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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
マギアガールズ銀河紀行 -悪夢星誕-

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257-理想的な勝敗のつけ方


「まずは威嚇射撃だ」


───兵仗魔法<ディストーション・アームズ>


 将星スピカとの戦闘。一番槍を手にしたのは、お馴染みカドックバンカー。多重展開した魔銃をスピカに向けて、一斉掃射。ただの銃弾よりも遥かに高威力の弾丸だが……スピカが“空”を掴んで引っ張り、ぐにゃりと伸ばして弾を受け止めた。

 スピカの魔法が実際どんなモノかを確かめる為に撃った銃弾は、綺麗に“空”に埋め込まれて、そのまま動く気配は無い。


「へー、そうなんのか」

「物騒ですね。確か、重兵器の使い手だとか……ある意味厄介ですね」


 何処ぞの捕虜が嘘無しで伝えた魔法少女の情報を一通り把握しているスピカは、この宙に来ている全ての魔法少女を警戒している。

 敵を寄せ付けない空間操作能力者であるスピカでさえ、対処が難しい相手が五万といるから。

 そう危険視している魔法少女の内の2人が、彼女の前にいる。


「あれ、あたしも?」

「いやー、そりゃあねぇ。物理一辺倒より警戒されるのは当たり前だよね〜」

「ムカつくなァ、怒鳴っていいか?」

「うるさい」

「は?」


 苛立ち混じりに僻む最古参を押し退けて、ブランジェが天砕きの矛を手に吶喊。スピカが布のように操る“空”に、重力を纏った槍を突き刺す。

 その威力は“空”を浸透して、衝撃波を伝える。


「っ!これが…」

「へぇ〜。今ので手放さない、それに砕けないなんてね。あなたも結構厄介じゃん」

「それほどでもないです、よっ!」

「おっ!」


───天掌魔法<ヴィルゴスシエラ>


───重力魔法<エンジェルキッス>


 “空”を掴んだスピカが、空間そのものの形を槍のように形成変化。景色を写し取ったような複数の武器を作って、その全てをブランジェ目掛けて撃ち出す。

 放たれた“空”は、空間を引き裂いて力天使を狙う。

 反撃で放たれたブランジェの重力波は、正面から“空”を迎え撃つが……


「へぇ!」


 重力波をすり抜けて、“空”の槍はブランジェの元へ。


 空間そのものを重くすることもできるブランジェだが、どうやら“空”の接地面積が減らされたことで重力が上手く作用せず、素通りされてしまったようだ。

 殺意の高い“空”を前にして、ブランジェは笑う。

 面白そうだからと、回避はせずに天守りの盾で受け止め防ぐ。


ズガガンッ!!


 到底、加工された空間が刺さったとは思えない音と共に盾は押し込まれる。込められた魔力量がかなり多いのか、槍が押し込む力は凄まじい。

 あのブランジェが、力押しで負けているぐらいだ。


「うぐぐっ……そりゃぁッ!」


 ふんばって、盾を床に突き立ててまで防ぎ……最後は、瞬間的な魔力強化で盾ごと“空”を投げ飛ばした。あっさり身を守る武器を手放したブランジェは、攻撃優先の戦闘を選択した様子。

 槍を片手に駆けるブランジェに、スピカは魔法を行使。

 彼女の足を掠めるように、“空”を折って───その足を捻じ曲げ、潰す。


「おっ!?」

「へぇー、生で見ると尚更すごいな」

「呑気に観賞してる場合じゃないよね〜!マーチちゃん、歌います!」


 右足が吹き飛んでたたらを踏んだブランジェは、背後で回復魔法の歌を唄うマーチを無視して、飛翔。天使の羽を羽ばたかせて、“空”の支配所にもう一度吶喊する。

 ヘイローを輝かせ、魔力を全身に循環させ、強化する。

 性懲りも無く吶喊を選んだブランジェに、スピカは一切容赦しない。


「無駄です!」


 座標指定で“空”を歪める。ブランジェの羽をもぎ取り、その機動力を削がんと魔法を行使する。だが、ブランジェの飛行速度はスピカの魔法発動よりも速く……

 “空”に捩じ切られる前に、将星の懐に潜り込む。


「なっ!?」

「一発は一発、ね?」

「戯言をッ…」


 一瞬で至近距離に現れた魔法少女に驚くも、常に自分の周りに展開されている“空”の存在が、スピカに大きな安堵を与える。歪められた空間が、己の身を守ってくれる。

 だが。彼女の目の前にいるのは、魔法少女。

 それも───あの魔王と勇者に次ぐ、天使の階級に立つ魔法少女である。


「有言実行っ!」


───重力魔法<ヴァーチェス・グラットン>


 ランスの先端に魔力を収束させて、スピカを守る“空”に矛を突き刺した、その瞬間。切っ先と“空”の間に凄まじいエネルギーが生じて、空間が悲鳴を上げる。

 重力崩壊を引き起こす破壊技が、空間をぐしゃぐしゃに引っ掻き回す。

 それは“空”をも巻き込んで…

 スピカを守る“空”ごと、ぐしゃりと空間が歪んで───破壊の奔流が解き放たれる。


「なっ、ァ!?」


 限界を迎えた“空”が解け、スピカは抵抗虚しく指向性を持った重力崩壊をその身に浴びる。本来ならば浴びた瞬間身元不明の肉塊になるが、持ち前の頑丈さによって原型を留めてスピカは生き残った。

 代償として片翼が半ばからへし折れて、内臓の幾つかがダメになったが。


「ぐぅッ…ゲホッ!オエッ…はァ……はァ……なるほど、こんなことが……ですが、この程度の深手なら、腐るほど経験済みですっ!!」

「あはっ!きれーな顔して、意外と泥臭いじゃん!」


───天掌魔法<ヴィルゴスシエラ>


 重傷を負っても、それが隙になることはなく。スピカは冷静に、屋内という小さく狭い戦闘フィールドの空間へと魔法を作用させる。

 工程は単純、結果は明白。

 部屋の壁や天井の景色が大きく歪み、物体を伴いながら空間が伸びたり広がったり、自由自在に形を変えて世界を作る。


 何の前触れなく棘が生える。足が捥げ、射出した魔法が霧散する。立つことすらままならない、飛んでも呆気なく捕捉されて捻じ曲げられる。

 魔法少女にとっては絶体絶命、スピカにとっては有利な戦闘環境。“空”の中心で、より分厚く空間を折って守りを固めたスピカは、冷静に魔法少女たちを破壊しに行く。

 ブランジェは機動力の要である翼を。

 カドックは魔法発動の瞬間を悉く捩じ伏せられ、何度も頭部を破壊されかけた。

 マーチに至ってはより深刻で、魔法の発生源である喉を狙われるも、なんとか腕を差し込んで喉を守り、心做しかスピードを上げて歌を紡ぐ。

 歌の効果で傷を回復されながら、スピカはブランジェとカドックの攻撃を捌く。


「くっ!」

「おいおい、ブランはともかく、オレの攻撃通らねェんだから怯える必要ねェだろ?逃げんなよッ!!」

「あなた達魔法少女の潜在性はブルーコメットでわかっています!先達であるあなたを警戒しない道理は、何処にもないでしょう!!」

「ハっ!ちゃんとしてんな!」


───兵仗魔法<ダンス・ランドマイン>

───兵仗魔法<ディザスター・クラッション>

───兵仗魔法<ブラストファイヤー>


 “空”に埋め込まれた地雷が炸裂し、我武者羅に撃たれた銃弾が乱舞して、“空”に遮られた火炎放射の熱気がスピカを蒸し焼きにする。

 カドックの兵器攻撃は、確かにスピカには届かない。

 だが、最大限の警戒を解くことは無い。なにせスピカは知っている。取るに足らないと思っていた小娘までもが、自信のあった“空”を打ち破ったのだ。

 警戒しないわけがない。


「んなら、その警戒……正しいと言わざるを得ねぇな」


 ……そして、一度抱いた懸念とは当たるもので。苛烈に笑うカドックバンカーの兵器猛攻に紛れて、スピカの背後に影が這い寄る。

 不穏な気配、直感で気付いた時には、もう遅く。


「ッ、なにが───」

「魚雷って知ってっか?」

「ッ!?」


 咄嗟に振り向いた先には───“空”を通り抜けた黒鉄の弾頭が、静かに滞空していて。

 驚く間もなく、超兵器が起爆する。


「がぁっ!?」


 爆発をその身に浴びて、スピカは地面を転がる。右腕がおかしな方向に折れ曲がったが、気合と執念で元の形へと折り戻した。

 腹部に直撃した為か、壮絶な痛みに悶えるが……

 必要以上に悶絶することはなく、スピカは冷静になって事態把握に務める。


「ぃ、今のは…」

「スゲェだろ?オレの後輩、クルクルルーって変な名前の魔法少女が考案した、“空間を潜航する魚雷”っつー魔法の兵器サマさ。原理は知らねぇが、あいつの魔法特性が反映されてんだろうな。詳しかねェけど」

「空間を、潜航…ッ!?」


 魔法少女“知恵”のクルクルルー。文字魔法という魔法の使い手である彼女は研究畑の人間であり、自身の戦闘力が低いのを理由に兵器開発や魔法解析、研究に着手。

 自作した超兵器や、誰かの武器に魔法文字を刻むことで武装を強化、変質させることができるようになった。

 この魚雷も、元はカドックの魔法兵器。

 そこにクルクルルーが文字を付け足したことで、空間を潜航する魚雷という原理不明意味不明の空想魔法兵器へと生まれ変わった。


 ちなみに、彼女の愛称はクルルである。

 死因は自殺。

 彼女が根城を張った研究所に、不遜にも襲撃を仕掛けた幹部怪人及びアクゥームの軍勢諸共、高笑いで蔑みながら自爆した。


「オレの兵仗魔法は、この世に存在する兵器なら幾らでも召喚できる。人類が作り、今や失われた兵器も。かつて、あいつが作った事実のある兵器も。全て、この手に、な。だから、幾らでも出せるんだぜ───ほぉら、魚雷原から逃げてみなッ!!」

「くっ!ならば、全て突き刺すまで!!」

「やってみろ!」


───兵仗魔法<キャラック・トーピード>


 追加発注された空間潜航魚雷が、次々とスピカに迫る。天掌魔法ではどうにもできない、ある意味天敵となる魔法兵器から、スピカは翼をはためかせて退避。“空”を槍へと作り替えて突き刺す攻撃は通用した為、次々と撃ち落とし対処に励む。

 そして、“空”を歪めて研究室を拡大、逃げる範囲と戦闘範囲を広げて、更に広い“空”の領域支配を開始。魔法少女たちの足場を奪い、進行方向を阻み、殺意を突き刺す。

 ……だが、危険視すべき戦士は、力天使と戦車だけでは終わらない。


「やってみる価値はあるよね!」


 その戦士とは、マーチプリズ。カドックの魚雷にしがみついて、スピカに近付くという自殺に等しい接近を披露。ゾンビであることを利用して近付いたマーチに、スピカは目を見開いて破壊を試みる、が。

 それよりも早く、マーチはスタンドマイクを強く握り、深く息を吸って……

 魔歌を唱える。


「───<パッションマーチ・ソニックサウンド>!!」


 それは、歌というにはあまりに原始的な、特大ボイスの声音超兵器。音響兵器と言っても過言ではない、超質量を伴った大声が、マーチの口から放たれる。

 空間を震撼させる大音響は、勿論“空”を貫通して。


「うぁッ!?ぐっ…」


 音の壁がスピカをぶん殴って、鼓膜を破って、音で壁を粉砕する。バランスを失ったスピカが床を転がって、痛む耳を抑えながら痛みに悶え苦しむ。

 脳にまで届いた大音量が、スピカに過去最大級の音痛を与えた。それは神経にまで作用して、上手く身体を動かすこともできない。床に倒れたスピカは、立ち上がろうにも立ち上がれない状況にいた。

 “空”も上手く機能しない、絶体絶命。


「っ、そんな……ぐっ、この…!」


 最早、這いずることしかできない。

 背中は大きく抉れ、白翼は無惨な姿でボロボロに。もう飛べないかもしれない。両手も変な方向に曲がったせいで力を入れることもできない。回復しようにも、魔力回路もぐちゃぐちゃになったせいで魔力を練れやしない。

 完全な戦闘不能、敗北だった。

 ちょっと攻勢に出ただけで、マーチはスピカに戦闘続行不可能の深手を与えたのだ。


「でけた!……って、あれ?」


 ついでに音で誘爆した魚雷で煤まみれになったマーチが達成感に満ちた顔で笑うが、あまりに静かな周囲に慌てて目を配ると。

 足元に、音波砲で死んだカドックとブランジェがいた。

 巻き添えである。


「オェッ…」

「みっ、みみ……みみが…」

「うわーっ!?ごめっ、ごめん!!ちょっ、仕切り直し!仕切り直そっ!?」

「くっ…」


 やはり魔法少女は油断ならない───焦ったスピカが、自爆した魔法少女たちから逃げて、生きている魔法少女を狙おうかと画策するが、間に合わず。

 この後、マーチに捕まって降参した。


「釈然としません」

「すごいわかる。後で再戦しよ」

「マーチ、お前ハブな」

「なんで!?」


 “恋情乙女” vs “死せる夢染めの六花ネクロス・マギア・ゼクスヘリアル”───暫定勝者、マーチプリズ。

 一旦決着。


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― 新着の感想 ―
ああ、やっぱり、ゾンビマギアの中でもマーチって天然暴走する特に危険な存在なんだよね……今回の戦闘で魔法少女側に与えたダメージ的MVPじゃない? スピカは、最上位クラスの能力を持ち、歴戦の将星の一人で…
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