22-これは遠征である※強調
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魔法少女-夢・星・花-【公式】
いぇーい
【写真】
(草鹿部温泉街を背景にチェルシーと仲良し
自撮りする魔法少女たちの写真)
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「なーにやってんのあの子」
───松風市・戸刀砂丘。
視界一面に広がる、緩やかな砂山の数々に見蕩れていた三銃士、逆夢のペローは、通知に流れてきた仲良し四人の記念写真に目をパシパシ瞬かせる。
温泉のあの独特な臭いに耐えきれず撤退したペローは、自分の預かり知らないところで起きた敵同士のほのぼのに度肝を抜かれながらも、なんとか冷静を保って首を振る。
一人で行かせたのは心配だったけど、そうなる?
びっくり驚き、近頃の女子の距離感が全くわからない。なにがどうなってそうなるわけ?
……今すぐにでもRINEをして聴きたいが、今頃初めての温泉を楽しんでいると思うと、そういうわけにもいかないジレンマ。
「……オレっち、なーんも見てなーい、と」
同僚が魔法少女の気を引いている内に、こっちは計画を進めさせてもらおう。潜在的悪夢適合者を見つける旅は、初めてから今日で一週間、未だに成果は出ていない。
そこまで稀有な存在なのか……本格的にリリーエーテを付け狙う日々が始まりそうな予感がする。
ペローが戸刀砂丘に来たのも、その適合者を探す為。
決して観光ではないのだ……この砂山に、そうそう人が来ないことは横に置いておく。
「うさぎのお兄さんや、そろそろ次に行くぞ」
「あいッス〜」
正体を知りながらも観光案内を務めてくれた老人の声に軽く応えて、リュックを背負い直し移動を再開。観光とは銘打っているが、実際は敵情視察である。
……親切な老人の、どうせ負けるんでしょう?といった視線から目を逸らしながら、ペローは捜索から別のモノにシフトしつつある遠征に憂いを見せる。
見つからないのなら、捕まえる方に手を出すしかない。
祝福の魔法少女を捕まえる為に、この広大な砂丘を……建物や人には被害の出づらい場所を選んだのだ。
「悪いッスね〜、案内なんてさせちゃって」
「別にいいよ。アンタは儂のお願いを叶えてくれたんだ。まぁ、これぐらいで恩が返せるとは思えんがなぁ……あ、そこ沈むからこっち通りぃ」
「十分十分……だからさ、死にに行くのはやめてくれよ?あと忠告遅いんだよなぁ」
「すまんの」
お別れもできずに突然亡くなった妻の後を追おうとしたご老人をなんとか押し止めて、帽子屋監修の元、降霊術で喚んだ魂を夢の世界で再会させる荒業を成し遂げてみせたペロー。彼の人生最大の慈善行為のお礼が、この砂丘観光もとい調査の案内なのだ。
砂に足を取られて沈みかけたペローを老人は引き上げ、ズボンに付着した砂を払う。
そして、再び砂の丘を登って……目的の場所にペローを連れていく。
「ここだな。一応アンタの要望通り、人気もない、周りに被害が少ない地域だが……本当に大丈夫かい?足取られて死なれたら、儂の気が済まないんだが」
「へーきへーき。オレも魔法少女、それ以外も。今んとこ殺すような計画はないからね」
「そうかい」
そう、死ぬつもりはない。殺すつもりもない。
これで相手が性格クソの魔法少女であれば、心置きなくこの世からサヨナラが願えるのだが……リリーエーテも、ブルーコメットも、ハニーデイズも、そんなことを思える相手などではなかった。
だから、死なない程度に痛めつけて、捕まえて、悪夢を育てさせる……それがペローの、アリスメアーの理想論。
あの女王でさえ、現時点では人を殺す気はないのだ。
これ幸いと乗っかかるのは言うまでもない。トップから不殺命令の方針が出ているのならば、尚更。
……何故あの女王サマがそんなにやさしくなったのか、未だわからないのだが。
「うーん、いいねここ」
「お気に召したかい」
「ありがとねおじいちゃん。ここにするよ……ヨシヨシ、座標記憶も完了、っと」
「すごいなぁ、それ。こんな小さいのでなんでもできんのかい」
「スマホだよこれ」
「いらんなぁ」
「便利よ?」
気侭に終活している老人の反応にケラケラ笑いながら、ペローは電話帳から目的の人物を呼び出す。
計画の大詰めを、遠征の本当の目的を果たす為に。
「……あっ、ビルの兄貴?今いい?あんさー、作戦決行日明後日にしね?」
決して魔法少女に配慮したとか、そんなのではない。
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「ククっ、いーとこを選んだじゃねェか」
「だろぅ〜?んまぁ、選んだのオレじゃねぇけど……で、上手くいったのか?帽子屋の旦那の説得」
「おう」
深夜。砂丘を一望できる小丘に立つ三銃士の男たち。
アクゥーム製造工場の使用権を渋ったマッドハッターの説き伏せに成功したビルが、ペローの見つけた戦闘区域にやって来た。
「つっても工場の稼働率が高いわけじゃねェ……だから、今回お許しが出たのは20体だけだ」
「や、充分じゃね?過剰戦力だと思うんだけど?」
「いやなぁ……あんま期待しねェ方がいい。量産型だからなのかは知らねェが、人間素体のヤツよりも弱ェんだ……あれだな、数の暴力ができるぐらいの利点しかねェ」
「そんなもんかぁ……でも、いた方が便利ではあるな」
「そらな」
普段具現化させているアクゥームとは違い、工場生産で造られたアクゥームを今回使用する。強さはそこまでだが数の暴力が期待できる……ただ、かなりの成長をしている魔法少女相手に通用するのか否か。
そう悩む2人だが、予定通り改造すればいいかと悩みを捨て去る。
「で、捕獲用のアクゥームを作んにはどうすんだ?」
「スタンダードのヤツに何体か混ぜる予定だが……あっ、そういや改造の仕方習ってねェわ。頼んでくる」
「段取り悪ぃ〜」
「……今教わるより、やってもらった方が速ぇな。普通に呼ぶか」
「草」
……なんて一幕を挟んで。
「それで吾輩を呼び寄せた、と……確かに、アクゥームの改造指南をせずに送り出したか。いつにも増して軽率ではないかね。一発殴ってもいいかな?」
「キャラ壊れてんぞボス。あっ待て本気はやめろッ」
「専門外なんで……ちょッ、提案したのは兄貴!オレっちただの便乗ッ!!」
最高幹部直々にアクゥームの改造を、むしろ得意分野であろうと押し付けて、一応その手順を見て学びながら2人は今回執り行う計画の穴を埋めていく。
……それが失敗する未来に100万賭けている裏切り者が傍にいるとも知らずに。
魔法少女の奇跡パワーで一回二回は窮地から脱される。それがマッドハッターの経験談。三回目以降は奇跡なんぞ知らんぷりし始めて、普通に現実が殺しに来るが。
命に危険がある職業TOP10入りしているのが、一昔前の魔法少女であるが故に。
今はリリーエーテのドリームスタイル獲得に他の2人も触発されて、突破されそうという、あまりにメタい予想を立てているが、決して口には出さない。
口は災いの元故に。
「アクゥームは既に完成された存在だ。ユメエネルギーの悪夢集合体。そこに手を加えるのは、中々骨が折れる……やれんことはないのだが」
「魔法陣で術式に干渉するのか……随分と魔術的だな」
「もっとこう、身体カッ捌いてやるもんかと……生々しいやり方を想像してたぜ」
「……アクゥームの断面図は、基本闇だが」
「確かに」
「成程な」
アクゥームの身体に魔法陣を展開して、そこに刻まれた術式を弄ることで求める形のアクゥームへと改造、新たな能力を付与することで、普通の量産型との差別化を図る。
捕獲機能に拘束機能……徹底的に、魔法少女を捕らえて連行する機構を取り付ける。
魔法少女を内部に閉じ込める機構には、強制的に彼らのユメエネルギーを吸収するシステムもオマケしておく。
仮に計画が失敗しても問題がないように。
ただでは転ばぬ精神で、マッドハッターはアクゥームを改造する。
「はァ……普通のアクゥームであれば、こんな面倒な手は取らずとも済んだのだがな」
「仕方ねェだろ。量産型に拘りたかったんだから」
「今回は数で勝負したいからなぁ。下手に犠牲者増やすと後が面倒じゃん?」
「ふむ……まあそれで納得しておこう」
「あざ〜」
一体アクゥームの改造を終えれば、その魔法陣を原型に他の個体にも術式を反映させる。ものの数分で捕獲機能を備えたアクゥームが複数紛れ込んだ軍団ができあがった。
数の暴力で殴られているといつの間にか捕まえられる。
あらゆる一手に警戒しなければならない戦闘が、正義の魔法少女に強いられる。
狂った帽子屋は、依頼通り、完璧に仕事を成し遂げた。
「そんじゃー、こいつらでいっちょやってやりますかぁ!なっ、ビルの兄貴!」
「お前、腰巾着のフリ上手いよな」
「性に合っているのだろう」
「酷くね?」
砂丘を舞台に、怪人たちの新たな狂宴が幕を開ける。
……まさか、魔法少女一人に全て蹴散らされるなどとは思わずに。
帽子屋の内心
(……やっぱ観光してるよね?)




