表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
マギアガールズ銀河紀行 -逆襲のアカリュース-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

264/296

248-弱者の語る復讐に、意味などなく


 あの日、選択を見誤った。

 大丈夫だと過信して、無様に逃げ帰って……全てを失う現実を手にした。まんまと利用されて、守るべき民を悉く殺す羽目になって。

 呪いの発生源となった筈の己が、何故か無事で。

 不快に咽び泣き、苦痛に喘いで、悔恨と絶望でどうにかなりそうになった。それでも、薄い自我を現世に引き留められたのは……偏に、理解者の献身があったから。

 敬愛する王は、醜くなった己をも受け入れてくれた。

 尊敬する爺は、電気分解だの嘯いて呪詛を緩め、思考ができる時間を増やしてくれた。

 頭のいい友は、魔術を使い取り込んだ呪詛からの解放を願ってくれた。


 怒って、叫んで、憎んで、泣いて、狂って、苦しんで。


 狂った思考、殺意と執念で自我を保ち、大恩ある王への忠誠心を絶やさぬよう、必死に生きて。

 そうして彼女は、メーデリアは再誕した。

 全ては憎き怨敵ムーンラピスに復讐する為に。あの日の雪辱を晴らす為に。虐殺された民の仇をとる為に。愛しき皇帝に勝利を捧げる為に。

 生き残った支配者としての筋を通す為に。

 あの日、地獄の淵に沈んで苦しんでいた無能を、呪毒に侵されながらも救出してくれた天魚が、こんな己を助けて良かったと思えるように。こんなになってもまだ、彼女を美しいと褒めてくれた皇帝に報いる為に。

 幾つもの命を背負ったメーデリアは、半分狂いながらもその使命に燃える。


 ……だが。


【ッ、ぐっ…】


 見るに堪えない歪な体になってまで、殺意を振り翳したその結果。魔法が使えないという好環境で、死なないだのほざく怨敵を何度も殴って、絞めて、苦しめた。

 それなのに。あの憎々しい月には───届かない。

 仲間の手助けでもあったのか……封じられていた魔法が使えるようになってからは、殊更に。

 蒼色の魔力に視界を奪われる。

 液体となった手が吹き飛び、身体は抉れ、魔法の数々は正面から打倒される。


「魔法は数だよ」


───粘液魔法<マッドロトロール>

───暴食魔法<ヘイトマム・グラトニア>

───邪水魔法<ウィキッドイロージョ>


 メーデリアの水を侵食してくる二種の液体。ドロドロと気持ちの悪い粘液が手を通して浸透して、吐き気のする程おぞましい聖水に似たナニカが水を侵食してくる。

 そして、侵食を免れた手は虚空に食われて消滅する。

 理解のできない現象に恐れ、距離を取って。その事実を癪だと感じて、メーデリアは怒気を隠さず、怒りの感情に身を任せて魔力を震わせる。


【知ったことかッ!】


───精霊魔法<マナ・ハイドロキャノン>


 グパァと音を立てて空いた腹の口腔から、特大の砲撃を食らわせる。防御魔法程度、結界術では防げない破壊力を誇る高圧水砲は、確かにラピスの身体を傷つける。

 だが、吹き飛ばせることができず。

 それどころか、かの蒼月は全身に水を浴びながら前へと足を進めていた。


【ッ!】

「怯えるなよ。その程度で終わる女なわけ?」

【……ふざけたことを。敵に塩を送るなど、あなたは何を企んでいるのですか】


 警戒心を最大にして問い掛ければ、顔のない月の魔人は小首を傾げて。

 嗤う。


「だって、事実だし───この僕が、この程度のお喋りで負けるような魔法少女だと思わないでくれよ」

【あァ、やはり……気に食わないですね、あなた】


 余裕綽々な態度を崩したくて、その顔をぐちゃぐちゃに歪めたくて、敗北という苦味に浸らせたくて。敵わないと心の何処かでわかっていながらも、その手を止めることはできず。


 呪詛に塗れた無数の手を、鋭利な刃物へと変化させる。


【嬲りましょう】


───精霊魔法<マナ・キリングアート>


 液体の刃物が乱舞する。周囲に散らばった水溜まりをも呪われた刃に変えて、次々とムーンラピスの身体に刺して刺して突き刺して。

 刃物で拘束するという離れ業をやってのける。

 身体の内側から呪いで侵される地獄の痛み。だが、かの蒼月は不動。仮に肉体が悪夢のユメエネルギーで構成されているとしても、痛みぐらいは感じるべきで。

 それでも、メーデリアの望み通りにはいかず。

 死の刃に突き刺され、身体を黒く染められて、蝕まれていながらも。


 ムーンラピスの進行を妨げることは叶わず。


───緊急脱出魔法<ベイルアウト>


 魔法が唱えられたと同時に、彼女の姿が掻き消えて……悪夢を突き刺していた無数の刃だけが、そこに残る。

 その刃に、血は一滴もついていない。

 消えたラピスを探して、メーデリアは感知全開で周囲を警戒する。


【何処に…】

「───ここだよ」

【ッ】


 背後。


 呼び掛けに応じて身体ごと振り向けば、そこには───たくさんの魔法陣を背後に浮かべ、従えたムーンラピスが立っていた。

 何故気付かなかった。

 肌身に感じる魔力の発露に、何故気付けなかったのか。そんなわかりきった疑問など捩じ伏せて、魔法陣の発動を食い止めんと動く。


【させるか!】


───精霊魔法<マナ・ストリーム>


 呪いに堕ちた水精霊の竜巻が、魔法少女を囲い込む。


「残念」


 全身をズタズタにする魔法に四方を囲まれ、魔法陣すら砕かれる状況下にいながら。

 ムーンラピスは、一切動じず。


 背後に並べた魔法陣の回る速度を速めて……苛烈な光を灯らせる。


「太陽魔法───×13」


 そうして、地上に───新たな恒星が発生する。


 本来は小さな太陽を生み出す魔法、<サンシャイン>。

小型と言ってもバランスボールサイズはある太陽を、複数重ねて巨大化させた。

 ラピスの存在を塗り潰しかねない、灼熱の星。

 地上に顕現した、それでも小型の太陽は、不遜にも己を囲んでいた液体を蒸発させる。規格外の熱量で焼き消えた渦から、太陽が覗く。


【ぐっ…目が無いのに、こんな……!】


 真正面から放たれる紫外線。その威力に苦しむ将星に、悠然と近付く魔法少女の足音が。

 背後に太陽を従えて、近付く魔法を蒸発させる。 

 そして、一番の理不尽は───ムーンラピスには一切の害がないということ。どんな手品を使ったのか、太陽から受けるべき厄災の如き負荷を、ラピスは一つも食らっていない。


「復讐は何も生まない、なんて詭弁があるけど……あれ、弱者を労る言葉として正解だと思うんだよね。要はか弱いオマエは身の丈にあった生活をしろ、っていう抑止だね。やらない後悔よりやる後悔、ってのもあるけど……それができるのもほんのひと握りだ」

「いつだって、世界は理不尽に満ちている」


───太陽収束、エネルギー再変換。魔砲、構築。


 暗にオマエじゃ無理だよと再度語りながら、生み出した太陽を基軸に、更なる攻撃へと転化する。大きな太陽から熱量を引っ張り出して、収束させて。

 召喚した聖剣の模造品に、その光を込める。

 轟々と音を立てて、ジュウジュウと何かを焼きながら、エネルギーが充填される。


「知らないだろうけど、教えてあげる。僕がかつて作った魔法兵器、“聖剣兵装”……本家本元とは違って、こいつのエネルギーは純粋な魔力じゃない。別の場所から、大きなエネルギーを要求する代物だ」

【……それが、そうだと言うのですか】

「うん。エーテたち3人は、自分たちのユメエネルギーの大部分を注ぐことで代わりとした。アレも最適解の一つ。その後の展開が怖いけど、やり方としては間違ってない。僕はやらないけどね」


 太陽を注ぎ、極光としてぶっぱなす───それこそが、ラピスの造った聖剣兵装。

 太陽魔法を動力に、あらゆる敵を葬り去る超兵器。


 普段は見せることのない、聖剣にエネルギーを注ぎ込む作業。太陽と言っても、聖剣内部に注がれた瞬間、それは極光魔法へと術式変換されるのだが。それでも太陽魔法を使う理由は、そちらの方が燃費がいいからである。極光は意外と疲れるのだ。使い手であるリリーライトは特に苦に思っていないが。太陽魔法の方が効率がいいのである。

 その過程を、メーデリアはマジマジと見つめて。

 汗腺が消えたが故、もう流れなくなった筈の冷や汗を、つるりとしたのっぺらぼうに垂らす。

 突き付けられた暴力性。

 秘められた破壊力に、目を奪われてる。一撃でもそれを掠めれば、自分がどうなってしまうのか……想像せずともわかってしまう。


「構えろ、精霊。消し飛ぶぞ」


 わざわざ忠告するラピスは、浮かせた聖剣兵装の照準をメーデリアに定める。

 ハッと意識を取り戻したメーデリアは、言われずともと怒鳴りながら魔法を行使。全てを吹き飛ばすであろう光に対抗せんと、精霊の力を最大限に引き出す。

 オーシェネリア星人は、古くから存在する精霊の系譜。その中でも、水に関わる精霊の遺伝子を連綿と受け継いだ種族だ。そしてメーデリアは、歴代一族の中でも最も水に愛された女である。

 この世界にある水は、全て彼女に味方する。

 逆らう水は、一滴たりとも存在せず───膨大な温水が彼女の元に集う。


【謳え!】


───精霊魔法<マナ・セイクリッドヘブン>


 かつて、この星全体にあった温泉を掻き集めて、自身の聖なる大海と呪詛塗れの液体が混ざりあった“魔水”と混合させて。大量の魔水を集め、束ね、力に変えて。

 己の前方に収束させて───圧倒的質量を持つ水塊へと変貌させる。


 太陽でも焼き尽くせないように、魔力でコーティング。星一つを干し上げて漸く完成する水塊を、ムーンラピスとその聖剣にぶつけて、破壊せんと。

 圧倒的質量で、押し潰すことを計画する。

 この身を蝕む歪の呪詛で、威力と強度を向上させれば。後は放つだけ。


【ひれ伏しなさい、ニンゲンッ!!】

「それは無理なお願いだ───それじゃあ、いい加減……終わりにしようか!!」


 2人で示し合わせるように、二つの魔法が炸裂する。


 偽物の聖剣から迸る、世界を焼き尽くす極光と、世界を呑み込む魔水が激突する。大火力の破壊光線に焼かれて、水塊はその質量をゆっくりと減らしていくが……

 光線を魔水が呑み込んで、存在を分解していく。

 呪詛の影響で起こった想定外。破壊の力を無力なゼロへ砕き壊す液体は、なんとか聖剣兵装の攻撃に食らいつく。

 だが、それも数秒足らずの奇跡。

 ムーンラピスの制裁。復讐を拒む殺意。死に損ねた敵に送る小さな慈悲。


 破壊の大魔力が、メーデリアに届かんと、迫る。


【おおおおおおおおおおおおおおおおおお───ッ!!】


 諦めんと、大きく吼えて魔力を送るメーデリアだが……その奮闘も虚しく。

 偽りの極光は、全てを貫く。


【───ッ!?】


 音にならない悲鳴を上げて───メーデリアの身体は、惑星の外に押し出された。


もうちっと続くんじゃ

第三形態へ→

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
尊敬する爺は、電気分解だの嘯いて呪詛を緩め、思考ができる時間を増やしてくれた。 >電気分解……分解?まさか呪いがこんな方法で緩和できるのか?それとも、あの老翁天魚だけが、経験で積み上げた技術力で成し得…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ