279-無慈悲なる裁きの光
盟友タレスが帰還目前になっての襲撃。
それを知ったレオードは、一瞬現実逃避をしかけた脳を叩き起して、ウルグラ隊のメンバーを緊急招集。将星候補である強敵二名に襲われているタレスへの救援の為、隊の中でも選りすぐり戦士を出撃させた。
同時に、暇だからと魔法少女の幾人かも同行。
完全休養を強制されている蒼月はお留守番をさせられ、それ以外の手隙の魔法少女……祝福、彗星、花園、極光、力天使、戦車、列車の7人が参加した。虚雫は呪詛による危険性から参戦お断りされた。王国も味方への被害かほぼ確実に甚大になるからと同様。ちなみに、アリスメアーの面々も不参加である。
魔法少女七人とウルグラ隊の精鋭たち。
宙に飛び出した一同が見たのは───流砂と森が犇めく戦場だった。
「わーお」
「なにあれすっご〜」
「おん?ドラゴンもいるじゃねェか」
「話聞いてなかったのです?」
「デカイわね…!」
「呑気だなアンタら……いや、そういうところが“強さ”の源ってヤツなのか?」
「真面目に考えなくていいと思うよリュカくん」
「心外だなぁ」
宇宙船による短距離ワープを繰り返した先、魔法少女とウルグラ隊は敵を視認。呑気な魔法少女たちにウルグラの精鋭たちは呆れたり苦笑いを浮かべたりしながら、新たな戦場に飛び込んでいく。
敵船の出現に第七師団も気付き、一切の警告を省略して砲撃を開始。容赦のない弾幕にウラグラ隊も笑いながら、一斉に突撃していく。
戦力は圧倒的に負けている。それでも、負けん気の強いウラグラ隊は止まることを知らず……魔法少女という強者のバフも相まって、より速度を上げて、威勢よく敵陣へと突っ込む。
「やっと来たぁぁぁ〜!!」
『あぁん?チッ、漸くお出ましかよ』
「バッフォッフォ!おーおー、よかったのぉサソリの坊!命からがらってヤツじゃもん!まぁ……そう易々と逃がすつもりもないがのぉ?」
「ヒェッ、ちょー!早くー!ぽきの命が危ないからーっ!たすてけー!!」
円盤から放り出され、哀れにも流砂に捕まって動けないタレスの悲鳴が宇宙に響き渡った。軟弱だなぁ、といった視線を浴びせながらも、一同はその手を取りに行く。
お目当ての獅子がいないことに罵声を浴びせ、宙を劈く咆哮を轟かせるダラコイルが、レオードの配下たちの乗る船を狙って熱線を吐く。
同時に、流砂を操るセチュルも迎撃を開始。
龍の熱線と砲撃、木々が混じった流砂が、夢星同盟へと襲いかかる。
「先輩」
「はいよー。取り敢えず、全部吹き飛ばしちぇば解決ってやつだよね〜!」
「ぶっ込むぜェ!」
「突入です!」
吹き荒ぶ攻撃の数々を、魔法少女たちが買って出る。
重力砲が流砂を吹き飛ばし、熱線を抑え、魔法の弾幕が砲撃を迎え撃ち、全弾命中。無数の暴走列車が直進して、宙を飛んでいた敵兵を轢きながら戦艦に追突する。
圧倒的な物量攻撃は、一瞬にして味方の視界を晴らす。
そして、漸く敵兵は彼女たちの存在を……ウルグラ隊に同行していた、魔法少女という異邦からの戦力に、新手の敵に気付く。
『ヘェ?アレがそうか……面白ェ!』
「……成程のぉ。凄まじい魔力のオーラじゃもん。天魚が褒めとった通りじゃもん……ダラコイルよ、ここはやはり共闘すべきじゃもん。手を貸すぞい」
『いらねェよ!オレ様はオレ様の好きなように!テメェの助けなんざいらねェんだよカスッッッ!!』
「……嫌われとりますな」
「慣れたもんじゃもん」
魔法少女との死闘を演じたいダラコイルは、セチュルの手助けなどを拒み、協力なんて以ての外と躯体を揺らし、魔力に干渉する咆哮を轟かせる。
咆哮という音で揺らし、ユメエネルギーを霧散させる。
一度掻き鳴らせばあらゆる魔法出力を減退させて、敵の動きを鈍らせる。
その力は、勿論のこと魔法少女にも通用するが……
「知ったこっちゃないよね」
───極光魔法<ホーリーカノン>
一歩前に出たリリーライトが、聖剣を横に振るって……斬撃を飛ばして、“咆哮”を切り裂いた。咆哮という暴風を切り裂き、魔法減退の効果を断ち切る荒業。初めて咆哮を斬られるという体験に、ダラコイルは驚きで喉を鳴らして目を見開く。
だが、それ以上に興奮が勝って……
一応味方のセチュルや、配下の第七師団のことを忘れ、ダラコイルは突撃。
『オレ様と遊ぼうぜェ!!』
───龍魔法<カーマイン・ドラゴンスター>
紅き魔光を纏った、龍の図体をそのまま活かした突撃をお見舞いする。進路にあるデブリや宇宙船を吹き飛ばし、磨り潰し、破壊しながら、魔法少女たちのいる船へ。
轟速で突き進む破壊の質量。
そんな脅威を前にしても魔法少女たちは一切動じず……自信のある彼女たちの中から、一人。ドラゴン狩りに強い興味を持った魔法少女が、全てを蹂躙する龍に、その槍を突きつける。
「いいわよ、遊んであげる───星魔法!<アスカロン・ジャッジメント>ッ!!」
『軽く捻り潰してやるよッ!!』
竜殺しの星、ブルーコメット。その名を本当にせんと、彼女はダラコイルに魔法を突き刺す。ご丁寧に真正面から来たのだ。その額に、星の輝きをぶつけてやろうと、威勢よくコメットは飛び出す。
対抗して、ダラコイルも魔力出力を跳ね上げ、巨体には見合わぬ速度で加速。
衝撃波が吹き荒ぶ中……
コメットの槍とダラコイルの龍頭は、爆音を奏でながら衝突した。
「ハァァァァァァァァァァァ───ッ!!」
『オオオオオォォォォォォォ───ッ!!』
声を張り上げて、青と赤の輝きは拮抗し合い……
『ッ、グオッ!?』
「きゃぁっ!」
数秒と経たずに、二つの大きな力は、同じタイミングで仰け反り合った。ただし、食らった衝撃はコメットの方が大きく、彼女は悲鳴を上げながら吹き飛んだ。その背中をブランジェが受け止め、数メートル程床を抉ることで無事回収に成功。赤く腫れた腕は、即座に治癒をかけられる。
ダラコイルも軽傷では済まず、龍鱗を撒き散らしながら宙を転がる。額から流れ落ちる青い血は、コメットの槍がどれだけ強力だったのかを物語っていて……同時に、彼の耐久力、頑強さを表していた。
話で聞いていた通りの実力者。
たった一撃で身体の芯まで響くような威力に、紅き龍は笑みを漏らす。
『ククッ、こんなヤツらを今まで野放しにしてたなんざ、破壊者の名折れだよなァ!!』
「───んなもん、今のうちにへし折っとけ!!」
『ア?』
そのまま追撃にかかり、他の魔法少女にも襲おうとしたところで、横合いから邪魔が入る。鋭い視線を向ければ、そこには紅い人狼、リュカリュオンが浮いていて。
跳ね除けようとしたダラコイルよりも速く、灼熱の腕が胴体にぶち込まれた。
それは、紅蓮の溶岩。
あのムーンラピスが認める若き強者。その紅き熱拳が、龍を焼き焦がす。
「オラァッ!!」
───紅蓮魔法<クリムゾン・ラヴァーハンマー>
『グアアッ!?』
熱い激痛に悶絶するダラコイル。だが、リュカリオンの猛攻は止まらない。溶岩でも溶けない強度、されど焦げる程度には耐久性がある龍鱗に熱拳を連続で叩き込む。
溶岩が飛び散り、龍鱗までもが肉体を離れて飛散する。
硬い鱗を打ち砕き、その奥に秘められた肉を焼き溶かす連撃に、流石のダラコイルも耐えることはできずに絶叫を轟かせる。
『ッ、ア゛ッ、テメェ!!クソガキがァ〜ッ!!』
勿論、そのままやられ続ける程ダラコイルも弱くなく、憤怒に身を任せての反撃を、龍の力を最大限に引き出した大破壊を引き起こそうとした、その時。
彼の首の根───ドラゴンの弱点、逆鱗の上に。
音もなく。
気配もなく。
まるで、暗殺者かのように───リリーライトが、剣を突き立てていた。
「悪いんだけど、あなたに構ってる暇、ないんだよね」
『……ア?』
冷たく言い放つ彼女の瞳に、慈悲の心も、闘争心というモノすらも欠片もなく。なにも込めていない色で、逆鱗を見下ろしている。興味の色すら、そこにはない。
そして、突き立てた聖剣は、既に極光を迸らせ。
漸く事の不味さに気付き、冷や汗をかいたダラコイルが対処しようとするよりも、速く。悲鳴を、怒号を、咆哮を上げるよりも速く。
ただ速く。
白金色の極光が、獲物としても見て貰えない龍の首を、貫通した。
『ガッ───!?』
絶命には至らぬものの、ダラコイルは死を垣間見た。
一方その頃
蒼月「がんばえー」
童謡「ぐぅ〜」
女王「気の抜けたヤツらだな」
無能「いつものことでは?」
寝猫「怒られる…よ?」




