。
時間魔法で好き勝手してたのを気付かれて、今、懇々と説教されてるとこです。
話長いな…
「ねぇ、ちゃんと反省してよ」
あっヤバ……すいませんでした。
危ない危ない。そうだこいつ、僕限定で割といい精度の読心ができるんだった。別に怒られようがどうでもいいんだけど、ここはポーズでも従っておくのが吉。
下手に反抗して拗ねられても面倒だから。
ここ十年の付き合いでそれぐらいはわかっているので、ちゃんと大人しくしておく。
僕はイイコ。反省スル。
それはそれとして独断専行はするが。今回だって犠牲になったのはペローだけだし。将星を一人撃滅させたようなもんなんだから、帳消しでもいいでしょ。
ノワールは良い奴だったよ…
ちなみにレオードにも怒られそうになったけど、何故か回避できた。多分、自分より怒っている人を見ると返って冷静になったからだと思う。なんかごめんね。
呆れ顔で、らしいちゃらしいが…って言われたのは正直釈然としないけど。
ただ、次やったら黄金像の刑だってさ。今のうちに対抗手段考えとかなきゃ……
あれって内側から破れるのかな。
……ニフラクトゥとの会談は、正直想定外だったけど、まぁ楽しめた。時間魔法の支配下でも動ける可能性は多少あったけど、まさか本当に動けるとはね。
明確に種として強い。順当に人間から外れた僕よりも。
殺せるには殺せる。それこそ、最初の会合で三回ぐらい殺せたんだ。耐久力は高いが、継戦能力の方が高い相手。僕と一緒だね。僕の場合は、ゾンビになったからそういう戦法になったってだけだけど。なんだっけ、数え切れないぐらい命の残機があるんだよね。あれ、ユメエネルギーを摂取することで増えるって話だよ。眉唾の噂が情報源で、本人から聴きはしなかったけど。多分、星を食べることで残機に還元してるんだろうと思うんだけど……
どういう身体構造してるんだろ。この場合、魂が異質な作りなんだろうけど。
どう殺そっかな。
リブラの件も、正直予想外過ぎた。魔術ってゆー技術と彼女の実力を知らなかったのもあるけど、あんな数時間でできるもんじゃない。評価を改めてなきゃだね。
ペローには悪いことをしたけど、まぁいいでしょ。
絶望しながらも許してくれたし。流石に、僕という前例がいるなら、時間停止解除をやれるだけの存在がいるのを考慮しとくべきだったけど。流石に無理か。無理でしょ。無理だったよ。
……魔術かぁ。ちょっと文献漁ろっかな。マイナー文化らしいけど。
なんて思いながらも、実際の僕は正座で謝り倒す以外の行動を取れず、暫くはほーちゃんのご機嫌取りに専念する必要があるのだが。
仕方ないよね。
「ホント懲りないよね」
「ごめんってば。できるんだからしょうがないじゃん」
「反省してると出てこない台詞だね」
「気の所為じゃね?」
「ふーん……取り敢えず、おしりペンペンと顔面ビンタと市中引き回しと縄で括り付けて宇宙に宙ぶらりんにされるヤツのどれがいい?」
「殺意高いな…」
どんどんヤバめな刑になってくの、いい性格してるよ。最後のヤツなんか、海でやる拷問みたいなのの宇宙版じゃないか。魔法少女じゃなかったら死んでるぞそれ。
逃げるかぁ。尊厳的に一番回避したいのはお尻だな。
こんな公衆の面前で正座させられてるのも屈辱なのに、ねぇ?
「用事を思い出したよ」
「あっ逃げる気だ。斬るね」
「落ち着け。獅子宮までぶった斬る気か」
「そこまで威力高くないよ?」
「いや、僕が干渉して上げる。忘れたの?その聖剣、まだ悪用できるんだよ」
「システム管理部ー!改修してー!!」
「おk」
「ちね」
この後、躊躇いなく斬りかかってくるリリーライトから全力で逃げた。
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「死ぬかと思った」
代償に背中がざっくりイカれたが、まぁ許容範囲内だ。すぐに修復できたし。激昂ほーちゃんかろ無事逃げ切った僕は、早速やろうと思っていたことを始める。
獅子宮が飛んでる状況下、上手く繋がるかは不安だが。
多分なんとかなるだろう……そんな考えで、僕は通信を繋げる。
映像通話、魔力で導線を結んだ、惑星間交流技術だ。
ブォンと音を立てて、椅子に座った僕の前にモニターが出現する。
事前通知もない唐突な通信だけど、まぁ応答はある筈。あいつのことだ。僕からの通信だと気付けば、今ある仕事全部放り投げてでも電話線に出る筈。
そう確信を持っていると、ほら。
不規則に揺れていたモニターが鎮まり、胡散臭い老けた顔がドアップで映った。
『───ブルームーン!私を呼んだかな!?』
通信相手はオリヴァーだ。オーガスタスともいう。
久しぶりに僕と会話できて嬉しいのか、いつもの割増で笑顔なオリヴァー。歳の割に無邪気というか、元気だよねこのおっさん。昔の悪のカリスマはどこいったんだ。
いや僕が消し飛ばしたのか。なんか損した気分。
……今の好々爺(対象限定)の方が扱い易いから、大した問題じゃないけど。
「呼んだよ。久しぶり」
『久しぶりだな、私のブルームーン。元気でやってるか?君の冷たくも優しい美貌に穴が空いたと聞いた時は、私も気が気じゃなかったよ。今は大丈夫なのかい?』
「無事に人間やめたよ。完全に魔力構成体になった」
『oh…それは喜べばいいのか、悲しめばいいのか。まぁ、元気なら安心なのだけど』
「元気だよ」
『そうか!』
どうやら心配をかけさせてしまったらしい。なんだか、申し訳ない気持ちが湧いてくるが……オリヴァーにそんな感情抱く必要性はないか。勘違いはさせちゃダメダメ。
一応、彼は僕の養父となっている。
若くして隠居する予定とはいえ、人間界でこっそり活動するつもりではある。その為に、今も裏社会で幅を効かせているオリヴァーに戸籍とかを作ってもらったんだ。
以前のは、もう死んでるからね。
保険証とかも、身分証明の為に脱法で作ってもらった。どうやってなんだろうね。
……養父になってもらったのはさ、あれだよ。金持ちを後継人に選ぶのは当然の理だし、金銭援助以外にも色々とやってくれるし。メリットしかないんだよね。裏社会との繋がりがあるんだな〜と、僕がムーンラピスだと知らない人から思われるデメリットはあるが。
それは許容範囲内だろう。
別に、オリヴァーのこと嫌いじゃないし。彼の奥さんのティファさんと娘のエヴァちゃんも嫌いじゃないし、あの奥さん結構僕に肯定的だし……ね?
ちなみに明園家は養子縁組してない。
資金援助は勝手にされてるけど。学費とかローンとか、2人が知らない間に払われてたらしいよ。怖いね。事前に連絡すべきだろ。
『さて、それで?要件は何かな。君のことだ。話したくて通信を繋げるなんてこと、私とはしないだろう?』
「よくわかってるじゃないか……まぁ、地球の近況報告を聴きたくてさ。今どんな感じかな、って」
『オーケー、オーケー!すぐに話そう。少し待ってくれ、前もって用意していた資料を持ってくる。あと、概要だけでいいかい?詳細まで行くと私の喉が死んじゃうからね』
「別にいいよ。あ、なら共有ファイルに送って?」
『勿論』
魔力回線で繋がったPCを通して、地球待機組代表であるオリヴァーは資料を提示する。アリスメアー幹部専用共有ファイルに掲載された資料を見れば、こと細やかになにがあったのか書かれてあった。
その一部、重要な箇所を絞ってオリヴァーは話す。
『まず財閥連合は正式にアリスメアーの直下となり、幹部全員の賛同を得られた。教主くんが真っ先に賛同したのが大きかったかなぁ』
「あぁ、あの生贄思想の。もう狂ってないの?」
『当然だとも。相変わらず君に狂ってるよ』
「あっそう」
それは別にいらん情報だわ。あれだろ?青の雫とかいう生贄思想の教団の跡継ぎというか、僕に傾倒するっていう謎の形で復活したののボスでしょ?うん。怖いね。なんで僕を崇拝しているかはよくわからない。本当にわからないから怖いんだよね。
……もっかい解散させよっかな。
なんかこう、魔法少女を崇めよう系の邪教の総本山って感じでヤダ。
『取り敢えず対宇宙への防衛網は着々と構築できてるよ。予定通り対空砲をメインとして、防衛省や各国の軍隊にも配備させた。これで我々に頼りきりという世間の目もある程度は払拭される筈だ』
「有難く思ってほしいよねぇ」
『ハッハッハッ!とはいえ、実際前線に出るのはメアリーだがね』
対暗黒銀河航空防衛戦線。仰々しい名称だけど、実際はうちの首切り役人が頑張るだけだ。といっても暗黒王域が地球に軍隊を寄越すほど、余裕があるかは不明だが。
あるだけ損は無いだろう。
取り敢えずメアリーに頑張って貰って、ルイユは補佐、オーガスタスは指揮するってのがセオリーだ。あと地球の上空に張り巡らせた音響兵器と、対空砲が地球を守る武力となる。
「なんとかなりそ?」
『問題はない。何かあれば臨機応変に対応しよう。最悪、アクゥームの大量放出でなんとかする。そちらのゴナー・アクゥー厶を何体か寄越してくれたら安心なんだが』
「無理な話だよ。そもそも制御できないでしょ」
『だよねぇ。メアリーの言うことも聞かないぐらいだし、本当困ったちゃんだ…』
「ハハハ」
僕とリデルっていう首領の命令しか聴かないからねぇ。オーガスタスは真っ先に餌になっちゃうんじゃない?多分味方認定されてないから。本来のオーガスタスみたいな、寡黙で無感動な怪物になればなんとか?
そしたら今のオリヴァーの長所全消しだけど。
ゴナー・アクゥームは、旧世代の怪人因子を再構成した人形だ。でも、どういう訳かアリスメアーの首領の命令にだけ従順で、他の幹部には見向きもしない。ある意味での 欠陥兵器なのだ。僕は使えるから無問題だけど。悪いけど地球防衛は今ある戦力で頑張ってほしい。将星クラスでもメアリーを過重労働させれば十分だろうけど。
アリスメアーはブラックだからね。それに首切り役人に人権はないから……
最悪、ルイユの夢煙魔法で煙に巻いて、夢の世界に招待すればいいし。
『取り敢えず順調ではあるよ。そっちはどうだい?新しい問題はできたかい?』
「ノワールが将星になった」
『マジで?』
なるよね、その反応。
この後、ノワールへの愚痴をいっぱい聞いてもらった。持つべきものは愚痴を言える大人。それも大人しく愚痴を聞いてくれる大人だ。
サンクス。




