284-飛べ、ズーマランド!!
祝300話!!
こんなタイトルで大丈夫か?
「ノワちゃんをぶっ殺すぞー!」
「おーっ!」
「あの生意気クソガキ、二度とトイレ行けなくなるぐらい酷い目に合わせてやるぞーっ!!」
「「おーっ!!」」
「こっろっせっ!」
「こっろっせっ!」
「こっろっせっ!」
「ご覧下さい、あれが状態異常:混乱によってとち狂った魔法少女たちでございます」
「憐れだな」
衝撃の号外から一夜明けて。
ミロロノワールの将星入り。とんでもない情報に全員が困惑して、一旦睡眠を挟んだことで心の安寧を保った次の日。最終的に全員が一致団結し、集団暴行を振るうことでスッキリするとになった。
余程の衝撃だったようだ。当たり前だが。
彼女が何を考えているのかはわからないが、絶対にロクでもないことは確定している。こちらが有利になるような情報を寄越す二重スパイだとしても、それで得をするのは繋がっているラピスだけ。
故に、魔法少女たちは武器を手に取った。
いずれ、ノワールと相見えたら───その時が、彼女の終わりである。
尚、その輪にムーンラピスはいない。どこいった。
一切の躊躇いなく確殺宣言を掲げ始める魔法少女たちを余所に、レオードのウルグラ隊を筆頭とした、夢星同盟の全ての軍が出発する準備が着々と進められていく。
獅子宮には、無数の兵器と戦士が集い、犇めき合う。
戦う力のない女子供は、アリエスの白羊宮に送ることで避難させた。
「ククッ……ここまで長かったな」
術式の最終調整を行っているタレスの横で、全軍指揮の大任を預かるレオードは、感慨深そうに天を仰ぐ。
あの日、皇帝の座を奪うと決めた日。
ちっぽけな身から、数百年かけてここまで辿り着いた、その軌跡。今までの努力と苦渋を思い浮かべて、頑張った自分を褒め称える。
本番は、まだまだこれからだが。
ここまで漕ぎ着けられたのは、偏にレオードの執念の証である。
“夢星同盟軍”
元・将星四人と、魔法少女たち地球人が手を組むことで作り上げられた奇跡の同盟。かなりの大雑把ではあるが、組織の構成、役職は以下の通り。
盟主:“蒼月” ムーンラピス
総督:“金色獅子” レオード・ズーマキング
特殊技監:“魔蠍狠妖” タレス・スコルピオーネ
宇宙艦隊司令長官:“戦車” カドックバンカー
最終兵器私:“極光” リリーライト
etc…
同盟の代表としての顔を地球人のトップが、全軍指揮を異星人のトップが務める形だ。総督であるレオードの下に複数の軍隊が集い、彼の命令一つで死地に飛び込み勝利を引き下げるのだ。魔法少女やアリスメアーは、盟主直下の独自編成という形で構成され、好き勝手に暴れろ、というあまりにもあんまりな司令が出される予定となっている。もっと言えば、盟主も総監も司令官も全員最前線で大暴れする予定である為、代表以外重要ではないのだが。
夢星同盟の戦力は魔法少女10人を始め、アリスメアーの幹部たち率いるアクゥームの軍勢。肉食系ズーマー星人で構成されたウルグラ隊の戦士500人。第一から第十までの獅子宮及び傘下の星々によって構成された軍団、数三万。天蠍宮にて生産された機械獣100機、人工知能を搭載した機械兵士が一万。白羊宮の戦士団より300人……そして、現体制に不満のある義勇軍が約5000のエトセトラ。
大凡の数、五万。それが夢星同盟の戦力である。
ちなみに、暗黒王域はその倍以上ある。魔法少女たちの活躍によって減りはしたが……
その五万の兵力が、今、この獅子宮に集まっている。
「───さぁ、時は満ちた。これより我々は、暗黒王域に新時代を齎すッ!!俺が率いるんだ。後悔はさせねェ!!テメェら全力をもって、目にもの見せてやれ!こんな星で満足してるようなタマじゃあねェだろ!?進めば勝者ッ!退けば敗者ッ!テメェらはどっちがいい!?」
「当然、勝者だよなァ!!?」
───オーッ!!!
獅子の演説に、ズーマー星人を筆頭とした、血気盛んな異星人たちの咆哮が上がる。コロシアムに集まった彼らの勝利を望む声は、星中に響き渡る。
彼らの熱は収まらない。
獅子に嫌々従うモノも、中に入る。そんなモノでさえ、勝利という渇望には逆らえない。
やるのならば、絶対的な勝利を。
宇宙の歴史とは、暗黒銀河に限らず、全て“力”によって変えられてきた。
この叛逆は───否、革命は。暗黒銀河の歴史を大きく変える大戦となる。
それこそ、過去最大の。
「タレス!!」
『───ちょい待ち〜、ここをこーしてあーして、っと。ハイできた!行っちゃう?行っちゃう〜?』
「あぁ、行こうぜ───起動しろッ!」
『りょ!』
通信が繋がっている先、獅子宮の地下施設の総仕上げに取り掛かっていたタレスが、レオード合図に従い、足元の超巨大魔法陣を起動する。
ゴウンゴウン、と音を立てて、魔法少女が輝き出す。
この日の為に溜めた魔力。夢星同盟が結成されるよりま前から集められたエネルギーが、魔法少女の模様を巡り、飛び出し、地下から獅子宮という星全体に広がっていく。
魔力の脈動と共に、星が揺れる。
グラグラと震撼する惑星は、徐々に、銀河皇帝の定めた公転軌道から外れていく。
そう、浮かび上がる。
ゴゴゴゴゴゴッ───…!!
「ッ、これが…!」
「話には聴いてたけど……すごいことするなぁ。これが、宇宙の技術力ってヤツかぁ」
「感心してる場合か!?揺れすごいぞ!?」
「掴まってないと、無理だねこれは…」
「うわー!?」
魔法少女たちの悲鳴を他所に、獅子の頭蓋を持つ惑星が飛び立つ。そう、夢星同盟の拠点であり、ズーマー星人の故郷でもある獅子宮。この星自体が、彼らの艦。
総旗艦ネオ・ズーマランド。
獅子の惑星ごと移動して、暗黒王域の中心、極黒恒星を乗っ取る算段なのだ。二百年ものの時間をかけて造船し、星そのものを改造して、完成に漕ぎ着けた。
レオードの執念、その集大成。
宇宙の王になるという、我欲から始まった一大計画……その集大成が、ここに。
「行くぞ、野郎共ォ───出航だァ!!」
夢を乗せて、艦は飛ぶ。
魔力放出によって、“宙という海”を突き進む総旗艦は、まっすぐ一直線に敵の本丸を目指す。
極黒恒星までの、ひたすらに。
因縁ある暗黒王域軍との決戦の日は、手の届く距離まで近付いていた。
……だが。
ふと疑問に思う。
「で……ラピちゃん、どこ?」
盟主、不在。
꧁:✦✧✦:꧂
そこは、静寂に支配された世界。
薄暗い通路を照らす火の灯りは、あまりにも頼りなく。そもそも、建物の材質が黒いのも相俟って、人によっては仄暗い光景に恐怖を抱くであろう、とある城の中。
普段の賑わいは、そこに無い。
恐ろしいまでの静寂が、沈黙が、虚無が、本来の色素を失った世界を支配する。
「〜〜♪」
───そんな“無”に染まった空間を、少女が、緩やかな足取りで歩いていた。
あまりにも場違いなまでのゆっくりさで、彼女は廊下の真ん中を堂々と歩く。不用心にも程がある警戒心の無さ。守衛に見つかれば騒ぎになること間違いなしだが……
彼女は気にしない。
それどころか、どうぞ見てご覧なさいと言わんばかりにゆっくりと、鼻歌まで歌う始末。
彼女の足取りに淀みはない。
時々視線を彷徨わせて、目的の“それ”がどこにあるのか知覚して、進むべき順路を算出する。一度たりとも歩みを止めず、彼女は進む。
そして遂に。彼女は守衛と遭遇する。重厚感のある鎧を身に纏い、精悍な顔付きで前方を睨んでいる異星人たち。叛逆者たちによって常時警戒態勢に入っている為か、その出で立ちに隙は見当たらない。
だが。
彼女は気にせず、彼らの前に姿を現して───どういうわけか、素通りできた。
まるで、誰も彼女を認識できていないかのように。
あまりにも不自然だった。
彼らの視線は、一切動いていない。そう、微動だにも。不気味なまでに動きを見せず、反応もせず……ただ、そのおかしさも、ここでは仕方の無いこと。
彼らは動けない。
思考ができない。
なにもできない。
そもそもの話───時の止まった世界で、一体、彼らになにができるというのか。
人、物、問わず。世界を構築する全てが、病的なまでに灰色に染まった異常な景色。その色が意味するのは、今、世界の時が止まっているということ。時間停止空間特有の色彩の無さが、世界全域に広がっている。
灰色の世界で、唯一色彩を持つ少女。
彼女だけが、時間停止という世界のルールを捻じ曲げ、灰色の世界を創り上げた異端者。世界とは隔絶した領域に至った彼女だけが、“蒼”という色彩をその身に宿すことが許される。
「……ん?」
だが、彼女は突然、その足を止める。
なにかに気付いたように、訝しげに辺りを見回して……細めた目を、より細めて、面倒臭そうに溜息を吐く。一応想定はしてあったのか、そこまでの動揺はない。
鬱屈そうに天を仰いでから、仕方がないなと歩みを再開する。
ちょうど、“目的”もそこにあるようだから、と、自分を納得させながら。
そうして、渋々と向かった先には───“彼”がいた。
「よく来たな」
華美な装飾が目立つ大広間。中央には縦長のテーブルがあり、机の上にはたくさんの蝋燭や料理が置かれていた。時が止まっていなければ、鼻をくすぐるいい匂いがしたであろう食卓の空間。
その奥まった席に、彼は座っていた。
まるで、待ち侘びていた想い人との再会を祝すように。世界の時が止まっているというのに、彼は、平然と色彩を保っていた。もう一人の異端。時止めを超克する絶対者。世界のルールに反しながらやってきた侵入者を前にして、彼は心を踊らせる。同胞が将星となった、その真偽を確認する為に彼女がここに来ることを彼は予測して、いい機会だからと歓談する場まで整えたのだ。
楽しまなければ意味がない。
生憎と、傍に仕えているメイドの時も止まっている為、彼女を案内することはできないが……
その代わりに、彼自ら魔法で椅子を引いてやる。
「すぐ帰るよ」
「それは困るな。少しは話そう」
「……はァ、面倒なヤツ」
「ハッハッハッ!我がここまで譲歩するのはオマエぐらいなモノよ。さ、座れ。我と食事を共にしよう。ゆっくりと腰を据えて、な」
「ふん…」
対面の席に座るよう促す男に、少女は諦めたように息を吐いて……要望通り、その椅子に腰掛けてやる。行儀悪く足を組み、顎を上げて対面の蛇を睨みつける。
それでもまだ、彼女からは余裕が感じ取れる。
敵地であるもいうのにも関わらず、最大の敵が目の前にいるというのにも関わらず。
強気な姿勢の彼女に、彼もまた笑みを浮かべる。
悪夢の大王と、銀河の皇帝───二つの陣営の頂点は、相対する。
「何から話そうか」
「うちのノワールを将星なんざにしやがった件についてに決まってんだろ」
「ふむ、それもそうだな」
魔法少女ムーンラピスと、皇帝ニフラクトゥの、秘密の晩餐会が始まった。




