228-地の底のアウターヘイヴン
またまた支援イラストを描いていただきました!
一枚目は以前描いていただいたスケッチの完成版です。
https://x.com/suijaku01/status/1972943732829028368?t=fU9W1PLYFZg5SSUTpdUVcg&s=19
二枚目はナハトちゃんです。
https://x.com/suijaku01/status/1972943799963079096?t=fU9W1PLYFZg5SSUTpdUVcg&s=19
感謝感激!
イラストレーターの皆様には感謝の念が堪えません。
今後とも拙作をよろしくお願いいたします!
大聖堂内部───ディープワイバーンが通ったのだろう破壊痕がよく目立つ。それでも荘厳さと神聖さに“欠け”が無いのは流石といったところか。
血の滴る音と、足に蹴られた瓦礫の音だけが響く。
信仰を形にした調度品は床に倒れて、ステンドグラスは見る影もない。ぐちゃぐちゃになった神殿を、魔法少女とアリスメアー、異星人の集団がゾロゾロと歩く。
そして、その中でも選りすぐりのメンバーが、謎めいた地下へと進む。
「邪教認定もやむなしか?」
───“蒼月”のムーンラピス
「心臓無いとか意味わかんな〜。もっと常識的な殺し方でお願いしたかったなぁ」
───“極光”のリリーライト
「なっ、なんで私もこのメンバーなの…」
───“祝福”のリリーエーテ
「たっけてチェルちゃん」
「……無理寄りの無理…」
───“花園”のハニーデイズ
───“歪夢”のチェルシー
「異端裁きは私に任せてほしーなー!」
───“力天使”のエスト・ブランジェ
「何故私なのですか?」
───“残夢”のメード
「ったく、証人ってか?アリエスと離れさせるのは愚策も愚策だろうに」
───“亡羊黒堊” カリプス・ブラーエ
「ごっ、護衛します!」
───“星錬鉄破” ダビー
「頑張るばるばる」
───“星狼骸旋” ナシラ
惨劇を前にしても興味関心が勝っているラピス、物騒な死因に珍しく辟易としているライト、ホラーが怖いからと逃げた親友を恨むエーテ、仲良く二人でくっつくデイズとチェルシー、握り拳を作るブランジェ、呆れ顔で後頭部を掻くカリプス、怖いながらも追従するダビーとナシラ。
計10名のラピス推薦組が、地下を下りる。
それ以外のメンバーは、カドックバンカーや元警察官のビルを中心に警戒。上空から何か来やしないか、地下から別口のワイバーン襲撃が無いか、信徒たちの死体が勝手に動いたりしないかなど、探り探りで地上部の比較的綺麗な場所で留守番待機している。
本当はフルーフも連れて行きたかったラピスだが、まぁ僕がいれば大丈夫かの楽観視で呪い担当をあっさり除外、留守番させた。
「なんだこれ…」
「この深さだと……普通に星の中心まで行くんじゃない?何考えてんだか…」
地下最深部へと続く道は、大きな縦穴の側面をぐるっと降りていく階段。いつ足を踏み外すかわからない、そんな恐怖との戦いを強要される。
最初は真っ直ぐ飛び降りようとした面々だが、なんだかよくない雰囲気を直感して、わざわざ足を動かしている。
真ん中の穴を真っ直ぐ落ちれば、すぐにつくのに。
それをしたら、いけないような───意味深に笑う月を見て嫌な予感がした為、全員大人しく階段を使っている。その真相は、また後ほど。
「うーん、この傷。這い上がった後だね……鉤爪で岩盤を登った跡かな」
「冷静に分析するのやめて?」
「大丈夫だよ、エーテ。何があっても私が守るからね」
「ありあと…」
地上進出で崩れたのだろう、途切れた階段を器用に軽々飛び越える。危なげなく飛んだ後輩の手を取って、緊張感なんて欠片もない2人は談笑する。
たくさんのワイバーンが、逃げるように這い上がって、翼のない身体で、宙に逃げようとしたその過程を。
なぞるように、潰すように。
無駄なことをと嘲笑うように───地下奥深くから醸す魔力を鼻で笑う。
「生き残り、いるじゃん」
予感は的中した。
それも、悪い方向で───地上の喧騒には目もくれず、粛々と儀式を進める何某、若しくは集団に、どんな思惑があるのかワクワクしている先代の3人。
ラピスは知的好奇心。
ライトは野次馬根性。
ブランジェは異端者抹殺、神なんかを信じる信徒ならば兎も角、その裏で邪教している奴らなんぞ滅んでしまえの精神でここにいる。
たんっ、と軽い足音を立てて先行するトップスリーに、後続は思わず顔を顰める。
魔法少女に慣れていないカリプスたちは、特に。
「ったく、ワクワクしてんじゃねぇーよ……ステリアルは枢機卿が実権を握ってるからなァ。ほぼ確実にそいつらの仕業だろうな」
「? 教皇もいるの?」
「正確には聖座だな。いるにはいるんだが、今は、なァ。ちょっと色々あって皇帝にお熱でな……実質いないようなもんだから、首席枢機卿と五人の司教枢機卿が教会運営を取り仕切ってた筈だ」
「ふぅん」
脳裏に浮かんだ空間折り畳み女の“妹・次女”のムカつくサムズアップを蹴散らして、カリプスは心底面倒臭そうに溜息を吐く。聖務放棄で帝都の教会に陣取っている聖座は完全な“神輿”なので、恐らく知らないと思われる。
あの面倒臭い長女は自分の血筋と家業に興味がない上、皇帝にしか眼中にない為ほぼ無関係。そもそも異形嫌いが実家地下にワイバーンが住んでいることを容認するわけもない。
……消去法で、この実態を知っていそうな人物が一人、カリプスの脳裏に思い浮かんだ。
「面倒臭ェ…」
不安そうに見上げるダビーとナシラの頭を撫でながら、これから起こるであろう確定の惨劇に目眩をさせて、先行する魔法少女たちの後を追う。
幸い、階段を踏み外すことはしないが。
下から吹き上げる生暖かい風……不快感しかないそれに目を細める。
「っと、大丈夫か?」
「申し訳ございません…」
「……メード、階段キツイなら飛び降りてもいーよ。最悪直行できるから」
「でも何かありますよね?つい先程意味深な笑みで真下を見下ろしてましたよね?唆すのやめてもらえますか労基に訴えますよ」
「心外な。そも、アリスメアーは労働基準法なんかの外にあるから意味ないよ」
「やっぱり最低です…」
「あと、真ん中は別に大丈夫だよ。超重力でひき肉になるだけだけで」
「全然だいじょばない」
「外道か?」
アルタードーム特有の北極点から中心までにしか働いていない不思議重力の恐ろしさに震えながら、時間をかけて縦穴を降りていく。
洞窟特有の空洞音と、魔力灯の揺らめく音。
足にかかる負荷を感じながら、一同は星の中心を目指していき。
真下から響き渡る異音───よく聞けば人の囁き声が、耳に届く。
「……祝詞か?」
その正体に気付いたと同時に、一同は最下層に到着。
無限の穴底は、色々なモノが潰れて積み重なった───超重力によって押し潰された、不注意で足を滑らした信徒や不埒な侵入者たちの成れの果てが広がっていた。
凄惨なその様に、一同の一部は顔を青ざめさせる。
何故か、地上部とは違って、ここの血は乾いているが。そんな普通でさえおかしく感じてしまう恐ろしさが、底を赤黒く彩っていた。
「ッ…」
「見ない方がいい……目的地はすぐそこだよ」
「、うん」
絶句するデイズとチェルシーの背中をやさしく押して、ラピスは穴底の壁にある大きな扉を見る。半開きの真白い扉からは、複数人が祝詞を唱える声が小さく聞こえた。
この扉の奥に、敵がいる。
ラピスとライトが先導して、扉を音もなく開き。
洞窟そのものだった縦穴とは違い、しっかりと造られた大理石の地下聖堂に入る。地上部の神々しさとは裏腹に、何処か薄気味悪いその空間。最奥にあるであろう祭儀場。そこに続く廊下の左右にある扉は固く閉ざされ、侵入者の出入りを固く拒む。
不穏な気配の神殿を、侵入者たちはおっかなびっくりで進んで。
───…
───…
───…
───…
どんどん大きくなる、地球人では理解の及ばぬ言語が、唄のように耳に届く。
荘厳な空気感の中に、薄気味悪さの混じる唄。
顔を顰めながら、ラピスが気配遮断と発音消去の魔法をもう一度かけて、全員の存在が気付かれ難いように意識を逸らさせる準備を整える。
後は、開けるだけ。
「どうする?こっそり行く?」
「……もう強襲でいーんじゃない?あの縦穴の時点でもうロクでもない場所であることはわかったんだし」
「それもそっか。それじゃあ魔力の隠蔽もかけて……全員ブッパするか」
「はい!」
どこをどう考えても悪い要素しかないのと、魔法少女がわざわざ様子見する必要もないので。
魔力に気付かれないように、もう一度魔法をかけて。
魔力防御と反射のかかった扉を、ゴリ押しで破壊できる威力の魔法を、全員で詠唱しようとした。
その時。
「───何をしているのかしら」
背後から。
声が響く。
「ッ!?」
びっくりした中学生組と召使いが飛び跳ねて、前にいた年長組に飛びつく。気配もなく現れた声の持ち主は、この場にいた大多数が知らないモノだが。
聞き覚えのあるカリプスだけは、嫌な予感が当たったと顔を顰める。
そうして、一旦魔力を練るのをやめて……背後に立つ、彼女を見やる。
「っ…」
そこに居たのは、ごわついた髪をショートボブにした、桃色の少女。天女のような羽衣を纏う彼女は、くたびれた天使の羽を二枚持つ、何処か見覚えのある見た目。
言葉は悪いが、見窄らしい風貌の天使が、そこにいた。
髪の毛から覗く右目は、黒くどんよりと濁った、桃色の黒白目になっている。
「将星の…」
かつて戦った将星を思い出したエーテとデイズは、その見覚えのある姿に茫然と呟くが……
その声に、薄汚れた天使は目を細める。
「……ワタシは、オマエたちが何処の誰かを聴いているんだけど。ここを捨てた姉を思い出されるのは、心底、心底腹立たしいのだけど」
「えぁっ、ご、ごめんなさい」
「ふんっ」
愛憎入り交じった目で見つめる天使は、心底憎々しいと言葉を吐き捨てる。気の強い反応に、エーテはタジタジになりながら名を名乗る。
生憎、天使にとって一同の名に聞き覚えはないが。
「カリプス?なんで?オマエここ出禁になってなかった?なんでいるの?なに、とうとう呪い滅ぼしに来たの?マジウケるんだけど、笑っていい?笑うね?」
「おい引き返そうぜ。こいつ嫌いなんだ俺」
「オモロ」
知っている顔が見知らぬ存在……明らかに暗黒銀河にはいない種族とつるんでいることに疑問に思うも、どうでもいいかと開き直って鼻で笑う。
辛辣に将星をあしらった彼女は、羽衣の端を摘み、軽く適当なカーテシーで一同に名乗りを上げる。
勿論、その役職も。
……よく見れば、その手指は血だらけで。爪は、大きく剥がれていた。
「元・星教会司祭、デミア・ウィル・ゴー。ついさっき、漸く牢屋から逃げ出せた……ただの半端者よ」
「よろしくお願いするわね。侵入者の、皆さん?」
ボロボロの天使は、対面する。
焦燥した顔色を気力で隠していた、灰被りの“死天使”。十二将星の一座、“恋情乙女”を姉に持つ囚われ人は、偶然出会った魔法少女たちにそう笑いかけ。
ふらりと、バランスを崩し。
目を凝らせば───背後に点々と続く、赤い血溜まりに目掛けて。
名乗り終わると共に、デミアは仰向けに倒れていく。
「ッ!?」
「ちょっ!?」
「うっ…」
なんとかエーテが手を差し伸ばして、崩れ落ちた身体を支えて。血溜まりに沈むのを防ぐ。
その流れで、エーテは背中を触って、抱き寄せて。
ぐちゃりと。
手が染まる。
「えっ?」
手で触れたデミアの背中には───肉が抉られたような酷い生傷が、大きくあって。
大量の血液が、留めなく溢れ出ていた。
「……ごめんなさいね。汚いでしょう」
「そんな!」
自嘲気味に笑うデミアは、疲れきった顔で一度、重たい咳をする。黒く淀んだ血混じりの咳は、土と血で薄汚れた羽衣をまた汚す。
もう一度謝ったデミアは、エーテの肩を借りてなんとか立つ。
そして、無理矢理笑顔を作って───見知らぬ侵入者、いや、救世主に頭を下げる。
願うように。
祈るように。
「ハァ、ふぅ……ねぇ。手練と見込んで頼むのだけど……ここにいるクソ背信者ドモから……ワタシを、助け出してくれないかしら」
「報酬は、弾むわよ?」
死にかけの心を押し殺して、気丈に振る舞い……助けを求めるのだった。




