表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
ユメと希望、友情のブルーム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/283

23-あの青い星を見上げて


 その日、戸刀砂丘に新たな奇跡が産声を上げる。


「星魔法<スターライト・スピアー>!!」


 灘らかな砂丘が広がる世界を、星の魔力を纏った槍撃が悪夢諸共一閃する。

 青いポニーテールを風に乗せ、槍一本で敵と薙ぎ払う。

 彼女の名は空梅雨蒼生。魔法少女ブルーコメットとしてアリスメアーと戦う、正義の使徒。


 たった一人(・・・・・)でアクゥームの軍勢に立ち向かう、あまりに無謀な戦いに挑む魔法少女である。


「ハハッ、仲間がいなくてもなんとかなるもんだなァ……その勢いがいつまで続くのか、見物だな!!」

「かわいそーwなんで一人なん?ぼっち?ぼっち?」

「ぶっ刺すわよあなたたちッ!私たちだって予定ってのがあるのよ!!」

「「それについてはマジでごめん」」

「謝るなッ!!」


:がんばれー!マジで!!

:悪夢いっぱいの時に限って一人!?

:つーか敵多くね?

:何体いる?

:30

:20

:114514

:幻覚見えてるヤツいますね

:炙り出せたな


 指揮官アクゥームに乗ったビルとペローは、孤軍奮闘でアクゥームを蹴散らすブルーコメットを嘲りながら次々と指示を飛ばす。

 あの後暫くしてから、2人は砂丘のとある地点に20ものアクゥームを配備して魔法少女を呼び寄せた。

 飛んで火に入る夏の虫。

 悪夢との戦いには後手に回るしかない魔法少女たちに、多勢に無勢な戦いを強いる。そうして疲弊した魔法少女を捕らえて、特にリリーエーテには悪夢を育む手伝いを今後一生やってもらう、という筋書きが彼らの中にはあった。

 一度捕らえてしまえば最後、絶対に抜け出せない罠やら仕込みやらも施して、準備は万全。

 遠路はるばる対処しにやってきた魔法少女を迎え撃つ。


 だが、三銃士の計画は初手で頓挫した。


 何故ならば、やってきた魔法少女がブルーコメットだけだったから。


「なーんでお仲間さんいないわけ!」

「言うわけないでしょ!あのね、私たちって中学生なの!外せない私用の一つや二つ、替え玉とかじゃ話にならない時があるのよ!!」

「なっほどね。そんで孤軍奮闘……君が負けるわけだ」

「負けないわよ、私、これでも一番戦闘慣れしてるのよ?勝ちしかないわ」

「そいつぁ見りゃわかる。どこの流派だ?」

「我流!」

「マジ?」


 ちなみにコメットが知っているのはエーテの欠席だけでそれ以外は知らない。流石に風邪を引いて熱を出したのに戦わせるのは普通にありえない。今日一日は安静させる。

 ただデイズは知らない。

 「チェルちゃんとタイマンしてくる〜!!」とRAINに呟いてからは音沙汰がない。

 取り敢えずあの猫相手なら悪いことにはならないかなと楽観視して、ブルーコメットは単身松風市に転移した。

 オトモにはぽふるんを連れて、魔力の援護を授かる。

 ……欠席の理由までぼやかしたのは、風邪をいいことにリリーエーテが襲われないようにする為だ。

 ただし、コメットのその配慮は当人たちの手で無意味に帰す。


リリーエーテ

:ごめんね風邪引いちゃって……

ハニーデイズ

:チェルシーちゃんと戦ってるから無理☆

:おっとぉ?

:別の場所で別の戦いが始まってる…

:ゆっくりやすんで

:配信して

チェルシー@三銃士

:対戦ゲームでも私は負けない

:おい

:おい

:おい


「なにバラしてんのバッ、もっとバカなのがいるっ!?」


:これは不憫

:ハニーデイズちゃんダメな子?

:あっ、配信つい……えぇ

:10連敗って書いてあるんですけど

:負けたら魔力徴収……やばくね?

:あっちも助け必要な感じ!?

:うわ上手っ


「二窓してんじゃないわよッ!!対戦ゲームに応援パワーいらないでしょうがッ!!」

「なにやってんスかねあの子。自由か?」

「俺もう知らね」


 親友の正体を知ったハニーデイズが、ゲームで勝ったら魔法少女に寝返ってという無理強いなオネダリをした結果始まった対戦ゲーム。その結果がこれである。

 チェルシーとしては負けたら帽子屋に恩が返せなくなるデメリットがある為、一年半で身につけたゲームスキルを惜しげも無く使って打ち負かしている。

 ついでに勝つ度に魔力を奪って、魔法少女としての力を削ぐ。


 ちなみに魔力は寝れば回復する。変身して顔を偽装する魔力ぐらいは残してやるつもりだとか。


 閑話休題。

 そんなわけでアクゥーム軍団と一人で戦うことになったブルーコメットだが、その顔に焦りはなく、それどころか戦意で満ち溢れた顔をしている。


 負ける気のない、勝つ未来しか見ていない星の笑みを。


「いいわ!こんなの私一人でもどうにでもなるってこと、その目に焼き付かせてあげる!!」

「やってみせろ!いけッ、アクゥーム軍団!!」

「蹴散らせ〜!!」

「コメットー!頑張るぽふー!みんなもコメットの応援、よろしくぽふっ!」


:応っ!

:任せろー!

:頑張れコメット!

:勝てるぞー!

:数なんか目じゃねぇって!

:負けるわけない

:がんばれー!


 アクゥーム一体の脳天を貫き破壊しながら、コメットは獰猛な笑みで突き進む。

 20という暴力にも負けず、めげず、舞うように戦う。


「……動きが洗練されてやがる。なんだあの成長速度……流石と言ったところか」

「物理で勝てる気がしねぇー。やっぱ搦手なんだわ」


 多彩な動きでアクゥームたちの猛攻を掻い潜り、丁寧に一体ずつ討伐していく様子に、三銃士の2人は感嘆とした声を上げながら頭を抱える。

 捕獲対象はおらず、武に長けた魔法少女に蹂躙される。

 見蕩れる程美しい武技には、素直に負けを認めたくなる凄みがあった。


 それでも、2人には負けられない理由がある。


「いつものアクゥームじゃないから、捕まった人の心配もいらないし……やっぱり、派手に身体を動かす方が、私は性に合ってるわね!!」

「確かに生き生きとしてるが……そう易々と突破されちゃ困るんでなッ!!」

「ッ、いいわ、来なさいッ!」


 痺れを切らしたビルも参戦して、アクゥームを足場にし2人は激突する。


「……えっ、これオレっちも行かなきゃな感じ?」


:おら混ざって来いよ

:ぼっち寂しくないんですか?

:そんで負けちまえ

:戦えー!


「お前らもオレに辛辣すぎない?いやわかるよ?敵だもんその反応は正しいよ?でもねぇ、やりすぎるとおにーさん衝動のあまり全てを破壊しちゃうよ?」

「できねーこと言ってんじゃねェ」

「混ざっても怪我するだけよ。黙って下がってなさい」

「やめてぇ?」


 勿論のこと、不憫なペローは蚊帳の外で放置である。








꧁:✦✧✦:꧂








───イマジネーション。自分が想う最高の姿を、いつか至る最高到達点の一歩手前を想像する。

 彗星のブルーコメットは戦いの最中思考を巡らせる。

 この土壇場で最高の力を。リリーエーテのような、あの覚醒した姿を。


 自分のドリームスタイルを、この場で獲得するッ!


「ふふっ、アレね。一人で黙々と戦えるから……その分、意識が冴えるわ」


 仲間との連携も、捕まった被害者を助ける必要もない。ただアリスメアーと、アクゥームと戦うことだけを考えて戦うことができる環境。

 ビルとの死闘でより動きは洗練され、より素早く。

 アクゥームの数も残り僅か。途中で掴みかかろうとする個体や、麻痺毒や睡眠薬を散布する個体、視界を明滅させ進行を阻害する個体、体内に取り込み捕獲する個体など、多彩な攻撃を見せるアクゥームがいたが、その全てを星の一撃をもって対処。


 疲労なんて無視して、動きを止めることなく、その力を世界に見せつける。


 砂に足を取られることもなく、ブルーコメットは砂丘を駆け抜ける。


「ふっ───」


 魔力を練る。想像する。歓喜する。全てを思い描く。


 自分が最強になった姿を。

 逆境でこそ輝く、流星のように駆け抜ける己の勇姿を。あらゆる全てを追い抜く、最強最速、青い軌跡を生み出す希望の星を。


「行くわよッ!ドリームアップ!」

「ッ、この気配は───ペローッ!!」

「あいよ!魔力・ユメエネルギー強制収集ッ!暴発覚悟で全部吸い取ってやるッ!」

「無駄よ!私の速さに、あなたたちはついて来れないッ!はぁッ───…マジカル、チェンジッ!!」

「ッ、クソっ」


 以前の戦いで感じた魔力の膨らみに近しい気配を感じたビルが咄嗟に吠え、ペローが夢瞳を翳して強制的に高まる魔力を奪おうとするが───なにもかもが、もう遅い。

 爆発的に膨らんだ魔力が、周囲を渦巻く魔力が。

 ブルーコメットを更なる高みへ。彼女が望む、理想的、幻想的な夢へ導いていく。


「そう、これが───私のドリームスタイル!!」

 

 今ここに、15人目の覚醒者が、真の力を解き放った。








꧁:✦✧✦:꧂








「───こんにちは。何の用かな。怪人さん」


 明園家、玄関前。


 不意に現れた、招かれざる客の気配に気付いた妖精が、警戒色混じりに宙に浮いて立ちはだかる。

 配信画面を見て、今が隙かと思った、正しい夢の敵に。


 青黒いタキシードを着た、帽子頭の異形───内包する魔力量の多さに内心冷や汗をかきながら、アリスメアーの最高幹部にほまるんは睨みを利かせる。

 見たことがない敵。

 自分の知識にない、今までの戦いに一度も現れなかった謎めいた怪人。過去の配信で存在だけは明言されていた、帽子屋の旦那と呼ばれていた何某。


 ……見るからに女性だが、そこは一旦置いておいて。


 そんなほまるんの警戒心を他所に、郷愁を味わっていたマッドハッターは静かに応える。


「初めまして───吾輩はマッドハッター。夢貌の災神の右腕にして、この世の全てを悪夢に閉ざす方舟の導き手。月を落とす夢の残骸。つまるところ、貴公の敵である」

「そっかぁ。私はほまるん。ちょ〜っとだけ強い、ただの妖精だよ」


 “お茶会の魔人”が、祝福の種を摘みに来訪した。


 いつの間にか、夜月が浮かぶ異界化した明園家の前で、妖精と怪人が対面を果たす───…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ