240-定期的にあるお風呂回
カッポーン…
暗黒銀河最大規模の湯治場、プラネット・ラグーン。
惑星全てが一つの温泉施設という、これでもかと贅沢に土地を使った楽園。日本でもよく見たお風呂だけでなく、暗黒銀河特有の……いや、宇宙規模で見ても馴染みのない型のお風呂がたくさんあった。
宇宙ではあまり温泉の文化がなく、お風呂という概念も希薄も希薄なのだけど……
ここは違う。
なんでも番頭さんが珍しいほどお風呂好きらしく、大金はたいて造り上げたらしい。
すごいね。
「あったかぁ〜」
「悪くない……」
……で、今。
僕たちは魔法少女であることを隠して、この温泉施設に入浴しています。
なんでバレないのかって?そりゃ魔法少女だからさ。
「お花が浮いてるお風呂だ!」
「泡風呂まである……えっ、すっご」
「なんか魚泳いでるわよ」
「すっごい景色いいよここ!」
「……惑星全部温泉施設だから、露天しかないってこと?開放感ヤバすぎでしょ」
「綺麗〜」
わいわい湯船に集る仲間たち。星全体を二つに区切って男女分けるっていう、だいぶ大胆なことしてるこの惑星。山脈とか森林とかも全部施設の所有物だ。小惑星規模とはいえこれはすごい。
穂花ちゃん、蒼生ちゃん、きららちゃんは地球にはない花弁を浮かせたお風呂に直行。鉄架パイセン叶華パイセン祀里パイセンひかりパイセンは泡風呂だの魚風呂だの色々巡り始め、未来は火山みたいにグツグツしてるお風呂へ。
リデルと寝子、メードはそれぞれ泡風呂へ。
アリエスとダビー、ナシラはぬるま湯に浸かり、自分に丁度いい温度のお風呂に行った。
男3人は知らん。
そんでもって僕はほーちゃんと一緒に寝そべれる湯船に浸かって星空を見上げていた。
快適。
「見てほーちゃん、顔にお湯入ってくる」
「湯煙焚いて外部に見えないようにしてるからって、私にグロ実写見せつけるのやめて?」
「人の穴に指突っ込んどいて何言ってんだオマエ」
「なんかエロいね」
「死ねカス」
穴の空いた顔面、闇という名の悪夢の中にお湯が流れていくのを面白がっていれば、普段ふざけてくるほーちゃんが注意してきた。
何様だこいつマジで。
いつもの空気感に準拠して相手してやってんのに、なにほざいてんだ。
それにしても、このお風呂すごいな。怪我を治療できる回復効果のあるお風呂とか……
ファンタジーかよ。若しくはグルメな世界観かよ。
……うん、すごいんだよ。顔のひび割れの外縁部すごい綺麗になったし。
うん。
「まんまるだねぇ」
なーんで綺麗に丸く整形されてるんですか?この穴。
治療が意味わかんない効果を齎したのか、顔の傷は一応治るには治った。なんかガタガタしてた穴の周り、綺麗につるんって整形されちゃったんだけど。
でもまだ穴空いてるし。
さもこれが正しい形ですよみたいに治ってるし……もうなんなの。
「……あっ。うーちゃん、あの看板」
そこで何かに気付いたほーちゃんが、効能を示す看板を指差す。胡乱気にそれを見遣れば……わぁ…
“肉体を正常な形に再生させます”、だってさ。
正常。正常かぁ。正常ねぇ。
……えっ、僕もう口も目も鼻もないバケモノ形態が真の姿に確定しちゃったわけ?
え?
「助けて」
「悪夢取り込むからでしょ…」
「自業自得の気配がプンプンするぞぉ〜」
「もう諦めよ?人間やめちゃえ!」
「つ、月お姉様がどうなっても、ワタシは月お姉様の舎弟なのです!!」
「そうだったの?」
「初耳だぜ」
人の心がない先輩たちと知らん関係性を主張する後輩をフルシカトして、僕は考える。
うん、悪夢由来の怪現象なのは確かだ。
そこのリデルもうんうんって頷いて、穂花ちゃんに身体引き上げられてるし。なんで沈みそうになってんだあいつ馬鹿だろ。
「どうしようか」
このままは気分的に嫌だ。
なんとかして顔を復活させねば……僕が目指してるのはかっこいい系であって、ホラーではないんだ。いや偶にはそういうビジュも悪くはないと思うよ?でも恒常的にやるのは違くない?
もういい加減どうにかせねば…
……コーカスドムスの事例があった以上、僕の中にある悪夢も変な化学反応起こしてよくわからんことになるかもしれない。そう考えると、穴の縁に添うように埋め立てて隠蔽するんじゃなくて、頭全部取っ換えた方がいいかも?
このままだと、ずっと死体流用のままだし。
この機会に悪夢由来の肉体に変えて……うーん、やっぱ悩むな。
ヨシ。余談だが、一応僕たちアリスメアー陣営の身体の違いってのを解説しよう。
補足としてね。
まずペローたち三銃士のようなパターン。彼らは生きた人間体に怪人因子を注入して、悪夢に順応させたタイプのボディを持っている。
次にリデルとかメアリーみたいな純正パターン。
こっちは正しく言うとユメエネルギー、つまりは魔力の塊みたいなもん。妖精とかも魔力の塊だね。それが悪夢に染まっているかいないかが大きな違いだ。
そんでこっからはイレギュラー。
具体的に言うと、メードとか六花とか、かつての僕とか死体に悪夢注入したりしたパターン。ゾンビゾンビ言って倫理観0な方。今更語るまでもないが、こっちもこっちで特殊な事例だ。なんならゾンビ魔法少女共は因子から培養再生させたヤツだから、純粋にはゾンビではなくクローンなんだけど、死体利用であることには変わらないので今更タウンだ。
……で、これから僕が成ろうとしているのは二つ目。
今がちょうど純正と死体のハーフ、いや首から上だけの現状を考えれば、8:2ぐらいの割合でユメエネルギー構築物体だけども。
「どうすっかなぁ…」
「悩んでたって仕方がないよ。それに、考える時間はまだたくさんあるんだし。じっくり考えよ?」
「ないだろ」
「あるある」
名残惜しい気持ちを隠せず、人間時代の残った欠片たる頭をどうするか問題に悩んでいると、見兼ねたほーちゃんたちが口々にぺたぺた顔を触ってきた。
おい、やめろ。見納めかじゃないんだよ。
僕の顔は玩具じゃないんだ。ぺたぺた触って感触楽しむモノじゃないんだ。
やめろ。
「すごい!穴の輪郭もちもち!!」
新発見して注目を集めるのやめろアイドルッッッ!!
この後めちゃくちゃ穴のところ触られた。なんかすごい恥ずかしかった。
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結局決めあぐねて、夜。
大部屋を借りて一夜を明かすことにした僕たちは、各々布団を敷いて寝っ転がっていた。雑魚寝である。ちなみに男子も同じ部屋だ。たかが3人の為に別室用意するわけがない。
「即断即決のうーちゃんでも、流石に顔取り外すのは無理あるかぁ」
「流石にそこまで人間辞めてないもん、僕」
「でも選択肢に入れてる辺り、思考回路はだいぶ理の外にいると思うよ?」
「ぐぬぬ」
否定できないから困る。悩みに悩みまくっての今だし、物騒な思考回路で生きてるのも事実だし。
そも、今後一生使っていく身体なんだ。
悩むに決まってるだろ。これで悩まないヤツなんて早々いないと思う。
「明日の昼には発つからね。早く寝ろよ、おやすみ」
いつも通り自主的に枕になりに来た調教済みアリエスの背中に頭を乗せて、目を瞑らずとも見える景色を遮断……真っ黒になった視界の中で、擬似的に眠る体勢に入る。
こんな手品めいた動作もお手の物。
どうやってか視界を切ったことに気付いたほーちゃんがさわさわと触ってくるが、無視。大人しく手を繋いでやり黙らせる。
「えー、もう寝るの?」
「夜はまだまだこれからなのに!」
「まーまー!潤空ちゃんも疲れてるんだよ!主戦力2人は気力を高めてもらって!私たち外野は只管遊んで、疲れてから寝よう!!」
「さんせー!」
バカがよ。
……なんて人任せで他力本願の権化共の喧騒を他所に、群がってきたリデルや寝子、ダビーとナシラと一緒に床についた。ほーちゃんと寝子以外全員年齢上なの、正直異を唱えたい気分だった。
で、翌朝。
朝風呂入ろーぜってなって、朝食を頂いた後にみんなでまた入って。
久しぶりに何の騒ぎもない休暇旅行を満喫して……
今。
「どこ行った!」
「すばしっこいヤツらだなァ!」
「探せ!!高額賞金首だぞ!絶対に逃がすな!」
「ハッ!」
賞金稼ぎに襲われています。
なんで?




