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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
マギアガールズ銀河紀行 -悪夢星誕-

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258-なにがあった選手権決勝戦


 実験体となっていた誘拐児童の救出、避難に手を組んで取り組む魔法少女、アリスメアー、“双星銀河”たち。避難場所へ連れて行けるジェミニスター兄妹を中心に、生気を失った子供たちを安全圏へ逃がす。

 と言っても、この研究所は既に戦場。

 被害者たちにとって、一番の安全圏と言えるのは───皇帝の御座す帝都にある、帝都ステリアル聖ポリマ大聖堂しかない。


「こっちです!」

「あっこならポリマ姉ちゃんが保護してくれる筈!そこと空間を繋げて、こいつらを放り込むぞ!」

「オッケー!あっ、フルーフ先輩!悪いことしないでね」

「やんないよ子供相手に。信用がないな……全部ラピスのせいかな」


 元はジェミニスター兄妹の能力である「星の回廊」で、子供たちを逃がす道を作る。空間が安定した場所でないと不安定になって、道を繋げるのが困難になる異空間ロードなのだが、地下研究室は無事に開通できた。

 虚空の穴の向こう側、煌びやかで荘厳な教会が覗く穴に子供たちを放り込む。


 敵味方で協力して、「星の回廊」に子供を放り込む様はなんだかおかしいが……人命救助を優先して、そこら辺は考えないことにした。

 そして、回廊の向こう側にて。


「えっ、なに?」

「……ガキが放り込まれてるわね」

「言葉遣いが荒いぞ」

「どうでもいいわよ」

「子供!?なんで!?えっ、ちょっ、多い多い多いっ!!うちは託児場じゃな───目が死んでる!?」

「うわぁ」


 天使姉妹と竜の騒がしい声が聴こえたが、説明している暇はなく。百人近い数いる子供たちを運んで、先に教会へ送り込んだクッションの上に放り込むので精一杯だ。

 文句を聞いてる暇もない。

 動いてくれいない、頷きもしない子供たちは、息をしているだけの人形としか思えないが、決して邪険にすることなく運ぶ。


 だが、往々にしてハプニングとは起こるもので───


「ッ、なんだ?」


 カストルが抱えていた少年が、突然ピクリと震えて……僅かな痙攣を経てから……その小さな頭を、風船のように膨らました。

 同時に、周りにいた子供たちも頭を膨張させる。

 片割れと魔法少女の悲鳴が、その怪奇現象が現実のモノであることを示す。


「ハァッ!?」

「なっ、なんで!?」

「っ、これって───!」

「クソッ!」


 その膨張が、実験体を闇に葬り去る為の隠蔽だと気付き苛立ちが湧くが、どうしようもないとその命を手放そうと決めた、その時。

 覚悟を決めた顔のリリーエーテが、魔杖に力を込める。


「一か八か───ッ!! 夢想魔法ッ!!」


 ユメの力を行使するエーテは、瞬時にそれが【悪夢】を利用した現象であることを看破した。かつてあった戦い、旧世代の悪夢との戦いを記録した配信で、似たような現象を見たことがあったから。

 体内にあるユメの力を侵し、増幅させる殺害方法。

 急激に膨れ上がったユメエネルギーは肉体という器では耐えきれず、膨張に次ぐ膨張で盛大に破裂させ、その命を奪う。


 救う手立てはある。それこそ、エーテのようなユメへの干渉が可能な魔法少女であれば。

 確信を持って、エーテは夢想の力を解き放つ。


「なんとか、なれぇ〜っ!!」


 技も型もない、ユメの力で悪夢を鎮静化させ、元に戻す魔力放出。空間全体に広がったそれは、破裂する寸前まで膨らんだ子供たちの身体に浸透する。研究所だけでなく、「星の回廊」と繋がった教会にも、ユメを届けて。

 数秒経って、漸く。

 膨張していた子供たちの身体が、ぷるぷると震えて……極限状態にあった風船頭が、ゆっくりと時間をかけて元に収縮し始めた。


「なっ、これ…」

「すごい!すごいぽふよエーテ!」

「今の一瞬で……っ、すごい」

「やるじゃねぇか」


 目を見開いて驚いたカストルとポルクスは、子供たちを見事救ってみせたエーテを見つめる。ある意味、この悪夢研究所の存在意義をぶち壊してみせた魔法少女を。

 本来ならば救えなかった子供たちは、すやすやと寝息を立てて眠っている。

 ……視線を回廊の方へ向ければ、先に送った子供たちも無事に済んだ様子。安堵と驚愕で騒がしい同星の妹たちはまた無視する。


「すごいな、お前!よくやった!僕たちだけじゃ、絶対に死なせるしかなかった……勲章ものだ!怪我人なのによくやるじゃんか!すごいぞ!」

「これが、魔法少女の力……ただ破壊するだけの戦士ではなかったんですね。大変助かりました」

「その認識は間違ってる!!もうっ!お姉さん本当ロクなことしないよね!!」

「まぁまぁ」

「どうどう」


 奇跡を成し遂げたエーテを双子は褒めて、内心彼女だけこっちの陣営に来てくれないかなと思ったが、決して口に出すことはしない。

 本心ですごいなと一通り褒めてから、一同は救助活動を再開した。


「ヨシ、なんとかなったな───ポリマ姉ちゃーん!それコシュマールでモルモットにされてた被害児童!そっちで治療とかケアしといて!!」

「えっ、カーくん!?ちょっと待って!?」

「すいませんお願いします!では!」

「ポルちゃんまで!?ちょっ───あっこら閉じるなー!全部説明しろー!」


 聖座ポリマの叫びを全力無視し、双子は「星の回廊」を閉じた。逃げ遅れた子供は何処にもおらず、一同は無事に子供たちの救出を終えた。

 幸い、彼女たち以外の実験体はいない様だ。

 ……そうして救助を終えた一同は、ほっと一息ついて、緊迫した空気が霧散する。


「結構疲れた…」

「意外といましたね……」

「お疲れ〜……っ、あ。肩痛っ…治療魔法でも治んないの本当やめてほしい」

「なんの怪我なんだ?それ」

「お宅の牛さんに」

「あぁ…」


 なんだか和気藹々とした良い雰囲気になっているが……この場にいる彼らが、敵同士であるということを忘れてはならない。

 精神年齢が幼いからなのか、あっさり雰囲気に流される双子も双子だが。


「……ハッ!そうだこんな和んでる暇じゃないんだった!おい魔法少女っ!あの青いのは何処にいるんだ!?」

「あっ、あー、多分最深部?だと思うけど…」

「最深部となると……確か、おじさまが鎮静化させた……そういえば、何かを取り込むと言っていましたが」

「悪夢を取り込んで叩き起すって話ッスよ〜」

「……成程?」


 目的を思い出した2人が問えば、魔法少女たちも困惑を隠し切れない顔で呟くばかり。なにせ、彼女たちも詳しくわかっていないのだ。

 リリーライトとリデルが、ムーンラピスに小さな悪夢を取り込ませることで起こすという……

 不明瞭で不鮮明、理解できっこないやり方である。

 頭のいいポルクスも、どういうこっちゃと首を傾げる他ない。


「つまり?」

「どういうことです?」

「……悪夢取り込んでパワーアップ、顔面修復してもっと人間味無くそうってことことさ」

「???」


 フルーフの補足があっても余計に混乱が深まるだけだ。


「修復?なんだ、あいつ怪我してるのか?薬草院に行って治療した方がいいんじゃないか?悪夢なんか取り込むより断然マシだと思うんだけど」

「逆に身体に悪いのではないでしょうか…」

「そうなんだけどね?そうじゃないっていうか……うん、お姉さん色々おかしいから」

「ひっでぇ」


 恨みを持たれている敵に心配されている辺り余程のことである。一通り困惑から立直ったカストルとポルクスは、当初の予定通り怨敵がいるという最深部を目指す。

 その始まりの一歩を踏み出そうとした……その時。


 何度目かの振動か───研究所の全体が、不穏な魔力の胎動に支配される。


「ッ、今度は何!?」

「あー、一回目は僕らが隕石落としたヤツだ。これは全然知らないヤツ」

「なにやってんのあなたたち」

「お仕事です」


 壁に掴まったり仲間同士で支え合って、地震に耐える。だが、それ以上に不気味なのは……一瞬にして空間全体を支配した魔力から感じ取れる言いようのないおぞましさ。

 肌寒い。そう、まるで極寒の真冬の中の……

 否、否。そんな生易しいモノではない。正しく、死地の真っ只中にいる感覚だ。肌が粟立ち、無意識に逃げたいと足が竦む。


「これ…」

「……なんか、ヤバいな。絶対ヤバい。おい、お前ら……全力で走れるぐらい元気か?」

「別に大丈夫だけど……なんで心配してくれるの?」

「? 僕らの目的はお前たち魔法少女の捕獲だ。裏切った将星共は殺す予定だけど、お前たちは違う。それが陛下の望みだし……お前らは良い奴だからな!殺そうとはあんま思えないな!あの青いのは除く!」

「お姉さん嫌われすぎじゃない???」

「理不尽には理不尽を、ですよ」

「成程〜」


 なんてことないように皆で取り繕いながら、ジワジワと存在感が増してくる気配に警戒する。いつでも外に出て、逃げられるように。

 もう敵か味方かなんて考えられない程の脅威が、そこにいるから。


 そんな、言いようのない緊張感に満ちた一同の足元が、またグラついて……


 床がヒビ割れ、飛び出た“聖剣”が道を切り拓く。


「えっ!?」

「───ヤバいヤバいヤバいヤバい!終わった!次回作に御期待くださ、エーテ!?みんな!?なんでこんなとこにいるの!?」


 現れたのは、リリーライト。背中に光翼を展開して飛ぶ彼女の右の脇腹には、呑気な顔をしたリデルが不満そうに挟まれていた。

 その手に、数分前まで抱えていた相棒の姿はない。


「お姉ちゃん!?」

「お姉ちゃんだよ!ん?ってか将星じゃん」

「こいつも魔法少女か…」

「あっ、この人たちはお姉さんに恨みあるタイプの人で、悪い将星さんじゃないの!!」

「いや善悪で区別してないよ私…」

「姉なのか?」

「聖剣兵装っていう破壊光線の元ネタだよ。多分知ってる感じだよね?」

「……あれかぁ〜」

「あれですか……」


 苦い思い出に歯噛みする双子を他所に、疑問符を目一杯浮かべているライトが攻撃に移ろうとするのを必死に食い止める一同。

 だが、それよりも優先すべき疑問が、一つ。

 何処を探してもいない彼女を。足元から感じる、“圧”の真意を問い質す。


「……ねぇ、お姉ちゃん。お姉さん……ムーンラピスは?何処にいるの?」


 どんどん形作っていく嫌な予感に、目を細めて聞けば。


「えっえー?な、なんのことかわかんないなー。ぜんぜん身に覚えがないや〜……あっ、そうだ逃げてるんだった。ごめんみんな、私は生き残るから……」

「いや、普通に話せよ」

「黙れクソガキ。悪いのは全部ラピちゃんで、私はただの通りすがりなんだいっ!」


 凄まじい現実逃避で、今度は天井を突き破って逃げた。ちゃんと後輩たちが逃げれる通路を作りながら飛んでいる辺り、まだ擁護できる範囲だが。

 どうやら何かやらかしたらしい。

 それを察した新世代は、飛んで行った先輩と床の穴から漏れ出る濃厚な“蒼黒い”光に沸々と怒りを湧かせて……

 吠える。


「正体あらわしたね!?みんな、よくわかんないけど早く逃げよっ!!これ絶対アカンやつだもん!絶対お姉ちゃんなんかやらかして怒らせてるヤツだ!」

「そうね!嫌な予感がプンプンするわ!!」

「ひぇ〜!夫婦喧嘩は余所でやってよぉ〜!あたしたちを巻き込まないでっ!」

「……そんなので済んだらいいけど」

「や〜、どうしたんスかねうちのボス」

「どうも様子がおかしいが……取り敢えず逃げるのは賛成だな。多分吹き飛ぶぞここ」

「冷静に分析してる場合かっ!?」

「飛べますか、紅いの」

「平気だよ、ありがとう」

「ぽふ〜!?」


 口々に文句を垂れ流しながら、ライトの作った大穴へと飛んでいく。下方からせり上がってくる濃厚な悪夢から、その身を守る為に。

 立ち止まっては死ぬと、直感で理解する。

 話の流れからして、双子もその存在感の持ち主が誰かは理解できたが……ここで馬鹿正直に突っ込んで行くような自殺志願者ではない。

 呉越同舟、助け合いながら研究所の外へ。

 幾つものフロアをぶち抜いた大穴を飛び越えて、一同は更地になった地表に出る。


「なんもない!?」

「すごいわね……」


 カストルとポルクスによって、クレーターとなった星。その破壊規模を呆然と眺めながら、中空に佇んだライトの元まで飛ぶ。

 ……もう既に、他の面々も合流していたようだ。

 縄で縛られたスピカが、なんで仲良くしてるのといった目で双子を見ている。

 そっと目を逸らした。


「あれ、カリプスは?」

「んめっ、あのその……サジタリウスと一緒に、夢の中に閉じこもって戦闘中です…」

「えぇ…?」


 ダビーにお姫様抱っこされたアリエスの言葉に、なにがあったのと更なる疑問を抱くが。

 それを超える災禍が、星のあちこちで起きる。


「ッ、光が…」


 地震の影響か、地表の至る所にできた亀裂から、蒼黒い光が地表へと放たれた。その不吉な魔光は、魔法的な観念から見て、【悪夢】由来のモノだと推測できる。

 こんな芸当ができるのも、この場にいない彼女だけだ。

 それがわかっているからこそ、全員でリリーライトへと視線を送る。


「……ごめんね、みんな」


 だが、視線を集めたライトは、心做しか悲しそうな顔で浮かんでいて。眼下で渦巻く災禍から、仲間たちの方へと視線を寄越して……

 申し訳なさそうに、笑って言う。

 冷や汗ダラダラで佇むライトと、やってやったぞと頷くリデルの対比に困惑している一同を無視して、事の詳細を掻い摘んで。


「ラピちゃん……なんか、目覚めるどころか、自我飛んで暴走しちゃった」


 暴走。


「…えっ」

「…………は?」

「はぇ…?」

「???」


───この日、魔法少女たちは思い知った。


 このツートップ、大分綱渡りな人生を歩んでいる典型例なのだと。


【悪夢】は危険だよという盛大な前フリからお出しされる唐突な主人公の暴走の図

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― 新着の感想 ―
「太陽」から逃げて、新世代が体験した「死地の真っ只中にいる感覚だ」 「蒼月」の今の状態は219話で言及した「目に付く全てを葬らんと無意識下で思考していたムーンラピスを」
そういえば、ライトってば、本当に大丈夫なのかしら?これ完全に失敗して自棄、事態を放り出して現実逃避モードじゃない?「やったぜ」のリデルに完全に手玉に取られて、魔王爆誕儀式のための内通者よ内通者……ラピ…
やりましたね、エーテ!さすがは新世代の魔法少女、敵(?)でさえ彼女に好意を抱くとは。 この調子で頑張れば、いつか姉たちが作ってしまった蛮族のような魔法少女のイメージも払拭できるかも……できるよね?…
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