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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
マギアガールズ銀河紀行 -悪夢星誕-

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288/294

272-羽化、孵化、転化

支援イラストを描いていただけました!

マギアガールズ秘話-⑫「鏡の中の友情」の挿絵です。

鬱くしいですね。

https://x.com/suijaku01/status/1989322210415456356?t=GsoJUTfnnw7vrdMODHx2uQ&s=19


「お騒がせ致しました…」

「本当だよ!でも良かった!おかえり!」

「一発殴らせなさい」

「すっっっごい痛かったぁ〜!賠償金の請求をしますっ!嫌ならチェルちゃんをくださいっ!」

「ダメです」

「ちぇ」


 星空に浮かぶ魔力障壁を床にして、ラピスは魔法少女と将星たちを治癒しながら謝罪行脚していた。新世代たちはそれぞれ欲望を訴えてきたが、保護者として拒むところはちゃんと拒んだ。

 死せる夢染めの六花は中指立てて慰謝料請求してきた。

 アリスメアーの幹部たちは肩パン。総じて物騒。味方の将星のうち、黒焦げになっていたアリエスは念入りに髪を治した。髪はちゃんと元のフワフワになった。カリプスは髪の毛をぐちゃぐちゃにした。召使い二人はぎゅっと強く抱き着いてきた。

 そして……


「キシャーッ!」

「猫かな?」

「お兄様に近付かないでください。下手するとここら辺の星が死滅するのでっ!!」

「将星って物騒なのしかなれないわけ?」

「あなたが言いますか…?」

「解せぬ」


 カストルは猫のように唸り声をあげ、ラピスに全身から嫌いですオーラを発した。治療してあげた後も面白半分で近付こうとすれば、妹のポルクスが立ち塞がってバッテンマークを突き付けてくる。

 ついでにスピカに呆れた顔をされて、ラピスは少しだけ眉を顰めた。


 正味な話、ここで手を出したいことこの上ないが……


 僅かにある良心がその蛮行を咎める。特にスピカは妹の件があり、承諾してないとはいえ、助命嘆願をされたのに無碍にするのはどうかと思ってしまう。デミアには程々に世話になったので。そういえばあのフラミンゴは元気なのだろうか。くたばってくれてると嬉しいが。

 思い出したようにお礼を告げてくるスピカに手を振って返答として、ラピスは将星組から離れた。

 カストルはまだ唸ってた。落ち着け。


 謝罪行脚で「なんで僕が謝んなきゃなんだ、は?」だの内心で思いながらも、表にはおくびにも出さないラピス。隣にさもわかってますよと微笑むライトがいるが……勿論ガン無視だ。

 魔力回復と体力回復、傷の治癒を並行しているが、まぁ大した負担でもない。

 ……精神世界から、早く私も出せと訴える声が聞こえた気がするが、そんなのは気の所為だと目を瞑り、容赦なくシャットアウトした。

 暫く無視だ。


 最後に会話するのは、諸悪の根源(言い掛かり)の将星、サジタリウス。この激闘を通して唯一軽傷で済ませた本物の実力者は、敵であっても朗らかに受け答えする。

 特に、相手は皇帝が好む質のいい強者たち。

 ニフラクトゥが勝てば、彼女たちは同胞となる。片方は死なない強者なのであれば、ほぼ確実に軍門……若しくは対等な友として向かいれられるだろう。

 負けたらどうなるのかは考えない。

 敗北とは、即ち死。仮に生き残ったのならば、その時の時流に乗るだけだ。


「命拾いしたな…」

「あはは。今度の戦いは、もっと楽しめることを祈るよ。油断は禁物、いい教訓になったろう?」

「お陰様でねぇ……それじゃあ、僕らは逃げるから」

「おや?お急ぎかい?」

「……お宅の王様がこっちに来たがってる。うちのノワが全力妨害してるけど、このまま呑気にしてたらすぐ来る。まだ時期じゃない」

「うわぁ、成程ぉ……想像できるなぁ、うん。ノワくんにこれ以上負担がかからないように、僕たちも早く帰投してあげないとかな?」

「お気遣いありがとうございます」

「……あのラピちゃんが敬語でお礼言ってる…天変地異の前触れかな?」

「もう起こった後だよ」

「そっかぁ」

「おい」


 テンポよく掛け合いをしてから、各々の陣営の無視することができない理由を挙げて撤退を促す。ただでさえ混乱状態なのに、ここで皇帝が「まーぜて♡」するのは非常に後味が悪く収拾がつかないことになる。

 そんな未来を避けたい気持ちは両者共通で、同星たちを休ませたいサジタリウスと、お茶を濁したがるラピスとの意見が合致する。

 なあなあな終わりだが、これもまたヨシ。

 サジタリウス的には暴走状態でのムーンラピスの脅威を確認できただけ、今回の収穫は大きい。アリエスの悪夢に由来した脅威度の底上げも、システムに乗っ取られた月の暴行に耐える魔法少女たちの胆力も、全て。

 意味のある戦いではあった。

 その代償として、魔法少女の首魁が本来の種族を完全に逸脱した存在になったが……それはそれで、あの蛇は喜ぶだろうと笑う。


 ちなみに現在、ニフラクトゥは鏡の世界のダンジョンを絶賛攻略中である。意外と楽しいらしい。鏡越しの観客にいつもの面子が揃い踏みしているが、それは兎も角。

 ノワールは頑張った。リブラはやさしく背中を撫でた。

 忠臣を含む味方陣営からも混ざりに行かないで欲しいと思われている辺り、ニフラクトゥがどのような存在として見られているのかがよくわかる。

 閑話休題。


「それじゃ、次の戦場で───お城で待ってるよ。君たち夢星同盟のこと」

「顎洗って待ってるんだなぁ!!」

「お兄様、首です首。顎洗ってもお髭剃るだけで……あ、ごめんなさい。お兄様ってまだツルツルでしたね。理想のダンディには程遠い……ぷふっ」

「ポルクス???」

「それでは皆様、また。重ね重ね、デミアを助けて下さりありがとうございました。次は、そこの歌音痴「は?」の首を初手で刎ねて勝ちます」

「じゃ」


 口々に言いたいことだけ言って、「星の回廊」を繋げた将星たちはその場を去る。コシュマールの残骸などは特に回収しない。持っていくモノがないので。

 何も残っていないものをどう持ち帰るというのか。

 死体も情報も全て消し飛んだ惑星を、4人は惜しむことなく見捨てて帰る。


 星々を繋ぐ通り道が塞がり、敵たちがいなくなったのを見届けてから……ラピスはそっと溜息を吐く。緊張感等は別にないが、無事に帰って貰えて安心したようだ。

 なんの安心か?

 このまま衝動的に殺意マシマシ深淵パンチを食らわせる心配がなくなることへの安堵である。マッドハッターなる怪人との再会が影響してか、衝動的に使いたくなるのだ。深淵魔法が。

 これよくない。本当によくない。

 あのリリーライトですら、万全な状態以外ではマトモに太刀打ちできない魔法。悪夢魔法に並ぶ厄災に、ラピスは内心おもしれーと思いながらお祈りメールを送る。そんな使いたくないから。世界に代償がある魔法、あの帽子頭を思い出す前からその性質は理解していたのだ。これからは解禁します!とはならない。

 だから使って〜とオーラを送ってくるのをやめろと心に巣食う怪物に訴えた。

 賑やかである。


 ……それと、安心にはもう一つの理由がある。


 将星たちには見られたくない、知られたくなかった……ラピスの秘め事。


「さて、僕たちもここを逃げよう。さっさと獅子宮行って同盟組とお茶して寝よう」

「うんうんそうだね。ところでなんだけど」

「なに」


 帰り支度を進める仲間たちを他所に……何かに気付いたライトが尋ねる。彼女の目線は、ラピスの下腹部……布に守られた身体の、その更に下。

 青を基調としたスカートをガン見していた。

 あまりの凝視にラピスは僅かに恥じらいながら、問いの続きを促す。


「なに隠してるの」


 瞬間、周りにいた全員の視線がラピスに集まった。全員聞き耳を立てていたようだ。一斉に集まった懐疑の視線にたじろぎながら、ラピスは一度咳き込んで否定する。

 そんな隠し物なんてないと。あるわけないだろうと。

 だが、その程度の誤魔化しに騙されるライトではなく。幼馴染がスカートに隠しているそれを……正確には、背に張り付いて、マントの中に隠れているそれを見る。

 宙ぶらりんになった小さな素足が、スカートの後ろから見えるのを。


「アッ……気にしないで」

「めちゃんこ気にするけど???」

「これには深いわけが……特に問題ないけど、その咎める目はやめない?」

「無理だよ?今までの所業考えて?あのね、私だって馬鹿じゃないんだ。それがリデルじゃないのはもうわかってるんだよ。足のサイズが明らかに小さいし。で、誰なの?」

「んえっと…」


 ずりずりと落ち始めている背中のそれに、ラピスは遂に観念したのか。将星たちがいる時に見えていなかったからまだマシか、と自分を納得させる。

 わらわらと近寄る仲間を無視して、背中に手を回す。

 がっしりと、背中の服を掴んでいた───リデルよりも小さな女の子へ。


「えっ」

「あっぷあっぷ」

「……はい、これで文句ない?ないね?そんじゃこの子はナイナイするから……」

「いや待って。待って!?」

「お姉さん!?」

「ふぁー!?」

「うるさ…」


 阿鼻叫喚の悲鳴が湧くが、件の子供───白髪の幼女は気にしていない様子で、指をしゃぶりながらラピスの裾を掴んで、不思議そうに叫ぶ周りを見ている。

 その無垢な頭を撫でながら、ラピスは溜息を一つ。

 説明が面倒だと、唐突に現れた───この世に生まれた幼女を見下ろす。


 ふわふわのショートカットは可愛らしく、くりりとした赤い瞳は何処か魔性的。年齢的には2〜3ぐらいかと勝手に推測しながら、貫頭衣だけ着た幼女を撫でる。

 彼女の頬、手足には青い紋様が浮き出ており、青い線はうっすらと発光していた。その“青”は蒼月の魔力を大量に取り込んだことによる影響であり、幼女がムーンラピスの支配下にあることを如実に表していた。

 慌てず、騒がず、大人しい。

 人形のような顔立ちの幼女は、死んだ魚の目でラピスを仰ぎ見る。


「らぷらぷ」

「だから違うっての…」

「?」


 悪夢が奥底に秘められた赤い瞳を見返してから、未だにうるさい一同を黙らせる為に、ラピスは半分事実の冗談で場を和ませる。


「産んだ。以上」


 勿論癇癪玉は爆発した。音で人を殺せるのは、今更だが言うまでもない。


 悪夢の卵は、新生した。


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「養子(猫)」「半分実子(宇宙産の悪夢)」「保護者に相当する関係(幼女女王)」「実の子供(ハット・アクゥーム)」 結婚していないのに、子供が四人いる、四人の子供を育てる悪夢の国のシングルマザー(笑 「…
もともとタイトルは悪夢(蒼月)星(夢)誕(子供を産む「本人が言った」)という意味です(笑 夢のエネルギーは星の力に等しいので、本話の内容を加えてこそ、この推測がある 余談 夢の中で「太陽」姉妹が妖精…
「蒼月」(多くの娘) 「皇帝」(ハーレムコメディ) 「太陽」の状況は何ですか 「悪夢大王」を「悪夢の母」と読む「蒼月」を書くと同時に、観客はどんな気持ちになるのか、読者と同じようにショックを受けるだろ…
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