26-死に損ないのこっそり先輩面
久しぶりの主人公視点
これで16人目───覚醒した魔法少女がまた増えた。
「こんな短期間に次々と……やはり、魔法少女には天運に恵まれている」
「そうかもだけど、それだけじゃないよ?」
「わかっているとも。ただの逃避行だ。ただ、改めて……手加減する必要が無くなってきたと思ったまで」
「ごめんなさい」
「早いな」
いいね。確かにわざと死にかける試練を齎したけど……これは想定外。リリーエーテのような暴走にも等しい魔力状態とは異なり、彼女の魔力……そして、配信で確認したブルーコメットの魔力も、極めて良好だと確認できる。
魔法の名称変化こそないものの、特異なことに変わりはない。
あっ、そうだ。やぁみんな。マッドハッターだよ。
今は覚醒したハニーデイズへの称賛で重力魔法を解き、更なる攻防へ移ろうとしている最中だ。
後輩虐め?知らん知らん。今の僕は悪の最高幹部だ。
うーん、なんで立てるんだ?頑張ったんだろうけど。
でも、やっぱり呼応するか。リリーエーテを皮切りに、新世代の魔法少女はどんどん強くなっていっている。
これで諦めていたら夢落ち処分にしていたけど……まぁいいよね。
さて、どうしよっか。リリーエーテ、もとい明園穂花をこっそり捕まえれるタイミングだったから、この懐かしい場所までやってきたわけだが。
よくわからん妖精に邪魔されるわ、光魔法使われるわ、幼馴染の名前を思い出せないわ……
散々だ。いや、散々なのはあっちもなんだろうけど。
……いやしかし、同タイミングに魔法少女を覚醒させたわけだが。
……この魔力反応。ブルーコメットちゃん、勝って早々こっち来ようとしてない?
仕方ないな。ここはいい感じに救援させてあげよう。
“正義”の氷魔法、“斬魔”の土魔法、“雷精”の雷魔法により牽制する手を止めずに、僕は新たに魔法を発動。
圧倒的物量で魔法少女を轢き殺す殺意を込めてやる。
───列車魔法<グラリエイト・ロコモーティブ>
“汽笛”ちゃんの魔法で暴走機関車を構築……相変わらず先頭部分がミサイルの形状という、完全にぶつける気満々殺意割高の蒸気機関車が、空中にレールを敷いて発車。
そのまま真っ直ぐ一直線、ハニーデイズを轢きに往く。
さぁ、受けるか?避けるか?僕はどちらでもいい───避けたら後ろの家ごと、穂花ちゃんが潰れちゃうけどね。どうする?
「それは無理ッ、だけど……あたしは、負けない!!」
やはり、ハニーデイズは諦めない。通常の花魔法よりも強固な障壁を展開して、暴走機関車と衝突、せめぎ合う。自慢のパワー……どこにあんな力があるのか知らないが、力押しで障壁の後退を防いでいる。
うーん、後退で済んでるのがおかしい。
衝突事故だよ?速度はあんま出てなかったかもだけど、よく防げるな。
僕だったらまず斬って、中に爆発性物質があったら障壁張って身を守るかな。
っと、異界内に鏡魔法を検知───来たみたいだ。
「───星魔法<スターライト・ブレイカー>!」
まるで隕石が落ちてきたかのような、そんなイメージをこの僕に押し付けてくる程の魔力。槍一本に力を込めて、ブルーコメットの魔法が列車魔法に上から炸裂、そのまま槍を貫通させて爆発させた。
おぉ、すごい爆風。足に魔力込めてなんとか姿勢維持。
……黒煙が晴れた先には、五体満足の魔法少女が2人。どうやら無事に生還されてしまったようだ。
残念残念。
「手間取ったわ。遅れてごめんなさい」
「デイズ〜!ほまるん〜!大丈夫ぽふかー!?」
「わは〜」
「うーうん。こっちこそ、いけなくてごめんね……でも、行かなくて正解だったかも?」
「ふふっ、そうね」
いやー、そんなことないよ?そもエーテちゃんが配信で曝露しなきゃ来ませんでしたからね。
発熱してて頭が上手く回ってなかったのかな。
そんな気軽に情報落とされたら、悪夢の最高幹部として動かないのはおかしいだろう?
それがハニーデイズの覚醒イベに繋がったわけだけど。まぁ、遅かれ早かれ、か。
妖精たちの感動のハグは、まぁ語らんでもいいか。
「あなたがコメントで言われてた、最高幹部?」
「如何にも。吾輩がそうだ。マッドハッター、帽子屋だの気軽に呼んでくれて構わない……ところで彗星よ。一つ、聴かせてもらおう。逆夢と禍夢の計画はどうであった?」
「はぁ?……あぁ、あの2人のことね」
「その認識で相違ない」
いやー、まさか穂花ちゃんが風邪を引くとは。報告では温泉旅館で冷水浴びてたって聞いてたけど……多分、原因それだよねぇ。
お陰でペローとビルの計画はパァ。不憫だよねほんと。
「そうね……なら、私一人で良かった……とでも、言っておこうかしら」
「成程、そいつは重畳───では、行こうか」
夢の力、ドリームスタイルに変身した2人が、この僕に挑んでくる。威勢いいなぁ。ブルーコメットに至っては、魔法装備の維持時間が長くていいね……燃費いいなぁ。
三銃士に貸した量産型アクゥームで少しは削れたみたいだけど。
さぁーて、どんくらい頑張ろうか。ドリームスタイルの獲得祝いに負けてやるのも……吝かではない。
もうちょっと君たちの力引き出してから帰ろっかな。
リリーエーテは……まぁ、いいや。それよりもあいつの名前を探す作業の方が大事だ。
「星魔法<ティンクル・スターボンバ>ッ!!」
「花魔法<ブロッサム・ピクスカノン>───!!」
直撃すれば大爆発の二連星。空中に咲いた大輪の花から撃ち出される合計三条の破壊光線。見ただけで魔法性質を看破した僕は、それに対抗できる魔法を発動。
借りるよ、モロハ先輩……あと、ミロロノワール。
───土魔法<獅威し・逆鉾>
───鏡魔法<ミラードジャマード・プリズム>
───月魔法<ルナティック・ドーン>
空中に生成された岩の小槍が星の魔力球を貫き、起爆。破壊光線は合わせ鏡の中で乱反射させて収束、鏡の魔力で無理強化してから暴発放射のお返し。
最後に月の輝きを爆発させてやれば、はい吹っ飛ぶ。
「きゃあ!!」
「かはっ……くっ、これがあの人たちの魔法…!」
「これで終わりかね」
「ッ、まだまだ!」
やはりブルーコメットは一味違うな。戦闘経験者なんて形容するのは憚られるけど、喧嘩慣れしてるからちゃんと強い。折れたらそこまでとか思ってたけど、この子の芯はそんじょそこらの脆いヤンキーとは違うと実感する。
……あぁ、これ秘密らしいよ。元ヤンってこと。
ここでバラしたらどんな反応されるんだろ……目の敵にされそうだな。ビルに任せよ。
絶え間ない槍の刺突を柔軟に回避、更に魔法を行使。
───雷魔法<ライジング・ボルト>
青雷の一閃が駆け抜け、ブルーコメットの体を無慈悲に貫通して、感電させる。
「がッ……ふざッ、けんじゃ、ないわよッ……!!」
んん〜、忍耐力高くない?君ほんとに素質あるねぇ。
「見事だな。君の耐久値の高さも、意志の強さも。吾輩が称賛するに値する」
「なに、終わった雰囲気出してんのよッ……!私、まだ、動けるんですけど……ッ!」
「それ以上は身体に酷だ。連戦に連戦。誇っていいぞ」
うつ伏せに倒れる背にステッキを突き立て、力を込めて押してやれば、苦しげな声が上がる……それでもこうして立ち上がろうとしているのは、流石と言ったところか。
ここで一回休みにしてあげてもいいんだけど……お?
魔力の流れを感知して咄嗟に回避。すると、さっきまで僕がいた場所に硬質化した花弁が一瞬で通り過ぎた。
怖い怖い。殺意高いな。ざっくりやられちゃうかも。
……チェルシーに当たってないよね?あっ、よかった。ちゃっかり避難できてんね。
「コメットちゃん!」
「えぇ、大丈夫よ……ちゃんと、楔は打った」
「───なに?」
なにを言って……ッ、足が動かない。固定された?
「あら、知らないの?あなた達のとこのアクゥームの……対象の行動を30秒間停止させる“トゲ”よ」
「なにそれあたし知らない」
「さっきどさくさに紛れて拾ってきたの。使えるみたいで安心したわ」
……成程、これは僕の不手際だな。自分で作ったモノに足元を掬われるとは。ズボンに刺さった小さな黒いトゲは確かに僕が量産型アクゥームに施した術式の一つだ。
くそ、痛覚麻痺してる身体のせいで気付かなかった。
作成者だから部位麻酔で済んだけど……や、そうだね。ここで幕引きと行こうか。
転移魔法も解呪魔法もあるけど、負けは負けだ。
……ていうか意外と手癖悪いね君。拾ったのはそれだけなんだろうね?
「行くわよ、デイズ───星魔法<ブルースター>!!」
「任せて、コメットちゃん! ───花魔法<ミラクル・フラワーライト>!!」
青い光と黄色い光、二つが合わさって僕に放たれる。
うーん。これ、並のアクゥームだったら浄化されちゃうタイプのつよつよ魔法だ。あれだ、トドメの一撃みたいな位置付けの魔法だね。
……当たったら流石に痛覚反応するか?わからん。
でもこういうの受けたことないんだよねぇ。どんな感じなんだろう。
そう若干の期待を混ぜて迫り来る閃光を見ていたら。
「───夢幻魔法<ガット・ヴィジオーネ>」
実はもう動ける僕の前に、チェルシーが躍り出て、己の魔法を行使した。手のひらから溢れ出た、夢と幻の魔力が直撃した光線を塗り替えていく。
閃光は消え、飛散する花弁が視界を埋め尽くす。
実態のないそれもすぐに形を失い、2人の魔法は夢幻へ溶けていく。
「チェルちゃん……」
「ごめんだけど、なにもしないのは流石に無理」
「くっ」
……本当に危ないから、さっきみたいな技の前に立つのやめてほしかったけど。
仕方ない。当たってあげるのは、またいつか。
「ねぇ、帽子屋さん」
「なにかね、歪夢。あぁ、今のはよかった。魔法の扱いも随分と上手くなったではないか」
「ありがとう。ねぇ、もう、帰らない?」
「ほう?」
なにを言っているのかな君は。
「時計見て」
「……………………チッ」
「ね?」
指摘された通り懐中時計を開いて見れば、成程確かに。
脳裏に空腹を訴えるゴスロリ女王の姿が思い浮かんだ。
リデルのおやつを作る時間ですねぇ……ここでそこらのスーパーとかコンビニで買ったお菓子とか、出来合いのを持ってくと拗ねるんだよな。そういう気分の日なら、別にいいんだけど……生憎、今日は御所望の日だった。
確かになぁ。チャンスだと思って駆け出したわけだし。
なんの用意もしてない……一応、生クリームとかはもう作っておいたけど。
……帰るかぁ。
「帰るの?」
「……そうなるな。ここで仕舞いと行こう。まったく……あぁ、無論君たちの勝ちだ。魔法の腕も然と確認できた。是非次も、吾輩たちを楽しませてくれたまえ」
「上から目線ウザっ」
「ちょ、コメットちゃん!」
「……なにがあってもエーテはあげないわ」
「ククッ……精々守ることだな。君たちの祝福が、決して君たちだけのモノではないことを知りたくなければな」
「ばいばい」
指を弾いて異界を解く。僕の、月の下にいれば際限なく強くなれる魔法特性がまだ生きてるか試してみたけど……やっぱ変身しないとわかんなかったな。
雰囲気作りにはなったか。うん、そう思うとしよう。
踵を返して、空間に裂け目を作る。このまま直帰して、リデルのおやつを作んないと……いや、全員分のか。労う必要ができたからね。
……あぁ、でも。久しぶりに戦えた。気分がいい。
───かくして、一人欠いた魔法少女は、アリスメアーの最高幹部を退けた。これから始まる戦いに緊張感が走り、より強くならねばと決意する。
それは、病床に伏せていた魔法少女も、また。
「ごめんねみんな!それと、ありがとう!」
「本当よバカ!あとで埋め合わせちゃんとしなさいよ」
「クレープ食べいこ!穂花ちゃんの奢りで!」
「うへぇ〜、まぁ、残当かぁ……ぽふるんとほまるんも、一緒に食べに行こっ」
「はーいぽふ!」
「いいのー?」
「いーよ!」
和気藹々と、回復した3人は妖精を連れて大切な日常を謳歌する。二度と失わせないと、二度と奪わせやしないと決意を漲らせながら。
そして。
「さぁ〜て、と。一体どこの誰かな───僕の記憶から、あいつの名前を消したのは」
片割れを求める蒼月が、激情を原動力に動き出した。




