241-高額賞金首魔法少女
時を遡ること数分前───温泉宿をチェックアウトして出立しようとした矢先に。
なんか突然、賞金稼ぎなる集団に襲撃された。
建物を出た瞬間、短剣長剣銃火炎放射器魔法杖手榴弾のエトセトラエトセトラ。これでもかってくらいの普通なら死ねる量の武器が僕たちの命を刈り取りに来たのだ。
全部回避したけど。
ていうか攻撃された瞬間、全員の魔法が炸裂して下手人全員吹っ飛ばした筈なんだけど……なんか、普通に生きて追討して来てるんだよね。
頑丈だなぁ。
……正直、問題はそいつら賞金稼ぎじゃないんだけど。
「解析できそう!?」
「うーん、すごいピンポイントで魔法が使えないってのは言及した方がいいかな?」
「ねぇ!!」
目下最大の問題。それは、小惑星プラネット・ラグーン高空全域を覆う超惑星大結界。結界外からの侵入は容易に可能だが、内部から外に出ることはできないタイプ。
賞金稼ぎ如きが手を出せる高等技術ではないが……
この結界、どういう訳かピンポイントに僕の魔法だけを制限している。
まるでいつかの日の巨神兵アクゥーム……僕が保有する模倣した複数の魔法能力全てを封じ込んだ強術式のような既視感を感じる。
……固有魔法までは封印できず、普通に勝てたが。
今回は月魔法まで制限されている。魔力操作はできるがそれだけだ。旅館出た途端幻覚外れて顔無しになったの、普通にホラーだぞ。コンマ数秒の差で魔法少女に変身して襲撃者共を蹴散らすことができたのは幸いだった。
魔法少女の変身法は特殊だから、こういった妨害工作で変身できないだとか変身が解除されるだとかの心配が早々ないのは便利だ。
つーか僕だけ不利なの本当にムカつく。なんでみんなはバリバリ魔法使えるんですか?
僕も制限するならリリーライトにもやれよ。
お陰で魔力操作と物理一辺倒だ。体内魔力を操れるだけマシだろうか。
「くっ、発生源は!?」
「わかるわけないだろ。魔力操作で身体強化しかできない僕が探知できるとでも?」
「肝心な時に使えないよね!!」
「そろそろ泣くよ?」
何遍叩き潰しても懲りずに刃向かってくる賞金稼ぎ共をまた蹴り飛ばして、聖剣ブンブンで建物と敵を吹き飛ばすライトからの非難に唾を吐く。
自分でやれ。全部僕に任せるからこーうなるんだ。
つい数分前まで賑わいに満ちていた行楽施設は、場所を選ばない賞金稼ぎ共のせいで悲惨な有り様。怒号と悲鳴、混沌に満ちている。
……悪いのはアイツらだが、招いたのは僕らだしなぁ。
すごい申し訳ない。
「死ねェ!」
「うるさい」
「えっ、ごぴょっ!?」
「雑魚風情が。僕から魔法を奪った程度で良い気になれるその精神性、心底吐き気がする。強者の余裕ならば兎も角弱者の余裕など唾棄すべきゴミだ。違うか?」
「ひっ…」
調子に乗って攻撃してきた女の顔面を凹ませ、その首を掴んで持ち上げる。ギュッギュッと締めてやれば、激痛に苛まれている女の賞金稼ぎはか細い悲鳴を上げるのみ。
ジタバタと暴れ、蹴りやらで抵抗されるが……
魔力操作云々を置いて考えても、僕の人間離れした身体能力に敵うわけもなく。
次第にぐったりとして、女は息絶えた。
ヤケに頑丈で並の異星人なら即死する攻撃も耐えている賞金稼ぎたち。でも、こーやって確実な方法を取れば……不死ではないことは確認できた。
なら、魔法の効果かなぁ。
首の伸びた青肌の死体を放り捨て、さり気に掠め取った紙束を見る。
「なにそれ」
「賞金首リスト」
「ほへ〜……うわぁ、私ってば15億もするの!?うわーいやったね!!助けて!?」
「それ言ったら僕なんて30億だぞ」
「15億の差はなに?」
「知るかよ」
懸賞金15億と30億……インフレ凄まじいな?
一応、他の仲間たちも賞金がかけられているみたい……でもだいたい一桁億だな。将星たちは一律10億か。でも、僕とライトの方が高いのね。
ふーん、面白い。確かに高額賞金首だわ。
でも何処で顔写真なんてゲットしたんだろ。タレスか?あのオタクサソリ、写メ撮ったり情報収集したりして離反する前にデータ流してた感じか?
後で絞めよう。
……発信元は書いてないか。将星の誰かさん、それとも裏の住人の第三者、若しくははたまたエトセトラ。
断片的な情報しか載ってないから、まだ別にいいが。
でも固有魔法は載ってんな。月だの光だの夢だの、初期段階のだけだけど。
「次の個体は生かすか…」
「尋問しなきゃあね」
他の仲間に伝えたいけど、散り散りになっちゃったからなぁ……絨毯爆撃までされたら移動するしかない。防御も貫通する爆弾とか無駄に高性能だ。
でもまぁ、現在進行形で魔法が飛び交う音がすごいし。
多分大丈夫でしょう。
「僕が魔法使えなくなってるのはみんな知ってる話だし、解析は他の人……多分フルーフ先輩が見つけて、なんとかやってくれることを信じようか」
「それまでどうする?あっ、私の魔法で結界壊そっか?」
「ゴリ押しなぁ……やってみたら?」
「そうする!」
───極光魔法<ホーリーカノン>
結果は見え見えだが、まだわかっていないライトが実力行使を選んだので、それを応援してあげると。
天高く打ち上がった極光が、結界に着弾して。
跳ね返ってきた。
「うわぁ」
「あーね」
知ってた速報。
反射機能付きでした。責任問題でライトの足を埋めて、極光に晒してやった。
自爆☆
꧁:✦✧✦:꧂
賞金稼ぎ集団『ヘリックスチェーン』───あまりにも広大な宇宙を股にかける大物食らいたちであり、哀れにも懸賞金を懸けられた獲物を付け狙い、確実に命を奪う。
時には生きたまま求める者の手に渡して、大金を対価に万事を尽くす狩りのスペシャリスト。
狙った獲物は逃がさない。
裏切り者も、対価を支払わぬ者も、不当なヤカラは全て灰燼に帰す。
悪名だけでは説明のつかない程、広域にその名を轟かす賞金稼ぎたち。
彼らは今、過去最大級の獲物と対峙していた。
魔法少女───地球という辺境生まれ。あの皇帝にすら牙を剥く最強の戦乙女。次々と将星を脱落させていくその天井知らずの強さには敬服さえ抱く。
そんな彼女たちは、此の度賞金首となった。
一律億単位という破格の値。それだけ脅威と看做されている証拠である。そして、その見目麗しさから魔法少女を捕獲して鑑賞したい者も一定数にはいる。
そういった者たちが、率先して、まるでオークションのように金額を上乗せした。
故に彼らは動く。
どれだけの強者であろうと、“金”にする価値があるなら食らうのみ。
無理無謀であろうと、関係ない。
今まで問題なく、一匹残さず狩れてきた。その自負が、自信が、彼らを突き動かす。
「殺してはならんのか?」
「愛玩目的の懸賞金が多いからなぁ……手足は再生すればなんとかなるから、やりようはあるな」
「魔法が強いんでしょ?阻害できる魔道具なかった?」
「数が足りんだろ」
「あっ!はいはいはーい!それならこれは!?惑星結界の型落ちだけど、改造すればなんとかなるんじゃないかな!ってことで改造屋!よろっっっっっっっ!!!」
「人任せやめろバカ」
「で?できるん?できないん?」
「できらぁ!」
大変優秀な改造マニアの手によって、超惑星結界という星全体を覆える型落ち製品を使い物にした。その際、一番厄介な魔法少女を封じ込んで、後は結界を壊せないように細工した方がいいんじゃないかと結論を出して。
情報を集め、その懸賞金からもわかる通り、一番危険な戦乙女の魔法を封じ込める準備を終えた。
理屈は簡単で、かつて魔法少女が戦いを起こした場所へ赴き、そこから魔力の残滓を解析して目的の人物のモノと波長を合わせ、封殺する術式を作り上げた。
普通は無理だが、そこは闇市に行けばなんとかなる。
なった。
魔法少女たちの移動ルートを算出して、次の出現場所を暴き出して。
休憩地として名を馳せているようだが、まぁそんなこと彼らに関係ある筈もなく。惑星の主である番頭に賞金首になるぐらい危険な奴が集まっていると伝え、どうやっても戦場になるから客を逃がすよう命じたり、星のあちこちに細工を施したり。
万全を期して準備を整え、獲物を襲撃した。
獲物は散り散り。バフをかける魔法で強化された仲間が猛追する。そして一番の獲物はその最高金額が示す通り、魔法が使えないのにも関わらず強者の余裕を貫いている。
また一人、また一人。仲間が散っていく。
魔法が無くても強いのは想定したいたが、ここまでとは思っていなかった。
そう内心苛立ちながらも、男は、物陰で息を潜める。
場所は渓流地帯。件の魔法少女からは八キロも遠い位置から、男は───ヘリックスチェーンのリーダーは、長年使ってきた相棒を構える。
細長い砲身を持つ巨大な狙撃銃。
地面に伏して照準を定めたリーダーは、移動する標的を逃がさない。
「今」
パシュン───と小さく音が鳴る。
ただ、放たれた弾丸はその音には見合わぬ豪速球で空を突き破り、山を越え、川を越え……瞬く間に温泉の一部を赤く濁らせた魔法少女の、側頭部を穿つ。
ガツンッッッと重苦しい破壊音が鳴り響く。
真横からの銃撃を食らったムーンラピスは仰け反って、ふらついて……すぐに立ち直り、間髪入れずにぐるん!と穴の空いた能面を射線方向へと向けた。
闇と目が合う。
「チッ、気絶ぐらいしろよ」
リーダーは悪態をついてから、即座に離脱。予め考えていた次の狙撃ポイントへ。
短距離転移魔法でポンポンと移動して、到着。
またムーンラピスを撃ち抜かんと、スコープまで使って執拗にその姿を狙った。
その時。
トンッ、と軽い感触が、リーダーの後頭部に刺さる。
「っ…!?」
「予測って大事だよねぇ───それじゃあ、悪いんだけど捕まっててな?」
「なっ」
銃撃程度では無傷の怪物が、後頭部を力強く殴って。
頭蓋骨を破壊されながら、ヘリックスチェーンの頭目は意識を闇に落とした。
꧁:✦✧✦:꧂
───ゴポゴポ…
───ブクブク…
湯煙が立ち上る自然豊かな星、プラネット・ラグーン。その宙域に、美しい青とおぞましい黒が入り交じった水が近付いていた。
星空を海のように、虚海を泳ぐ大いなる海魔。
幾つかの水惑星を枯渇させ、飲み干して、己の一部へと取り込んで。
美しき復讐者は、宙を征く。
───ゴポッ…!
狙う相手はたった一人。怨敵の気配を辿り、魔力を辿りそこに行き着いて。不遜にも結界に閉ざされた世界へと、彼女は干渉する。
必ず殺す。
復讐する。
仇を討つ。
狂気の入った思考に汚染され、呑まれつつありながら。偉大なる皇帝から齎された正常な思考に縋って、無関係な有象無象を破壊しない理性を獲得して。
全ては、あの蒼い月を弑する為に。
彼女は嗤う。
賞金稼ぎによる小騒ぎなど、意に介さず。
より大きな脅威が、星一つを呑み込む水の怪が、結界に干渉する。
【む゛ぅぅぅぅん゛ら゛びぃすぅぅぅぅ───!!】
咆哮を。
絶叫を。
悲鳴を。
あらゆる叫びを内包したかのような憎悪が、殺意が……滅びが確定した惑星に轟く。
震撼させて、呑み込む。
異変に気付いた時には、もう遅く───死の雨が世界に降り注いだ。
暗黒王域の十二将星
───“邪海星滅” メーデリア・アカリュリス
襲来。




