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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
マギアガールズ銀河紀行 -神なき国の黙示録-

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246/294

232-こ、こいつ…喋るぞ!?


 旧・アリスメアー三銃士、“壊夢”のコーカスドムス。


 意思疎通のできない幹部怪人でありながら、言葉を介す幹部怪人集団とされる三銃士の一員に選ばれた、あらゆる意味で不可解且つ狂気的なフラミンゴ。

 その正体は宇宙由来の怪物であり、【悪夢】への耐性が通常値を遥かに超えた特殊個体。地球に降り立ち、悪夢にその身体を浸して、適合し、人型を会得したワイバーン。

 女王リデルが治める悪夢の国に招かれて、新たな住人と認められた国民。


 そして───数多くの魔法少女を、怪人を食べ、彼らの魔法を吸収した簒奪竜。混沌を司るキメラの幹部怪人は、二年の歳月を経て復活し、牙を剥く。

 かつて己を倒した魔法少女と、言葉を交わしながら。


「来いっ!」


 両手を広げて待ち構えるコーカスドムスは、ギョロリと複眼を蠢かせる。

 その眼球一つ一つが、魔法少女の動きを見逃さない。


「それじゃあ」

「お構いなく」


 久方振りに出会った強敵。予期せぬ出会いに感謝、するわけもなく。面倒なことをしてくれたものだと笑いながら魔法少女たちは吶喊する。

 聖剣の輝きが、銃剣の闇弾が、コーカスドムスを正確に狙う。


「洗練されているな」


───災害魔法<イロード・カラミティ>


 対抗するように放たれたのは、コーカスドムスの十八番である固有魔法。ランダムで災害を引き起こす、本人さえ制御不可能な世界に干渉するに魔法。

 だったのは遥か昔の話。

 とある魔法少女を取り込んだ彼の災害は、意図的に死を招く。


 前方から迫り来る挨拶代わりの攻撃が、隆起した岩盤の壁に防がれる。地殻変動はそれだけでは止まらず、更なる災禍をライトとラピス、戦場にいるその他大勢に振るう。

 地下空間なのが災いして、地盤の沈下と隆起、直に響く震動で足場が崩れ、亀裂が走り。

 ドパッと、岩盤の亀裂から溶岩が溢れ出た。

 噴き出た溶岩をライトは必要最低限の動きで避け、その聖剣で素っ首を狙う。

 だが。


 床を突き破って現れた、うねうねと成長を続ける大木に阻まれた。


「ッ!」

「やはり、君は油断ならないな」

「死んだんならさ、食べた魔法もリセットされるべきじゃないかな!?」

「ハハハ」


───木魔法<グロース・トランク>


 魔法少女“樹霜”のグローバオムの魔法。木を操る植物系由来の魔法であり、魔法らしく自然界の木とは全く異なる挙動を描くことができる、大自然の脅威。

 強靭な木の壁に視界を遮られるが、ライトは逆に笑って止まらない。


 歩みを止めず、走るのを止められず───聖剣の輝きが両断する。


「でも、残念!」


───極光魔法<リヒト・エクスカリバー>


「私を止めるには、至らない!!」


 斬撃をもって全てを切り開けば、バラバラになった木の向こう側に、ヤツはいた。

 ユメの根源が具象化した───抜け殻の“壊夢”が。


「うげっ!」

「ギィィィッ、ギョアアアアァァァ───!!」

「お呼びじゃないです!」


───極光魔法<キュアリー・フラッシュ>


───風琴魔法<シルフィーユ・カッター>


 入れ替わるように現れた竜形態のコーカスドムスの口腔から、“天曲”のリープオルガンの風琴魔法が斬撃となって放たれる。ハープを弾き、奏でられる音と共に風を操った心優しき魔法少女。

 彼女の魔法が、爆光を突き破ってライトを切り裂く。

 咄嗟に聖剣で大部分の攻撃を防いだが、やはりこの竜と五十分も殺し合った魔法少女の魔法。生半可なガードでは防ぎ切れず、切り傷が走る。

 その痛みにライトは笑みを深めて、アリスメアーという脅威を再確認する。


「行くよっ!」


───極光魔法<ブレイブ・ラストクロス>


 十字の極光が煌めき、竜の胴体を刻む。血飛沫ではなくユメエネルギーを傷口から噴き出したコーカスドムスは、痛みに悶えることなく吶喊を再開。

 リリーライトの命を啄んと、その竜翼を振り翳す。


「ギィヨエェェェェ───ッ!!」


───油魔法<オイル・スプラッター>


 “聖油”のユイルコモンドの油魔法を纏って、衝撃一つで瞬間発火の大爆発を引き起こす聖油を弾丸のように撒き、聖剣諸共焼き尽くさんと牙を剥く。

 万が一聖剣に当たれば即死も不可避な、本当に命の危機そのものたる聖油。その恐ろしさを知っているライトは、大振りながらも身体を回転させ、油の一つ一つを目で見て避けて、聖剣にも決して触れないように指の動きで聖剣を揺らして回避させる。

 背後に着弾して吹き上がる爆炎、突き抜ける爆風に身を任せて、前進。


「まだまだッ!」


 吼えたライトは、歩みを止めることなく。その首を守る硬い鱗に聖剣を叩き付けて。

 爆光、衝撃、破壊……断ち切るまではいかなかったが、コーカスドムスに特大のダメージを与え、痛みに悶絶する竜に振り払われながら身体を踊らせて、全身という全身に切り傷を刻む。


「ギョア───ッ!?」

「殺すね」


 叫びながら魔力を暴発させ、ライトの顔面を焼くことに成功したが。勇者は躊躇いなどなく、恐れすらもなく……魔力に焼かれながらワイバーンに飛び付く。

 龍鱗に覆われた桃色の背中に、聖剣を突き立てて。

 容赦しない。そう笑って、ライトは聖剣に込めた魔力を解放する。


「“聖剣解放(オープンブレイブ)”ッ!!」


 世界を震撼させる魔力の躍動が、衝撃が、ワイバーンに悲鳴を上げさせた。

 そして、もう一つの戦場では。


「ふっ!」

「ハハ!」


───月魄魔法<ルナダーク・レイ>


───災害魔法<カラミティ・フレア>


 月の輝きが一条の魔光となり、アドゥーだった者の腹を貫通する。尋常じゃない痛みに普通は怯む筈だが、最強の三銃士はその程度で弱ることはない。

 災禍を凝縮した黒炎を手から放ってラピスに浴びせる。

 マトモな防御手段も根こそぎ貫通する炎は、防御障壁を突き破って点火。ラピスの右腕に着火して……消火不能の炎を纏わせる。


「チッ」

「次だ」


───糸魔法<マーダースレッド>

───謎魔法<ミステリトリック>


 “傀儡”のマペットプリマーレの糸魔法がラピスを囲み、次いで“疑問”のミステリオの謎魔法が糸を透明にし、目で追うことも魔力で探ることもできない、不可視で認識不可の罠として機能する。

 透明な糸に行動を制限されるが、その程度で最強の月を食い止められるわけもなく。

 肉体切断も覚悟の上で、一歩踏み出し。

 あっという間に切り刻まれるも、闇が漏れ出る顔の穴を震わせる程、笑う。


「こんなものか?」


───魔加合一<獄炎大公>


 地獄の炎を左手から発生させて、知覚できない糸を全て焼き尽くす。右手の炎は未だ鎮火できないが、そんなものラピスには意味がない。熱いのは苦手だが、その程度。

 焼け落ちた糸を手で払い、また一歩。

 その反応にコーカスドムスも笑みを深めて、食い集めた魔法を行使する。


「あぁ、本当に!君は飽きないなァ!」


───災害魔法<イロード・カラミティ>

───運命魔法<ファースト・オブ・フォーチュン>

───無限魔法<マギア・インフィニティ>


 意図的に業を起こさんと“運命”のフォーチュンレッドの運命魔法を発動して、“円環”のエタニティリングの無限で終わらない破滅をその身に宿して。

 天雷を。大地震を。噴火を。台風を。寒波を。

 絶対にムーンラピスを殺すという意志の塊が形となって襲いかかる。


「チッ!それは反則だろうが」


───無敵魔法<ヒーロータイム>


 前時代の最強たち。概念勝負によって幾つもの勝ち星を積み重ねた異国の魔法少女たち。運命の支配下に落ちては不味いと、ラピスは同類の魔法を行使。

 “英雄”のスーパーガールの魔法により、自身もまた反則行為を実施。

 ただ勝つにはこれ以上にない魔法だが、今のラピスでもこの無敵魔法は負荷が強すぎる。どんな攻撃も無効化してノーダメージにできる最強の魔法。ただ、使用中は術者の魂が摩耗する。使えば使うほど魂が悲鳴を上げて、ものの数秒で死に至る。無敵になるのがツマラナイという理由もあるが、それ以上に負荷が強すぎた。複数の魔法が使えるラピスからしても、使いづらいにも程がある魔法だった。

 スーパーガールしか十全に使えない、彼女の為にあると言っても過言では無かった魔法。

 だが、ほんの数秒ならば問題なく使える。

 刹那よりかはある時間、ラピスであればあらゆる攻撃に滅多打ちにされても魂が無事であれる。

 伝説の力を借りて、絶対に直撃する災害の嵐から必死に身を守る。


「っ───今っ!」


 そして、絶え間のない災害に身を晒しながら、限界まで無敵化を行使して。

 乗り越える。


「ほう!」

「手早く行くよ」

「来たまえ!」


───災害魔法<カラミティ・フレア>


───災害魔法<カラミティ・フレア>


「なっ!?」


 黒炎同士が衝突して、相殺。

 自分の災害魔法が使われるとは思っていなかったのか、驚きを見せるコーカスドムスに、ラピスは軽やかな足取りで肉薄する。

 徐々に燃焼していく右腕を盾に、左手に持った銃剣から魔力を迸らせて。


「<斬蛛断界>ッ!!」


 空間に干渉する蜘蛛の斬糸。世界を断つ一条の斬撃が、コーカスドムスの首に切れ込みを入れて。

 ズパッと、眼球蠢くアドゥーの頭部を切り離す。


「!?」

「そら、もういっちょ───月魄魔法<ルナエクリプス・ラズワード>ッ!!」

「がっ!?」


 首から刎ねた頭部に、月の大魔力をぶつけて───その歪な頭部を轟音と共に消滅させる。

 血肉も血潮も頭蓋も残さぬ完全消滅。

 脳という生存に必要不可欠な臓器を失い、元アドゥーの身体は崩れ落ちる。


 わけもなく。


 首の断面から───ずるりと、気味の悪い不快音と共に新たな首が生えた。


「っ!?」


 その、思っていたのと違う復活に、ラピスは動揺し。


 声を失った、その隙をついて───フラミンゴの頭が、ぐわっと荒ぶった。目にも止まらぬ捕食は、咄嗟に庇った燃える右腕を二の腕から食いちぎって。

 モグモグと、炎のことなど気にせずに咀嚼する。


「キンモッッッ」


 顔があれば相当な顰めっ面になっていただろうラピス。失った右腕のことは諦めて、完全に変異したフラミンゴの司祭服を蹴り上げ、その反動で後退。

 見覚えのあるパーツが現れたことに文句はないが、そのなにも考えていなさそうな虚無顔が苦手だった。

 普通に怖かった。

 昔、暗がりの死角からひょこっと虚無顔で覗かれた時はあのラピスでさえもキュウリを見た猫のように飛び跳ねたぐらいだ。


「ギョムム……んんっ、ご馳走様」


 フラミンゴが喋った。


「いや喋れんの!?」

「ふふっ、以前の私とは違うのだよ。昔っから言語機能の有意性を解いてきたフットマンや、念話以外でのコミュニケーションに挑戦してきたミセスにも……この成長ぶりを見せてやりたい気分だ」

「そうかよ。なら、冥土の土産に持ってけばいい。そんで好きに語り合ってろ」

「ハハハ」


 奇妙な変わり様にドン引きしながら、ラピスは心からの嫌悪を顕にしながら魔法を撃つ。加速のついた魔法に喋る怪鳥が圧されている間に、治癒魔法をかける。

 月魔法<アコライト・ムーン>。

 ラピスが有する唯一と言ってもいい回復魔法で、失った右腕を生やす。


 それだけでは終わらせず───右手に魔法陣を埋めて、次を考える。


「ふむ。君、いつの間にニンゲン辞めたんだい。舌触りが悪夢のそれじゃないか」

「なに、言ってなかったっけ?」


 疑問符を浮かべるコーカスドムスに、挨拶するように。


 お辞儀をしながら、ラピスは魔法陣から五属性の魔力を浮かべる。


「アリスメアー二代目首領、悪夢の国の二代目国王───そして、何れは災神の名を継ぐ者。それが、僕。オマエの知らないムーンラピスの、今の姿だよ!」

「ッ、なんと…」


───五重奏<エレメント・ブラスター>


 大出世と言うべきか、それとも。

 驚きに目を見開いたフラミンゴの頭に、ラピスが選んだ五属性……炎、氷、風、月、光の魔力が渦巻いた、魔力をそのまま力の塊に変えた光弾が解き放たれる。

 空間を震わせ、亀裂を走らせ。

 殺意を迸らせた五重奏が、コーカスドムスを殺害せんと暴威を振るう。


 一瞬の隙だったが、コーカスドムスもまた冷静に対処。目眩しも兼ねた魔法光弾を樹木で防ぎ、壁諸共破壊光線で薙ぎ払おうとした、その時。

 背後に回ったラピスが、奇襲の魔法を放とうと近付き。


 それよりも早く。


「借りるよ?」

「ッ、チッ!」


───月魄魔法<ルナエクリプス・ラズワード>


 今度は、ラピスの顔面の至近距離に。食われた右腕から習得された蒼い月の輝きが。

 爆光を轟かせた。


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― 新着の感想 ―
>ラピスが有する唯一と言ってもいい回復魔法で、失った右腕を生やす。 おや、ラピスの月魔法には回復魔法はこれ一つだけだったのか。だとすると、以前回復を使った時は記録していた他の魔法を使っていたんだろうか…
こいつも「カニ」が追求する強い位階に達する潜在力を持っているだろう 「蒼月」と「解」は魂を拡張してから多くの魔法を使うのに十分な容量を得ることができ、彼は相手を殺すことで魔法を増やすことができ、「悪…
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