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03-パワハラ会議は踊らない


───“淵源の夢庭園ナイトメア・ワンダーガーデン”。その深奥にある白亜の魔城に、悪夢に閉ざす三人の精鋭幹部、初任務を無事に成し遂げた実働部隊が、女王が坐す玉座に拝謁する。

 旧世代の〈三銃士〉───見た目化け物の異形の要素をほんの少し抽出して、肉体に移植したことで再誕した……新たなる夢の反逆者。

 新生アリスメアー三銃士。元人間である悪夢の案内人が横並びに跪く。


「おかえり、子どもたち」


 玉座で足を組む金髪の幼女。ゴシックロリータの幼げな黒ドレスを翻して、威厳たっぷりの声で帰還した三銃士を迎え入れる。

 ……先程までの子どもっぷりが嘘のようと、側に仕える帽子屋が思っているとは露知らず。

 女王、“夢貌(むぼう)災神(さいしん)”───リデル・アリスメアー。

 地球を悪夢に堕として、浸して、沈めて、終わらせて。二度と覚めない世界を作らんとする、生きる厄災。

 魔法少女に敗れ、復活して、弱体化した悪夢の女王。

 両脇に小間使いと召使いと引き連れて、新たな三銃士に耳を傾ける。


「ただいま帰りました、女王サマ」

「んぅ、ぅ……あぃ…ただま…」

「お前ら……はァ、お待たせ致しました、お嬢」

「うむ」


 うさ耳を生やしたチャラ臭い青年と、猫耳と尾が目立つ微睡みに抗えない少女、深緑の龍鱗が皮膚に張り付いた、ガタイのいいぶっきらぼうな大男。

 礼儀もなにもなっていない、アリスメアーの三銃士。

 人外要素を身体に散りばめた、魔法少女の敵対者。

 一年半も前、狂った帽子屋に誘われて入団した彼らは、半端な忠誠を女王に向ける。


「やー、オレっち負けちゃいました〜。でも陽動としての責務は果たせたと思うんスけど?」

「はぁふ……ざーこ」

「酷くね?」


 白い中折帽を被り、テラコッタの髪にうさ耳を生やした三銃士の一番槍。名をペロー。今回、魔法少女を誘き出す役割を与えられ、見事その責務を果たした……魔法少女に負けたのは痛いが、初戦だからかお咎めはなし。

 軽薄な印象だが、それはそれとして義理堅い、ちゃんと周りを見ている大人である。

 一つ問題点を挙げるなら、女性関係の荒らさだろうか。


「チェルシー、報告を」

「ん、あぃ。ふぅ……ペローが目立ってる裏で、こそこそユメエネルギー集めて、ました。ぇーっと、んと……ぁ、13%集まった。ビルは?」

「……俺は17だ。残念だったな」

「むぅ」


 白い猫耳パーカーで頭を隠す、パジャマを着た女の子。ゆらゆら揺れる尻尾と、眠たげな声が特徴的な、三銃士の紅一点。その名もチェルシー。ペローが周りの視線を集め魔法少女と戦う陽動の裏で、人知れず一般人を魘させて、密かにノルマを達成してきた……通称やればできる子。

 勧誘されてから、日中の殆どを寝てるかゲームしてるか不健康に生きている。

 ちなみに今、帽子屋はこの現役中学生に食育中である。


「ビル、夢瞳を」

「こちらです」


 緑色の龍鱗にも思えるそれを頬や手足に生やした男は、女王リデルに瞳を象った魔具を手渡す。ユメエネルギーを集積するそれは、アリスメアーの仕事道具である。

 この男はビル。トカゲがモチーフとなっている力自慢。組織に入る前からある近接格闘能力や戦闘経験を期待して帽子屋が勧誘した、三銃士の暴力担当。

 着崩したシャツとダメージジーンズで普通のようだが、腰から生えている蜥蜴の尾が異形感を増幅させる。紫色の長髪で片側を隠された鋭い眼光は見る者を震わせる。

 帽子屋曰く、三銃士の中で一番の真面目。信頼も厚く、仕事ができる男。


「うむ、うむ……」


 紫色の夢瞳───ビルの魔道具を手に取り、他の2人のそれも受け取ってから、リデルは内部に集められたユメの抽出物を眺める。

 一つ、二つと軽く頷いて、女王はその成果を見定めて。


「足りん」


 重圧すら感じる声色が、庭園の空間までもを歪ませた。


「足りんぞ、オマエたち───この程度のエネルギーで、悪夢は満ち足らん。最初と言えど、妥協ができる程、私も余裕があるわけではない。一回の出撃で、最低20は欲しいところだ」

「アハハ……面目ないッス……」

「……申し訳ありません」

「うぬぬ……」

「そう卑下するな。これは、決して最悪ではない。それにオマエらはニンゲンをベースに新生した、私の新たな僕、選りすぐりの使徒なのだ。崇高なる悪夢の案内人。今後の成果を期待させて貰おう」

「ハッ」

「御意」

「うゅ」


 理不尽な怒りに思えたが、ユメエネルギーの大量収集はリデルにとって急務。失った悪夢の力をいち早く取り込み厄災に返り咲く必要があるのだから。

 ……その弱体化を詳しく知らない三銃士には悪いが。

 かつての三銃士と比較するのはよくないが、旧世代型は化け物の造形を持ち、殺人も破壊も平然と行っていた……その結果、恐怖や憎悪、殺意等に転じたユメエネルギーがすぐに溜まっていただけ。

 今のアリスメアーの方針では、あそこまで急速に溜まる手段は取れない。


 ……リデルが、相棒・共犯者となったマッドハッターに配慮したのもあるが。


「ペロー。魔法少女はどうであった」

「あぁ〜、正直に言いますと、眩しすぎて、目が焼けそうでしたねぇ……強さはシミュレーションの過去魔法少女の初陣と比較しても、それなりにあるんじゃないですかね。アクゥームだけを相手させましたけど、有象無象よりかは強い方なんじゃないんスかね?」

「そうか、そうか。やはり、血筋か……」

「?」


 モニターでの戦闘風景を想起して、何処か見覚えのある魔法少女の容貌に懐かしさと恨めしさを感じるも、内心の溜息を隠して報告を区切る。

 今後の展開として、魔法少女との激闘は必須。

 妖精がいなければ増えない敵戦力だが、二年前の侵略で妖精はもう一匹しか残っていない。増えても三人、それを越えては妖精の身が持たない。

 首切り役人や予言者、牢番の復活も早めるべきか否か。

 ……復活させても死体を増やすだけだと察して、一先ず先延ばしにすることにした。


 ペローの今回の任務は、大々的にアリスメアーの復活と再始動を周知させるだけでなく、陽動としてチェルシーやビルに向く目を集めさせないようにすること……かれこれ三度目の出撃であったが、それはそれ、これはこれ。

 幸い思惑通りにことは進み、魔法少女の最初の敵という役目も果たせた。

 魔法少女ファンとしては、最大限の働きが出来たと彼は思っている。


「───マッドハッター」


 その時、女王は傍に控えるうちの一人、帽子頭の異形に声をかける。三銃士が目を向ける先、半月の赤いツリ目とギザ歯が縫い付けられたシルクハットをすっぽり被った、青い装飾が施されたタキシードを着る黒い怪異。

 自分たちをアリスメアーに勧誘した彼女は、呼び掛けにジロリと胡乱げに視線を返す。


「なにかね」

「今回の活動地───夢ヶ丘。恐らく妖精の拠点がある。そこに住まう新たな魔法少女候補を割り出せ。魔力や素質から適性を読み解くのは得意だろう?」

「成程、成程。今のうちに消しておきたいわけだ。それを吾輩に任せるのは些か不満だが」

「信頼の表れだ」


 首都圏から程々の近い位置にある町、夢ヶ丘。二年前、アリスメアーと魔法少女の決戦の地にもなった……その後現在の平和都市として復興・再建設された、戦いの地。

 ペローが出撃、アリスメアーの新生と復活を知らしめた記念すべき土地でもある。

 その懐かしの地に新たな魔法少女がすぐ到着したから、住んでる場所がそこだと判断したのだろう。そこを調べて魔法少女候補を狩れとのことだ。


 魔法少女に精通した帽子屋は、リデルの思考を読み取りその対策を模索する。妖精よりも先に魔法少女を見つけ、戦力拡大を防ぐ。恐らく無理だろうが、時間稼ぎ程度にはなると考えて。

 現時点で魔法少女の戦力が充実すると、不利になるのはこちらなのだから。


 ……マッドハッターの中の人的には、増えても構わない考えなのだが。


「期待はするなよ。吾輩が見つけた魔法少女が、ヤツらの厳選に繋がる可能性もあるのだからな」

「むっ、それは……そこもなんとかするのが貴様だろう」

「今日の夕飯ピーマン入りな。限りなく苦くしてやる」

「ぇ」


 最後が締まらないのも、今のアリスメアーの変わり様と言えるかもしれない。








꧁:✦✧✦:꧂








「帽子屋さん」

「───なにかね、"歪夢(ゆがゆめ)"。吾輩はこれから、魔法少女の候補探しに専念せねばならないのだが。急ぎの用かね」


 謁見の後、廊下を歩いて視聴覚室を目指していた僕に、白い猫パーカーの<三銃士>、チェルシーが後ろから声をかけてきた。この組織じゃ最年少、頭の良さは一番というギフテッド頭脳の持ち主だ。

 僕に見つからなかったら、監禁勉強生活を送ったままで悪の道に入ることはなかったんじゃない?

 毒親か悪夢か、どっちがいいかなんてわからないけど。


 で、なんなの。寝るかゲームするかお菓子食べてるかの元ガリ勉が、僕に何の用だい。

 疑問に思うも振り向いて、眠たげな声に耳を傾ける。


 ……猫耳ぴこぴこ、尻尾のゆらゆら、かわいいな本当。飼い猫にして傍に置きたい。


「私だけピーマン抜きにして欲しいの」

「ダメだぞ」

「むう」


 夕飯のメニューに口出ししてきただけかい。っていうか食べなさい……や、袖通してもダメだぞ。たまごボーロが賄賂になると思ってるの?

 思ってそうだなこれ。こいつも情操教育させるべき?


 ……あなた、親御さんの監視教育で好き嫌い矯正されてたんじゃないの?


「……魔法少女探し、手伝う?」

「………はァ、好きにしたまえ。人手が多いことに越したことはないからな」

「それじゃあ……」

「……皆には内緒だ。特にリデルには。余計な反感はもういらん」

「やった!」


 この後、ちゃんと約束破ってピーマンにしてやった。



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