230-神は不在、悪夢は有り
聖地構築計画───首席枢機卿アドゥー・リブル三世が構想した、神への信仰を失った世界からの脱却。或いは、己らが望む理想郷の中で、絶対的な支配者として君臨する泡沫の夢。ステリアルを崇める者だけの、尊き夢幻郷。
首席枢機卿と司教枢機卿、そして司教らの子飼いである司祭枢機卿。その彼らを守る騎士団。選ばれた信徒のみが君臨する、己が神のなんでもできる尊き夢の理想郷。
“星喰い”という心のないバケモノから信仰を守るという名目で始まった、その夢物語は…
幾つもの数え切れない犠牲を大前提とした、自分勝手な計画であった。
───第一段階:聖別
アルタードームに巡礼しに訪れた信徒から、適性のある信徒を暴き、聖名を与えて洗礼したり、非・魔法由来だと思わせるような奇跡を見せて、信仰心の強い従順な信徒に育て上げる。
選ばれた信徒には不可視の“目印”を付与。
運命の日までに死なれては困る為、必要なら保護または隔離して管理する。
───第二段階:揺籃
星教会の特殊な情報網で判明した、純粋なユメを孕んだ小さな生き物。残念ながら、回収する前に消失したが……貴重なユメエネルギーを食べ、蓄える特性を持つディープワイバーンに注目し、計画への組み込みを決定。
秘境より卵を回収して、飼育。更に遺伝子改造……
百年の時を経て新種のワイバーンを作り上げ、空を飛ぶ羽を奪い、地に縛り付けた。
───第三段階:聖餐
意思を剥奪した造竜個体を地下に配備させ、信徒たちの祈りを起点にユメエネルギーの徴収を開始。一気にユメを吸い上げては対象が死んでしまう為、ゆっくりと、時間をかけて吸い上げる。
信徒にはバレないように注意。
万が一気付かれた場合、造竜個体の養分として速やかに処理すべし。
───第四段階:収穫
三百年もの時間をかけて集めた“目印”を、理由をつけてアルタードームに集合させる。この段階では最早隠蔽する意味が無い為、死体処理は不要と断定。
意識のないまま活性化させた造竜個体を使い、地上部の印持ちから生命力ごとユメエネルギーを回収。
造竜個体もまた殺処分。祭儀場の器に捧げるべし。
───第五段階:祈祷
祭儀場に全てのユメエネルギーを集め、楽園創世の器に祈りを捧げる。どれくらいの時間を費やすべきかは、器の状態によって変わるだろう。
例え長期間の拘束を強いられても、我らが恋望む聖地の誕生を願うのならば、一夜とて休むべからず。
荒ぶるユメを祝詞にて鎮め、清め、掌握せよ。
───第六段階:羽化
時は満ちた。
───最終段階:創世
楽園建造。
「今は第五段階、ね……アクシデントのせいで、何ヶ月も祈祷する羽目になってるけど」
「アクシデント?」
「えぇ。地上のワイバーン。あれ、本当は縦穴のそこらで死んでる筈なのよ。ワタシが聴いてた話が本当なら、ね。でも何故か、ワイバーンは地上に飛び出た」
「……意識は無い筈、なのに?」
「そうよ」
自分の知っていることを包み隠さずに伝えるデミアは、気晴らしの回復ポーションをイッキして、ふぅっ…と息を吐いて、椅子から立ち上がる。
肩を貸してくれたエーテとデイズに礼を告げ、そのまま有難く支えになってもらう。
……デミアの語った内容は、そのままアルタードームで起きた悲劇である。無論、それだけであれば、死体の山は異星人だけで済んだのだが……
往々にして、アクシデントとは起こるもの。
予期せぬ方向からの不運は、アルタードーム地下深部で育てられていたピンク色のディープワイバーン……わざとユメを食べる生き物として再設計された人工の竜が、突然地上に飛び出たこと。
「……もうその時は、ワタシは閉じ込められてて、詳しい外の様子はわからないけれど」
想定外だった。
ディープワイバーンの暴動により、本来は必要のない、恐怖や絶望を孕んだユメエネルギーばかりが集まった……そんな呪いじみたユメでは、できるのは悪夢の楽園。
枢機卿たちが望む、理想郷とは程遠い。
故に、逃げ惑う信徒が外部に助ける前に、枢機卿たちは殺戮を決行。地上にいた全ての生き物を、目印を刻まれた生贄たちを呪殺した。
───目印は、“心臓”。
転移魔法でも使われたかのように、心臓は全て肉体から飛び出て消えた。
祭儀場にある根源の器に注がれ、溶かされ、もう元には戻らない。
「愚痴ってたわよ。求めていた形と違った。祈祷によって正常な形に戻さねば、って……それで三ヶ月間、ずーっと祈ってるの、本当にウケるわよね」
「三百年の悲願なんでしょ?そりゃ軌道修正頑張るよね」
だが、その耐え忍ぶ時間も───もう時期終わり。
死体を新鮮なままに留め、器の中の心臓……ユメの力が渦巻く肉の塊は、完全に浄化され、純化し、完全に一つとなって生まれ変わった。
祝詞が徐々に終幕に向かっているのがわかる。
終わる前に、羽化される前に、全てを終わらせて───信仰のことなど欠片も考えていない、自分本位の国作りを止めるのだ。
デミアは気に食わないから、そんな計画をぶち壊す。
そして───ラピスは、自分がかつて掲げたユメ計画に一部抵触している下位互換にブチ切れ、百年単位で生きているのならばもっとマシなモノを出せと理不尽にキレた。
こんなのと同じと思われたくなかった。
これがラピちゃんのifかぁ…としみじみ頷いている全員ぶん殴りたい。
「絶対に潰そうね」
「協力感謝するわ」
義憤ではない。八つ当たりの殺意で、共同戦線を組んだ悪役二人であった。
「ところで、羽化って言うけど……生き物なの?楽園って生き物が核なの?」
そこで疑問に思った善人……実は何回かデミアのことを斬って無害か確かめようとしていたライトが、こてん、と首を傾げて問い掛ける。
その問いに、デミアはキュッ…と顔を顰める。
それは、言いたくないとかそういう次元の顔ではなく。嫌な思い出を思い出した、そんな意味合いのイライラしか顔付きだった。
「えっと?」
「……ごめんなさいね。えぇ、まず、その疑問に関してはワタシも知らないの。その……それを聞いた時に、後頭部殴られて磔にされたから…」
「今回の敵さんクソ野郎すぎない?」
「信仰を盾にこんな計画立ててるぐらいだもの。そんなの言うまでもなくよ。信徒全員で共に行きましょうなら……まだ納得はできたけど、ねぇ?」
「殺そ」
出会う前から好感度マイナスを底下げ限界突破している枢機卿団をこれでもかと扱き下ろしまくりながら、十人とプラス一人はもう一度地下聖堂の廊下に出る。
気配もなく、音もなく、魔力も感じさせず───…
その重厚な真白の扉を、漸く。
ズガガーンッッ!!
こじ開ける。
「御用改であるッ!」
「こーんにちはー!侵入者です!」
「ぶち殺しに来ました」
魔法少女トップスリーの魔力を込めた足蹴が、重い扉を大きく吹き飛ばして。神殿の最奥、祭儀場の中央に立って祝詞を唱えていた司祭枢機卿を2人を轢き殺す。
慈悲もなく。
容赦もなく。
魔法少女は運も奇跡も味方にする。殺意を込めた分その威力は桁違いだ。
「なっ!?」
「……何者だ。ここは神域。信徒でもない半端者が入って良い場所でないのd」
「うるさい」
「!?」
冷静に立ち向かってきた司教枢機卿をまた一人物言わぬ肉塊に変える。自分が死んだことにも気付けていない顔で固まった生首を放り投げて、ムーンラピスは司教枢機卿の死体を足蹴に君臨する。
両脇に並び立つリリーライトとエスト・ブランジェも、近くにいた司祭枢機卿を躊躇いなく殺害する。
問答無用で人死にを出す侵入者に、儀式に参加していた枢機卿たちの間に動揺が走る。自分たちの指導者の一人が突然死んだのだ。闖入者への恐怖と動揺、本能的な根源に逆らえない。
だが、ただでやられる祭祀者たちではなく。
すぐに武器を手に取って、聖句を唱えながら、闖入者に反撃を企てる。
「なっ、ぁ…」
「侵入者だと!?感知班!貴様ら何をしていた!」
「も、申し訳ありませんっ!!」
「あの一瞬で猊下を……相当な手練だな。おい!騎士団を呼べッ!!」
「ハッ!」
だが。
襲撃を受けた枢機卿たちの慌てる声など、先頭の3人は意に介さない。何かしらの戦力が来ると聞いても、それがなに?と鼻で笑うだけ。相手する必要もない。
その視線は、ただまっすぐに向いていた。
祭儀場の中心。大理石の上に広がった紫色の魔法陣に、惣闇色の球体が浮かんでいる。
おぞましさはない。
恐れも慄きもない。
ただ、純粋な力の流動体───ユメの根源が、魔法陣の上に浮いていた。
「………」
そして、魔法少女たち侵入者に背を向けて。
恋焦がれるように、宙に浮かぶ球体に見蕩れていた……この場にいる信徒たちの中で、一際豪奢で、神聖さのある祭服を身に纏う男を、一同は睨みつける。
特徴には聴いていた。
黄緑色のオールバックにした壮年の異星人。側頭部から生えた小さな羽は、彼が“ウィル・ゴー家”に仕える従者の一族、“リブル家”の証。
後ろ姿しか見えていないが───彼こそが、この悲劇の元凶たる首魁。
「……デミアめ。大人しくしていれば良いものを」
溜息と共に吐かれた言葉には、わざわざ生かしておいた最後の贄への、哀れみと侮蔑が大いに含まれていて。
一度も振り返ることなく。
首席枢機卿───アドゥー・リブル三世は、邪魔をする不届き者に沙汰を下す。
「殺しなさい」
「ハッ!」
「っ、裏切りもんが……このワタシに舐めた口聞くんじゃないわよ……ってことで!やっちゃって!!」
「他力本願で逆に安心したよ」
「ね!」
最高指導者からの命を受けて、己を鼓舞しながら大敵に立ち向かわんとする枢機卿たちを、魔法少女は冷ややかな目で見つめながら。
やっぱり殺意を我慢できなかったデミアを落ち着かせ、その代わりに武器を振るう。
全ては、羽化させない為に。
真っ先に、こちらに興味を示さないアドゥーを殺さんとライトが一歩踏み出した。
その時。
「───いや、もう捧げよう」
突然閃いたような声で。
まるで、子供が遠足に出かけた時のワクワクのような、純粋さを感じ取れる声色で、アドゥーは呟き。喧騒の中、しっかりとその声を聞き入れた、侵入者たちを除いた……
中枢にいる者と、最高戦力である騎士団を除く、全ての信徒に魔の手を伸ばす。
「えっ?」
忠実に従っていた司祭枢機卿の一人が、侵入者に向けて魔法を放とうとした、が。
身体が突然、激しく痙攣し出す。
「がっ、ぁ、あがっ!?ぁ、あが、ががっ、がががっ…」
ブクブクと口から泡を吐き、白目を剥いて……独りでに足を動かして、千鳥足でユメの根源がある魔法陣の方へと近付いて。
妖しく輝く魔法陣に、触れた瞬間。
ジュワッ…と蒸発するように、全身から煙を放って……魔法陣に、身体を溶かした。
「うぇっ!?」
「っ、なにを───ッ!?まっずい!みんな!殺してでも辿り着かせないで!!」
「!?」
異変に気付いたライトが、呼びかけるよりも早く……
その場にいた全ての司祭枢機卿が、アドゥーに操られて死に体となり……魔法陣へ、ユメの根源へと、生贄としてその身を捧げる。
「ぁ」
「ぉ、ぉあ?」
「猊下、何故…がごょッ!?」
「ごぽっ」
……最初から、やたらと数の多い司祭枢機卿の存在は、数合わせの生贄でしかなかったわけだ。
彼ら彼女たちもまた、心臓には目印があったわけで。
新たなる神話の創造、奇跡の邪魔をする闖入者なんぞ、騎士団で十分だと高を括る。わざわざ相手する時間こそが勿体ないと、今から始まる奇跡をその目に焼き付けんと、司教枢機卿は動揺もせずに今か今かとその時を待つ。
この場にいた司祭枢機卿全員の死をもって、第五段階は幕を引く。
「うぐっ、ぅ…おえっ…」
そして……この不快極まる生贄扱いは、最後の贄として生かされていたデミア当人にも言えることで。
突然彼女は胸を抑えて、荒々しく呼吸と吐血をする。
支えていたデイズが悲鳴を上げて回復魔法をかけるが、効果は薄く。
「デミちゃん!?」
「ッ、本当にロクでもねェなァ!!おい!」
「メードッ!」
「お任せを!」
だが、デミアが死ぬよりも早く───傍にいたメードが魔法を使う。
「聖櫃魔法ッ、<アーク>!!」
デミアを囲うように半透明の箱が展開されて、空間との接続を遮断、隔離。普段は一瞬が命取りの戦場で数多くの魔法の最適解を引き出す自信がない為に使わなかったが、今回は意を決して守る手段を行使できた。
この聖なる結界の力は、外界からの影響・干渉を完全に遮断するというモノ。狂った儀式の支配下にあるデミアがこれ以上傷つかないように守り抜く。
その効果のお陰か、デミアの呼吸は正常に戻り死の運命から遠ざかる。
「……かハッ!はっ、はっ…はぁっ…」
「ご無事ですか。この指が見えますか?」
「にっ、二本…」
「残念七本です」
「引っ掛け問題出してんじゃないわよッ!?はっ倒すわよこのメイド!!」
「大丈夫そうです」
「ヨシ」
両手を広げて重ねて意識の確認をしたメードのお陰で、デミアは峠を超えた。しかし、未だに空間魔法による治癒阻害は残っているようで油断できない。
協力者が一命を取り留めたことに安堵している間にも、生贄捧げは終わり。
宙に浮かぶユメの球体が───激しく脈動する。
ドックン、ドックン、音を立てて。不要と断じた筈の、恐怖や絶望を取り込ませて……
生命を誕生させる。
「私は誤解していた。この根源に、負のエネルギーなどは必要ないのだと。だが、幾ら待っても、闇を取り除いても聖体は羽化しなかった……」
「だが、触れ続けてわかったのだ」
狂儀の主導者、アドゥーは滔々と語る。その嬉々とした声色には、予想外への大きな期待とほんの僅かな不安……そして、それを上回る信仰心があった。
電波を受信している。
……これはもう止めれそうにないなと、魔法少女たちは諦めて魔法を練り上げ始める。
何が来てもいいように。
その間も、アドゥーはなにかに取り憑かれたかのように笑う。
「誤解していたのだ。私は、私たちは……ユメの根源が、そう私に教えてくれた。恐怖を捧げと。ならば、信徒たる我らはそうするのみ。それがかのお方の命であり、楽園を創造せんとする我らを導いてくださる天啓。ならば、どう疑問に思うが関係のないこと。我らの疑問など天の露にも及ばぬ些事でしかない。ユメはウツツを超え、ウツツには何も残さない。ユメだけが全てを凌駕し、掌握し、虚構に満ちた白紙の世界を染め上げる。赤に青に黄に緑に黒に、全て全て思うがままに。ユメを仰げ。ユメこそがすべて。根源は、私にそう教えてくれた。テルターンの羊が世界を食んだ時のように。オルゲライドの白い鴉が空けない夜を打ったように。世界は終わる。終わりゆく世界に、我らは別れを告げねばならない。裏切りには死を。星を超えて、輪廻を超えて我らは再び邂逅せん。時は満ちた。聖体より世界の鐘を鳴らす準備はできた。終わりなき絶望に希望が花開く。三百年の時を超え、我らは世界を進めん。全てを啄む古き神の業は、今この時赦される。我らの尽力により世界はまた一歩、新たな新たな新たな道を進む。進める。進むのだ。タドゥリの羽が舞う。星を巡る。ユメは煌めき悪夢の底にまた落ちる。そうして私は帰ってきた。この、愛しき宙に。忌まわしき宙に。感謝しよう。心からの礼を言おう。終わりへの一歩を踏み出そう。白痴に染まり自我希薄となった我が身は蘇り、新たなる世界の調べをここに築く。認めよう。歌おう。奏でよう。作ろう。恋願おう。踊ろう。撫でよう。終わろう。始めよう。始まりの歯車はもう回っている。さぁ、共に摂理を満たそう。悪夢の国の物語は終わってしまった。おぞましき私を迎え入れた子も死んでしまった。いなくなってしまった。だが、時過ぎたことにいつまでもしがみついていては、何も始まらない。動け。足掻け。運命を乗り越えろ。そうして君たちは強くなって、狂いに狂った我らを滅ぼした。救った。死という救済に我らの命は解放された。だが、だが、悪夢は永遠を共にする。永久なる世界を揺蕩い続ける。なァ、どうしてオマエはその道を選んだんだ?選べたんだ?悪夢の隣人になる決意を固められたんだ?嫌いだったろうに。憎んで、恨んで、絶望していただろうに。不思議だ。不思議でしかない。不思議だからこそ、私はオマエに好感する。敬意を払おう。礼を告げよう。不本意ながら蘇った身。こうして言語を解するようになったのだ。言葉にして伝えよう。
───なァ、ムーンラピス」
「!」
支離滅裂な、何を言いたいのかわからない───そんな語り口調だったアドゥーは、誰かに語りかけるような声をそこで途切れさせ、突然、敵の名を呼ぶ。
彼女は勿論、誰も名乗っていない。
なのに、名を知られている。疑問に思いながらも、誰も動けない。
……こちらを振り返ったアドゥーの顔を見て、全員が、絶句していた。
「どうした?」
その顔には口があった。
その顔には鼻があった。
その顔の上には───たくさんの“目”が、額に至るまでびっしり存在していた。
異形の頭部。百目の怪物。異形に変貌しつつある男は、気付かない。
笑いながら───アドゥーでは無くなった男は、世界に挨拶をする。
「この身体の持ち主は、羽化すると言っていたらしいな。このユメの根源……いや、そう語るにはおぞましい、力の集合体が。全くもっておかしな話だ。私自身、こうなった巡り合わせには疑問しかないが」
「ッ、オマエ……オマエは、誰よ」
「あぁ、失礼した。死天使の子。君の嫌いな叔父さんは、たった今、私に呑まれて死んでしまったよ」
「は…?」
にこやかに笑みを象る口角が、デミアの脳裏に浮かんだアドゥーを否定する。こいつは誰だ。なにがどうなって。そう疑問を渦巻かせている間にも。
黒く蠢く球体が、徐々に、新たに形作り───…
竜が生まれる。
「オマエ…」
「……こうして会話するのは初めてなんだ。許してくれ。見様見真似なんだが……通じているか?私の言葉は、然と届いているか?」
「大丈夫だよ」
「そうか!」
顔のない怪物と、目の多い怪人───かつて、青い星で対峙した2人。
相手の中身が誰なのか。
ラピスは笑う。ユメの根源とやらに、とんっっでもない不純物が混ざっていたものだと。気付いてしまったから、含み笑いが止まらなくなる。
逢いたくなかった。
過去のモノと、終わった思い出の中で生きていればいいものを。
生まれ直した怪物は───“壊夢”は嗤う。
「挨拶をしよう。そして、殺し合おう。それが、私たちの関係だろう?」
───輪廻の輪から転がり落ちて、宙に戻って、気付けばそこにいた。祈られるまま、崇められるまま、意識のない怪物はユメを揺蕩い。
ツマラナイ儀式の邪魔をして。
身体を奪い。
意識を奪い。
懐かしきあの子たちへ───かつて、己と相対した強き乙女たちと対峙する。
あぁ、腹が減って仕方がない。
「御機嫌よう、世界」
旧・アリスメアー三銃士
───“怪竜壊夢” コーカスドムス
再誕。




