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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
新たなる星々の輝き

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285-秘密の晩餐会


「それにしても、それが新しい身体か?よくできている。悪夢だとは思えんな」

「お褒めの言葉どうもありがとう」

「触っていいか?」

「ダメに決まってんだろ」

「そうか…」


 盟主であるのに決起集会に不参加を決め込み、敵本丸に単身乗り込んだ魔法少女、ムーンラピス。悪夢の大王たる彼女は、自分の支配下にある魔法少女が敵の幹部となったことを気にして、時を止めて魔城に舞い降りた。

 その結果が、皇帝ニフラクトゥとの晩餐会だが。

 望まぬ会談とはいえ、ここまでお膳立てされているのを無碍にするのもよろしくない。

 存外真面目なラピスは渋々と席に着いた。

 満足そうに対面に座るニフラクトゥの顔に、重い一撃をぶつけたい気持ちを抑えて。

 頬杖をついて、溜息を一つ。


「ミロロノワールの件、ダメだったか?」

「ダメも何もないでしょ。捕虜の意味知ってる?つーか、特使なんざに任命した覚えもない」

「それはミロロノワールの意思だな」

「だろうね」


 青天の霹靂だったのだ。適当にボヤいていたとはいえ、相手は同期。クラスは違えど、学び舎を同じくする同期が敵の幹部になったのだ。

 疑いもするし、心配もする。

 万が一にもありえないだろうが、脅迫されての就任なら無理にでも回収する予定だった、が。ニフラクトゥの緩い表情を見て、どうにも違うようだと安堵する。

 逆に、好意的に将星となったことが確定したわけだが。

 頭が痛くなるが、そっちの方がまだマシかと無理にでも納得した。


「ふっ、そんなに気になるのであれば、直接聞けばいい。オマエならすぐに見つけられるだろう?」

「そうだね。そこのコスプレイヤーは制裁対象だ」

「おや」


 ラピスの目線は、ニフラクトゥの真横に突き刺さり……顔を伏せたメイド服の女を、剣呑な目付きで睨みつける。その反応にニフラクトゥは笑い、流石だなと手を叩く。

 嬉しそうな蛇を無視して、ラピスは軽快に指を弾く。

 それは、時間停止を解除する合図───もっといえば、限定的な解除の。


 音が鳴った瞬間、世界の一部分───メイド衣装を着たミロロノワールの時間だけが、止まった世界で動き出す。

 息を吹き返すように、灰色が色付いていく。


「───ねぇー、いつまでこーしてればいい、の…?」


 直前まで会話していたのか、時が動き出したのと同時に口が動き出すノワール。しかし、すぐに何かがおかしいと異変に気付いたのか、言葉は疑問符で途切れ……

 着慣れないメイド服を見ていた視線を持ち上げる。

 そして、なんとも言えない目でこちらを見つめる同期と目が合った。


「アッ」

「よっ」

「スゥー……ほ、本日はお日柄もよく……な、な、なんでここにいるのぉ…?」

「わからない?」

「わかります」


 何故ここに!どうして!?───といった思考は、すぐこいつならやりかねないというモノに切り替わる。恐らく時間魔法の類とアタリをつけたノワールは、色んな意味で汗をダラダラと垂らす。

 同期の魔法少女がどれだけヤバいのか、ノワールが一番わかっている。身をもって知っている。

 故に、戦争前に制裁が飛んでくる気配を感じて、咄嗟にニフラクトゥの椅子の後ろに飛び込む。ちょうどその時、ノワールが今までいた場所に閃光が走り、背後の柱が爆発四散した。


「容赦なッ!」

「当たり前なんだよなぁ。おい、逃げるな」

「いやー!!助けてオーサマ!助けてくれたあなたに一万ペソォ!!」

「ふむ、よかろう」

「いいんだ?」


 ニフラクトゥを盾にしてもラピス的には全然構わないしそもそも貫くのだが、ここでやっても意味が無いと諦め、光を灯らせた指先を下ろす。

 安心して出てきたところをもう一度撃ち抜いたが。

 悲鳴を上げて転がるノワールを眺めながら、指先の煙をフッと吹いた。 


「眉間逝った!貫通したー!なんで生きてるのワタシ!?この身体不思議!!ラピピーッ!?」

「そういう身体だもん。何度でも死ねるぞ」

「なにもよくないが???ちょ、待って待って待ーって!ワタシが将星になったの、別にお遊びとかだけじゃない!ないからッ!メリットあってのことだから!!」

「へぇ、聞いてあげるよ」


 必死に弁明するノワールに、ラピスは面白がりながらも攻撃の手を緩めてやる。その様子にほっ、と一息ついて、ノワールは内容を伝える。

 将星になった理由。そのメリットを。


「あのね、まず、ワタシを将星に誘ったのはオーサマね。そこは忘れないで。で、将星になる前に約束したの。最低条件ってヤツ?」

「もったいぶってないで言え」

「急かすなよ〜。んま、単純に。ミロロノワールが将星になってあげる代わりとして、“地球を滅ぼさないこと”、を絶対に約束させたんだぁ。で、口約束でも結ばせたから、いいかなぁ〜、って!」

「……それ、攻撃はされるヤツじゃん」

「メアリーとかいるからいっしょ。正直、オーサマ以外の戦力でどうにかなるヤツじゃないしー?」

「愚問だね」

「愚問だな」


 あっ、そっちも納得するんだ……隣のしたり顔の皇帝にそれでいいのか?といった視線を送りながら、ノワールは自分が将星入りを決めた理由を話した。

 一応、魔法少女として地球に利のある選択をした。

 ラピスたちが負けても、地球との橋渡しとしてある程度なんとかできるように。勝ったら勝ったで、よかったねとその座は捨てるが。


「あ、あとね〜、連隊一個GETしたよ」

「あ?あー、まさかだけど、デネブなんとかっての?」

「そー!デネブ攻撃航空連隊!丸ごと貰ったんだぁ〜……あっ、そこの隊長さんが不服申立てて攻撃してきたけど、勢い余って殺しといたよ!」

「戦力減らしご苦労」

「で、ゾンビとして運用することに成功したのがこちらのシグニュスくんです」

「ふざけんな」


 言外にゾンビマギアの術式がバレました☆と宣っていることに気付いて、ラピスは青筋を浮かべて光線による攻撃を再開した。鏡から出してまたしまわれた美形にはさして興味は湧かなかった。

 帰ったらフルーフ先輩と術式の見直しをしようと決め、一旦その顔面を吹き飛ばすことにした。

 ついでに流れ弾を隣に飛ばすが、なんてことないように首を傾けられた。


「……ふっ、賑やかでいいことだ。ムーンラピス、あまりミロロノワールを虐めないでやってくれ。曲がりなりにも今は我の“星”なのだ。手荒な扱いはそこまでにしてくれ」

「へぇ?ふぅん……いいよ。受け入れてあげる」

「感謝する」


 しっかり同胞として迎え入れられていることに、オマエ捕虜生活で何してたの?といった視線をノワールに幾つも突き刺しながら、ラピスは頬杖をつき直す。

 随分と気に入られたものだ。

 最悪、使い回せる爆弾として利用しようと内心決めて、ラピスは時間魔法を更に行使。

 世界の時は止めたまま───テーブルに並ぶ料理の時を動かす。


 ふわりと、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐり、食欲をそそってくる。


「ほぉ……わかってはいたことだが、素晴らしい魔法精度だな。世界全域を対象に支配することも、解除する対象を選べられるのも素晴らしい」

「こっちが何をしなくても動いてるオマエはおかしい」

「うん?あぁ、我だからな。この程度の芸当、できずして皇帝を名乗れるものか」

「あっそ」


 熱を点した料理を、カトラリーを手にして味わう。


 ついでにノワールもご同伴に預かって、ニフラクトゥの隣で立ち食いをする。片手に皿を持ったスタイルだ。大分行儀は悪いが、椅子がないから仕方ない。

 そのまま2人とオマケは、本格的な晩餐会へ。

 毒も魔法もかかっていない、ちゃんとした料理を静かに口へ運んでいく。


 ……ちなみに、何故ニフラクトゥに時間魔法が通用していないのかというと、存在基盤が大きすぎるからである。幾つもの夢星を、ユメエネルギーを星ごと平らげる皇帝の存在は肥大化し続けており、世界のルールを逸脱できる。止められた世界の時を無視して、行動できるのだ。

 他にも活動可能な存在を挙げるなら、全盛期のリデル、マッドハッター本人が該当する。時間魔法の使用者であるペローとペローンは言わずもがなだ。

 事実、獅子宮にいるペローは絶賛活動中である。

 旦那またなんかやってんな〜と、定期的に止まる世界で学んだ暇の潰し方を実施しているようだ。ビルの顔に肉と書くのはやめろ。


「これ美味しい」

「そうか、総料理長に伝えておこう」

「本当に美味しい〜……あっ、そうだラピピ。その〜……みんなどんな反応だった?ワタシが将星になったの、結構ヤバい反応だったりする…?」

「デモ隊になってたよ。トイレは厳しくなるかも」

「嘘でしょ???」


 絶望するノワールを放置して、ラピスとニフラクトゥは話題を変える。


 その内容は、これからの戦争について。


「開戦も近い。オマエたちと直接やりあえることが、ここ最近の一番の楽しみなんだ」

「奇遇だね。僕も、オマエを終わらせるのが楽しみだよ」

「フッフッフッ」

「んふふ」


 殺意の帯びた笑みを浮かべ合い、食事の手を止めないで相手を殺す算段をつける。幾つものシュミレーションで、息の根を止めること自体は容易だった。だが、相手はあの最強。ニフラクトゥは残機による復活が、ムーンラピスは悪夢の力による高い継戦能力を持つ。

 どう残機を減らし切るか、どう屈服させるか。

 2人の思考は、会話中でありながらも常に相手の最期を模索する。


 ニフラクトゥにとって、ムーンラピスは過去最大にして最高級の馳走である。唯一無二の強者であり、ありあまる悪夢の力を制御できる得難い存在。

 失うなど以ての外、必ず自分の手中に収めるつもりだ。

 己の敗北は微塵も疑っていない。数日後に控えた本当の殺し合いで、雌雄を決するのは確定事項。そこで勝つのは当然、自分であるという自負がある。

 そして、それはラピスも同じ。

 彼女にとっては、ニフラクトゥは確殺対象。星を食み、ユメを啜る蛇の存在は、あまりにも危険すぎる。

 地球の為。

 人類の為。

 そんな御託を並べた上で、純粋に勝ちたい意欲が上から蓋をする。


「レオードたちとは上手くやれているのか?」

「なに、裏切り者の心配?やさしいんだね……ま、普通にボチボチってとこかな」

「そうかそうか」


 ちなみに、元将星たちは魔法少女たちとは違って生かす理由がない為、普通に殺す予定だ。

 ラピス的には、暗黒王域の次の支配者がいなくなるのは困る為、そうそう殺させたりはしないが。

 消去法で統率者はレオードにするつもりだ。

 利害の一致もあるし、そこまで面倒を見てやるつもりがないのもある。


「なぁ、ムーンラピス」

「なに?」

「今までの戦いで、これは苦戦した。というのはあるか?主に悪夢との戦いについて……我は知りたい。聞かせてはくれないか?」

「……」


 ニフラクトゥは知りたい。

 魔法少女の戦いを。たった二人で地球中に現れた悪夢を蹴散らし、平和を守ってきた魔法少女のことを。少しでも相手のことを知りたくて、理解する為に回答を望む。

 普段のニフラクトゥであれば、そんなことしないが。

 極めて珍しく、彼女たち魔法少女のことを知りたいと、彼は心から思っている。


 その言葉に、ラピスは目を伏せて紅茶を口に含んで……仕方なく、口を開く。


「つまんないと思うけどね」


 灰色の世界で、ニフラクトゥは改めて思い知る。


 孤独を耐え抜き、世界に平和を齎した女を。彼女たちの心の強さを。


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― 新着の感想 ―
絶対的な強者、それ故の孤独、あなたに愛を教えるのは…… あと、時間魔法への耐性だとすると、活動期間を考慮すると、蛇さんって実は時間停止中の暇つぶしを極めた隠れた大先輩だったりする…?
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