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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
ユメと希望、友情のブルーム

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24-お茶会の魔人

やっと主人公の戦闘描写ってマ?


「ぅっ、ふぅ……」


 明園穂花の寝室。荒い吐息を吐いて、熱に倒れた穂花は布団に沈む。熱に浮かされたままブルーコメットの配信にコメントしたせいで、かなり不利になったとも知らずに。

 布団にくるまり身体を休ませる。

 悪夢に魘されているのか、苦しげな声を上げていて……今は全員出払っているせいで、看病できる人間はどこにもいない。


 子供たちしかいないその家は、多くの夢と悪夢が均等に詰まっている。


「っ……はぁ……んんっ、ん〜……、っ!?」


 ふと、穂花は目を覚ます。熱い額に貼られた冷えピタと後頭部を冷やす氷枕の心地良さに、浮上した意識を何度か持っていかれ……周囲に誰もいないことに気付いて、頭を枕から持ち上げる。

 寝る直前まで看病してくれていたクマ妖精、ほまるんの姿が見えない。


 窓の外は暗くて、いつの間にか夜になっていた……少し不気味だが。


「……ほまるん?」


 声に反応する者はおらず。かつて少女を支配していた、なにもない孤独に、弱った心を苛まれる。

 けれど、魔法少女として培った強さが心を奮わせる。

 いつでも仲が良くて、お互いに支え合う関係にもなった友人たちの顔も思い浮かんで。沈みかけた心は、浅瀬まで浮き上がった。


「まだ、寝てよう、かな……うん…」


 視線でぬくもりを探すのを諦めて、また冷たさに身体を任せて夢の世界に微睡んでいく、その直前に。

 夜と勘違いした窓の外の景色が、酷く明滅し初めて。


───光魔法!!

───月魔法。


 馴染み深い二つの魔法が、少女の預かり知らぬところで炸裂した。








꧁:✦✧✦:꧂








「空間隔絶まで……本気だね」


 真昼なのに夜に塗り変わった、あまりにも美しい夜空が無限に広がる異界。現世から切り離された夢幻の疆域に、明園家は取り込まれた。

 魔法で家屋ごと自分のテリトリーに連れ込んだ帽子屋、アリスメアーの最高幹部マッドハッターに、たった一匹の妖精ぽふるんが、睨んで侵攻を止める。

 目的は祝福のリリーエーテ───風邪で寝ている少女を巡って、2人は対峙する。


 “お茶会の魔人”マッドハッターは、努めて冷静に妖精へ平和的な交渉を持ちかける。


「そこをどきたまえ、君」

「いやだよ。だってエーテを攫うつもりでしょ?」

「御明答……わかっているのならば、潔くリリーエーテを差し出したまえ」

「だからいやだって言ってるの」

「ふむ」


 お互いに譲らない押し問答。繰り返しになるのを憂いたマッドハッターは、帽子頭の目尻を下げ、渋々と仕方ない雰囲気を醸し出しながら……クルリとステッキを回す。

 不気味に胎動する魔力の粒子が、2人の視界を遮って。


「仕方あるまい───ならば、実力行使と行こう」


 杖の先端に描かれた魔法陣から、紫の光線が放たれた。


「あぶっ!」

「軽々と避けおって……安心したまえ、君。吾輩、かなり殺生には気を使っている故、決して君を、その後ろにいる彼女の命も奪わないと約束しよう」

「信じられないかな!」

「それは残念」


 心にも思っていない声色で悔しがりながら、連続で紫の閃光を迸らせるマッドハッター。ぽふるんは小さな体躯で撃たれた光線を避けるが、どこかおぼついている。

 まるで、その身体に慣れていないかのように。

 ものの数秒でそれを見抜いた帽子屋は、一先ず違和感に蓋をして、妖精を昏倒させんと執拗に光線を滅多打ち。

 死なない程度に痛めつけて、道を切り開かんと。


 ……だが、ほまるんは倒れない。掠っても、直撃してもマッドハッターから目を逸らさない。


「いったいなぁ、もう」

「……驚いたな。ただの賑やかしにしては、随分と豪胆な気概の持ち主だったようだ」

「もっと褒めていーよ。それと、もう避けないから」

「ほう?」


 首を傾げるマッドハッターに向けて、ほまるんが小さなクマの手を翳して。


「光魔法───」

「!」

「<サンライト・レーザー>!!」

「それはッ」


 太陽光を固めた魔法の光が、一直線にマッドハッターを射抜いた。あまりにも見慣れた、馴染み深いその魔法に。帽子屋は見蕩れて、固まって、直撃してしまう。

 寸前に身体を逸らして、肩を貫かれる程度に収める。


「ぐっ……貴様、何故その魔法を……それは、それは……あいつの……“極光”の魔法であろうがッ!」

「なんでだと思う?まぁ、考える前に倒しちゃうけど」

「ほざけッ」


 湧き上がる感情に身を任せて、マッドハッターも追加の魔法を行使。

 殺意を込めて、意表返しも含めて、魔法を撃ち出す。


「月魔法<ムーン・スコイル>ッ」

「うぇっ」

「……確かに、前例はあったな。他者の魔法を使うのは、なにもおかしくはないか」

「趣味悪いなぁ!対抗意識でもあるわけ!?」

「口説いぞ」


 乱回転する月の光が太陽光を打ち払い、ほまるんを強く弾き飛ばす。光魔法には月魔法を。かつてチームを組んで戦っていた魔法少女たちの力を使った攻撃で打ち消す。

 あらゆる魔法を使えるマッドハッターならではの反撃。

 そして、使い慣れているからこそ───素知らぬ相手が死んだ相棒の魔法を使っていることに、小さな苛立ちを、言葉にできない殺意を抱く。

 己もやっている魔法の再利用を棚に上げていることには目を逸らして。


「希望を持つな、絶望しろ───(ひずみ)魔法<ザルゴ>」

「ッ、光魔法<シャインフォース>!からの、<ソレイユブレイカー>ッ!!」


 集積した負の感情・呪いを具現化した化け物を召喚して前線に放てば、太陽の加護で強化された光の塊が、まるで突進する壁のように迎撃。一瞬の拮抗は、太陽が齎す光の浄化で呪いの化け物を破壊する。

 有利を取れたからこそ打ち倒せた魔法の産物……だが、そこで終わるには、帽子屋の引き出しは多過ぎた。

 マッドハッターは更に魔法を行使。迫り来る極光を軽々対処する。


「鏡魔法<ミラードジャマード>」

「反射ッ……“虚雫(うろしずく)”の魔法に、“廻廊(かいろう)”の魔法まで……!」

「そうか、物知りだな。ならば、貴様も知っている魔法で勝負するとしよう」


 空中に浮かんだ無数の姿見が、帽子屋を襲う光線を全て反射する。魔法の極光は跳ね返り、術者であるほまるんへお返しされる。なんとか避け、自分で魔法の出力を切って反射し続ける光を解除する。

 今使える魔法の中でも高火力を誇る魔法は使用不可。

 相性の悪い鏡魔法を使われたことで、ほまるんは全ての手札を使えなくなる。


 今の妖精の身体では、マッドハッターに勝てやしない。


兵仗(へいじょう)魔法<ディストーション・アームズ>」


 帽子屋の背後に浮かぶ無数の魔法陣から、銃口が覗く。


「“戦車”の魔法……くっ」

「……さて、もう一度宣告しよう……降伏したまえ、君。穴あき人形にはなりたくないだろう。何度でも言うが……吾輩は他者を害せど、殺す気はないのだ」

「……それが本音なのは、わかる。でも、それはダメ」

「ほう?蜂の巣になりたいのか?」

「まさか……でも、エーテはあげない。絶対に。私の命に変えても、やだ」


 頑なにうなづかないほまるんに、若干の苛立ちを覚えたマッドハッター。だが、あの不信な妖精がそこまで彼女を守る理由に違和感を抱く。

 そこに悪意などはなく……心の底から、リリーエーテを案じているのがわかる。

 わかってしまう。


 その目眩を感じるような輝きは、マッドハッターがそうなる前にも幾度か見た……そう、見たことがある輝きで。あまりの眩さに何度も苦言を呈した記憶がある。

 自分の身を省みず、他人の為にと悪意に抗うあの姿勢。

 眼前に立ちはだかる妖精と、彼女の後ろ姿が、否応にも重なるように見える。


 何故、何故、何故何故何故───あぁ、気持ちが悪い。


 妙な既視感を拭って、マッドハッターは展開した魔銃へ妖精への一斉掃射の指令を下す。

 あの忌々しい光を、明園██を思わせる敵へ───…


───違和感。


(……待て。おかしい。アイツの名前が、思い出せない)


 十年以上連れ添った幼馴染の、競い合った親友の、共に悪夢と戦った戦友の名前が思え出せない。狂った帽子屋になってから、一度も違和感を持たなかった、彼女の瑕疵。

 自己の不確かな違和感に、彼女は漸く気付く。

 原因はなにか。目の前の妖精か。それともあの女王か。候補が多過ぎて絞り切れず、マッドハッターは瞠目する。

 理解できない怪奇現象に、帽子屋は思考に一瞬の空白が挟まる。


 いつからなのか、それすらもわからない───戦闘中にそこまでの思考を巡らしてしまうほど、マッドハッターの動揺は凄まじく。

 魔法を維持する集中力が掻き消えてしまう程。

 だがなんとか寸前で意識を戻し、撃鉄を起こした魔銃を再点火。


「去ね。今は貴様に構っている暇などない───仕舞いと洒落込もうか」

「御免蒙る、だよ!」


 それならばと、絶対に意思を捻じ曲げない妖精へ濃厚で仄暗い殺意をぶつける。


 この奇っ怪な現実を叩きつけてくれた妖精ほまるんへ、百丁の魔銃を、“戦車”の魔法を一斉掃射。

 無数の弾丸で、妖精の小さな身体を蜂の巣にするッ!


───その寸前に。


「───間に合、えーっ!!」

「ぐえー」


 現世と異界を隔てる結界を、力任せに切り開いた───巨大斧を振り翳したハニーデイズが、苦しむチェルシーを小脇に抱えて、戦場に舞い降りた。

 追加で花魔法の障壁を地面に突き刺して、弾丸を防御。

 ほまるんを、その背後にある明園家を守り抜く。銃弾で貫通破壊される障壁も、何重に張り巡らさればどうとでもなる。

 

「わわっ、と!えと、“花園”の魔法少女、ハニーデイズ!ここに推参!……ってほまるん!?大丈夫!?一体なにがあったの!?」

「おぁ〜、若干諦めかけてたのに、まさかの救援」

「あたしの話聞いてる?」

「聞いてるよー。あのね、そこの帽子頭に襲撃されたの。エーテが狙いだってさ」

「ふーん?」


 降り立ったハニーデイズは、その脇に親友を抱えたまま帽子屋と対峙する。不気味な出で立ちの、帽子に目と歯が装飾されたその女怪人に感じた小さな恐怖を押し殺して、力強く彼女は宣言する。

 リリーエーテを守る為に。ほまるんを守る為に。


「選手交代!次はあたしの番───負ける準備、してね」


 守る道を尊ぶ花園の魔法少女は、悪夢に溺れる███に喧嘩を売った。


帽子屋ちゃんの内心

(あれ穂花ちゃんが病欠?)

  ↓

(チャーンス!最高幹部、いっきまーす!)

  ↓

(なんだぁテメェ)

  ↓

(光魔法!?相棒ォォォォォォ!!)

  ↓

(名前…あれ?なんでぇ?)

  ↓

(もういい死ね!)

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